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第14話 支部長との会話

今回は支部長との対面になります。内容は長めです。

「玲だ!」


 協会支部の前で玲也の帰りを待っていた四人だが、真っ先に気付いたのは香住であった。


「玲〜!」


 香住は勢いよく走りだし、目の前で手を大きく広げながら地面を強く踏みしめて跳び上がる。


 玲也は思わず避けようとしたがタイミング的に間に合わないと悟り、両足に力を込める。


「えいっ!」


 香住が勢いのまま玲也の胸にダイブし、強く抱き締める。


「ぐぉっ」


 香住の勢いが強すぎたため、多少よろけたが、玲也はどうにか香住を抱き留めることに成功する。とはいえ、思わずくぐもった声が出てしまっていたが。


「心配したよ〜」


 香住がさらに強く抱き締め、頭を玲也の胸に擦り付けた。


「お、おい、人通りが多いところでやめろ!目立つだろうが」


 玲也が言った通り、時間帯としては昼下がりなので人の往来がかなり多い。そのため、玲也と香住にかなり多くの視線が集まっていた。幸いだったのは視線の大半がニヤニヤと微笑ましげだったり、生暖かい目で見守られていたりと悪いものでは無かったところか。


「別に良いじゃない〜。私は気にしてないし」


(香住が気にしなくても俺が気にするんだよ!)


 と声を大にして叫びたい気分だったが余計に目立ちそうな気がしたので、かろうじて思い止まることが出来た。


「お、おい、お前達も何か言ってやってくれ」


 香住の後ろに居る三人に問いかけるが、


「よ、二人ともお熱いぜ!」

「仲が良くて羨ましいね」

「え、えと、良いと思いましゅっ」


 全員香住の味方であった。


 玲也は大きな溜め息を吐きながらも、仕方なく香住を抱いたままにするしかなかった。ちなみに、その間も実に多くの人々から注目を浴びたことを追記しておく。

 数分程して香住がようやく離れてくれた(香住はとても満足げな表情だった)ところで、クレスが口を開く。


「思ってたよりもだいぶ遅かったね。突然森の中を走っていったけど何かあったのかい?」

「ああ、少々予定外の事があってな。それについて支部に話をしようと思ってる。そっちは依頼報告が終わったか?」

「うん、手続きも特に問題は無かったよ」

「そうか。昼飯はもう食べたのか?」

「僕達が戻ってきた時もだいぶ時間が過ぎてたからね。悪いとは思ったけど、先に食べさせてもらったよ」

「いや、俺もいつ戻れるか分からなかったから気にしなくて良い。俺はこの後話をしにいくんだがどうする?」

「どれくらい時間がかかるんだい?」

「正直時間は分からんな。ひょっとしたら長引くかもしれん」

「そうか・・・。皆はどうする?」


 クレスは他の三人にも聞いてみた。


「私は玲を待ってるよ!」

「俺はちっと疲れたから休みたいぜ」

「わ、私もや、休みたい、です」


 結局、香住以外の三人はこの後寮へと戻ることになったので挨拶をして別れた。

 三人を見送った玲也と香住は支部内に入る。


「朝に比べたら少ないな」

「そうだね〜」


 昼下がりの時間帯は朝方と比べて人が疎らであった。おそらく依頼を受けている最中なのだろう。


「俺は話をしてくるから、ちょっと待っててくれるか?」

「分かった〜」


 玲也は依頼受付の所へ足を運ぶと、そこには朝に話をした受付嬢が座っていた。


「あ、貴方は朝方の!」


 受付嬢は玲也の登場に大きく目を見開く。


「半日ぶりだな。ちょっと聞きたいことがあるんだが良いか?」

「え、ええ、今度は何かしら?また依頼書に何か問題があったの?」

「関係が無いわけじゃないが・・・。今支部内に支部長か副支部長は居るか?」


 玲也の問い掛けに受付嬢が怪訝な表情になる。


「・・・お二人ともいらっしゃるけど、どういうこと?あらかじめでも約束していたのかしら?」

「いや、約束はしていない。だが、緊急度は高いと思ってくれて良い」


 受付嬢はう〜ん、と唸り眉をひそめる。


「・・・本来なら約束無しに会うことは出来ないわ。お二人ともお忙しいから中々時間が取れないのよ」

「だろうな。だがそれでも今話しておく必要が有ると判断した」


 玲也の言葉に受付嬢はさらに考え込む。


「・・・学院生って時々無茶なことを言ってきたり、依頼書にいちゃもんを付けてきたりするから、いつもなら話半分にしか聞かないわ。でも、朝の事もあるから、まずは私に話を聞かせてくれないかしら。その内容次第で判断するわ」


 受付嬢の発言に玲也は思わず顔をしかめる。


(学院生ってのは支部内で信用が低いのか。まったく余計な事をしてくれる)


 無論、きちんとした学院生が大半なのだろうが、モラルが低い一部の学院生のせいで支部内の評価がかなり悪そうだと玲也は感じた。


(とりあえず話を聞いてくれるだけでもありがたいか)


 玲也は内心でそう判断し、口を開く。


「では、どこか個室は無いか?あまり人に聞かせたい話じゃないんでな」

「ちょっと待って・・・、一部屋だけ空いてるわ。私に付いてきて」


 玲也は受付嬢の後に付いていき、支部にある個室スペースに足を踏み入れる。


「ここに入って」


 受付嬢に案内された場所は応接室の一つである。広さは五メートル四方で、中央の机を挟んで来客用の椅子が二脚あるだけの簡素な部屋であった。

 受付嬢は玲也へ椅子に座るように促し、受付嬢も向かい側の椅子に座った。

 玲也が座ったことを確認すると、受付嬢が口を開く。


「まずはお名前を聞かせてくれるかしら?」

「・・・聖玲也だ。見て分かる通りエルゲスト学院の生徒で、先日入学したばかりだ」

「あら、新入生なのね。どうりで見覚えがないわけね。それじや、会員カードを見せてくれるかしら」


(そりゃ、当然こうなるわな・・・)


 いきなり玲也の様子が変わったのを見て、受付嬢が不審げな視線を向ける。


「・・・まさか、会員カードを持ってないんじゃないでしょうね?」

「・・・いや、持っている。だが、俺の会員カードの事は出来るだけ広めないでほしいんだが」

「ん?どういうこと?とりあえず見せなさい」


 受付嬢に言われ、玲也は懐から渋々会員カードを取り出す。その会員カードの色は・・・



 白金色であった。


「っ!!!ち、ちょっと、そのカード色は協会ランクⅥじゃないの!?」


 あまりに驚きに、受付嬢は思わず大声で叫んでしまった。


「あまり大声を出すんじゃない。部屋の外まで聞こえるだろうが」

「ご、ごめんなさい・・・、に、偽物、なわけないわね」


 受付嬢は玲也から会員カードを受け取り、内容を何度も確認している。


「当たり前だ。そもそも会員カードが偽造できないのは協会職員ならよく知ってるはずだろ」

「そ、そうね。その通りだわ・・・。疑ってしまってごめんなさい」


 受付嬢は潔く頭を下げて、玲也に会員カードを返した。


「そんな反応をされると思ったから見せるのが嫌だったんだが、素性を確認しないわけにはいかないだろうしな」

「ええ。で、でも貴方は会員登録して半年ほどしか経っていないのに、どうやってランクⅥになれたの?」

「・・・それは支部長に聞かれたら説明する。それで、そろそろ話を聞いてもらって良いか?」

「え、ええ、話してもらえないかしら。今ので、かなり嫌な予感がしてきたわ・・・」


 受付嬢が真剣に聞く体勢に入ったのを見て、会員カードを出して少しは意味があったなと思う玲也であった。


「まず質問から入るのだが、ヴァレンテの森に強い魔物が居るという話を聞いたことがあるか?」

「ヴァレンテの森?あそこは確かウルフ系統の縄張りで、強くてもブロンズウルフがたまに出る程度だった筈よ。ただ最近はワイルドウルフの被害が多くなっていたから調査をすると、ワイルドウルフの数がかなり増加している事が判ったの」

「なるほど、それであの依頼書か」


 玲也は納得したように呟く。あの依頼書が貼られていた理由を理解したからだ。


「しかし、だとすれば少々軽率だったな。もう少し詳しく調査していればあの依頼書は別の内容に変わっていただろう」

「どういうこと?」

「端的に言うぞ。プラチナウルフに遭遇した」

「・・・は?ぷ、プラチナウルフですって!?ランクⅥの魔物がヴァレンテの森に居たっていうの!?」


 受付嬢は驚きのあまり、開いた口がしばらくの間塞がらなかった。


「そうだ。他にもシルバーウルフ二体だけじゃなく、ブロンズウルフやグレイウルフ等も多数確認した」

「何て事なの・・・!今すぐにでも討伐隊を」

「その必要は無い。俺が討伐しておいた」

「・・・貴方何を言ってるの?プラチナウルフは協会ランクⅥであっても単独で討伐できる魔物じゃないわ」

「嘘じゃないし、証拠もある。だから、早く支部長と話をさせてくれ」

「・・・その方が良さそうね。分かったわ、支部長に掛け合ってみる」


 受付嬢は頷くと応接室を出ていった。

 それから十分程玲也が応接室で待っていると、コンコンと扉をノックする音がする。

 玲也がはい、と答えると扉が開き、先程の受付嬢が姿を現す。


「支部長の許可が取れたわ。私の後に付いてきてくれるかしら」


 玲也が頷くと、受付嬢の後に付いていく。

 少し歩いたところで受付嬢があるドアの前で足を止める。ドアには『支部長室』と彫られたプレートが貼られている。


「ここが支部長室よ。私がノックして先に入るから、続けて入ってきて」

「分かった」


 受付嬢が支部長のドアをノックすると、部屋の中から野太い男の声が聞こえた。


 受付嬢は支部長の中に入ったので、玲也も続けて部屋に入る。

 支部長の中は先程の応接室よりも二回り程大きいだろうか。部屋の右側面には本棚が設けられており、様々な種類の本が並べられているようだ。

 玲也が部屋の奥に視線を向けると、そこには二人の男女が居た。一人は女性であり三十代前半くらいで顔立ちは整っているが、ややつり目がちで冷たいような印象を受ける。

 もう一人は男性で四十代前半くらいだろうか。スキンヘッドに野性味溢れる瞳、そして何よりも筋骨隆々とした体格は見る者に相当な威圧感を与えるだろう。


「支部長、彼を連れてきました」

「おう、ご苦労だったなシエル。それと、一応同席してくれ。事情を知ってる受付嬢が一人でも居てくれると有り難いからな」

「分かりました」


 シエルと呼ばれた受付嬢は頷くと部屋の隅の方へ移動する。

 それを確認したスキンヘッドの男はさて、と前置きをして口を開く。


「まずは自己紹介といこうぜ。俺がこのエルゲスト支部長を務めているカイゼル・トラストだ。次にお前の名前を聞かせてくれ」

「・・・聖玲也。エルゲスト学院の新入生です」

「おう、よろしくな」


 カイゼルが大きな手を出したので、玲也も手を出し握手をする。

 カイゼルは玲也の顔を真剣に見つめてきたので、玲也も視線を交わす。すると、カイゼルは不意にニヤっと笑みを浮かべた。


「・・・良い眼だ。俺に物怖じした様子もないし、気に入ったぜ。俺のことはカイゼルと呼んでくれ。あと敬語も必要ねえぞ」


 カイゼルがそう言うと、隣に居る女性があからさまに溜め息を吐く。


「支部長、少しは立場を理解してください。言い方は悪いですが、学院生にタメ口で話されてると他のBDM達に舐められますよ」

「がはは、俺は気にしないぞ」

「・・・少しは気にしてください」


 きっとこの女性は普段から苦労しているんだろうな、と容易に想像がつく玲也であった。

 女性は小さく溜め息をついてから、気を取り直したように玲也の方を向いた。


「私の紹介がまだだったわね。エルゲスト支部で副支部長をしているエウリア・パラヴィスといいます。よろしくね、聖玲也君」

「よろしくお願いします」


 玲也が挨拶を終えたところでカイゼルが再び口を開く。


「自己紹介も終わったことだし、早速話を聞かせてもらうぞ」

「ああ、最初から説明すると・・・」


 玲也は経緯を説明し始める。ワイルドウルフ討伐の依頼を受けたこと、突然ワイルドウルフが統率の取れた行動を始めたこと、シルバーウルフに遭遇して討伐したこと、探知でBDM達が魔物の群れに囲まれていたので様子を見に行ったこと、現場に到着したらすでに半分が手遅れだったこと、そしてプラチナウルフに遭遇し単独で討伐したことまでを話した。

 玲也が話している間、支部長と副支部長は終始険しい表情で聴いていたが、最後のプラチナウルフ討伐の話になると驚きの表情となっていた。

 玲也が一通り話を終えると、支部長は重々しい声音で口を開く。


「・・・情報が多過ぎて少し整理する必要があるな。まずはプラチナウルフがヴァレンテの森に居たことか」

「受付嬢にも聞いたが、普段はあまり危険な場所ではないようだな」

「まあな。今までプラチナウルフどころかシルバーウルフが現れたなんて報告すら無かったぞ」

「つまり、最近現れたということか・・・」

「だが、ヴァレンテの森周辺は見晴らしの良い平原でな。少なくとも目撃情報くらい無いとおかしいはずだがな」

「突然変異の可能性は?」

「あるっちゃあるが、これも目撃情報が無いってのがな。あの森は比較的安全っていう認識で、人の出入りが結構激しいからな」

「原因を掴むのは難しいというわけか・・・」

「まあその辺はこっちで調査するぜ。またプラチナウルフが現れんとも限らんからな」


 結局この場では答えが出ず、協会支部が詳細な調査を行っていくということで話は落ち着いた。


「んじゃ、次はプラチナウルフに襲われてた連中ってのはどんな感じだったんだ?」

「どんな感じと言われてもな・・・。興味が無かったから、あまり記憶にないな」

「お前な・・・。助けた連中なのに覚えてないってのか」


 カイゼルもこの反応には呆れた表情になった。助けに入った相手の事を覚えていないなど、普通はあり得ないからだ。


「あまり深く関わって面倒な事になりたくなかったからな。それにあいつらを探しに来たっぽい連中を探知したし、あとは任せることにした」

「まったく、変わった奴だな。プラチナウルフと戦ってまで助けたっていうのに礼の一つも要求しなかったのか」

「別に礼が欲しくて助けたわけじゃない。探知したのに放置するのが嫌だっただけだ」

「普通ならそんな理由で戦うレベルの魔物じゃないんだがな。まあいい、助けた連中について何でも良いから教えてくれ。せめて手掛かりだけでも欲しいんでな」


 玲也は少し考えた後、カイゼルに答える。


「そういえば、女の一人がシスティナとか名乗ってたな。年は俺とそう変わらないはずだ」

「システィナだと!?・・・いや、まさかな」


 カイゼルの頭の中にはある一人の人物が思い浮かんでいた。しかしあまりに有名すぎるので、流石の玲也も知っているだろうと思い、違う人物だと結論付けてしまった。

 実際はカイゼルの思い浮かべた人物で正解だったのだが、その事実を知る事になるのはもう少し先の話である。


「そういやお前、ランクⅥらしいじゃないか」


 助けた連中についてこれ以上の情報が得られないと思ったカイゼルは話を変えることにした。


「・・・ああ、そうだ」


 玲也は肯定すると、会員カードを懐から取り出して二人に見せた。


「俄に信じられん話だよなぁ。わずか半年やそこらでランクⅥなんてのは普通あり得んぞ。どんな裏技を使ったってんだ」

「・・・裏技も何も、あんた達(BDM協会)の会長に押し付けられただけだ」

「何?会長だと?・・・もしかして、『黒迅(こくじん)』ってのはお前の事か?」

「何だ、知ってたのか」


 カイゼルの言葉に玲也はわずかに驚く。


「会長の爺さんが珍しくやたら褒めてたからな。確か単独でクアトロ・ホーンを討伐したときに貰ったんだろ?」

「クアトロ・ホーンですって!?ランク(なな)の魔物の中でも特に討伐が難しいとされているのに、単独で討伐したというの・・・」


 隣で話を聞いていたエウリアは大きく目を見開いた。カイゼルの話した内容があまりも衝撃的だったからである。

 クアトロ・ホーンは四本の角を持つ馬型の魔物である。四本の角はそれぞれ基本四属性を宿していて、強力な属性魔術を使用するのが大きな特徴である。またかなり素早く、攻撃を当てるのも困難だとされている魔物なのだ。


「討伐した後に勝手にその会員カードを渡されたんだ。しかも、俺の事を勝手に黒迅とか言い出すし」

「はは、爺さんが嘆いてたぜ。本当はランクⅦを渡すつもりだったらしいが、会長権限でもランクⅥが限界だったってな」

「俺にしてみれば余計な世話だったが」

「良いじゃねえか。ランクⅥ以上だと色々と待遇が良くなるし、損は無いはずだぜ」

「無駄に目立つ事を除いてな」

「有名税だと思って諦めるんだな。だがこれでプラチナウルフを単独で討伐出来たのも納得だぞ。討伐した証拠は持ってるんだろ?」

「ああ、確認するか?」

「勿論だ。解体場まで行くぞ」


 解体場は魔物を討伐したときに素材や肉を剥ぎ取るときに利用するスペースである。通常では討伐したその場で解体する事が多いが、安全に解体したい時、協会お抱えの解体屋に依頼したい時等の理由が有る場合に会員に対して提供している。


 四人(玲也、カイゼル、エウリア、シエル)は解体場へと移動すると、区切られているスペースに空きが有るか確認した。


「お、ここがちょうど良いな」


 カイゼルが手招きすると、三人はカイゼルが居る方に足を進めた。


「それじゃ、証拠を見せてもらおうか」


 玲也が頷くと、腰のポーチに収納されていたプラチナウルフの死体(首と胴体)を取り出す。


 シエルは突然出て来た死体に驚くが、カイゼルとエウリアは平然としている。腰のポーチが空間拡張型だと見抜いていたからである。


「ほう、結構な大物じゃねえか。これを討伐したってのは大したもんだ」


 カイゼルが感心したように呟くが、内心では戦慄に震えていた。


(だが、本当に驚くべきところはそこじゃねえ)


 カイゼルが注目したのは首と胴体の切り口である。そこには一切の抵抗が生じた様子が全く無く、綺麗すぎるほどの断面だったのだ。


(一体どうやったらこんな切り口に出来るんだ?会長の爺さんから聞いた話だと刀をかなり使うらしいから、おそらくは刀を使用したんだろう。しかしプラチナウルフの体毛は元々かなり硬いし、きっと魔力を通した状態だったろうから身体を含めて相当な防御力だったはずだ。そんな状態のプラチナウルフに対してこの一撃はただ事じゃねえぞ。生半可な攻撃じゃあっさり弾かれて終わりだからな。刀自体が相当な業物って可能性も有るが、おそらく武器強化か属性付与を使った上で異常な程の斬撃速度で繰り出したってところか。術技も上級技を使っているだろうな)


 カイゼルの推測はほぼ当たっており、これを玲也が聞いていたらおそらく驚いただろう。


「支部長、これは・・・」


 隣で見ていたエウリアは呆然とした表情で呟く。


「エウリアも気付いたか。この一撃がどれだけ凄まじいかを」

「はい、これ程鮮やかな切り口は滅多にお目にかかれるものでは有りません」

「エウリアなら可能か?」

「低ランクの魔物であれば可能です。ですがプラチナウルフ相手だと、出来ないとは言いませんが出来る自信はないですね」

「だよなぁ・・・。単独で討伐してるっても本当だろう。もはやランクⅥなんてレベルじゃねえぞ」

「私も同意見です。最初に聞いたときは眉唾でしたが」

「エウリアだったら、どのランクが妥当だと思うんだ?」

「・・・最低でもランク(きゅう)でしょうか」

「俺も同じ見解だ。会長の爺さんが嘆いてたのも分かる話だぜ」

「だとすれば、彼はなぜエルゲスト学院に入学したのでしょうか?これ程の実力があれば態々学院に入る必要性が感じられません」

「何か理由が有るんだろうな。が、下手に探りを入れるのは良いとは言えんぜ。あいつを敵に回したくはないぞ」

「同感です」


 エウリアが苦笑して答えると、玲也がカイゼル達の方へ近付いてきた。


「これで納得してくれたか?」

「おう、問題無いぜ。それと一つ聞きたいというか頼みなんだが、プラチナウルフの素材売ってはくれねえか?そうそう手に入るもんじゃないからな」


 カイゼルの申し出に玲也はしばし考えた後、答えを口にした。


「・・・全てでなければ構わない」


 カイゼルと玲也が話をした結果、毛皮、爪、牙は半分、肉は全て売ることになった。


「頼みの礼じゃないが、解体はこちらで責任をもってやらせてもらうぜ。査定にも少し時間がかかるし、また今度来てもらって良いか?」

「分かった。次の週末には終わってるか?」

「おう、大丈夫だ。今度来た時はあそこに居るシエルに声を掛けてくれ。話は通しておく」

「それと、この事は極力話を広めないでくれ。あまり面倒事には巻き込まれたく無いからな」

「・・・出来るだけお前の要望通りにしよう。だがもう充分に目立つことをしてるぜ。だからあまり期待はするなよ」

「それでも構わない」


玲也は頷くと、しばし雑談をした後解散したのだった。




「悪い、待ったか」

「ううん、大丈夫!掲示板の依頼書を眺めてたらいつの間にか時間が経っちゃってた」


 支部長達との話し合いが終わった後、玲也は掲示板付近で香住を見つけ、声を掛けた。


「そうか。それでこの後はどうする?」

「う〜ん、もうちょっと王都を歩いてみたいかな。せっかく外出したんだし、玲と一緒に色々と散策したいな〜」

「分かった。とりあえずブラブラ歩いてみるか」

「うんっ!」


 この後二人は門限ギリギリまで王都エルゲストを散策するのだった。

書いてるうちに内容がどんどん長くなっていきました・・・。

BDM協会の会長はそのうちどこかで登場させようかなと思っています。

第一章はあと三話で終わる予定です。次回は久しぶりにエリーが登場します。

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