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第12話 初依頼(中編)

お待たせしました!中編はバトル要素が多く、内容が長めになっています。

「ふん!」


 噛みつこうと突進してきたワイルドウルフに対し、ロイドのBD『スレイグ』が左手に持つ大盾で受ける。


「ギャァァ!?」


 大盾にぶつかったワイルドウルフは衝撃で怯み、足元が覚束なくなる。


「おりゃあ!」


 スレイグはその隙を見逃さず、右手に持つメイスをワイルドウルフの脳天に叩きつける。


「ッッッッ・・・!!」


 ワイルドウルフの頭部がひしゃげ、声にならない悲鳴を上げながら地面に倒れた。


「おっしゃ!このくらいなら余裕だぜ」


 スレイグの視界を通した光景を見て、ロイドが喜びの声を上げる。

 ロイドのBDであるスレイグは身長が二メートル近くもある巨体であり、体格もかなりがっしりしている。実際にワイルドウルフの突進程度ではびくともしていなかった。


「ワイルドウルフレベルは問題なさそうだな。さて、これで残りの討伐数はどのくらいだ?」

「あと三体ってところかな。時間は森に入ってから三時間くらい経ってるね」


 クレスの言う通り、玲也達五人のBDが森の中に入って三時間程経っている。ただ、三時間ずっとBDを操作しているわけではなく、途中で休憩を二回挟みリンク・アウトをしていた。そうしなければ脳への負担が大きくなり、後々の操作に影響が出るからだ。

 ただ、リンク・アウトするとBDが動かなくなるので、全員一気にリンク・アウトせずに交代しながら脳を休めていた。


「にしても、レイヤは三時間ぶっ通しでリンク・インしてるが大丈夫なのか?」


 ロイドの言う通り、玲也だけは休憩時にもリンク・アウトせず、常に周囲を警戒していた。


「三時間くらいなら問題無いな。余程の負荷が掛からない限り一日くらいはリンク・イン可能だ」

「マジかよ・・・。俺だとせいぜい二時間くらいが限界だぜ」

「ま、ひたすらリンク・インを繰り返して地道に時間を伸ばしていくしかないな」

「道のりは果てしなく長そうだ」


 ロイドが肩を落としつつも、話題を変えてきた。


「ところで、真月が持ってる刀って結構な業物なんだろ?」

「ああ、銘は『白夜』だ。今となっては長い付き合いの相棒と言ってもいいだろうな」

「俺もそういう武器が欲しいぜ。別に今の装備が悪いって訳じゃないけどな」

「その気持ちは分かるが、最初から良い武器を持ってしまうと武器に頼りすぎて技術が身に付かないこともあるからな。技術を身に付けつつ武器を良くしていくのがお勧めだ」

「だな。今は武器を買う金もねえし、依頼で地道に稼いでいくぜ」


 ロイドが呟いたところで、玲也の感知に反応が出た。


(今度は十体か、少々多いな。しかも・・・)


 今まで遭遇したのは多くても五体だったため、それほど苦戦せずに討伐することが出来ていた。しかし今回は十体であり、玲也達を取り囲むようにして赤い点が迫ってきている。


(ワイルドウルフにしては統率がとれた動きだ)


 玲也はこの時違和感を抱いていた。今までワイルドウルフとの戦闘経験はそれなりに有ったが、取り囲むようにして、かつほぼ同じ速度で距離を詰めてくるようなことはあまり無かった。


(これは、何か()()()。さて、どうするか・・・)


 玲也としては四人に経験を積んでもらうためにもあまり積極的に手を出すつもりは無かった。しかし、どうやら想定外の事が起きそうな予感がしてきた。


(この三時間で全員の実力はある程度把握できている。あとは戦況を見極めつつ、臨機応変に対応していくか)


 玲也の中で方針が決まったところで、四人に対して声を上げる。


「感知に反応有り。数は十体、俺達を囲むようにして迫ってきているぞ!」

「マジか!どうするんだ?」

「半分は俺が受け持つ。四人は残り半分を頼む。セイラはアースウォールが使えるか?」

「つ、使えます!」


 玲也の問いにセイラが緊張気味に答えた。


「どのくらいの範囲まで出せる?」

「え、えと、高さは二メートル、幅は三メートルくらいでしゅっ」

「充分だ。では、ワイルドウルフが突っ込んできたところをアースウォールで足止めしてくれ。残りの三人は足止めされなかったワイルドウルフを優先で討伐してくれ」

「了解!」

「任せろ!」

「うん、分かった!」

「は、はいですっ」


 四人が異口同音に了承したところで、ワイルドウルフを視界に捉えた。


「来るぞ!」


 唸り声を上げながら、ワイルドウルフ達がかなりの速度で玲也達を囲むようにして突進してくる。


「だ、大地よ聳え立て!」


 ロズマリアが杖を前に突き出し、セイラが略式詠唱を唱えると地面に魔術陣が浮かび上がる。


 BD魔術初級技 アースウォール。


 この技は地面を盛り上げて壁を形成することで、攻撃を防ぐ手段としてよく使われる。ただし、今回のように突進してくる対象に足止めする手段として使われることもある。


 ワイルドウルフ三体がロズマリアのアースウォールにぶつかり、一時的に足止めすることに成功する。


「今っ!」


 桜華が具現化した矢を放ち、ワイルドウルフの脳天に突き刺さる。


「はっ!」


 もう一体はライルの槍の餌食となり、地面に倒れる。

 セイラはアースウォールを発動後、次の詠唱に入っていた。


「大地の壁よ、貫け!」


 BD魔術中級技 ウォールスパイク。


 この技はアースウォールが発動中にのみ発動し、アースウォールで形成された壁の表面全体からトゲが突き出るようになっている。


 アースウォールにぶつかっていたワイルドウルフはアーススパイクのトゲで串刺しになり、三体共に絶命した。


(や、やった!)


 セイラがワイルドウルフを仕留めたことに喜んでいると、ちょうどワイルドウルフ五体が真月に飛び掛かってくるところであった。

 玲也はその光景を慌てること無く眺め、真月の右手で刀の柄を軽く握る。


「ふっ!」


 真月は抜刀し、横一線に黒刃の軌跡が走った次の瞬間に刀が鞘に収まっていた。


 刀剣術中級技 居合斬・半月。


 この技は居合斬を百八十度走らせる範囲攻撃である。セイラとの対戦で使用した居合斬・円月に比べると範囲は狭いが隙が少ないのが特徴である。


 真月の斬撃で五体のワイルドウルフが全て同じタイミングで真っ二つになった。

 ただ玲也はその光景を確認せず、四人に対して大声を上げる。


「全員のBDを一緒に森の外へ出すんだ!討伐部位は真月で切り取っておく!」

「どうしてだい?討伐自体は問題なかったように見えるが」


 他の三人もクレスと同じ心情で、玲也がなぜそのような指示を出したのかが分からずに戸惑っていた。


「まずはBDを言った通りに操作してくれ。説明はその後だ!」


 玲也の様子にただ事ではないものを感じ、四人はBDを帰還させるために操作し始める。

 しかしワイルドウルフを探すため森の中へある程度入ってしまっている。いくら常人より身体能力が高いBDといえど、森の外に出るには少しばかり時間が必要であった。


(ちっ、思ったより反応が早いか!)


 玲也は内心舌打ちをした。真月の感知範囲を広げた玲也であるが、現時点で二十以上の反応がある状態だ。しかも、中にはワイルドウルフではない個体も混ざっていることが分かった。


(ちょっとまずいかもな・・・)


 玲也は感知と周囲の警戒をさらに強めながら、口を開く。


「ワイルドウルフはランクⅠの魔物の中では比較的知能が高い方だ。だが、さっきのように十体が俺達を囲んで統率が取れたような行動をするほど賢くは無い」


 玲也の言葉に香住ははっとした表情になり言葉を紡ぐ。


「つまり、統率を取っている魔物が他にいるって事?」

「そういうことだ。さっきの統率具合を考えるとおそらくはランクⅢ以上だろう」

「ランクⅢってどのくらい強いの?」

「俺を除いた四人だと、一体すら相手にするのが難しい程度には強い」

「うわ、実は結構ヤバイ?」

「ああ。桜華とライルの探知ではまだ反応がないだろうが、すでに二十体以上がこっちに向かって来ているぞ」

「「「「!!」」」」


 四人の顔が驚愕に染まっているのがリンクギアの上からでもはっきりと伝わってくる。


(囲まれてきているな・・・。幸い進行方向にはワイルドウルフしか居ないようだ。であれば)


 玲也の頭の中でいくつか検討をしたが、結果的にこれが一番ましだろうと結論付ける。


「香住、真月が持ってる討伐部位を桜華に渡すぞ」

「う、うん、それは良いけどどうするの?」

「四人のBDは引き続き森の外を目指してくれ。ただし、バラけないように必ず固まって行動するんだ。進行方向にも魔物が数体迫ってきているが、全てワイルドウルフだからやり過ごせるだろう。別に倒す必要はない、森の外に出てしまえば奴らは追ってこないからな」

「玲の真月は?」

「真月で追手を足止めする。充分に時間を稼いだら合流させる予定だ」

「・・・大丈夫なの?」


 香住が心配そうな声音で尋ねてきたが、玲也は強く頷いて見せる。


「問題ない。いっそ殲滅させても良いくらいだ」

「ふふ、分かったよ」


 香住は心配させないがために冗談を言ったのだと受け取ったようだ。軽く吹き出しながらも「お願いします」と一言加えて四人のBDは森の外を目指し去っていった。


(別に冗談を言ったつもりは無いんだがな。ま、気を紛らわせられたのならそれで良いか)


 玲也も少し集中し、真月を操作して魔物達の方へ疾駆する。その素早さは仮に四人が見ていたら驚きのあまり固まってしまうであろう。

 真月が木々の間をまるで障害物が全く無いかのように疾駆してしていると、前方に魔物の集団が見えた。

 数は四十体ほどに数を増やしておりワイルドウルフだけでなく、体長一メートル程の灰色の狼の姿が十体程度、さらに後方には体長が約二メートル程の青緑色の狼や、それより一回り体躯が大きい銀色の狼が一体ずつ見えた。


(ランクⅡのグレイウルフにランクⅢのブロンズウルフ、そしてランクⅣのシルバーウルフか。こりゃ四人では確実に全滅コースだったな)


 玲也は内心苦笑しながら、判断が間違っていなかったことにひとまず安堵する。

 もし他の四人がこの光景を目にしていたら、玲也にすぐにでも真月を引き返させるように言っただろう。

 しかし、玲也にしてみればこの規模の群れは全く問題無く、殲滅出来るというのも事実であった。


(さて、やるか)


 玲也の中で意識が変わった瞬間に気配も一変し、顔は無表情に近くなり眼も冷酷な光を放ち始める。

 その雰囲気が真月を通して伝わったのか、対峙する全ての魔物が気圧されたようにビクっとなる。


(まずは足止めだ)


 玲也は脳内のイメージで魔術陣を描く。それも一つではなく複数もの魔術陣を一瞬で描き、情報を真月に伝える。

 これがBD魔術における『無詠唱』である。セイラが使用する略式詠唱は脳内である程度描きたい魔術陣をイメージしてから詠唱を唱えることでBD魔術の情報をBDへ伝えるのだが、無詠唱は発動したいBD魔術の魔術陣を完全に脳内で描く必要がある。しかし、魔術陣は初級技ですらかなり複雑であり、上級技になるとさらに難度が上がるし、脳への負荷もかなり増大する。

 しかし、無詠唱を習得することによる利点は三つある。一つは発動が最も早いこと、一つは詠唱をしないことでどの魔術が発動するかを悟られにくいこと、最後の一つはSPの消費を抑えられることである。どの利点も知性の高い魔物や手練れのBDMと戦う際に役立ち、玄人好みの超高等技術といえる。

 真月が手を翳すと、地面の至るところに魔術陣が浮かび上がり発光する。


 BD魔術中級技 アース・ボグ。


 この技は地面を沼地化することで対象の動きを封じる効果がある。


 ウルフの群れの大半が沼地化した地面に脚を沈めていく。必死に抜け出そうとするウルフ達が多数居るが、抵抗すればするほど脚は沼地に埋まっていき、もはや脱出は不可能になっている。


(杖が有ればほぼ全て足止め出来たんだが、仕方無いか)


 生憎、杖はリンクブレスレットの中に入れたままで真月に持たせていなかった。また、いつもであれば指輪型の増幅器を装着させているのだが、これもバレると面倒だという理由で外している。

 そのため、沼地で足止め出来なかったウルフ達が口を開けて突進してきていた。


(数は十体ほどか)


 数を冷静に捉えた玲也は真月の右足を半歩前に出し、腰を落として刀の柄を右手で軽く握る。


「ガァァァァァァ!!」


 ウルフ達は真月に噛みつこうとほぼ同じタイミングで飛び出し、真月の間合いに入った瞬間、黒刃が幾閃も迸った。


 刀剣術中級技 斬影陣。


 この技はBDの間合いに探知の網を張り、網に掛かった対象を高速の斬撃で斬り刻むという、所謂受けの陣である。中級技の中でも高難度とされており、習得するにはあらかじめ探知も習得しておく必要がある。


 飛び掛かったウルフ達は全て斬り刻まれ、周囲に血と肉片が撒き散らされることとなった。


(次!)


 玲也は脳内のイメージで再び魔術陣を描き、真月を通してBD魔術を発動させる。


 BD魔術中級技 マッドニードル。


 この技は沼地等の地面がぬかるんでいる場所限定で発動でき、泥を無数の鋭い針に形成して対象へ突き刺す。


 沼地で身動きが取れないウルフ達はハリネズミのようになり、無数の針の餌食となるのだった。


(さて、残りはあと二体か)


 真月の視界に残っているのは沼地の餌食ならず、後方で様子を見ていたブロンズウルフとシルバーウルフの二体のみとなる。

 玲也としては二体が襲いかかってきても、または逃げてもどちらでも良かった。すでに時間稼ぎをするという目的は充分に達成しているし、むしろ逃げたくれた方がすぐに後を追えるのでその方が良いと思っていた。


(残念ながらそうもいかないようだが)


 二体の様子を見ると、低い唸り声を上げながら目が血走っており今にも飛び掛かってきそうであった。


(無駄死にすることもないだろうに)


 ランクⅣの魔物ともなればある程度知能も高くなってくるので、これだけ力の差を見つければ退くだけの判断力はあるはずだった。

 ここで退かないのは単なるプライドなのか、同胞がやられたことに対する弔い合戦のつもりなのか玲也には分からないが、いずれにしても冷静でないことは確かである。


(だが、向かってくるなら容赦はしない)


 真月がいつも通り刀の柄を右手で軽く握ったところで、二体が沼地を越えて突進してくる。その速度はワイルドウルフと比べて鋭く、速い。


「ワオォォォォォォォォォン!」


 シルバーウルフが突進しながら真月に向かって雄叫びを上げると、前方の景色がわずかに歪んでいるように見えた。


(おっと)


 玲也は雄叫びの正体を見抜き、真月を左横にステップさせる。

 すると真月の後方に有った木の幹が抉れ、さらに後方の木々も数本同様に抉れていた。

 シルバーウルフは単に雄叫びを上げたのではなく、真月に向けて音の衝撃波を放っていたのだ。

 玲也はシルバーウルフの特徴を知っていたので難なく対処できるが、知らなければ直撃を受けてBDに多大なダメージを与えていただろう。

 だがこれだけで攻撃が終わるはずもなく、真月がかわした先から今度はブロンズウルフが右前脚を大きく振り上げて下ろそうとする。右前脚には鋭い爪が伸びており、このまま直撃すれば真月は引き裂かれるであろう。


(甘い!)


 しかし真月は後ろに下がらず、むしろ距離を詰めて刀の柄を左手で逆手に持ち、素早く抜刀し斬り上げる。

 黒刃が瞬間の軌跡を残し、振り下ろされる前にブロンズウルフの右前脚を斬り飛ばす。


「ギョァァァァァァァァ!?」


 ブロンズウルフが悲鳴を上げるが、真月の攻撃はまだ終わっていなかった。斬り上げた刀を今度は右手に素早く持ち替えて斬り下ろす。


 刀剣術中級技 滝返し。


 この技はクレス戦で使用した滝登りの上位版である。抜刀して滝登りを使用し、斬り上げが終わったところで素早く持ち替えて斬り下ろすというのが一連の動作となる。


 ブロンズウルフは全く反応できず、真月の斬り下げで首を落とされ、血を盛大に吹き出しながら絶命した。


(あと一体!)


 真月はブロンズウルフを斬った時に刀へ付着した血糊を振り払いながら、シルバーウルフの方へ視線を向けると、巨体が大きな口を開けて迫ってきていた。

 真月はシルバーウルフへと向き直り、刀を再び鞘に収めて抜刀の体勢に入る。


「ふっ!!」


 真月の姿が掻き消えた瞬間、黒刃の一閃がシルバーウルフの胴体を捉えていた。


 刀剣術上級技 瞬一閃。


 真月がシルバーウルフ後方の空中に再び姿を現し、そのまま地面へと静かに着地する。

 次の瞬間、シルバーウルフの胴体に白い線が浮かび上がり、その巨体がずれていく。


「ガォァァァァァァ!?」


 シルバーウルフが上げたのは単なる悲鳴なのか、もしくは仇を取れなかったことによる悲痛な叫びなのか判断は付かなかったが、二つになった巨体が重い音を立てて地面に落ちる。その時、シルバーウルフの目からは光が失われていた。


(終わったか・・・)


 ここで玲也はようやく一息吐いた。特に苦戦することも無く終始圧倒していたが、術技を連続で使用したことで多少の疲れが出ていた。

 ちなみに協会ランクⅣで一人前と言われるBDMが今の玲也のような戦い方をすれば、脳が疲弊しきって戦闘途中に強制リンク・アウトは免れない事を追記しておく。


(ま、あとは四人のBDがどうなったかを見るだけだが)


 玲也は探知範囲を広げ、四人のBDの位置を確認してみた。


(お、もうすぐ森の外に出そうだ。ワイルドウルフの反応も無くなっているし、問題無さそうだな)


 と玲也が安堵したのも束の間、今度は別の反応を捉えた。


(ん?何だこれは?森の中に青い点と黄色い点が同じくらいで、その周りを赤い点が三十ほど囲っているな)


 青い点と黄色い点が同数ということはほぼ百パーセントBDMの集まりだと断言でき、赤い点はウルフ系だと推測できる。つまり、BDM達がウルフの群れに囲まれていることに他ならなかった。

 しかし、事態は玲也が思っていたよりも遥かに深刻だということに気付く。


(おいおい、赤い点の一つはかなり大きな反応だぞ。ランクを推測するにさっきのシルバーウルフ以上だ。しかも黄色い点の反応が複数点滅している)


 黄色い点が点滅しているというのはBDのHPが残りわずかだということを示している。もしHPがゼロになればBDが機能停止して強制リンク・アウトも避けられない。つまり、BDMが纏っているダメージを無効化するフィールドも解除されてしまうことを意味する。

 現在の状況でフィールドが解除されれば、その先に迎えるであろう結末は容易に想像ができた。

 そして、直後にその結末が現実となってしまう。


(っ!黄色い点が一つ消失した。まずい!)


 玲也が苦い表情をしたすぐ後に青い点も一つ消失してしまう。


(くっ、やられたか!?このままじゃ確実に全滅だ!)


 もはや一刻の猶予も無いと玲也は判断した。

 通常であれば見て見ぬふりをしても誰も責められない状況ではある。仮にベテランのBDMが助けに行ったとしても、単身では自殺行為と言っても過言ではないだろう。

 しかし玲也としては探知で知ってしまった以上、見捨てるのも後々に気分が悪くなるのは目に見えているし、何より玲也と真月であれば状況を打破出来ると断言できる。


(幸い、俺が居る位置からだと全力で走っていけば真月とほぼ同じタイミングで到着できる距離だ)


 玲也は一人頷くと、近くにいる四人へ声を掛ける。


「皆、今から俺が言うことをよく聞いてくれ!」


 突然大声を出されてビクッと驚く四人に、玲也は言葉を続ける。


「探知でウルフの群れに囲まれているBDMを発見した。俺は今から真月と救助に向かうから、四人はBDが戻り次第先に協会支部へ戻っていてくれ」

「えっ!?わ、私達が一緒に行くのはダメなの?」


 香住は頭数が多い方が確率が高くなるのではないかと思っていた。しかし、玲也の返答は明確な否定であった。


「だめだ!言い方はきついが四人が付いてきても足手まといになるのは目に見えている。悪いが俺一人で行く」


「・・・・・」


 長年の付き合いである香住は玲也の心情を正確に把握していた。付いて行くと命の危険があるからこそあえて厳しい言葉を投げ掛けたのだと。そして状況はかなり切迫しているのだということも。

 だからこそ、香住の答えは一つだった。


「・・・分かったよ、玲に任せる。でもちゃんと無事に戻ってきて」

「ああ、もちろんだ」


 玲也はニヤリと笑って見せると、森の中へ走り去っていった。


(玲、ごめんね)


 玲也一人を行かせてしまうことに申し訳ない気持ちになると同時に、何より一緒に行けない自分自身の力不足が悔しかった。


(私、玲の力になれるようにもっと強くなるから!)


 香住は強く決意すると、残った三人の方へと歩を進めるのであった。

玲也が操作する真月は魔物の群れ相手に圧倒していますが、実際はこんなにあっさりと殲滅出来ません。

また後に出てきますが、玲也が走りながら真月を操作するという行為は何気に難しい技術です。

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