第10話 BDM協会
今回はBDM協会の紹介になります。内容は少し短めです。
「ん〜、着いた〜」
香住が聳え立つ白い建物を見て呟いた。
学院に入学して初めての休日に、五人は予定通りBDM協会にやって来ていた。
BDM協会。
BDの発展、そしてBDMの成長を促すという信念の下に立ち上げられた組織である。
歴史としては今から約百五十年前と言われており、初代会長としてゲイル・マドレクトが就任した。
ゲイルはフィアーユ戦役の経験者であり、「黄昏の戦い」でも最前線に出て魔物を統べる者と戦い、討伐に多大なる貢献をした凄腕のBDMと言われている。
このため、様々な文献にゲイルの記載が多くあったという。
それらの文献をまとめていくと、フィアーユ戦役終結後に魔物の数が激減したためBDが投入される機会も次第に少なくなっていることにゲイルは気付いたらしい。
このままだと、フィアーユ戦役で勇敢に戦った同胞達の記憶が薄らぎ、BDの衰退にも繋がってしまうとゲイルは懸念したのだそうだ。
フィアーユ戦役の記憶を薄れさせないために、そしてBDの更なる発展を見い出すために同胞を探しに出たことが協会設立の起源とされている。
現在ではBDが普及し、BDM協会は各国から独立した組織として大きな権力を持っている。
「うわ〜、中も広いね〜」
建物の入口を潜ると、香住ははしゃぐように辺りを見回している。週末の休日だけあって建物の中はかなりの人で溢れかえっていた。中には玲也達と同じように登録にやって来たのか、学院の制服を着た人もちらほらと見かけた。
「んで、登録はどこでやるんだ?」
「あそこに登録専用の窓口があるのさ」
クレスが指を差す方をロイドが見ると、「登録専用」と書かれた窓口が二ヶ所有った。
「よく知ってるじゃねえか」
「僕はもう会員だからね」
クレスは懐から一枚のカードを取り出す。薄い緑色で長方形をしたカードは上部に会員No.、中央にクリスの名前が、右下にはランクが記載されている。
「何だよ、登録済だったのか。てっきり持ってないのかと思ったぜ」
「ごめんごめん、皆行きそうだったから僕も付いていこうと思ったんだ」
「まあ別に良いんだがな。にしてもランクが『Ⅱ』と書かれているな」
「登録したのは十五才になってすぐだったからね。たまに依頼を受けていたし、しばらくしてランクが上がったよ」
BDM協会に会員登録が出来る年齢は十五才以上と決まっており、クレスの場合は誕生日を迎えてすぐに登録していた。
ロイドが言っていたランクというのはBDMとしての実績を測る指標となっている。
BDM協会には各方面から様々な依頼が舞い込んできており、会員がその依頼を受けて達成することで報酬を貰うことができる。依頼の達成率や達成内容によりランクアップの点数が加算され、規定の点数に達したときにランクがアップする。登録時は例外無くランク『Ⅰ』からのスタートとなり、最大ランクは『Ⅹ』である。また、ランクが高いほどBDの操作が優れていて強いという認識が一般的であり、一見して強さが分かるように会員カードの色がランクごとに違うと言われている。
各ランクの位置付けとしては、
『Ⅰ』=新人(カード色は白)、『Ⅱ』=新人卒業(カード色は薄緑)、『Ⅲ』=半人前(カード色は銅)、『Ⅳ』=一人前(カード色は銀)、『Ⅴ』=ベテラン(カード色は金)、『Ⅵ』=達人クラス(カード色は白金)、『Ⅶ』=超人クラス(カード色は碧)、『Ⅷ』=英雄クラス(カード色は緋)、『Ⅸ』=伝説クラス(カード色は虹)となっている。
ランク『Ⅹ』(カード色は黒)については特別な位置付けとなっており、ランク『Ⅸ』の中でも特に優秀な実績を持った十人に贈られ、一年ごとに更新される。
割合としてはランク『Ⅵ』以上が極端に少なくなる傾向にあり、全会員の一割程度だとされている。つまり、ランク『Ⅴ』以下が全体の約九割を占めることになる。
ちなみに魔物のランクも協会のランクと同様にⅠからⅩまでランク付けされている。数字が高いほど強く、ランクⅩについては過去を辿っても魔物を統べる者しか格付けされていない。
また魔物ランクは協会のランク付けの指標にもなっており、依頼書の難度の基準としても大いに役立っている。
「それじゃ、登録にいこうぜ・・・と、レイヤはどこにいった?」
「トイレに行くから、先に登録しとけって言ってたよ〜」
先程まで居たはずの玲也を探すために見回したロイドであるが、香住の返答に分かったと返事をした。
香住、ロイド、セイラの三人は登録専用窓口へ向かうと、すでにどちらの窓口もそれなりに列が出来ており、列の最後尾に並んだ。
しばらく三人は雑談をしていたが、ついに順番が回ってきた。
まずは香住の順番になり、受付嬢がニコッと笑顔を浮かべて口を開く。
「BDM協会エルゲスト支部へようこそ。本日は会員のご登録ですね?」
「はい、そうです」
「では、こちらの登録用紙に記入をお願いします。代筆の方は如何致しましょうか」
「必要ありません。字は書けますので」
「承知しました。登録料として銀貨二枚頂きます」
香住は銀貨二枚を取り出し、受付台の上に置いた。
フィアーユ大陸内は全て共通の通貨となっており、種類としては銅貨、小銀貨、銀貨、金貨、白金貨、フィアーユ金貨の六種類がある。小銀貨一枚=銅貨十枚、銀貨一枚=小銀貨十枚、金貨一枚=銀貨百枚、白金貨一枚=金貨百枚、フィアーユ金貨一枚=白金貨百枚となるが、白金貨は流通枚数は少なく、フィアーユ金貨に至ってはほとんど発行されていないので、実際は金貨以下の四種類が多く流通していることになる。
ちなみに銀貨二枚あれば、一人一日三食として約一週間分の食費を賄えるのでそれなりの料金といえる。
香住は記入を終えると、受付嬢に登録用紙を渡たした。
「確認しますので少々お待ち下さい・・・。はい、結構です。それではこちらの台にリンクギアを置いて頂けますか」
香住はリンクギアを取り出し、受付嬢に言われた通りに正方形状の台へと置いた。
「次にこちらのマットに右の掌を置いて頂けますか」
受付嬢が指を差したマットの上部にはカードが埋め込まれていて、リンクギアを置いた台とはケーブルで繋がっている。
香住がマットに右の掌を置くとマットが発光し、三十秒ほど経ったところで発光が収まった。
「はい、これでご登録は完了となります。それでは、私の方から簡単に注意事項を説明させて頂きます」
受付嬢が説明した内容をまとめると以下のようになる。
1.依頼にはランクが有り、自身のランクより一つ上のランクまでしか受けることが出来ない。
2.依頼達成でランクアップの点数が加算され、規定の点数及びBDのレベル条件を満たしているとランクが上がる。
3.依頼に失敗した場合は罰金を支払う。
4.依頼の失敗が多くなるとランクが下がり、揉め事等協会に迷惑を掛けた場合も同様の処置となる。
5.BDによる犯罪を犯した場合、会員から強制的に除名され、再登録を行うことは出来ない。
6.会員カードを紛失した場合は再発行が可能だが、手数料として銀貨一枚を支払う。
7.その他詳細は協会規則を確認すること。
「もし、分からない事がございましたら、職員にお声掛けをして下さい」
受付嬢は会員カードを香住に渡し、「今後のご活躍を期待しております」と締めくくった。
「登録が終わったかい?」
「うん、終わったよ〜。これで私も会員だし、頑張ろうって気になってきた!」
「はは、僕もせいぜい抜かされないように頑張るとするよ」
その後ロイドとセイラも登録を済ませて会員となったが、途中でロイドが受付嬢に鼻の下を伸ばしていた事はご愛嬌といったところであった。
「ん?全員登録は終わったのか?」
登録が終わり、四人が集まったところで玲也が戻ってきた。
「うん。玲は登録しに行かなくて良いの?」
「ああ、俺はもう登録しているからな」
「ええ!?そんなの初耳だよ〜」
玲也がすでに会員だったことを知り、香住は目を見開いた。
「悪い、登録したって話はしてなかったな」
「いつからなの?」
「半年くらい前だな」
香住がジト目で玲也を見る。
「誕生日のすぐ後じゃない・・・」
「ちょっとしたきっかけでな。元々は学院へ入学した時に登録する予定だったんだが」
「ふ〜ん・・・、最近私に隠し事多くないかなぁ〜」
香住の視線がどんどん冷たくなり玲也はぐっ、と息を詰まらせた。
香住の言う事が的を射ているのもあるが、それよりも今の香住の態度がご機嫌斜めになっている兆候だと知っているからだ。
以前にも何度か機嫌が悪くなったことがあるが、いずれもかなり長引いたことを玲也は覚えている。
大きな溜め息を吐きたくなるのを何とか堪え、玲也は口を開く。
「・・・何かしてほしいことはあるか?」
あからさまに話題を反らした形になるが、香住の機嫌を直すきっかけが作れればと思っての提案であった。
(何か上手いこと餌で釣られた気もするけど)
無論、香住も気付いているが、あまり話したくない内容だからこそ秘密にしていたのだというのが分かるくらいには長い付き合いをしているつもりだった。
「・・・じゃあ今度の休みに一日中私に付き合って」
「あ、ああ、お安いご用だ」
「・・・なら、許してあげる」
香住はここでようやく笑みを浮かべる。
玲也も香住の表情を見て、ほっと一安心した。
「お〜い、夫婦喧嘩をしてないでさっさと依頼内容を見に行こうぜ」
ロイドの言葉に二人はわずかに顔を赤らめつつ、依頼内容が貼られている掲示板の方へ足を向けるのだった。
玲也のランクは後ほど出てきます。最初はこっそりと玲也が会員登録した設定にする予定でしたが、少し無理がありそうだったのであらかじめ登録していたということにしました。
そして、ようやく出せた通貨の設定・・・