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第0話 序章

処女作です。文章や構成が未熟で読みにくい部分も多々あると思いますが、よろしくお願いします。

 人々の歓声やヤジ、そして鳴り響く剣戟。

 地下闘技場の中心、円形のステージには激しくぶつかり合う二つの人影があった。そして、ステージの場外にも同様に二つの人影が見え、両者とも形は違うものヘッドギアを装着している。

 一人は銀色のヘッドギアで、額の先端部は鳥の嘴のように尖っており、両耳付近からはそれぞれ三十センチ程度のアンテナが付けられている。身長は百六十センチ前半といったところだが、体躯は筋骨隆々というのが服の上からもわかるほどであった。ヘッドギアで顔があまり見えないが年は三十代前半の男に見えた。首もとを見るとわずかにではあるが赤髪がこぼれていた。

 もう一人は黒色のヘッドギアというより顔全体が覆われているので、もはやフルフェイスの仮面といった方が正しい表現になるか。両目に当たる部分は青く、赤髪の男のヘッドギアと同様に両耳付近にアンテナが付いていた。身長は百七十センチ程度で、それなりに引き締まった体格はしていそうだが、赤髪の男ほどでない。顔が全く見えないので年代が分からないが、男であることは間違い無さそうだ。


「チッ!」


 赤髪の男が大きく舌打ちをした。ステージの中心を見る表情はヘッドギアを被っていても分かるほどに焦燥に駆られている。


「・・・・・」


 フルフェイス仮面の男は一言も発することもなくステージ中心の戦いを静かに見据えている。

 攻めているのは全身を赤色の鎧で覆われている方である。いわゆるフルプレートといった様相だが、動きは決して鈍重ではなく、むしろ軽快とさえいえた。身長は百七十センチ程度だが、刃渡りが一メートル以上はあろうかという大剣を両手で持ち、幾度となく鋭い斬撃を繰り出している。無論、大剣に振り回されている様子はなく剣筋もある程度通っているため、それなり以上に熟練した腕だというのが見てとれる。

 対するもう一方は身長が百八十センチ強あり、白いロングコートを羽織り、胸部は服の上から胸当てが装着されている。下半身は黒いズボン、黒のロングブーツといった出で立ちであり、顔面は仮面で覆われていて口元しか見えないが、肩口まで伸びた銀髪が存在感を引き立てている。右手には黒塗りの刀が握られており、刃渡りが七十センチ程度である。

 銀髪は赤色鎧から繰り出された斬撃を刀で受け流したり、かわしたりしている。その様子からは焦りといったものは一切感じられず、淡々と捌いている。

 すでにお気づきであろうが、赤髪の男は単にステージを眺めているだけでない。赤色鎧を()()()()()()()。同様にフルフェイス仮面の男は銀髪を()()()()()


 BD(バトルドール)


 二人が操っている人形は一般的にそう呼ばれている。歴史としては古くないものの、現代では圧倒的な普及率を誇る()()()()となっている。また、BDを操る者はBDM(バトルドールマスター)と呼ばれる。


「この野郎ぉ!」


 赤髪の男が叫んだとき、ステージ上にいる赤色鎧が地面を強く踏み込むと同時に大剣の刃が白く輝きだす。


「オラァ!」


 大剣の柄を握りしめ、銀髪の左下段から右肩へと斬り上げる。その斬撃速度は今までの斬撃に比べると倍以上であった。


「・・・・・」


 銀髪は特に焦る様子もなく、すばやく大剣の斬撃範囲から外れる位置まで後退することでやり過ごす。

 大剣で空振りすれば、その重量で体が流れて体勢が崩れてもおかしくなく、致命的な隙になりえるはずだった。しかし、赤髪の男が浮かべているのは焦燥・・・ではなく笑みであった。


「もらったぜ!」


 切り上げた斬撃が突然停止した瞬間、大剣の刃が伸び、斬り上げた軌跡の逆を辿るように高速の斬撃が斬り下げられる。この斬撃速度は斬り上げた時よりもさらに速かった。


 大剣術中級技 デュアルスラッシュ。


 この技は斬り上げと斬り下げが一つの流れになっているのが特徴であり、あらかじめ斬り上げ範囲を設定しておくことで斬り上げ終了後直ちに斬り下げ動作に入ることができる。つまり、慣性を無視出来る技であり、相手が体勢が崩れる隙を狙って反撃しようとすればたちまち斬り下げの餌食となってしまう。しかも斬り下げ時の斬撃速度が上方修正されるため、回避するのも難しくなる。


 今回の場合はさらに大剣の刃を伸ばすことで、より一層回避が難しくなっている。仮に反応して刀で受けたとしても、大剣が相手では呆気なく両断されてしまうであろう。

 斬撃が銀髪の肩口に達しようとした時点で赤髪の男は勝利を確信した。だが、


「!?」


 斬撃が銀髪をあっさりすり抜けたのだ。あまりの手応えのなさに赤髪の男は違和感を抱かずにはいられなかった。斬撃はまだ終わっていなかったが、嫌な感覚が全員を駆け巡り、とっさに身体を捻った。次の瞬間、


「ぐあっ!?」


 背中に熱い衝撃が広がる。斬られたと気づいたときには体勢を立て直すために地面を強く蹴って距離をとった。ステージぎりぎりまで離れて振り向くと、斬られた辺りに銀髪の姿があった。


「はあ・・はあ・・」


 赤髪の男は右肩を押さえ、荒い息を整えようとした。もし一瞬でも反応が遅れていたら、間違いなく赤色鎧の上半身と下半身はお別れになる運命だっただろう。

 斬られたのは赤色鎧であるが、BDを操作するうえで『リンク・イン』をしているため感覚が共有化されている。そのため、赤色鎧が斬られたときに赤髪の男も同様の感覚を味わうことになる。


「・・・終わりだ」


 フルフェイス仮面の男がここで初めて言葉を発した。刀を腰に差してある鞘に収め、左手で鞘を持ち、やや前傾姿勢となる。


「はっ!」


 一瞬にして銀髪の姿が消えたと思った次の瞬間、赤色鎧の前に姿を現していた。

 だが、刀は未だに鞘に収めたままであったし、姿を現した後には一切の動きがないように見えた。実際はすでに()()()()()()のだが。

 銀髪が赤色鎧に背を向けて歩き出した直後、赤色鎧の胴体に白い線が浮び、


 どさっ。


 二つの音が重なった。一つは赤色鎧の上半身が地面に落ちたときの音。もう一つは赤髪の男が意識を失って地面に倒れた音であった。


 刀剣術上級技 瞬一閃。


 この技は高速移動後に繰り出される居合斬で、高速移動したエネルギーを集約して刀に乗せる。その斬撃は肉眼で追うことが出来ないほど速く、鋭い。言葉で語るのは容易であるが、実際は刀剣術上級技の中でも特に難度が高い技の一つとされており、熟練した刀剣術使いでも習得している者は少ない。


 ステージ上では真っ二つにされた赤色鎧が砕けるようなエフェクトを残して消える。強制的に『リンク・アウト』が発動したのだ。

 ここで試合終了のブザーが鳴り響く。観客席からはさらなる歓声と怒号が飛び交っていた。しかも観客は全て仮面を着用いるため、より一層異様な光景に見えた。

 その後、地下闘技場の大型スクリーンにはこのように表示された。


『WINNER 黒の執行人R』と。



「お疲れ様」


 フルフェイス仮面の男が控え室へ繋がる薄暗い通路を歩いていると声を掛けられたので、進路方向を見ると一人の女が立っていた。年齢は二十代前半くらいだろうか、容姿は非常に整っており、後ろで束ねられているプラチナブロンドの髪と蒼い瞳が特徴的で眼鏡を掛けている。服装は白のブラウスと紺のスーツ、膝よりわずかに上のスカート、黒のタイツといった出で立ちで、スタイルもかなり良い。


「ああ」


 フルフェイス仮面の男の簡素な返答に女が眉をひそめる。


「もう、素っ気ない返事ね。せっかく労ってあげてるのに」

「大して疲れていないからな」

「そうかもしれないけど、もう少し愛想良くできないの?」

「付き合いの長いエリーに対して取り繕っても今更だろう」

「それは良い意味で捉えてもいいのかしら」

「もちろんだ」

「ふふ、そう」


 エリーと呼ばれた女は少しだけ嬉しそうに頬を緩めたが、すぐに表情を引き締める。


「でも、やっぱり愛想良くしてくれた方が私は嬉しいわ」

「・・・はあ、善処する」


 エリーはまだ不満げな表情を浮かべていたが、とりあえず言質は取れたので良しとした。


()()()()試合はこれで最後になるのね?」

「そうなるな」

「有終の美を飾るにしては些か物足りない試合だったけれど」

「それは対戦相手に言ってくれ。俺は知らん」

「今となっては貴方と同等の実力者を探す方が難しいことを分かって言ってる?ま、対戦相手は選べないけど」

「・・・いずれにしても、あてがわれた対戦相手と戦うだけだ」


 フルフェイス仮面の男は淡々と答えた。その様子を見たエリーは溜息を吐きそうになるが仕方ないかと思い、話題を変えることにする・・・というよりむしろこちらが本題であった。


「ところで、本当に学院へ行くの?」

「・・・ああ」


 返答したフルフェイス仮面の男の声色には、わずかに面倒くさそうな色が混じっていた。


「学院に入ったところで、貴方が学ぶことは何も無いと思うのだけど、気のせいかしら」

「さあな。そもそも目的が違うことは何度も言ったはずだ」

「分かってる。ただ、最後に確認したかっただけ」

「ん?どういうことだ」


 フルフェイス仮面の男の声色に不審げな色が浮かぶ。それを聞いたエリーは口角を少しあげて口を開いた。


「察しが悪いわね。さっき言ったでしょ。()()()()試合は最後だって」


 エリーが言った言葉を咀嚼し、フルフェイス仮面の男はようやく意味を理解した。


「・・・おい、まさか向こうにも()()()()

「ええ、あるわ」

「そんな話聞いてないぞ」

「今初めて言ったのだから当然でしょ。でも安心して。向こうでもきっちりサポートさせてもらうから」

「・・・ちょっと待て。まさか付いてくるつもりか?」

「もちろん。長年連れ添った仲ですもの。今更離れるなんて選択肢は無いわ」


 胸を張って言うエリーの様子を見て、フルフェイス仮面の男は頭を抱えたくなった。今回がちょうど良いタイミングだと思って切り出そうとしていたのだが、どうやら失敗に終わりそうな予感がした。


「貴方の考えてることなんてお見通し。どうせ私だけ抜け出させるつもりだったのでしょうけど、そうはいかないわ。そんなことをされて私が喜ぶとでも思った?むしろ迷惑だわ。だって私は貴方にどこまでも付いていくと決めたもの。あの日からその気持ちは少しも変わっていないわ。ねえ、私がいると迷惑なの・・・?」


 フルフェイス仮面の男を見ながら、エリーは顔を歪めた。その表情を見ると、とても言い出せる雰囲気では無くなってしまった。


「いや、迷惑じゃない。今までサポートしてくれて感謝している」


 フルフェイス仮面の男は両手を挙げながら答えた。今言ったことはまぎれもない本音であり、彼女のサポートが無ければここまで到達することは無かったと断言できる。どうやら提案するつもりだった内容は自己満足にしかならないようだと悟った。


「最初からそう言ってくれればいいのよ」


 エリーは瞬時にケロっとした表情に戻った。叶わないな、とフルフェイス仮面の男は仮面の下で苦笑した。


「何度も聞いてきたのはもしかして・・・」

「ええ。貴方が万が一でも心変わりしたら拠点の変更申請が無駄になるからよ」

「そういうことか。だが、今後の連絡方法はどうするんだ?今度行く学院は全寮制だぞ。会える機会がそうそうあるとも思えんが」


 対戦の日程や対戦相手の情報はサポーター(エリー)から直接伝えられるのが決まりとなっている。これに関しては例外が認められた前例を聞いたことが無かった。しかし、エリーの返答はあっさりとしたものだった。


「心配ないわ。すでに解決済よ」

「・・・何か嫌な予感がするんだが」

「ふふ、楽しみにしていて」


 エリーはイタズラっぽい笑みを浮かべた。

 フルフェイス仮面の男は小さく溜息を吐いた後、右手を差し出した。


「これからもよろしく頼む」

「ええ、よろしく。玲也」


 エリーは笑顔を浮かべ、玲也の右手をしっかりと握り返したのだった。

最初はさらっと流すつもりでしたが、予想以上に長くなってしまいました。


◯専門用語補足


・BDF (バトルドールファイト)

各国の主要都市で行われるBDM同士が競い合う大会。ソロ部門、タッグ部門(二人対戦)、パーティー部門(五人対戦)の三部門がある。毎年一回開催される。

※本編にはまだ出てきていません。登場するのはまだ先になると思います。


・BDC (バトルドールコロシアム)

BDFで優秀な成績をおさめたBDMのみが参加でき、BDMの頂点を決める大会。BDFと同様にソロ部門、タッグ部門(二人対戦)、パーティー部門(五人対戦)の三部門がある。四年ごとに開催される。前回大会は一章の時系列で見ると一年前に開催された。

※本編にはまだ出てきません。これが登場するのはだいぶ先です。本作品がそこまで続いていればですが(笑)




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