8 悲しみの部位破壊
間に合いました。
脱出したあとしばらく海上を彷徨っていたのだが、神の眼情報で俺が飲み込まれた場所からほとんどずれていないことが分かった。
当初の目的地であるザルバまで本来のスピードなら2日だが、小屋を抱えているためだいたい20日の行程となるようだった。
脱出後には約束していたチョコパーティーを開催したら、リリちゃんが興奮しすぎたのか、チョコの食べ過ぎなのか分からないが鼻血をだし、タカノスに怒られるという一幕もあった。
その日は暇つぶしのため神の眼で家の中を覗くと、リリちゃんが木の板を前に何かしていた。
「リリちゃん、何してるの?」
チラッと見ると木の板に何か書いているのが見える。
「ゆ、ユージ、見ちゃ駄目!ユージは見ちゃ駄目なんだからね!」
小さい体で板を抱きしめ必死に隠す。
落書きでもして遊んでるのだろう。
「あ~、ごめん、ごめん、見ないよ、見ない。」
そこに、風呂からふんどし一丁でご機嫌なタカノスが現れた。
こいつには剣道着の上下とネタ装備として越中ふんどしを渡していたのだった。
「ユージか?どうした?」
神の眼は原則見えない。
だから、リリちゃんも俺に声をかけられるまで気付いたりはしないのだが、この馬鹿は知恵が足りない分感覚が鋭いらしく、容易く俺を発見する。
「暇だから来た。朝風呂ってことはリリちゃんに臭いとでも言われたのか?」
「ぬかせ!リリはそんなことは言わない。風呂に入ってさっぱりしたかっただけだ。」
俺達が馬鹿な話を続けていると、リリちゃんは板をかかえて部屋の隅に移動してしまった。
「リリちゃん何してんだ?」
不思議に思いタカノスに聞く。
「あ~あれか、なんでもユージにプレゼントするものを作ってるらしい。俺も詳しい事は知らん。」
幼女とはいえ女性からプレゼントをもらうなんて生まれて初めてだ。
「マジかよ。なんだろうな?」
「だから、俺も知らん。初めに言っておくがリリに手をだしたら殺すからな!」
ほんわかムードから一転、馬鹿が殺気のはらんだ目で凄んできた。
「真性の馬鹿かお前は。それより、まだまだ時間がかかりそうだが、お前何して暇を潰す?」
「寝る!」
俺の疑問に短く答えるとタカノスは横になった。
まぁ、リバイアサンの腹の中じゃ、ゆっくりできなかたんだろうな。
溜まっている疲れを抜くために、しばらくのんびりするのはいいかもしれん。
俺も久々に一人の時間をとれそうだ。
それとも、最近ヘルスケをかまってないから、ヘルスケを相手にするか。
俺は神の眼のリンクを切ってトイレから出た。
「・・・という訳で俺も何かリリちゃんにプレゼントしようと思うんだけど、何がいいと思う?」
幼女とは言え女性からプレゼントをもらいお返しも無しだとジェントルメン勇二の名が廃る。
だが生まれて26年女性からのプレゼントなど、お袋とおばあちゃんからしか貰った事が無い俺にはハードルが高かった。
「ここは役に立つ魔道具等をプレゼントしたら如何でしょうか?材料も龍のドロップアイテムがありますし、知識や技能はスキルでおぎなえます。」
「流石だな。パーフェクトだ、ヘルスケ。」
「マスターのためならこのヘルスケ例え火の中水「あぁ、それはいい。」・・・。」
長くなりそうなヘルスケの話を強制的にインターセプトし話を進める。
「よし、久々にスキルを取るか。え~と、魔道具だよな。ま、ま、ま、・・・。」
「マスター上から探さず検索き「分かってる。冗談。ちょっとした冗談だから。」。」
検索機能で魔道具と検索するといくつかのスキルが表示された。
「ヘルスケ・・・、なんか一杯でたんだけど・・・?」
魔道具知識、魔道具歴史、魔道具使用・・・etc、etc。
「魔道具の歴史等はいりません。作るだけなら知識と作成スキルさえあれば大丈夫です。あとは魔道具のレベルを上げるためのスキル等ですね。例えば効率化のスキルを持っていれば効果時間が長めになったり使用魔力が少なくなったりします。」
う~ん、じゃあ、あった方がいいんじゃん。
ヘルスケが止める間もなくスキル全てを取得する。
必要かもしれないという脅迫観念から取っているにすぎないのだが、こんな事が出来るのも馬鹿みたいなレベルのおかげだ。
「よし、これで全スキルコンプだ!」
天に唾する者には己に唾がかかる。
本来スキルとは長い修行の末、一つ一つ身に着けるものなのだ。
体を鍛え、頭を鍛え、魂を鍛え、スキルを受け入れるだけの器を作り受け入れるのだ。
レベルが上がり、人外の体力をほこる勇二でも頭は違った。
普段使われていないスベスベマンジュウガニのように皺の無い脳みそに膨大な量の知識が流れ込む。
「ギヘェェェェェェェ!!」
畳の上に顔からダイブするように倒れ、奇声をあげ、奇妙な踊りのように手足をバタつかせる勇二。
スキル取得によりキャパオーバーの情報が無理矢理勇二の貧弱な脳細胞に刻み込まれる。
知恵熱を通り越して頭から黒煙が上がり、燃えるように輝く小さな脳みそが頭蓋骨ごしに透けて見える。
エビぞり状態でピクピクと痙攣すると突然動きが止まった。
シューシューと気絶した勇二の額が湯気を吹き、加熱していた頭が冷やされていく。
スキル取得から3日、回復した勇二は一心不乱に魔道具の作成にいそしんでいた。
部屋の中は本番前の腕慣らしのために作った魔道具が散乱し、足の踏み場もないほどだった。
右を見ると笑顔が重なったような気味が悪い、重そうなトーテムポールがあり、後ろにはマジックハンドが付いた兜、左にはトイレのつまりを解消する器具にそっくりなものが十数本束ねられて置かれており、初めて目にする人間がいたら間違いなくゴミ置き場だと断定するであろう。
そんな中、勇二は額に汗をかきながら細心の注意をはらい手元を動かしていた。
リリへのプレゼントでは無い。
この馬鹿は思いついてしまったのだ。
もしかして魔道具を使えば天罰を逸らせるんじゃね?って事を。
ヘルスケと一緒に過去にくらった天罰を分析し、簡単に言えば避雷針型のユージのコピーを複数作りだす魔道具を作成したのだ。
間違った方向に進んではいるが、レベル的には国宝をはるかに超えた魔道具である。
そんな魔道具を己の欲望のために何の躊躇いも無く、大量にあるとはいえ貴重な龍のドロップアイテムを惜しげも無くつぎ込み、完成までこぎつけたのである。
「できた・・・・。」
「出来てしまいましたね。」
満足げな馬鹿とあきれた調子の馬鹿の声が響く。
「よし、やるぞ!」
掛け声とともに全裸待機した勇二は魔道具を起動させる。
勇二の周りに十数個のとんがりコーンのような避雷針が浮かびあがる。
人型では無いが勇二のDNAから魔力の波長はたまた魂の波長までコピーしている。
静かに目を閉じ集中しだす勇二。
ギョバッ!!
次の瞬間、出現した稲妻が避雷針ごと勇二を包み込み跳ね飛ばした。
「ケペッ!」
いつものように奇声を漏らしながら吹き飛ぶ勇二。
だが、今回は吹き飛んだ方向が悪かった。
跳ね飛んだ勇二は笑顔トーテムを巻き込んでクラッシュ。
床に叩きつけられ、大股開きで痙攣している勇二の2つの宝玉に重く巨大な笑顔トーテムが狙いすましたように倒れ込み直撃した。
ドムッ!ゴリッ!
鈍い音が重なる。
倒れた笑顔トーテムが宝玉に打撃を加え、その後、宝玉を支点にすり潰すように動いたためだ。
数瞬、金魚のように口をパクパクと動かし声すらあげない勇二からブワッと大量の脂汗が噴き出る。
それでも、体にのしかかった笑顔トーテムをどかすため、最後の力を振り絞りトーテムに腕をかける。
そして、再度の稲妻に襲われる。
笑顔トーテムに全裸で抱き着く勇二の姿は、まごう事無き変態だったからだ。
回避不可能な状態で回避不可能な攻撃をくらい、笑顔トーテム毎吹き飛ばされる馬鹿。
後に勇二は罠にはまったと言い張っていたが、勇二を罠にかけて得する者はいない。
全てが自業自得であり、必然であった。
薄れゆく意識の中、勇二が最後に見た光景は壊れてなお、不気味に笑いかけるトーテムポールの顔だった。
閑話休題
笑顔トーテム事件から1週間がすぎ、リリちゃんへのプレゼント用装備と、ついでに馬鹿にも装備を作った。
作った装備はこんな感じだ。
リリの腕輪
・自動サイズ調整
・自動修理機能
・所有者設定機能
・機能理解システム
・所有者自動追尾システム
・時間停止型異空間収納機能(大きさは東〇ドームと同程度)
・異空間同期システム
・魔法障壁展開機能
・魔力吸収機能
・空中浮遊機能
・状態異常無効化機能
・自動回復機能
・連絡機能
・自動迎撃システム
・緊急脱出システム
・自動制御システム
機能とシステムの違いは、機能は1つのスキル付与によるもので、システムは複数のスキルを組み合わせたものだ。
だいたいは字ずらで分かる機能だと思うが、特筆すべきは異空間同期システムと緊急脱出システムだ。
異空間同期システムにより俺とリリちゃんが離れていても、リリちゃんのアイテムボックスにチョコを入れてあげる事が出来るシステムだ。
緊急脱出システムは生命の危機が迫った時、俺の目の前に転移してくるというインチキシステムで、これが一番苦労した。
おかげでリリちゃんの魔道具は全て古代龍素材で作られており、魔石に至っては古代龍1つに上級龍3つ使用の豪華版である。
ついでにタカノスの装備はこんな感じだ。
タカノス(肉壁)の腕輪
・自動サイズ調整
・自動修理機能
・時間停止型異空間収納機能(30m×30m×30m)
・異空間同期システム
・強制肉壁システム【隠蔽】
・回復の極み
・連絡機能
・自動制御システム
ヘルスケに言わせるとこれでも国宝レベルらしい。
所有者設定機能が無いのは一度付けると腕を切り落とさない限り外れない仕組みにしてあるためである。
この腕輪で特筆すべきは肉壁システムと回復の極みであろう。
肉壁システムはリリちゃんが攻撃を受けると自動的に攻撃とリリちゃんの間にタカノスが転送されるシステムであり、この腕輪の自動制御システムの9割以上はその能力制御に割いている。
回復の極みは一度発動するとがん細胞が増殖するように傷を治し続け、瀕死になろうが即死ダメージを受けようが回復する作りになっている。
呪いのアイテムに見えなくも無いが、これにより無限増殖するリリちゃん用の肉壁が誕生するはずだ。
とりあえず、肉壁システムには隠蔽をかけて分からなくしているが、あの馬鹿は勘が鋭いのでバレるかもしれない。
まぁ、そうなったら無理矢理にでも腕にはめよう。
やる事も無くなったので寝て過ごそうかと思っていたのだが、その日はちょっと違っていた。
何か面白そうなものを見付けたら教えるように言っておいたヘルスケが無人島を発見したのだ。
偶にはバーベキューでもどうかと思い、タカノスに声をかけると乗り気で狩りの腕前を見せてやると、訳の分からない事を鼻息荒く宣言していた。
上陸後、海岸に小屋をおろし、手早くバーベキューを用意。
後は焼くだけにしていると、リリちゃんが後ろ手に何か隠しながら近づいてきた。
内心キター!っと思いながらも気付かないふりをする。
「どうしたの、リリちゃん?」
俺が話しかけると、はにかみながら此方をうかがうエルフの幼女。
出来たら後20年早く生まれていて欲しかったが可愛いのでいいだろう。
「うんとね~。あのね~。ユージにリリからプレゼントがあるの。」
うん、知ってた。
「え!そうなんだ。なんだろうな?あ、俺もリリちゃんにプレゼントがあるんだよ、一緒だね。」
ビックリしたふりをしながら俺もプレゼントがあると話すとニコニコし上機嫌になった。
タカノスも笑顔で俺とリリちゃんのやり取りを見守っている。
後で演技が下手くそだとか言いそうだ。
「やったー!じゃあ、プレゼント交換だね。いち、にのさんで交換しよ。」
「いいよ。じゃあ、リリちゃんが数えて。」
ロリコンじゃ無いけど子供が笑える世界はいい世界だと思う。
「うん。じゃあ、いち、にの・・・さん!」
俺はリリちゃん専用の収納の腕輪を差し出し、リリちゃんは丸い気のお盆のようなものを差し出した。
「あ!反対だった。」
リリちゃんが木のお盆らしき物をひっくり返すと、それが何か判明した。
これを見た人はたぶん100人が200人ともこう答えるだろう。
呪いの仮面と。
それは、半笑いの顔が彫られたお面だった。
俺が仮面を受け取るとリリちゃんも腕輪を受け取った。
自分の腕にはめて腕輪のサイズ調整が始まるとキャッキャッと声をあげていた。
改めて仮面を見る。
半笑いで、右目がほぼ真丸、左目が楕円形だがそれはいい。
鼻が無く髪も無く半笑いの亀裂のような口がついている。
色までつけてくれたのは嬉しいが、顔は青白く、目は黒目しかないので地獄に住まう悪魔の様だ。
俺がタカノスを見ると馬鹿は顔を逸らした。
「ユージありがとう!リリ、こんな凄い魔道具初めて!」
俺が呆然としていると、リリちゃんがお礼を言ってきた。
イカン!大人の対応をしなくては。
「俺もこんな凄いお面貰うの初めてだよ。なんかご利益有りそうだね。」
もう魔除けとしてアイテムボックスにしまいこむしかない。
「でしょー!リリね、ずーっと考えてたの。初めてユージと会った時、凄い怖かったの。だから、ユージがどうすればみんなに怖がられないかって。」
うん?なんか話がかみ合わない。
「でー思いついたの。ユージが怖いのはユージにお顔が無いからだって。」
そうきたか、思いついちゃったかー・・・。
「これをお顔の代わりに付けてたら、きっと大丈夫だよ、」
ニコニコと天使の笑顔で言い切るリリちゃん。
タカノスは俺と目を合わせようとしない。
動揺しているのか眼球がもの凄い速さで動いている。
どうやって乗り切る。
「あ、ありがとうリリちゃん。・・・凄い嬉しいよ・・・・・・あ!たださぁ、これってリリちゃんからのプレゼントだろ。お部屋の中に飾りたいなぁーなんて思ってたんだけど・・・駄目かな?」
「あのね、リリ、ユージは優しいから、そう言うと思って、もう一個作っといたの。これもユージにあげる!」
フフンっと鼻息荒くドヤ顔でもう一つのお面を取り出すリリちゃんから、2つ目のお面を受け取る。
ナムサン!お面を見る。
今度のお面も鼻と髪は無し。
目は細くいやらしく笑っているよな目で、相変わらず黒一色だ。
逆に口は般若のように大きく吊り上がり、口の中は血のように真赤だった。
こちらもまごう事無き呪いの仮面だ。
「どっちのお顔にする?」
リリちゃんから究極の選択を迫られる。
タカノスは完全に目を閉じて心を無にしようとしている。
「う、う~ん・・・。どっちがいいかな?でも、せっかくリリちゃんが作ってくれたんだから、2つとも俺の宝物にしたいな。ほら、外に付けると雨や風で痛んじゃいそうじゃない?」
なんとか・・・封印したい、このままだと、化物レベルの見た目が、邪神に戻ってしまう。
「大丈夫だよ。リリが時々新しいお顔作ってあげるから。リリにおまかせ!」
くっ!周り込まれた。
タカノスは・・・眠ってやがる!
敵しかいない。
「そ、それは嬉しいなぁ~。ハハハハハァ~。」
ため息をつきながら笑う。
「タカノス!お前のだ!」
腹いせにタカノスの腕輪を腹に向かって投げる。
くの字に折れ曲がりながら無防備な腹でナイスキャッチ!
悪態をついているが、腹に当たった腕輪が魔道具だと分かると喜んで腕にはめた。
「ねぇ、ユージ。どっちにする?」
タカノスをガン無視してるとリリちゃんが聞いてきた。
忘れるわけないよな。
究極の選択が・・・今始まった。
念のために書きますが部位破壊は未遂で終わっています。
次は明日の6時投稿予定です。