6 早く人間になりたい
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何が悪かったのか分かりません。
気絶から覚醒し不貞腐れる勇二。
全裸で項垂れる男など、どこににも需要は無い。
そんな勇二を時には煽て、時には宥め、時には同調し、詐欺師のようにエロ以外に誘導するヘルスケ。
「じゃあ、人里探して行ってみっか?」
己のスキルに手のひらの上で転がされる男。
初めは既に判明しているエルフ娘がいる集落を目指そうとしたのだが、その旨話すと瘧にかかったようにブルブル震えだし嫌がる勇二。
どうやら天罰×9が相当きいたらしくトラウマになっているようだ。
呼び戻した神の眼1~9をエルフ娘がいた方向とは真逆に飛ばし、自らは粉塵から脱出すべくフヨフヨと浮かびながら、ゆっくり後を追った。
勇二もヘルスケも気付いていないが、全知を使えば探す必要などないのだが、おめでたい1人と1つは気づいていない。
なにはともあれ、空いた時間でこの世界について勉強をすることにした。
驚く事に勇二は何も知らない、覚えていないのだ。
そこで全知を持つヘルスケに説明を受ける。
この世界の名はアース、双子の神ウノとピノが最高神として君臨している。
現在のアースは魔王が存在し、魔族対それ以外の種族で絶賛大戦争中。
最前線は地獄のようなありさまで、禁忌とされていた勇者召喚が行われ、何故か勇二が裏勇者として神々に召喚される。
その後は本人もよく知る監禁生活と大気圏突入が実施されていたのだ。
「あのチビどもか・・・・。」
神とはいえ子供2人の前での変態行為を棚に上げ、ギリッと奥歯を噛みしめ、清々しいまでの逆恨みを披露する。
神のトイレは神速浮遊を有している。
フヨフヨと頼りない飛び方のわりに、そのスピードは信じられないほど速い。
馬鹿達が夢の競演を繰り広げている間に粉塵を脱出した。
「一度傷ついて無いか見てみるか。」
何気ない一言を放ち神の眼10でトイレの外壁を確認する事にした。
今思えば草原では3つ首の犬に攻撃され、その後は高所からの落下(勇二はその程度だと思っている)とダメージを負わないのが不思議なくらいだ。
「よし、10番トイレを写してくれ。」
そしてそれは、ついにベールを脱いだ。
「ブフォ!!!」
勢いよく咳き込む勇二。
それもそのはず、勇二の目に写るものは長方形のコンクリートの塊にドアが付いたトイレ・・・それはいい。
そのトイレがふわふわと空中に浮かび・・・これもまぁいいだろう。
だが、その両脇から阿修羅のごとく3対のムキムキの光り輝く腕が生えているのである。
新種の魔物・・・いや邪神と言ったほうがしっくりくるフォルムは子供なら確実に泣き出すであろう気持ち悪さを有していた。
「これは駄目だろう・・・。」
ファッションセンス0の勇二でも分かる駄目さだ。
人目に触れたら討伐隊が組織されるレベルだ。
「ヘルスケ!スキルの返還って出来る?」
いらないなら返せばいい、ついでにスキルポイントも無駄にしたくは無い、いい意味でしっかり者、悪い意味でセコイ。
「スキルの返還は出来ません。マスター・・・まさか私を・・・。」
ヘルスケはヘルスケで返還されるのは自分ではないかと気にしている。
悪魔の様な名前だが、かなりの小心者だ。
「だからさ~、もう別にここにいたら良いじゃん。生活には困らないんだしさ~。」
「ですが、マスターの目的達成のためには・・・。」
「目的?目的なんかあったっけ?」
「魔王討伐ですよ。」
「いや、それ勇者が死んでからだろ~。」
元々引きこもり気質のため動きたくない勇二、対して引きこもりの子供を諭すように行動を促すヘルスケ、お互いの主張は真向から対立し、不毛な会話が繰り返される。
「何か行動を起こせば天罰を緩和するヒントやチャンスがあるかもしれません。」
ヘルスケが虎の子の言葉を吐く。
ようやくエロから頭を引き離したところなので、出来ればこの言葉は使いたくなかったのだったが、勇二が頑なに動こうとしないためだった。
「ん~。緩和かぁ~それは俺も考えた。」
嘘である。
空気を吐くように嘘を吐き、他人の意見に便乗する。
「ん~。じゃあ、どっか行ってみるか?ヘルスケがそこまで言うんだからさ。」
責任転換する準備も怠らない。
元、仕事の出来ない営業としては当然である。
「でも、この見た目どうする?夜道であったら爺さん婆さんショック死するぞ。」
「幸い神の腕には外見偽装の能力があります。ショック死しない程度の見せかけに偽装したら如何でしょうか?」
聞いているのだが、聞いていない、もはやそれしか手はない提案である。
「よし、俺のセンスのいいところヘルスケに見しちゃる。」
センス0の男が大言を吐く。
「植物のつたに偽装・・・なんか変だな。だったら翼とか・・・棺桶に翼が生えてるみたいだ。年寄りにはお迎えが来たと思われそうだなあ。ん~・・・・。」
試行錯誤の1時間、ヘルスケの駄目出しを掻い潜り、ホースの様な腕にマジックハンドの様な手への偽装にようやく決まった。
光りを抑えると全体的に変わったゴーレムと言えなくもない。
邪神から魔物へ一歩前進である。
少し遅めの昼食をとりながらヘルスケとの作戦会議。
今日も勇二は好物のうなぎ弁当をパクつく。
「ゲフゥ、もう、これでいいんじゃね?後はほら、設定で乗り切ろう。」
後はまかせたとばかりに布団にもぐり込む。
ヘルスケは豪快に鼾をかきながら眠る勇二を観察していた。
ヘルスケが全知から得た情報であれば、普通の人間の睡眠時間は4~8時間なのだ。
だが自分のマスターは8時間の睡眠と毎食事後に必ず2時間づつの昼寝をする。
更にふて寝や暇を見つけると布団にもぐり込もうとするのだ。
明らかに普通では無い。
勇二が駄目人間の階段を一段飛ばしで駆け上がっていく姿は、ヘルスケになんとなくの不安と恐怖を与えていた。
ギュゴン!!!
突如稲妻が発生し、寝ている勇二に襲い掛かる。
どうやら天罰は夢にも反応するらしい。
まったくの無防備で天罰をくらいホゲッと奇声をあげながら、部屋の隅まで吹き飛ばされる勇二。
ここまでくると悲劇を通り越して喜劇だ。
「マスター大丈夫ですか?」
またへそを曲げそうだと心配するヘルスケ。
全くの不意打ちだったため、まだ目の焦点が合っていない。
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案の定へそを曲げた。
「なぁ、ヘルスケ。俺って勇者としてこの世界に来てるんだよな?」
「そうです、マスター。」
「なのにおかしく無いか?監禁されて、餓死寸前まで追い込まれて、今度は天罰の雨だよ。」
「それは偉大なマスターの力を神々も恐れているからではないでしょうか。」
「あ~怖がられちゃってるのか。俺って優しいのにな。こう、なんていうか裏技的な何かでここから出入り自由にならないかな?」
「今のところ、それは無理かと・・・ですが、旅を続ければヒントなり何なりはあると思うのですが。」
頑固な老人にはご無理ごもっともで押し通す。
勇二にもこの手は効いた。
「じゃあ、仕方ないから行くか。」
宥めすかし愚痴を聞きようやく出発を了承する。
ヘルスケがいなかったら、こいつはここから一歩も動かなかっただろう。
「ちなみに設定考えた?」
「はい、マスターは田舎の地主の三男坊。実家に伝わる呪いの箱に子供のころに閉じ込められて今は呪いを解くための旅の最中でいかがでしょうか。」
「田舎ってとこが気になるけど、なんかよさそうだな。よし、それでいこう。」
閑話休題
勇二たちは今、海上を移動していた。
目的地は西の大陸にあるザンス帝国の港町ザルバ。
漁業と貿易の窓口として栄え、この世界ではかなり大きい町だった。
「フハハハハハハ!」
勇二は神の眼と自身の目をリンクさせ、海上をジェットスキーのように動くトイレに夢中だった。
勇二の運動神経では転倒間違いなしのスピードでも自動制御されているトイレは別だ。
右へ左へくねくね曲がったり、海面にトイレの底を付け水しぶきをあげたりと好きなように出来る。
「ウケケケケケケ!」
何度目かになる不気味な笑い声をあげながら、偽ジェットスキーを楽しんでいる。
「マスター、そろそろ向かいませんか?」
本来ザルバへは神速浮遊をもってしても数日かかる。
半日ほど進んだ時点でゴロゴロしているのに飽きた勇二が遊び始めたのだ。
初めはご機嫌な勇二を生暖かい目で(目があればだが)見ていたヘルスケだったが、それが1時間、2時間とたつにつれ嫌な予感がしてきた。
この忍耐力と集中力を仕事で活かせばいいものを馬鹿は無駄な事にしか力を発揮しない。
ケラケラと狂ったように笑いながらヘルスケの忠告を無視する勇二。
次の瞬間、疾走するトイレの真下の海面が盛り上がり、信じられないほどの大口が勇二たちを飲み込んだ。
「ケぺッ!」
驚き奇声をあげる勇二。
1人と1つは誰も知らない世界の片隅で、誰に見とがめられる事も無く、世界からその存在を消した・・・・・・かに見えた。
ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!
小心者の心臓がエンジン音のように響く室内。
「どうやら、大海の魔物にエサだと認識され食べられてしまったようです。調べたところこの魔物はリバイアサンのようです。大海に住み通りかかる船や魔物をエサにしている超巨大な魔物ですね。」
ヘルスケが冷静に状況を分析する。
「ぐっ・・・・・・いや・・・これはチャンスだ。考えてみろ、あれだけバカでかい口の魔物だ。腹の中にはきっと今まで食った船の財宝でいっぱいだぞ。」
苦し紛れの反論、人はそれを世迷言と言う。
ともあれ、腕の偽装を解除し、光り輝く腕をライト替わり探索を始める事にした。
「見ろ、ヘルスケ!俺の読みは正解だ!」
広大な化物の胃の中を煌々と照らす6本の神の腕。
その下には胃酸の海に浮かぶ壊れかけたいくつもの船々。
あるものを舳先を上に、あるものは大きな船体を横倒しにしながら沈んでおり、時折反射するようにキラキラ光る輝くはかつての財宝なのか。
ひと際きらめく水面に横付けし、神の腕を躊躇なく潜らせさらう。
その手に握りしめられたものは正しく黄金だった。
「YES!!!これで勝つる!!!」
半狂乱で拳を握りしめ訳の分からない事を言いだす勇二。
一体何に勝つつもりなのか。
余談ではあるが龍のドロップ品がある時点で、既に勇二が金に困る事は無い。
「金が絡めば私も絡む♪」
上機嫌で黄金をさらいながらアイテムボックスに入れていく。
気持ち悪いくらいの笑顔だ。
カーン!
その時、その場にそぐわない音をとらえた。
「マスター攻撃を受けました!何かいます!」
珍しくうろたえるヘルスケ。
6本の腕を威嚇するように広げ、光を強め索敵する。
キョロキョロと辺りを見回すと再び甲高い音と共に攻撃が当たる。
「いました!左前方!およそ距離は200メートルです!」
神の眼で相手をとらえると、ボロボロの服装の30歳くらいの男のエルフと5歳くらいの子供のエルフだった。
大人の方はよく鍛えられた、いわゆる細マッチョでエルフの例にたがわず貴公子ぜんとした容姿の好戦的な目が印象の男だった。
矢をつがえた弓をこちらに向けていることから、再度攻撃する意志があると思われる。
子供の方は男の腰のあたりに手を伸ばし、おそらく服を握っているのだろう。
こちらもエルフにしては好戦的なまなざしで勇二を指さして何か言っていた。
「第一村人発見。これより接触をはかる。」
接触も何も既に攻撃された後なのだが、どうせ効かないのだからいいだろうと気にしない。
「それではマスター、トイレに入って下さい。」
「えっ?・・・なんで?」
「こちらの部屋はトイレに付随する機能でしかありません。神の眼で映像を見たり、相手の声をひろったりすることは出来ますが、こちらから話かけるにはトイレにいる必要があります。」
よく分からない理論を展開され、混乱したままトイレに入る。
「これで話せるのか?」
「ズボンとパンツを脱ぎ便座に腰を下ろして下さい。」
「なんでやねん!」
神速で勇二からツッコミが入った。
「正式なスタイルで無いと制御に齟齬が生じる可能性があります。」
戸惑い疑いの眼差しであたりをキョロキョロ見つめたが、再度カーンという音と共に攻撃された事を告げられた勇二は盛大なため息を吐きながら便座に腰を下ろした。
「これでいいんだな?」
「バッチリです。」
何がバッチリなのかサッパリ分からない。
今までの人生を散々騙されて生き抜いた勇二は自分に都合の悪い事に関しては疑い深かった。
「よし、ゆっくり接近して声をかけよう。笑顔・・・は出来ないからゆっくり手を振って攻撃の意志が無い事を伝えるぞ。」
「分かりました。」
暗闇の中を邪神ともいうべき姿の化物が、光り輝く6本の腕で威嚇しながら、ゆっくり近づいてくる。
エルフの男は更に険しい表情で矢を放った。
カーン!
「全然、駄目じゃねーか。何であいつ攻撃すんだよ。」
「見た目が問題なんだと思います。近づく前に声をかけたらいかがでしょうか。」
「そうだな。マイクのスイッチをいれろ。」
「どうぞ、マスター。」
マイク等などいつ付けたのかと思われるかもしれないが、代理の機能を有するヘルスケが勇二が寝ている間にスキルポイントを消費し、機能を追加しているのである。
「アロー、アロー、ただいまマイクのテスト中!ただいまマイクのテスト中!ちょっと攻撃するのやめてくれないかな?」
「ポポテアマス!リリテンハゥオウペダ!」
カーン!
男の言葉を聞いた子供は後ろに下がり、男からは再度の追撃。
「言葉通じて無くない?」
「マスター、全言語理解のスキルを取得して下さい。」
後出しで言いだすヘルスケ。
ヘルプ機能のはずなのに罠にはめられている感が凄い。
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「マスター、いちいち上から見ないで、検索機能を使って下さい。」
「そのくらい分かってるよ!」
内部分裂まであとわずかである。
12時に本日二話目の投稿予定です。