13 祝杯
ちょっとした説明回になっています。
「ユージの旦那、この酒はテンダー帝国の名産ですぜ。是非試してくだせえ。」
その夜、ささやかながらも歓迎会と海賊撃退の祝勝会が開かれた。
俺が船の中に入れないため、甲板での宴会の様な祝勝会だ。
貴重な輸入物の酒が振舞われ、水夫達も夜勤の奴等以外はできあがっていた。
はじめは遠巻きに見ているだけだった水夫達も、慣れてくると進んで酒や料理を勧めてきた。
リリちゃんはご飯を食べるとおねむで早々に寝てしまい。
俺と少し離れたところにいるタカノスが参加しているだけだった。
酔っぱらった馬鹿達が調子の外れた声で陽気に歌い、同じくずれた手拍子に笑いが起こる。
はじめてこの世界の酒をためしてみたが驚いた事に蒸留酒だった。
俺と同じように異世界から呼び寄せられた誰かが広めたのだろう。
匂いの無い琥珀色の酒は割と俺好みだった。
ちなみに俺は匂いのある物が苦手だ。
ジャスミン茶だったり、スモーキーな匂いのするウイスキーや燻製も。
それなりの度数の酒をチビチビ飲んでいると、赤ら顔のアキンが近づいてきた。
「ユージ殿、楽しんで頂けてますでしょうか?どうですこのお酒は?蒸留酒といって帝国でしか作られていないお酒なんですよ。」
この世界で地域限定の酒を取引できるというのは、かなりのやり手のような気がする。
「凄いな。初めて飲んだが酒精が強くて美味い酒だ。だけど高いんじゃないのか?いいのか皆に飲ませても。」
俺がそう言うとニヤッといやらしい笑みを浮かべたアキンがこう続けた。
「私がお会いした時にお話しした事は覚えてますか?自分の命を軽んじる商人は二流以下です。ここで水夫達にもお酒を出しておけば、10人に1人、いや20人に1人くらいでもいいですが、何かあった時に私を助けようって気になる者が現れるのを期待してるんですよ。それに次に同じように雇う時も経験者が集まりやすいですしね。」
確かに気前の悪い雇い主より気前のいい雇い主の方が水夫達にとってもいいだろうし、その気前のいい雇い主がピンチなら助けようとする者が現れるかもしれない。
「損して得とれ、か。」
「そうそう、それですよ、それ。それに今回はあの白鷺殿との顔つなぎまで出来ましたし得だらけですね。」
俺がつぶやくと、アキンは大げさに頷きながら、わけの分からない事を言った。
白鷺って鳥だよな。
消去法でいくとタカノスしかいないが、白鷺?
「白鷺って何だ?」
素直に聞いてみた。
「白鷺というのはタカノス殿の事ですよ。ギルド公認の二つ名です。普通はBランク以上の冒険者は指名依頼等を使えば、会いたいと思えば会えるのですが、タカノス殿は貴族からの指名依頼も断るため会うことが困難な冒険者の1人として有名なんです。」
よほど嬉しいのか聞いてもいない事までしゃべりだした。
会えないってリバイアサンの腹の中にいたせいじゃないよな。
しかし白鷺がわからん。
なんでそんな二つ名なんだ。
「あいつが白鷺っていうのが分からん。俺なら似非エルフとかエルフモドキとかにするぞ。」
「あ~それはですね・・・」
え!理由を知ってるのかよ。
アキンは飲んでいるタカノスを確認すると急に小声になって話はじめた。
「元々は詐欺死という二つ名だったんですよ。ただ、詐欺師と同じ発音で本人が嫌がり方々で暴れたため、エルフの特徴である色白から白鷺に変更されたんです。」
詐欺死なら俺でも嫌だ。
ただ、あいつの頭だと騙される事は出来ても、騙す事は出来ないだろ。
「なんで、詐欺死なんだ?自慢じゃないがあいつは相当な馬鹿だぞ。」
頭より腕力を使うのが得意なのは間違いない。
「ここだけの話ですが、タカノス殿はエルフの見た目に人食い鬼の力と知性と言われてまして・・・。」
だから詐欺師かよ。
「敵対した者には等しく死を与えるという事で詐欺死と言われていたんです。」
それをあの馬鹿が嫌がって暴れたのか。
「有名な話なのか?」
「商人ギルドや冒険者ギルドの古株なら誰でも知っている話です。」
有名ってことか。
「アキン殿かたじけない。ユージ楽しんでるか?」
そこに白黒のツートンカラーから赤黒にジョブチェンジした馬鹿がフラフラとやってきた。
手には小さくない酒瓶を掴み、蟹のように横に数歩あるいてから前に1歩あるくという離れ技まで披露している。
流石、人食い鬼の知性を持つ男。
「お前、飲みすぎだぞ。意地汚くガブ飲みするな。」
「そういうな、こいつは初めて飲んだがとんでもなく美味い酒だ。」
「有難う御座います。白鷺殿に認めてもらえたなら拍が付くというものです。」
アキンがここぞとよいしょする。
確かに馬鹿は煽てに弱い。
際限なく昇っていく。
しばらくすると甲板では酔っぱらった水夫達が寝始め、タカノスも大の字になって寝始めた。
アキンはも寝ると言って船内に入っていったので、俺も30畳の部屋に戻ったのだが、もう少し飲みたくなり寝酒を購入する事にした。
買った酒はグレンリベットナデューラという酒で俺の最も好きな酒の一つだ。
これにチェイサーでウイル〇ンソンの辛口のジンジャーエールとつまみに、ジャイアントコーン(粒の大きなコーンを揚げて塩をふったもの)を購入。
コップに適当にそそぎ、一口分だけ口に入れる。
クイッと飲み干し、ジャイアントコーンを数個放り込み、バリバリと音をたてて咀嚼する。
再度、一口飲み干し、つまみを食べる。
口の中がしょっぱくなってきたら口直しにジンジャーエールを一口。
無限にいけそうだが、一人飲みだと飲むスピードが早くなり徐々に酔いが回ってくる。
こうして勇二は敷きっぱなしの布団に寝転がると、あっさり意識を手放した。
お酒は好きですが、飲まないと禁断症状が出たりはしません。
あと、午前2時まで飲むのは嫌です。