12 商船
短いです。
今まで2~3話まとめて投稿していましたが、ストックが尽きてきました。
休みの日に書き溜めする予定ですので、しばらく短いのが続きます。
「ユージ、ゆっくり船の甲板に降りろ。驚かせないようにゆっくりだぞ。」
馬鹿が俺に指示を出すが、トイレの上に家がある。
まるで巨大な上向き矢印のようなこの姿を見てビビらない奴なんかいない。
案の定、近づいてくる俺達を見て甲板は蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
乗組員を出来るだけ驚かせないようにフヨフヨとゆっくり甲板に降りると、タカノスが窓から仁王立ちで叫ぶ。
「責任者は誰だ!」
一難去ってまた一難、ツートンカラーの姿も相まって新たな海賊が登場したような雰囲気だ。
ガヤガヤと騒ぐ水夫をかき分け恰幅のいい男が姿を現す。
「私がこの船を所有する商人のアキンと申します。先ほどは海賊から助けて頂き有難う御座います。」
「そうか、俺はタカノスAランクの冒険者だ。」
タカノスが自己紹介すると明らかに甲板の空気が弛緩した。
安堵のため息を漏らすもの、肩の力を抜き笑みを浮かべる者と色々だが、敵ではないと認識されたのだろう。
アキンと名乗った商人も笑顔だ。
それより、タカノスがAランク冒険者だと?
テンプレだと上位の冒険者になるんだが、馬鹿でもなれるのか。
Aランク賞金首の間違いじゃないのか。
俺がおかしな考えに没頭している間に話は進んでいた。
「おい!ユージ!顔を見せろ!」
何時の間にか、甲板にはリリちゃんとタカノスおり、馬鹿がトイレの壁をバンバン叩きながら偉そうにのたまった。
トイレを反転させ小窓から顔を見せる。
「うるせぇ!叩くんじゃねぇ!中に響くだろうが、この馬鹿!」
俺が顔を見せると水夫達の間からオオーッと驚きの声が上がる。
「こいつは悲惨な男で、この箱の中に閉じ込められているんだ。少し抜けているが悪い奴じゃない。この船を助けると言いだしたのもこいつだ。」
俺の抗議を無視して馬鹿が微妙な紹介をした。
「ユージ様、有難う御座います。おかげ様で助かりました。」
アキンが出っ張った腹に苦労しながら頭を下げる。
「いや、大事にならなくて良かったな。たいした事をしたわけじゃないから頭をあげてくれ。」
「いえ、お二人に助けて頂けなかったら我々は死んでいたでしょう。この御恩は必ず返します。」
商人ってもっと狡い奴等だと思ってたが中々律儀だな。
俺が不思議そうな顔をしていると察したのだろう聞いてきた。
「ユージ様、どうかいたしましたか?」
「いや、う~ん、商人ってのはもっとこう言質取られるような言葉を使わないと思ってたんだが・・・。」
「自分の命を軽んじる商人は二流以下で御座います。それにここでタカノス様とユージ様に繋がりが持てるなら、どれだけ払っても安いものです。」
「そうか~?あと様はやめてくれ。」
可愛い女の子や美人の女性からならともかく、おっさんに様付けされたくない。
「わかりました。それではユージ殿とお呼びさせて頂きます。」
「それで頼む。」
アキンはザルバに店を持つ商人だった。
ザルバでは1、2を争う大店だったが、業務拡張のため隣国のテンダー帝国の商人との大取引を行い、その帰りに海賊に襲われたそうだ。
お礼もしたいので是非このまま一緒にザルバに向かってほしいとアキンから提案された。
神速浮遊では後2日だが、船旅になると2週間かかる。
ただまぁ、急ぐ旅でもない俺達は承諾した、というかリリちゃんが船旅を強硬に押して来たせいだが・・・・。
設定で書き忘れていたのですが、日付、時間、長さ、重さについてです。
結論から言うと全て同じです。
何かの拍子に辻褄が合わなくなるよりはと思ってそうしています。
決して面倒だからではありません。