11 蹂躙
遅れました。
あくる日、小島を出発した俺達は海の上にいた。
タカノスが釣りをしたいと言いだしたので、釣り竿を与えると小島で捕まえておいた小虫をエサに釣りを始めた。
チラッと見るとゴキブリやゲジゲジのようなものをエサにしているのが見えた。
以前、はらわたを抜かずに焼いただけの魚を食べる姿を見ていた俺は、奴からの魚は決して受け取らないと心に誓った。
リリちゃんが部屋の隅で何かやっている。
まさかまた仮面を作っているのではと恐怖にかられ覗き見ると、チョコケーキを一人で頬張っているところだった。
昼食前だから隠れて食べていたのだろうが、チョコが泥棒髭のように付いているのですぐにバレるだろう。
余談だが呪いの仮面はリリちゃんの手により、呪いの仮面3を頂点に縦に3つ配置された。
薄暗がりの中で見たらどんな感じだろうと神の眼で見てみたら、どう言いつくろってもこの世の生き物には見えなかった。
よく言って魔界に潜む化物、普通の感性ならまさしく異次元より襲来した邪神だろう。
「ところで、これからどうする、ユージ?」
馬鹿侍が釣り糸を垂らしながら呑気に聞いてきた。
「ザルバに向かう予定だが、行きたいところがあるのか?」
「お前の姿は少し、・・・いや、かなり変だからな。そのまま向かったら迎撃対象だろ。」
「じゃあ、どうすりゃいいんだ?」
「一度、街から離れた場所に上陸して、俺とリリでギルドに顔出して説明してきてやる。そこから、上に報告してもらえば、まぁ大丈夫だろう。」
随分穏やかな事言ってるな。
まるでタカノスじゃないみたいだ。
「おかしいな。普段のお前なら邪魔する者は殺せ!とか言いそうなのに・・・・まるで考えて行動してるみたいだ。何か悪い物でも食ったか?」
「ぬかせ!エルフは元々理知的な種族だ。お前は俺を何だと思ってるんだ?」
「エルフに似た何か?」
「馬鹿が!俺は正真正銘エルフだ!で、どうする?」
馬鹿に馬鹿と言われると何か来るものがある。
しかし、この馬鹿の言ってる事も正論だ。
「そうだな、ザルバから1日くらい離れた場所に上陸するか。」
「そうしろ。俺とリリで説明してくる。ちゃんと隠れていろよ。お前の見た目は化物だからな。」
言い難い事をズバズバ言いやがる。
「じゃあ、進路を少しずらす事にするぞ。」
「ああ、そうしろ、出来れば北寄りにしろ。南の方は冒険者の狩場が多いし、人の通りも多い。」
ここは反論する理由が無いので、タカノスに従い素直に進路を北寄りにずらした。
ただ、なんかイライラする。
陸まで後2日というところで事件が起きた。
「マスター、海賊船と思われる船が他の船を襲っています。」
昼寝を決め込んでいた俺は飛び起き神の眼を発動し、現場へ接近させる。
そこでは大きな帆を付けた大型船と、それより一回り小さい帆船との追いかけっこが行われていた。
とはいえゲームみたいにスピーディーな動きはなく、風と波の読みあいによる追いかけっこだ。
スピードには差が無いようだが、小回りが利く分追いかけっこは小型船の方が優勢みたいだ。
お互い弓矢の応酬をしてるが、小型船は射られるとすぐに逃げ、また張り付くように並走し弓を返している。
大型船の方では怪我をした船乗り達であふれているが、小型船の方は然程でもない。
戦闘技術も小型船の方が上だ。
このままだとそう時間もかからず大型船はのり込まれて負けてしまうだろう。
このままじゃ、不味いな。
「タカノス、海賊船が船を襲ってる!助けるぞ!戦闘準備だ!」
ダラダラと横になっていたタカノスが跳ね起き、獰猛な笑みを見せる。
こいつやっぱりエルフじゃねぇ。
「あれか、ユージ?」
窓の前で仁王立ちになり弓を構えると心底嬉しそうな顔をする。
海賊船までの距離がだいたい150~200メートル。
遠すぎるな。
「そうだ!小さい方が海賊だ!今から接近する!」
「無用だ!」
そう叫ぶと同時に弓から矢が放たれる。
神の眼で確認すると小汚い大男の体に命中し、その一撃で打倒している。
そういやこいつ、200メートルくらい先から攻撃してきたな。
俺も負けずに神の腕を伸ばしマストをへし折る。
その間にタカノスは弓を三連射。
全部頭を射抜いてる。
「タカノス、しばらく任せて大丈夫か?」
「ああ、任せろ!」
タカノスの威勢いい言葉を聞いて神の眼で船内を捜索する。
沈めてから中に捕まってた人がいましただと寝ざめが悪いからな。
船内を丹念に捜索したが、大量の干し肉と水や酒しかない。
「よし、沈めるぞ!」
そう叫ぶと同時に船べりを掴み力任せに引き裂いた。
船内に大量の海水が侵入した海賊船はあっという間に沈んでしまった。
生き残りが木切れ等につかまって浮いてはいるが、もうどうしようもない。
大型船の方からは歓声が上がっている。
二日酔いで死にそうです。