9 カレー?ググレカス!
話が全然進まない・・・・。
どうせ急ぐ理由も無いので無人島の小島にしばらくいる事になった。
何故なら、タカノスとリリちゃんが狭い小屋での生活にストレスを感じていたためだ。
となれば、2日目のごはんは定番のカレーにしたい。
朝食後、俺が昼夜兼業で食える飯を作る旨伝えると、馬鹿は素直に喜びふんどし一丁で飛び出していった。
自作の槍みたいなものを持っていたので魚でも突く気なのだろう。
リリちゃんは島を探検すると言っていた。
いざとなったら肉壁が転送されるし、こちらも大丈夫だろう。
忘れたい話だが、呪いの面はリリちゃんによって2つともトイレ正面のドアに取り付けられた。
おかげで見た目が双頭の邪神になってしまったが、リリちゃんが喜んでいるのでもう開き直るしかない。
・・・雨風にあたりなるべく早く劣化させるしかない。
俺は豚肉の薄切りを使い野菜を大きめに切った甘口のカレーが好きなので、スーパーで材料を購入。
今回はリリちゃんもいるので普段入れないコーンの缶詰も併せて買いこみ材料をぶち込んで煮始めた。
大量の米を炊き、カレーの方も3人分の量が分からなかったが足りないよりはいいと寸胴鍋で大量に作った。
キッチンで作っていたのだが匂いが充満してきたため、バーベキューの時に作った外のかまどに移動させた。
それほど広くない小島だ。
すぐにカレーの匂いはひろまり、それに引かれるようにタカノスとリリちゃんが戻ってきた。
2人ともピクリとも動かず寸胴鍋を凝視している。
「・・・腹減ってるみたいだし、ちょっと早目だけど・・・食うか?」
神速でヘッドバンキングのように振られる頭が2つ。
皿にご飯を盛り、大目にカレーをかけ、福神漬けをトッピングし、スプーンと一緒に渡してやる。
すぐ食い始めるかと思ったが2人とも皿を凝視している。
「う○こみたいだな。」
タカノスの爆弾発言。
カレーを初めて見た子供が言うであろう言葉No,1をこの馬鹿が吐いた。
トイレでカレーを食う身になれや!
「いいから食え!これはカレーと言って一応、薬膳料理の一種だぞ。かなり美味いぞ。」
俺の言葉に神の眼とカレーを交互に見るタカノス。
「嘘だったら殺す!」
この脳筋馬鹿エルフは最近、殺すとしか言わない。
脳障害でも起きて言語中枢が破壊されているのだろうか。
スプーンにすくったカレーをゆっくりと口元に近づけるタカノスとそれを凝視するリリちゃん。
分かってる、毒見役だね。
目をつぶり、口の中に入れた次の瞬間、猛烈な勢いで食べ始めた。
それを見てリリちゃんも食べ始める。
かなり大盛で盛ったのだが、タカノスは5杯、リリちゃんは2杯カレーを食べた。
今は2人とも横になり苦しそうにしている。
「そういや2人とも成果はどうだったんだ?」
「俺はかなりの成果だ。収納の腕輪に入れて夕食の時にでも出してやろう。」
タカノスが偉そうにのたまった。
「リリねー、探検してたの。」
うん、それは知ってる。
「そしたら、凄いの見つけちゃった!」
「じゃあ、少し休んだらリリの見つけたものでも見にいくか?」
タカノスがどうでもいいような雰囲気で欠伸をしている。
「それでは、リリ隊長、案内宜しくお願いします。」
「はい!ユージ隊員ははぐれないようにわたしに付いて来てください。」
「・・・・・・・・・・・・。」
本格的に寝入ったタカノスを蹴り起こし、3人でリリちゃんが発見した凄いものを見にいく事になった。
この島は直径1キロメートルもなく木もまばらに生えているだけだ。
島の中心部に向かってなだらかに隆起してはいるが、草花もリリちゃんの膝くらいまでしかないため見通しもよい。
海岸近くのバーベキュー跡地から、リリちゃんの足で5分ほど直進したところにそれはあった。
地面が少しくぼんでおり、そこに真黒い球が置かれていたのだ。
自然石にしては球体すぎて、明らかに人の手が加わっている。
「なんだこれは?」
神の腕で手に黒い球をつつく。
「お前が知らなきゃ俺が知るわけないだろ!」
「ないだろー!」
リリちゃんに馬鹿が悪い影響を与えているようだ。
力がほしいか?
「今なにか言ったか?」
3人でキョロキョロとあたりを見回す。
力が欲しいか?・・・ならば捧げよ!
今度はハッキリ聞こえた。
「この石がしゃべってんのか?」
「分からん。捧げろとか言ってるな。何がほしいんだ?」
タカノスと2人で首をかしげる。
正直、気味が悪いしどうでもいい。
「埋めるか?」
「そうだな。気色悪い球だし埋めちまおう。」
「じゃあ、俺は海底から大岩探してくるから、タカノスは出来るだけ深く穴を掘っておいてくれ。
「分かった。」
阿吽の呼吸で作業を開始する。
「だめー!これはリリが見つけたの!うめちゃだめなんだから。」
リリちゃん乱心。
褒められると思ったら埋められるでは納得がいかないらしい。
ちいさいほっぺをプクッとふくらませてお怒りモードだ。
「わかった。わかった。わかったよ、リリちゃん。」
俺は即座に全面降伏。
俺の見事な手のひら返しにタカノスは馬鹿みたいな顔をしていた。
「だが、どうするんだこれ?」
タカノスの疑問ももっともだ。
「なにか寄こせって言ってんだから何かやればいいんじゃね?」
「お供え物?食い物か?」
「それだ!」
俺はリリちゃんと一緒に後ろにさがるとアイテムボックスから寸胴鍋を取り出しタカノスに渡した。
カレーはまだ大量にあるし、アイテムボックス内は時間が停止してるから熱々だ。
タカノスは複雑な表情で俺とリリちゃんを眺め、カレーをお玉でひとすくいし、黒い球にたっぷりかけた。
「あっちぃ!あつうう!はぁー!あつ!あつ!」
突如、毛むくじゃらの小男が現れ、草むらをころげ回り、辺り一面にカレーのいい香りが漂う。
「自分!何してくれてんの?」
鬼の形相でタカノスにくってかかる小さなおっさん。
なんだあれ、タカノスの膝くらいまでしかないし、目の錯覚じゃ無ければ手が4本ある。
「腹が減ってたんだろ?」
「いや、お腹はすいてるけど、それはちゃうやろ?」
タカノスと小さなおっさんの会話はかみ合っていない。
お互いギャーギャー喚いてる。
「やかましい!殺すぞ!貴様!」
まずい、脳筋エルフがキレた。
「ちょっと2人とも冷静になれ。」
なんで俺がこんなところで喧嘩の仲裁をしなきゃならんのだ。
「しかし、ユージ、こいつが・・・。」
更に喚こうとするタカノスの横で小さなおっさんは土下座して頭を下げた。
「こ、これは邪神様・・・こ、このような場所で、お目通り叶うとは、このググレカス光栄の極みで御座います。」
ガタガタ震えながらカミカミで話すおっさん改めググレカス。
知らない人が見るとやはり邪神なのか・・・。
「お前は何者なんだ?何故この島にいる?さっきの黒い球がお前なのか?」
弱気な相手には強気になれる。
それが勇二クオリティー。
質の悪さは天下一だ。
「ハハッ!私は魔族のググレカスと申します。クラスは悪魔将です。200年ほど前に魔道具に封印されてしまいまして、魔道具ごとこの島に幽閉されてしまいました。黒い球は私を封じていた魔道具だと思いますが、あの熱いドロドロしたものをかけられた瞬間、封印が解けました。」
なんだろうな、不穏な単語が聞こえたぞ。
それより、この世界の封印ってカレーで解けるのか?
「ググレカス、しばしそこで待て。」
俺は2人を集めると相談を開始した。
「どうする、あれ?」
「名前は知らんが悪魔将と言ってたな。結構な大物だぞ。殺すか?」
「だめー!リリがみつけたの!」
「リリ・・・・悪魔将は魔族の中でも好戦的で危険な奴等なんだぞ。」
「まだ小さいから大丈夫だよ。リリがちゃんと世話するから。」
犬猫レベルの扱いだ。
しかし、悪魔将ってなんだよ。
教えて、ヘルスケ先生。
『マスター・・・最近私の扱いが酷い気がします。』
気のせいだ、情報はよ!
『まず、悪魔将を説明するにあたり、魔族のクラスについて悦明させて頂きます。魔族のクラスとは端的に言うと成長する職業だと思って下さい。成長するに従い、下級魔族、中級魔族、上級魔族、悪魔将、悪魔王、準魔王、魔王とクラスが変化し、ステータスが劇的に上がっていきます。』
じゃあ、たいして強くないんだな。
クラスも丁度、真中くらいだし、小さいし・・・手は4本あるけど。
『そんなことはありません。悪魔将以上の魔族は魔族全体の3%以下ですよ。一国の軍隊でも1人で壊滅させることが可能です。倒せるのは英雄や勇者と呼ばれる者たちのみです。』
じゃあ、俺だと倒せるわけだ。
『マスターは既に色々おかしい事になっているので、その気になれば指先一つで倒せます。』
俺のスキルが俺に対して厳しい件。
しかし、倒すにしてもリリちゃんが反対しそうだな。
チョコで釣るか。
『マスター、契約して使役したら如何でしょうか。召喚獣にして使役すれば危険は無いかと思います。』
よし、採用!
タカノスはリリちゃんを説得できないでいた。
自分より賢い者を説得できるはずないのだから、これは当然の結果だ。
「きらい!おとーさんなんか大っ嫌い!」
興奮したリリちゃんに伝家の宝刀を抜かれ膝から崩れ落ちるタカノス。
四つん這いでプルプル震えており、ノックアウト寸前だ。
「待ってリリちゃん。俺にいい手がある。」
「じゃあ、俺がリリちゃんと契約してくれるように交渉するからね。ただ、駄目だった時は俺とタカノスの言う事に従うこと!わかった、リリちゃん?」
「うん!わかった。ありがとうユージ!」
満面の笑顔でうなずくリリちゃん。
失敗するとは全然思っていないよね。
「おい、大丈夫なのかユージ?」
タカノスが小声で聞いてくる。
「知らん。駄目だった場合は俺がかたをつける。お前はリリちゃんをつれて海岸の方に行け。」
「すまんな。お前の犠牲は無駄にしない。」
死ぬこと前提のような礼を言われても有難味が無い。
「待たせて悪かったな、ググレカス。」
「ハハッ!私ごときにそのような寛大なお心遣い。感謝いたします、邪神様。」
「よし、立つのだググレカス。」
ググレカスが立ち上がる。
よし!やれ!
俺の合図でヘルスケが神の腕でググレカスを拘束した。
神の腕に捕まれ簀巻きのようになるググレカス。
「ググレカス。お前に2つ告げる事がある。」
「ハハッ!私めが何か邪神様のお気に障る事をしたのでしょうか。」
この後に及んでもググレカスは従順だ。
しかも小さいから罪悪感が半端ない。
「んっん!まずは一つ目は・・・・・・・俺は邪神では無い。」
「お戯れを。いくら瘴気を隠そうとしても、邪神様の瘴気は隠しきれるものではありません。2つのご尊顔から溢れ出る瘴気は魔王様より圧倒的上!もしかして、この私めをお試しなのでしょうか?」
マジかよ!!なんだそれ。
『確認しました。神話級アーティファクトと判明。効果は不壊、各種精神汚染、威圧、それと確認できないスキルが有ります。』
最上級の呪いの仮面じゃねーか!
『現在アース上でこれ以上の呪いのアーティファクトは確認されておりません。』
そんな情報はいらん。
「でー!2つ目は・・・・・・・お前に選んでもらいたい事がある。」
「私にですか?ですが、邪神様がご命令下されば、わ「黙れ!」・・・はい!」
「選択肢は2つだ。リリちゃんと契約して彼女の召喚獣として生きるか・・・ここであっさり死ぬかだ。どっちがいい?」
「それは、死ぬより生きる方がいいいとぞ「いやー!流石ググレカス君!分かってくれたか!見どころあるよ君は!俺は信じていた!君はやれば出来る子だってね!」ハハッ!邪神様の御心のままに!」
だから邪神じゃねーって、一度言ってるから騙しては無いよな。
『騙して無いです。』
「ですが、邪神様。恥ずかしながら私は召喚等の知識がありません。どのようにしたら良いのか・・・。」
「あぁ、それは大丈夫だ。契約に使う魔石も用意してあるし術式も施してある。お前はこの魔石に触れて召喚獣になる旨を了承するだけでいい。」
俺は中級龍の魔石を使用しサクッと作り上げた召喚石をアイテムボックスから取り出し、ググレカスの手に押し付けた。
数秒の間をおいてググレカスが光りの粒子に変換され魔石に吸い込まれる。
エメラルドグリーン色だった魔石が赤黒く変わり成功した事が分かる。
後は、リリちゃんと契約させれば肉壁2号の出来上がりだ。
俺は全て正直に話し、了承を貰っている。
ゆえに俺は悪く無い。
「よし!戻るか。」
「マスター、お見事です。完璧な交渉です。」
次は12時投稿予定です。