変わるもの、変わらないでほしいもの
久しぶりに教授登場です!
メールの返信は翌朝、すぐに来た。彼は、私と優輔のやり取りについて興味深そうに、さまざま質問をしてきた。特に見合い相手の橘さんの登場に、驚いていた。教授ならそんなことは、お見通しだと思っていたので、意外でもあった。彼から、詳しい話が聞きたいと言われたときは、有難いと感じていた。
自分なりに成長出来ていると信じてきたが、若く美しい彼女の登場は心をもやもやとさせている。ストレスを抱えているともいえる。ヒギンズ教授とはメールのやり取りでは終わらず、じかに電話で話すことになった。
「真由美さん、動揺していますか?」
「ええ、彼女には威勢よく、誰と付き合うかは優輔が決めることだと言い切ったのに情けないです」
「今まで、貴女の努力に対して物事もスムーズに運んできました。だから幸せを実感したり、ご自分に自信を付けることが出来たと言えます」
確かに教授の言うことは当たっていた。仕事も対人関係も大きな起伏なく、穏やかな日々の中で小さな幸せや人の優しさを実感していた。だから私は、弱く卑屈だった自身が一人前になったのではないかと錯覚していたのだ。
「そう……。優しい同僚、自分を想ってくれている男性がいて、知らないうちに安心していたのかもしれないですね」
「残念ですが人生はとどまっていてくれない、無常です。でも僕は、今日貴女と話してほっとしたんですよ」
「どこにほっとする要素が」
ツッコミと疑問を挟みながらも、教授の優しい声音に私こそが安心させられる。
「出会った頃なら、真由美さんは極端に落ち込んでいたでしょう。自分の事をしっかり分析できる力がついたなと思って」
出会った頃か、色々残念な自分を思い出した。感傷に浸っていても仕方ないが、教授に褒められると相変わらず嬉しい。出会った日から変わらないこともあるのだ。
「よかったら、週末に喫茶『ワルツ』でコーヒーでも飲みながら直接お話しませんか?」
教授と会って話すのも久しぶりだな。一人で悩んで煮詰まっていても仕方ないし、誘いに甘えることにした。
「教授の顔を見るのも久しぶりですね。ばたばたしていて、連絡も間隔が開いてしまいました。いつも見守ってくれているのに、自分の生活に必死になって日々を振り返る余裕を持てませんでした」
スマフォを耳にあてながら、頭を下げる。
「いいえ、気になさらず。貴女が自分で幸せになる力を持つ手助けをするのが、僕の使命です。ご自身の生活が充実していることは、好ましいことです。かわいい生徒が巣立つ日が近づくことに淋しさもあります。でも、嬉しい気持ちが強いです」
教授の真摯な思いが胸に伝わってきた。それは私の心を温め、慰めた。それに彼に会って聞きたいこともある。
「では教授、日曜日『ワルツ』の前でよろしいでしょうか?」
「ええ、貴女に会うことを楽しみにしていますよ」
穏やかな信頼関係が今も流れていることに感謝しながら、『人生は無常』という言葉が、強く頭に残っていた。
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