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大切な人々Ⅰ

字数up。長くなりそうですが、少しでも更新出来たらと思っております。

 丁寧に身支度をして自宅を出発する。昨日ヒギンズ教授に予言めいたことを言われたのが気になる。会社へ向かうことに集中して、早足で駅に向かう。電車の中で、文庫本を取り出してぎゅうぎゅう押しつぶされながら本の世界に没入する。最近読んでいるのは、長編のファンタジーだ。恋愛の要素もありいつも胸をときめかせて、味気ない通勤時間を越えていく。時折電車の窓に映る自分の顔は以前より生き生きしている。

 さぁ、また月曜日の始まりだ。仕事を頑張ろう。

 今日は新人さんの出社が遅くなっているようだ。そこで、私はお茶汲みを久しぶりにした。同僚たちは驚きながらも、

「やっぱり、矢野さんが淹れるお茶はおいしいね」

 と言ってくれた。

「年季が違いますから」

「矢野君がいてくれるから我々は安心して仕事に向かうことが出来るんだよ」

 滅多に人を褒めない課長に思いもよらず礼を言われる。

「そんなことないですよ。私はただ事務仕事を淡々とするだけで……。花形の営業でもありませんし」

「自分ではわからないかもしれない。君の事務処理能力は高いし、なにより優しくて芯が強い。お陰で女性の離職者が出なくなった」

 驚いた。私自身は意識もしていなかったので戸惑う。

「前の局が君臨していたときはそれは酷かった。矢野君の代になって女性社員がのびのびしている」

「それは、暗に私がお局だと言ってますね」

 と私はポーズを作る。そこに、織部君が現れる。場が明るく華やかになる。

「矢野さんをからかわないで下さい。彼女はとても謙虚な人だから局だと真に受けますよ」

 局なのは事実だから気にしないけど、彼の優しさがこそばゆかった。

「私は矢野君を褒めているんだけどね」

 課長は不機嫌になることもなく淡々としていた。私は何にしても嬉しかったので、深々とお辞儀をした。岡本さんも出勤して来て、明るく挨拶してくれる。

 私は、職場での人間関係に愛着を持ち始めていた。

 以前はきっとお互いに思っていても伝えられないことが同僚や上司の間であったはずだった。最近は壁が随分薄くなった気がする。それは、織部君や岡本さんが心を砕いてくれ、私自身が気を許せたのが理由だろう。私は明るい方でもないし、気さくでもない。マイナス思考だし、くよくよしがちだ。魅力的なところがあるなんて少し前は思いもしなかった。

 

 織部君が見透かすように、私に向かって言う。

「矢野さん、要するにみんな貴女が会社にいてくれて良かったって言いたかったんだんですよ。俺も会えて良かったと心から感じています。矢野さんがいない職場なんて味気ないものだろうと思います」

「織部先輩は相変わらずですね。押すばかりが恋愛の戦法ではないんです。時には引くことも大切なんですよ」

 と岡本さんが上から目線で、自信に満ちたエース社員を諭す。二人の掛け合いに思わずお腹を抱えて笑ってしまった。

 

 *****

 

 帰社の時間になって、ロッカーから鞄を出すと唯からもらった優輔の連絡先がひらりと落ちた。私はどんなことが待っているか不安に感じながらも、様子を伺うメールを優輔に送信した。

 自分から連絡を取ることにためらいはあったが、オケの同窓会での別れ際の切羽詰まった表情が忘れられなかった。

 

読んで下さりありがとうございます!

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