夢にまで見た日
難産!
同窓会は盛り上がって、喧騒が心地良い。久しぶりに怠くない酔いが身体を包んでいる。
懐かしい人々と話し、充電出来た。また頑張れそうだと思っているところへ、唯が話しかけてきた。
「真由美、この後どうする? 久しぶりに二人で飲んじゃう」
明日、明後日は休みだし、今夜はとことん飲むことにした。
幹事さんが、解散の案内をしている。ぞろぞろと『ポーラスター』を出る一団。大多数の人々はそれぞれの二次会に繰り出すようだった。
心がうきうきしている。久しぶりに会う親友に話したいことがいっぱいある。私の家で宅飲みすることになった。終電が近かったのでタクシーを待つことにした。待っている間に柔らかい声に呼びかけられる。それは大好きだった優輔の声だった。一回目は聞えないふりをする。
「真由美さん、もう少しでいいから話したいんです」
大きな声ではっきり言うと、彼は私たちの前に回り込んできた。唯と顔を見合わせた。彼が余りにも必死な様子だったからだ。
「お願いします!」
彼は深々と頭を下げた。二回目は無視することが出来なかった。
一度は好きになった人、そして会えない日々にどれだけ焦がれたことか。再会するときを夢見ていた。
「ごめん、今日は唯と二人で宅飲みするから」
気が付くと申し出を断っていた。
「そうか……。急に無理を言って申し訳ない」
「せっかく久しぶりに話しかけてくれたのに、時間が無くてごめんね」
そう言った私に、
「また、会うことは出来ますか?」
意外な質問が返ってくる。
「縁があったらね」
強がって答えた。『また会えるよ』って本当は言いたい。だが、私は自分の心が見えなかった。
だから、安易な返事はしたくなかった。振り返らずに、タクシーに乗り込む。
「真由美いいの? 優輔は真剣な話があったみたいだよ」
「彼は今でも大切だよ」
「だったらどうして? 私がいたから、遠慮したんだったらあなたらしくないよ」
「違うよ。大切だから、中途半端な気持ちで向き合いたくなかったの」
私の言葉に彼女は黙った。
自宅近くのコンビニで降りて、比較的安い赤ワインと、つまみを買って深夜の暗い道を二人で歩く。
さっきまでの騒がしさが嘘のように静かな夜が広がっていた。
唯はしばらく黙っていたけど我慢が出来なくなったようで、
「じれったいな。迷うことは悪いことじゃないよ。お話くらい喫茶店で聞いてあげなよ。それにしても、あなたらしい不器用さだな」
「そんなに不器用かな」
ポツリこぼすと、
「長所でもあるけどね」
やがてアパートに到着すると唯も私もドレスを脱いでハンガーに掛ける。呼吸が楽になった。やはり多少無理をしていたのだろう。
ふと、ヒギンズ教授との楽しい時間を思い出す。猫背を直す日々が懐かしい。私に人間らしい感情を取り戻してくれたのは紛れもなく教授だ。
「何を考えているの?」
唯が心配して声をかけてきた。しばらくぼーっとしていたらしい。泣きそうになりながら気を取り直して、二人で乾杯する。私たちの夜はこれからだ。
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