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泣いたシンデレラ

 ヒギンズ教授と会社に通う駅までの道を一緒に歩むのが、楽しい習慣になりはじめたある日のウィークデイ。

「もう、しっかり一人でもハイヒールで歩けるようですね。姿勢も各段に良くなりました。真由美さん、頑張りましたね」

 と告げられる。彼の顔を見ると少し眩しそうに目を細めて私を眺めている。動揺して、

「えっ」

 と呟いていた。教授は、

「真由美さん、出会ってまだ三ヶ月も経っていないのに猫背を克服するなんて流石です。人が習慣を一つでも変えるのは大変で苦難を伴う。特に明確な報酬もないのに、貴女は目標を達成する努力を怠らなかった」

 と、とても褒めてくれている。もちろん嬉しかった。でもその後、教授は認めてくれたからこそ、私にとっては悲しい提案を一つした。

「もう、一人で通勤出来る。おめでとうございます、小さな階段を昇りましたね。でも大きなステップです。最初の階段を昇れない人は多いのです。自分に負けて惰性で日常を送ってしまう、そんな弱さを誰しも持っています」

 

 私は突き放されたような寂しい気持ちになり、

「そんな、教授が側で励ましてくれたから私は頑張れたんです。ヒギンズ教授に会う前、私は幸せになることを諦めていました。自分に自信が持てなくて変化を嫌うところさえありました」

 とすがるように教授に気持ちを伝えた。

「真由美さん、僕は貴女が元々持っていた力を伸ばしたに過ぎません。僕たちは成長を助けることができても、変化を受け入れるのはあくまでも依頼者本人なのです」

 

 教授に褒められたのは嬉しいし、猫背を直せたのも素敵なことだ。でも、情けないことに私は単純に毎日教授に会えなくなることが嫌だった。自分の中にこんな子供のような感情が、まだあったなんて驚きだった。

「毎朝ヒギンズ教授と歩けるのがとても好きだったんです。その時間が無くなってしまうのが嫌なんです。ごめんなさい、わがままを言って……。教授にとっては仕事なのに」

 私は泣きそうな声でやっと本音を伝えた。ヒギンズ教授は苦しげに顔を歪めると、

「錯覚ですよ。貴女は苦しい時に側にいた私に、思慕の念を抱いたにすぎません」

 と言った。


「そんなことない」

 私は直ぐに強く否定した。

「貴女がいつか、幸せになるという目的に辿り着けばわかりますよ」

 ヒギンズ教授は、いつもの穏やかな口調で言ってそして煙草に火をつけた。

「さぁ、駅に着きました。毎日一緒に通勤することはなくなるかもしれませんが、真由美さんのサポートはしっかり続けさせて頂きます。こんなに努力家の人には久しく会っていませんから」

「私はヒギンズ教授の生徒でしかないんですね。最初からそういう契約、当たり前ですね。だったらこれからも幸せになるために、素敵な人間になれるように頑張ります。未熟な私をこれからも支えてください」

 私は意固地になり、宣言するように言った。彼の顔も見れずに、小走りで電車の乗り場に泣きながら走った。








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