パルファム
難産!
また朝が来た。布団から起きだして冷水で顔を洗う。そして、レモン水を一杯飲む。好きな音楽をかけると、元気が出てくる。
朝、好きな曲をかけて身支度するのは久しぶりのことだ。片思いの歌も耳に心地良い。以前は切なくてやり切れなかったのに。不思議だなと思いながら、食事を摂る。化粧も馴染んできたようだ。私には甘い香りは似合わない。唯一持っているバーバリーのウィークエンドを左足首にふった。ささやかなおしゃれだ。
「アパートの前で待っています」
ヒギンズ教授からメールが届いた。メールを見ると顔が緩む。いかんいかん、背筋を伸ばして自宅を後にする。
「おはようございます」
私が声をかけると
「おはようございます、真由美さん。今日は香水をつけていらっしゃいますね。貴女らしい薫りですね」
早速ヒギンズ教授は僅かに付けた香水に気付いてしまった。恥ずかしくなり顔を紅潮させた私に、
「自分を飾ることに遠慮は必要ありません。特にTPOをわきまえたおしゃれは接する相手に好感を持たせ、場合によっては幸福感をもたらします」
「そういうものですか? おしゃれにも慣れてなくて、雑誌で読んだ知識がかろうじて残っているだけです」
私が髪を触りながら言うと、
「真由美さんは、趣味がいいです。ご自身にあった香りを選ぶことができるのは素敵なことです。もっと自信を持ちましょう」
励まされ、気合が入る。別れ際、ヒギンズ教授が、
「今日も織部さんが何か言ってくるかもしれません。男性は気になる女性の変化にはとても敏感なんです。何か困ったことがあったら、いつでもすぐ連絡してきて下さい」
と私に注意を促し、フォローを約束してくれた。しっかりと導いてくれる人がいる。それが心強く心地良かった。
はっとした。こんなに教授に頼っていては駄目だ。
あくまでも彼の仕事は『私が幸せになる為の手助け』。彼とは契約しただけで、いずれ契約が解ける日が来るのだ。わかっていたはずのことなのに心がもやもやと水面のように揺れる。
それでもヒギンズ教授の期待に応えたい。その気持ちは本心だった。
「お疲れさま、岡本さん」
終業時間がきて、挨拶をして今日は何事も無く終わりそうだと思っていたところ、
「矢野さん、ちょっとお時間をいただけますでしょうか?」
スーツをバッシっと着こなし不敵に微笑む織部が立っていた。ちょっとした頭痛を感じたが、弱気になってはいけないと私はなけなしの気力を奮い立たせた。岡本さんが心配そうに私をみていたので、大丈夫と目で合図した。
こうして異性と会話することも以前はほぼなくなっていたし、少なくとも織部は簡単に引いてくれるタイプの人間ではない。これもいい機会かもしれない。
お待たせしました。待ってて下さった方、ありがとうございます。そしてごめんなさい。マイペースで頑張ります。




