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キャロルと名乗った少女(挿絵あり)

美少女を助けるのは男の夢。

6/27挿絵追加しました。

「私はキャロル。レイスの里に所属する魔道士だ」


ペコリとキャロルと名乗った少女魔道士は頭を下げた。

まだ幼さを残した顔立ちだが薄い翠色の瞳と桜色をした可愛らしい唇は美少女の片鱗をはっきりと覗かせていた。

おそらく数年以内には誰もが振り返る程に美しい女性に成長する事を容易に想像できる。

しかし、今は内に秘めた強い意思の力をはっきりと感じさせる凛、とした眼差しが俺を射抜いていた。

よく見ると身につけている魔道士服は薄汚れ、所々破れており、鼻の頭や頬などにも汚れがついている。


おもむろにキャロルが俺の手を両の手でぎゅっと握ってくる。


「ギルド登録名『冒険部』……この協会でも名うてのギルドだと聞いている。その貴方達に依頼をしたい。

他ならぬ貴方達に」


(すが)る、というよりかはある種の圧力とでも感じられそうな程に強い意思。


「ちょっとぉ、あなたですか? その偽の依頼書を紛れ込ませたのは?

知ってるか知らないかは知らないですけど、正当なる手段以外でギルドシステムに介入することは<協定>違反っていうのはわかってますよね?」


ギルド受付嬢のビィニャが厳しい顔でキャロルを叱責する。


「それについては深く謝罪する。しかし正当な手段を用いていては手遅れになる可能性を(かんが)みて私はこの不当な手段をあえて行使した。

その(とが)はいかようにでも受けよう。

だが、全てはこの依頼が終了してからにして欲しい」


深々とビィニャに向かって頭を下げるキャロル。


「あのですねぇ、そういう話ではないんですよ。一つ例外を認めると次々にその例外を求める人達が発生します。

誰も彼もがそんな事をし始めたらどうなります?

私達が長い年月を経て(たまわ)った信頼が一瞬にして瓦解(がかい)してしまいます。

どうしてもっていうのなら改めて正当なる手段で申請してもらえますかキャロルさん」


そっけないというよりかは若干の悋気(りんき)を含んだ語気でビィニャが答える。

いつも一生懸命にギルド職員の仕事をこなしている彼女にとってキャロルがした行動は自らの行動規範に対する侮辱として受け取っているのだろう。

うさみみの受付嬢は一旦うつむいた後にこちらに微笑んできた。


「えっと、ちょっとした手違いがあったみたいです。んではっ、改めて依頼をご紹介いたしますねっ」


大吉とカウンターとの間にぐいっと割り込んでくるキャロル。

その顔には焦燥の色が浮かんでいた。


「非礼は詫びよう。この通りだ。(とが)もどうとでも受ける。なんならこの身を奉公に出しても良い。でもこの依頼、この依頼だけは受け取って欲しい」


なんとか大吉に落書き依頼書を渡そうとするキャロルだがビィニャにやや乱暴に横に押しのけられてしまう。


「あっ」


よろよろとバランスを崩して脇に追いやられるキャロル。


「いい加減にしてください。キャロルさん、でしたっけ? これ以上はいくら子供とはいえ警吏(けいり)に引き渡しますよ?」


先程よりも冷たい声音を浴びせるビィニャ。

キャロルが真っ青な顔で二、三歩後ずさる。

ようやく自分が如何(いか)に不当な横紙破りをしていたかを自覚したようだ。

オロオロと左右を忙しく見やり、手に持った依頼書を胸に抱く。

そして、偶然眼があった近くの席に座っている他の冒険者に駆け寄りその落書き依頼書を差し出す。


「もう贅沢は言わない。どこでもどんな人でもいい。誰でもいいからこの依頼を受けて欲しい。この依頼書を受け取って欲しい」


必死に店内を回り、色々な人に話しかけ、なんとか依頼書を受け取ってもらおうと机に頭を擦り付ける勢いで頭を下げる。

しかし、この支部トップのギルドに名指しで依頼しようと宣言した後で。その手段が不当だと晒された後で。

それが駄目だったから誰でもいいから受けて欲しいと言われて「はい、そうですか」と受け取ってくれる人間はいない。

彼女を見る眼は反感、(あざけ)り、否定。

いい気味だとにやにや笑いながら見ている人間すら存在する。

そらそうだ、正規のギルト手続きを経ていないギルド依頼書。それは言ってみれば詐欺そのものであると受け取られる。

依頼書は厳正なる冒険者ギルドの審査と万全なるバックアップ、それに各種保証や保障を取りまとめたものであると考えられるからだ。

報酬は正しく払われるか、嘘の依頼で誰かをおびき寄せる罠ではないか、そうとは知らずに各種<協定>や<協約>に背く犯罪等をやらされる事にならないか。

そういった諸々の危険を払拭する統合体として各地の冒険者ギルドは存在しているのだ。大勢のギルド職員のたゆまず努力によってそれは維持されている。

それが全くない、あまつさえ冒険者ギルドを騙そうとした得体の知れない魔道士の得体のしれない依頼。

誰が受けるというのか。


「おねがいします、おねがい。あの、どうか話だけでも……あの、このとおりです……」


どうにかして依頼書を受け取って貰おうとしてこの場にいる大勢の冒険者に駆け寄り頭を下げ続ける魔道士の少女。

涙混じりの声音が震え、頭をこすりつけているテーブルの上にぽたりぽたりと涙がこぼれ落ちる。


「いい加減にしろよ、そんな得体のしれねー依頼なんか受ける奴なんざここにはいねーんだよ」


その必死さ、しつこさにこの見世物を楽しんでいた空気が徐々に辟易(へきえき)を経て徐々に苛立ちに変わっていく。


「うっ」


誰かに足を掛けられて床に転ぶ小さな身体。

その手から落書きだらけの依頼書が滑り落ちる。


「あーん、なんだぁこれ? ガキの落書きよりひでーじゃねーか」


唇を歪め、馬鹿にしたような表情の痩身の男が床に落ちた落書き依頼書を拾い上げる。


「あ、ありがとうございます。引き受けてくれるのですね」


ぱあっと顔が明るくなるキャロル。

いそいそと依頼書を拾い上げた冒険者に駆け寄るキャロル。

その前で、ビリビリと破かれる依頼書。


「!?」


目を見開き、そのまま一歩二歩と足をすすめる魔道士の少女。

ぱらぱらと落書き依頼書だった紙片が床に散り落ちる。

膝を着き手を伸ばしてのろのろと紙片を集めるキャロルに嘲笑の声が降りかかる。


挿絵(By みてみん)


「うっ、うううぅう………」


それに耐えきれずにとうとうそのまま拾い集めた紙片を胸に抱えてうずくまってしまう。


「とっとと帰れよ、目障りなんだよ」


この場の空気にのぼせたような上気した顔色で痩身の冒険者が目の前でうずくまっているその小さな身体に近づき、足を大きく振りかぶる。

流石にやりすぎだ――止めようとした幾人かの人間が立ち上がり制止の声をあげるが男の足は止まらない。

次の瞬間に硬い麻袋を叩いた様な音が響き渡る―――

思わず眼を瞑り、そむける顔が幾つか見える。


「気に入らねぇな」


一瞬にして痩身の男の前に回り込みその蹴りを受け止めた上で軸足を素早く払う大吉。


「ぐふっッ!?」


足をすくわれ盛大に後頭部を打ち、白目を剥く痩身の冒険者。

仲間がやりすぎだ、とか言いながらその身体を自分の席に回収するのを横目に見ながら俺はぽん、とうつむいたままのキャロルの頭に手を置いた。

床に散らばっているびりびりに破かれた落書き依頼書、その残りを集める。

信じられないという表情。まんまるな瞳が俺を真っ直ぐにみつめる。

大吉がキャロルに手を差し出しながら笑いかける。


「そのクエスト……『冒険部』が受けるぜ」


瞬間――小さな体が胸の中に飛び込んでくる。

ばさっ、と二人で拾い集めた落書き依頼書が宙に舞う。


「うわぁぁああああん、ありが………ありが………うわぁあああんッッッ!!」


ずっと無理をしていたのだろう。キャロルと呼ばれた少女は堰を切ったようにわんわんと俺の胸の中で泣き続けていた。

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