冒険者ギルドで……(以下略)
テンプレと王道は好物。
「やれやれ、と俺は呟いた」
ビィニャが背後の壁に激突するのを素早く抱きとめながら大吉が呟く。
「それ、自分で言うのかよ 大吉ぃ」
夏美が笑いを含んだ声で大吉に声を掛ける。
「まーな、こういう時にはこういうセリフが出るのがいい男だろ?」
冗談交じりに大吉が破顔する。
「ぐぬぬ、我は認めんぞ。下僕が主人より目立つとはどういうことだ?」
「でもでも、この場合大吉ちゃんがあの子受け止めなかったら大変な事になってたよ?」
「そーだねぇ、でもその大変な事って現在進行形で続いていると思うな……」
頬に手を当てながら織姫が眉を軽くひそめる。
そう、織姫の言葉通りに厄介事は筋骨隆々の姿にて眼の前に存在していた。
大吉は半分気を失っているビィニャを織姫に引き渡しながら一歩踏み出す。
「確か、このガルド支部に所属している序列一位……グラウスだっけかな? ああ、今シーズンはランク外だっけ?」
大吉の言葉にグラウスと呼ばれた男の顔がどす黒く歪みぶるぶると震えだす。
「んで、仲間にも捨てられてたった一人で何しにきたんだよ?。もしかしてパーティ募集でもすんの?
やめとけって、いきなり女の子吹っ飛ばす奴の申請なんざ誰も受け入れねーって」
くすくすと周囲の酒席から笑い声が聞こえてくる。
咲耶が(もういいでしょ)みたいな目配せを送ってくる。
まー、ここまで来たら相手も引っ込みつかねーだろ。
それにこういう手合はどっちの力が上なのかはっきりわからせてやんねーと駄目な手合なんだよ。
もはや、言葉すら忘れたかのように震え続けるグラウスに締めの一撃を食らわせてやる。
「ま、この世界は実力主義だ。文句があるならその拳で……」
大吉の言葉の途中で野獣の様な雄叫びを上げながら大男が突進してくる。
体格差にしておよそ3:1。
だが、この場にいる者の誰もが大吉が吹っ飛ぶ様を予想していなかった。
<体幹増幅>
ドズンッッ!!!
まるで巨大な壁に激突したかのようにグラウスの突進が止まる。
それを受け止めているのは大吉の身体。
ぎしり、ぎしりと木の床が軋む。
体幹増幅によって全身が強化された大吉が一歩、二歩と大男を押し返しているのだ。
脂汗をだらだらと流し全身をゆでタコみたいに染めている大男に比例して大吉の方はまるで口笛でも吹きそうな程に涼しい顔をしている。
「グォォォオオオオオオッッッッッ!!!!!!! グガァァアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!」
まるで恐竜の様な大声を上げながら必死に身体を揺すり大吉を押し返そうと抵抗するグラウスだがとうとう入り口まで押し込まれてしまう。
「ほいっ、とな」
まるで、石ころでも投げるかのように軽々とグラウスを宙空に放り投げる大吉。
一瞬後――ばしゃあっ、と盛大な水音を噴き上げながらグラウスの巨体がギルド支部の前を流れる川に放り込まれた。
「最後まで武器を抜かなかったのは褒めてやるよ」
バシャバシャと藻掻き、ガボガボと何かわめきながら下流に流されているグラウスに大吉は最後の言葉を投げかけながらギルド支部の屋内に戻る。
途端に盛大に拍手と歓声、感嘆の言葉に囲まれる。
グラウスは俺たち『冒険部』にこのギルド支部の序列一位の座を奪われてからずっと恨みを抱いていたらしい。
元々乱暴者だったグラウスは今まで力と序列一位という肩書でこのギルド支部で好き放題やっていた所を、俺たちに抜かされた事でメンツを潰された。
大勢いた取り巻きも潮が引くように消え、もともと手下を使ってクエストをこなしていたグラウスの成績は急下降して終いには首になってしまった。
「ふーん、腕っ節だけはなかなかのもんだったから真面目にやれば序列一桁ぐらい余裕だと思うんだけどなぁ……とっ」
大吉の軽く上げた手にパチンと小気味良い音が響く。
「へへっ、いっちょ上がりって顔してんな」
夏美のハイタッチに応えながらギルドカウンターの前に戻る。
「大丈夫? 怪我はない? ヒールする?」
「おかえりー うん、大丈夫そうだね」
「……大丈夫そうだな。ふん、お前があんな雑魚如きに手傷を負わせられる筈無いのだからな………い、いやこれは別に大吉を心配してるわけじゃないぞ?
か、勘違いするなよ。絶対だからな?」
「はいはい、勘違いはしませんよって何故俺の靴を踏むのだ天よ?」
「ふふん、我は我のしたい事をしたい時にする。貴様如きに答える謂れは無いのだ」
………………
「やーめーろー……ぐーおーおー……わかった……わかったのだ……我を許せ……今すぐ許すのだ大吉よ」
天のこめかみを両のゲンコツで思う存分ぐりぐりした後で俺は改めてカウンターの上に目を向ける。
ビィニャと眼が合うとペコペコと頭を何度も下げ、助けてくれたお礼と厄介者を排除してくれた事に対する感謝の言葉を何度も口にする。
その後で改めてギルド依頼書をばさっとテーブルの上に広げる。
そしてその中から先程の落書きみたいなギルド依頼書を抜き出し背後のゴミ箱に捨てる。
「失礼しました、関係ない書類が紛れ込んでいたみたいです。では改めて―――-」
「関係無くなんかないっ。それは私の依頼だっ」
ゴミ箱に捨てられた落書き依頼書を拾い、胸に抱くように持つ人影が存在した。
黒きフードに頭の上から足先まですっぽりと身を包んだ姿。
一般に魔道士と呼び称される人種。
こちらに振り返った拍子にはらりとフードが落ち、その顔が顕になった。
「私の……私の村を救って欲しい」
銀糸の様な髪を揺らめかせている美少女が縋る様な瞳で俺を見つめていた。




