飛翔する真紅の龍 5
帝国中央部、バロック城。
帝国一の大きさと豪華さを誇るこの城は芸術的価値も高く、連日多くの観光客で賑わっている。
まさにこの街のランドマークだ。
そのバロック城の地下深く。
そこは薄暗く、この時代には似つかわしくない機械じみた物が幾つも置かれており、そのどれもが忙しなく動き続けている。
不意に入り口の鉄製の扉が開き、男が一人入ってくる。
男はメガネをかけており、左手に杖をついて歩いている。
特に足が弱いと言うわけでもなく、見た目は30前半と言った所だろう。
髪はボサボサで目元には大きなクマがあり、まるでアイシャドウのようだ。
男は隅のデスクに置いてあるマグカップに手を伸ばし、中に入っている水を飲み干す。
「……はぁ、全くみなさん扱いが荒いんだから。今週何て四日合わせて三時間しか寝てないって言うのに」
男はマグカップを元の場所へ戻し、愚痴をこぼしながら奥へと進む。
そして彼はある部屋へと足を運ぶ。
目の前には大きなガラスの筒状の水槽がありその中には白い騎士が、身体中をチューブに繋がれている。
「やぁ、おはよう。気分はどうかな? って言っても聞こえてないだろうけどね」
「私にはおはようは無いんですね」
独り言を言う彼に一人の女性が声をかける。
ブロンドの髪は短く、肌は褐色で、目は少しつり目、男とは正反対の印象を覚える。
「やぁデイジー。今日も綺麗だね」
「そう言うのはいいです」
「つれないねぇ。それより、何か報告があるんじゃないか?」
彼女は右手に持つ資料の何枚かめくり、その内一枚を手渡す。
「先日から聖剣ダイダロスの研究班から一切の連絡が途絶え、施設ごと崩れ落ちていました」
「ダイダロス…ジェロニモが担当していた聖剣だよね。それで聖剣の行方は?」
「捜索班が手を尽くしましたが、残念ながら担当のジェロニモと共に消息不明となっております」
「そうか…襲った奴らの特定は出来ているのか」
「目撃情報から、この二人の犯行だと思われます」
デイジーと言われた女性は、二枚の写真を男に見せる。
そこにはルビィとジュリエットの姿が映っていた。
「わかった、じゃあ見つかり次第コイツの試運転と行きますか」
男は水槽を撫でるように触れる。
「お言葉ですけど、奴らは未完成とは言え聖剣を倒しています。正直なところ、type_Bだけでは難しいのでは」
「大丈夫だよ。コイツは他の奴とは違い特別製だからね」
男は隣の水槽のレバーを下げる。
すると、中の水が引いていき、一本の剣が現れる。
根元から触手のような物が何本も生えており、何かを求めてうねっている。
「こいつの実験もしてみたかったんだ」
暗い室内に男の不気味な笑い声がこだまする。