動き出す歯車 1
とある大地の大きな湖。
その湖にそびえ立つ古城。
その最上階にある窓から二つの月を眺める男がいた。
その月達は、いつものように静まり返った夜の世界を照らし続ける。
男は月に手を伸ばし呟いた。
「おお、今夜の月は美しい。まるでこの世がこの一瞬のために存在するような…」
「なに気持ち悪いことを仰っているんですか?」
「うわっ、い、居たのかよ…」
「ええ、ずっと」
これから少なくとも3日はいじられるような、まるで思春期真っ盛りの痛々しいセリフを月に向かって言ったこの男。
名前をロイド。
ロイドはこの城の『王』でありこの世を統べらんとする『魔王』の1人でもある。
「あいつらには黙っててくれよな…」
「いいですよ」
「おっ、今日は以外と素直じゃないか」
「だってそっちの方が後で利用出来るじゃないですか」
(弱みを握られたッ)
彼女は名はカナン。
ロイドの側近である彼女はいつものようにロイドをいびり、その困った表情を眺めていた。
「冷たい美人は嫌われるって言うぜ?」
「大丈夫です。貴方にしか言いませんので」
「そりゃどうも。で、何か用か?」
「お夕食の支度が整いましたのでお呼びに来ました」
「わかった。今行くよ」
その時、訪問者を伝えるベルが鳴った。
「こんな時間に客か。珍しいな」
「どうなさいますか」
「アポ無しで来るとは失礼だな、面接では一発アウトだ。丁重に断っておけ」
「かしこまりました」
部屋を後にしようとした時、目の前に通信魔法の陣が現れる。
『あ〜魔王さま魔王さま?』
「おうどうしたコウガのおっさん。ちょうど今カナンを向かわせようと思った所だ。すまないが追い払っといてもらえるか」
『いや、ワシもそうしようと思ったんじゃが…』
『ダズゲデグダザイ…えぐっ…うぇっ』
微かであるがはっきりと嗚咽に紛れて助けを求む声が聞こえる。
「………入れてやれ」