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開幕のたびに

作者: 辛井 蛙

「マシェリミニエッセイ大賞」落選作品です。

 「二〇一四年 開幕特別販売のお知らせ」

 そう題するメールが職場のアドレスに届いた。私の勤務する会社のグループでは、プロ野球チームを保有していて、毎年、グループ社員対象に格安価格で開幕カードの入場券を販売している。毎年知人に斡旋して代わりに買ってやるのだが、申込み締切が二月の初めと早すぎるのが不評だった。

 この時期、毎年思い出す人がいる。十年以上も前、出会い系サイトで出会った女性だ。仕事のストレスで精神を病み、生活保護を受けているといった。彼女は私の通勤途中の駅近くのアパートに住んでいて、私は仕事帰りにビールやつまみを買い込んでは彼女の部屋に行った。出会いが出会いなので、セックスもした。彼女は例の野球チームのファンで、特別販売がある度に彼女を連れて球場に行った。ただ、出会い系で会った精神障害者という相手だけに、彼女との関係は誰にも言わなかった。

 ある年の二月、何日か彼女と連絡がつかなかったことがあった。精神病院に入退院を繰り返している彼女のことだ。また入院でもしてるんだろうと思っていると、彼女の兄と名乗る男から電話があった。彼女が亡くなったそうだ。病院から処方されている睡眠薬を大量に服用しての自殺だった。

 葬儀の日時、場所を聞いたが、私は出席しなかった。不思議なほど、悲しみはなかった。まるで彼女が初めから存在しなかったかのように、日常生活を送ることを私は選んだ。

 三月になり、開幕特別販売のチケットが発券された。その中に、私が彼女と見に行く予定だった三連戦のチケット各二枚、計六枚があった。不意に涙が溢れてきた。言いようのない寂しさやら後悔やらがわき上がるのを感じた。彼女の死以後、初めて私は泣いた。

 「二〇一四年 開幕特別販売のお知らせ」メールを、知人にBCCで一斉転送した。パソコンの画面は、今年も、涙でぼやけていた。


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