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予告無く消えそうなもの

楽したい

作者: 望遠鏡

弟×姉要素があるのでご注意下さい

最近、理想に近い男性を見つけた。

そもそも私の将来の夢はヒモだ。誰かのヒモになって楽したい。他は何も出来ないが、幸いなことに顔は悪くない。これを武器にどうにかこうにかよさそうな男を引っ掻けようとして二十五年。ようやく見つかった。

衣食住を提供してくれて、家事をやらなくてもいい男。因みに顔も頗る良い。まあ、それはぶっちゃけどうでもいい。重要なのは私に楽をさせてくれるか否だ。

その男は、名前をアルベルト=ローランドという。

お察しの通り外国人だ。というかそもそもこの男、人ですらない。所謂悪魔ってやつだ。人を堕落させて魂奪っちゃうアレだ。奴にとっては私の魂はかなり美味しそうに見えるらしい。やったね。堕落万歳。非常に良い取引だったと思う。普段は魔界に住んでいるけれど、ちゃんとこっちでも社会的地位があるらしく、家族も結婚には概ね賛成している。弟以外は。

弟。そう弟。こいつが厄介な奴で、重度のシスコンだ。夜這いを頻繁に仕掛けてくる。十歳も差があるっていうのに、何をこんなおばちゃん(十五歳から見た二十五歳なんてそんなものだ)に欲情しているのか甚だ疑問である。そんなことをする前に隣の席にいるピチピチの女子に迫った方が余程良いだろうに。そして私のことは放っておいてほしい。こっちはやっと見つけた男に逃げられたら困るんだよ。



夜這いは私に結婚の話が出てから前より頻繁になった。迷惑なことだ。それに、最近力も強くなってきて、そろそろ勝てなくなっているのを感じる。ちょっとヤバイかもしれない。何がって、結婚話が流れるかっていう話だ。


「お姉ちゃん、もう結婚するんだけど」

「知ってるよ」

「それまで貞操は守っていたいっていうか」

「どうして?」

「というか今他の奴と致したら浮気になっちゃうからね」

「そうだね」

「困っちゃうわけ」

「分かってる」

「じゃあやめない?」

「やめないよ」


ベッドで押し倒されて両腕捕まれてのこの会話は何だか緊張感が無いような気がする。なんというか、あまり危機感を感じないのだ。正直、あまり貞操に執着はしていない。でも、怠惰な生活にはそれなりの執着はある。浮気を理由に別れを切り出されるのはいやだ。あれ?でも欲しいのはあくまでも私の魂だからいいのだろうか?いや、浮気は駄目だと言われているし、やっぱり駄目だ。


「もしそのせいで破談になったらどうしてくれるの?分かってる?」

「そしたら姉さんのお世話は僕がやるよ」

「だったらいいや」


問題が解決した。これでどちらに転んでも大丈夫。弟は目をうっすらと細めて笑った。なんというか、含みのある笑みだ。まあ何でもいいけれど。


「おい!ちょっと待て早速浮気か!いくらなんでも早すぎるだろ!ってか例え浮気しても手放すつもりねぇから!ってか浮気なんてさせねぇから!」

「え、何でいるの?」

「契約交わしただろ?そうすると悪魔側はいつでも契約者を監視できるんだ」

「ストーカーみたい」

「そうされたくねぇなら信用できる奴になってくれ、頼むから…」


浮気しようとした直前、アルベルトさんが乱入してきた。悪魔って凄い。弟もあっけにとられたのか私の手を放した。


「まあとりあえず、人のもんに手ぇ出してんなよガキ」


アルベルトさんが吐き捨てるように言うと、弟からなんというかエロくて重い雰囲気が漂ってくる。実は私の先祖はサキュバスだ。といっても血はかなり薄まっていて、私なんかは人間だといっても相違ない。でも弟は覚醒遺伝したようでとても濃いサキュバスの能力を引き継いでいる。


「それはどっちの台詞ですか。言っておきますけれど僕は物心ついた時から姉さんのことを狙ってたんですよ。それを後からかっさらっていくなんて、本当に不愉快です」

「そんなに前からなんだ…」

「俺だって十年前から目をつけてたんだ」

「私達、出会ったの一年前なんだけど…」

「だから何ですか?もう僕達なんてお風呂も一緒に入った仲なんです。あなたの入る余地はありません」

「小さい頃の話じゃない…」

「俺なんて好きって言われてるし」

「楽な生活をさせてくれるあなたがね…」

「僕なんて姉さんのブラジャー持ってます。使用済みの」

「え」

「俺だってパンツ持ってる。勿論使用済みだ」

「ちょっと」


聞き捨てならないことを聞いた。いつの間に私のパンツとブラが盗られていたのか。だが声をかけてもヒートアップした二人は止まらない。言い争いをずっと続けている。

私はため息をついた。

楽させてくれるならどっちでもいいんだけどなぁ。




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