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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第四章 文化祭編
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進行する苦境

 湯村が自宅に着いたのは午前四時半頃であった。母親に気取られぬよう、速度コードを使って窓から部屋に入る。速度を上げることで重力加速度からの影響を減らすことができるので、最近夜に出かけるときは能力を使用して出入りしていた。部屋に入ってベットに横になったが、湯村の目はまだ冴えたままである。


「佐倉が制限時間、如月も使えない、氷上も倒れた。こっちのカードは俺とアメリアと美月……クソ。どう見ても旗色が悪いぜ」


 少しでも休みをとっておかねばならないと、湯村は目を閉じてみる。しかし、一向に睡魔は彼の元を訪れようとはしなかった。





 メーカー・ジャパン本部では、木津と林田、そして広岡を含むスタッフ達が早朝にもかかわらず全員集合し、作戦会議を行っていた。


「氷上所長が敵の手に落ちた!?」

「すみません、私のせいです」


 広岡は青い顔のまま皆に謝罪する。林田はすぐに軽く手を上げるとフォローをした。


「君だけの責任じゃない。私らも同罪じゃよ。広岡くんを待っていれば、おめおめと彼らをさらわれることも無かったわけじゃからな」

「ナノマシンには通信機能がついていた。僕らの動きは筒抜けだっただろう。あの偽のバン以外にもいくつも策は用意出来たはずさ。今は過去を振り返るより、これからどうするかを考えないとな」


 そう言うと、木津は悔しそうに唇を噛んだ。4m四方ほどの会議室は、誰も言葉を発するものがいなくなり、静まり返る。これまで彼らを引っ張ってきたのは氷上透という一人の天才であったことを彼らは痛感していた。林田は周囲を見回すと、一度咳払いをした後、スタッフを鼓舞するように強い口調で話し始める。


「いずれにせよ、だ。我々はできることをやるしかあるまい。木津先生はナノマシンの解析と通信回線のモニタリングを、他の者は街を怪しい車が走っていないか捜索、また有事に備えて交代で休みを取るように」


 皆は林田の言葉に頷くと、ぱらぱらと散開していった。会議室には林田、広岡、そして険しい顔をした木津が残される。


「木津先生も少しお休みになられたらいかがかな?」


 林田は眉間にしわを寄せたままの木津を気遣ってそう言ったが、彼は左右に首を振ると、逆に林田に向かって問い返した。


「いえ、林田教頭。休めないのはむしろ今なんですよ。遺伝子能力の制限時間に関してはご存知ですよね?」

「ああ、あまり詳しくはないが校長から聞いておる。能力の使用限界が来ると体の機能が眠りにつく現象のことじゃな」

「ええ、平均的な能力の使用で起こる睡眠は約6時間。敵は……仮にAAAトリプル・エーとするなら、その正確な時間は知らずとも、ある程度予測はできるでしょう。透が機能停止している間に勝負を仕掛けてくるはずです」


 林田は木津の言葉を聞いて細い目を更に細くし、顔を曇らせた。そして二人の嫌な予感を裏付けるかのようなサイレンが、本部に響く。


「どうした!?」

『報告します! ”外”から多数の熱源を感知しました。北からこちらに向かっています!』


 オペレーターのその声に対し、木津は表情を歪ませると、すぐさま問い直す。


「……なんてこった。このタイミング。聞くまでもないと思うが、所属はわかるか?」

『AAA、東北部隊です』


 放送の声が緊張しているのが伝わってきた。


「東北部隊じゃと!」

「ご存知なのですか?」


 急に声を上げた林田に、木津が問う。林田は強く頷いてみせた。


「東北はAAAの軍隊を集め、訓練する巨大基地がある。我々が追い払った関東と関西の残党も、東北に移動していった。つまり今向かっているのは」

「……高度に訓練を受けた主力部隊の可能性が高いってことか。透のいない時に!」

「だからこそ、じゃろ? じゃが、これで100%の確信が持てたわい。今回の敵が、やはりAAAだということがな。”赤目”の人間を作った奴らも、校長達を誘拐したのも彼らの仕業だったんじゃ」


 林田と木津は立ち上がると、会議室を出て本部のメインルームへ進むべく早足で歩き始めた。しかし彼らがメインルームへたどり着くよりも先に、また緊急放送が入る。


『区画C-3で中規模の爆発事故発生! AAAによるシェルター内テロと思われます。総員レベルAの警戒態勢に入ってください』


 林田と木津とともにメインルームへ到着した広岡は、手近なモニターを操作するとその爆破現場の映像を出した。画面には、15階建てほどのビルが真っ二つに折れ、火の手が上がっている。広岡のマウスを握る手が震えていた。


「どうして!? 関東からAAAの首脳陣を追い出してからは、シェルター内部のテロは一度も起こっていなかったのよ?」

「ならわかるじゃろ。つまり、主導する誰かが舞い戻っているということじゃろう。仕方ない、湯村くんを再び……」

「呼んだか?」


 林田が振り返ると、そこには金髪の不良が壁を背にして気だるそうに立っていた。


「湯村くん、なぜここに? 帰ったんじゃなかったのか」

「嫌な予感がして寝れなかったんだよ。だから戻ってた。同時テロだってな。中と外、俺はどっちにいけばいい? どちらかだけなら、俺の能力もまだ持つと思うぜ」

「すまない。じゃあC-3へ向かってくれ。車は今用意する」


 林田から指示を出された湯村だったが、ほんの少し考え込むそぶりを見せると、懸念されるもう一方のテロに関して確認する。


「外はどうするつもりだ?」

「敵はまだ旧地図上の郡山あたりらしい。我々で何とか対処してみる。なに、元は毎日のようにやってくる外部テロを退けてきたんじゃからな。なんとかなるじゃろう。それに、内部テロの現場に、校長をさらった連中の手がかりがあるかもしれん」

「そうかよ。じゃ、せいぜい頑張ってくれ。後になってやっぱ無理でしたなんて言われても手伝えるかわかんないんでな」


 そう言うと、湯村は本部を出るエレベーターへ乗って立ち去る。残された広岡と木津が顔を見合わせた。


「林田教頭、いいのですか?」

「なんのことじゃ?」

「湯村くんを外のテロへ回さなかったことです。先ほど聞きました。重戦車600機、武装ヘリ200機。我々の装備で戦うには、分が悪すぎます」


 先ほどの林田の指示を脳内で高速にシミレーションした木津は、湯村が回されないこととなった外部テロの状況のマズさを危惧し、そう問いかける。


「仕方あるまい。湯村くんなら確かにそれだけの軍隊にも対抗しうる可能性はある。じゃが、先程の戦いからあまり時間も立っておらん」

「確かに、そうですよね……制限時間がやってくれば、彼はただの高校生に戻る。そうなればただの的だ。透なら、絶対彼を外には送らないだろう」


 外の映像には、重戦車が雪原を滑走する様子が映されていた。隊列には一切の乱れがなく、関東シェルターを目指しているようである。


「まるで、ラジコンでも見るようだな」


 そう言ったのは機甲師団の隊長、南晋平であった。軍用戦車を率いる彼は、その戦車の足並みが揃っているということが、どれだけ異常なことかよく理解している。


「南どの」

「先程から映像をみていますが、異常ですよ。直進だけならともかく、右折、左折、その挙動すべてが完璧に整っている。それも600機が600機だ。うちの精鋭たちでもこうは行かない。まともにやりあえば、多くの犠牲を払うことになるでしょう」


 そこには、南ともう一人、ロボット担当のメカニック、工藤慶太も来ていた。

 

「先に『スパイダー』を出しましょう。対戦車用のロボットは、最近エージェントたちの訓練にしか使用されていませんでしたが、本来外からのテロに備えるために作られたものです。湯村くんや佐倉くんに合わせるために、ハードもソフトも以前よりかなり強力になっています。今用意できるのは50機ほどですが、それでも少しは足しになるはずです」

「私もその案に賛成じゃ。関東シェルター最北端、つくば市搬出口から対戦車用兵器『スパイダー』を発進、石岡市辺りで彼らを迎え撃とう。関東シェルターを攻撃しようとするなら、筑波山は東に抜けるはずじゃからな」


 木津がマップを睨みながら手を挙げる。


「ヘリに関しては僕から提案がある。『スパイダー』が地上兵器である以上、交戦の際には敵の機甲師団と分離しておきたい。そこで……こことここ、水戸市と笠間市の間にうっすらでいい、機雷を散布するんだ。その上で、彼らが近づいてきた時にステルス対空ミサイルで、ヘリを攻撃する。そうすれば、あたかもレーダーで確認できない機雷が無数に存在するかのように錯覚させられるかもしれない」

「なるほど。ヘリは水戸市周辺で速度を落とさざるを得なくなる。先に南下して石岡市へとたどり着いた機甲師団を『スパイダー』で叩くということじゃな」


 木津は林田が意図を理解している様子を見て、強く頷いてみせた。


「うまく行けばいいが」

「やるしかありませんな。それでも何機もの重戦車がスパイダーの包囲網をくぐり抜けてやってくるじゃろう」

「それは僕ら最後の砦、メーカー・ジャパンの機甲師団が迎え撃とう」


 南は拳を握りしめガッツポーズを作ってみせる。


「ふう。これでようやく五分というところだね」


 木津は皆を鼓舞するようにそう言ったが、一方で傭兵経験のある林田は状況を正確に把握しており、心のうちにはこう考えていた。


(おそらくこれでも勝機は10%というところじゃろう。だが校長のいない今、私の意見で皆の戦意を落とすわけにもいかん。老兵の私にできることは、勝機が無くなったその時、誰よりも早く引き際を見定め、撤退命令を出すことじゃ……)


 林田は汗ばむ手のひらをぐっと握りしめた。

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