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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第四章 文化祭編
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吸血鬼支配者

 アメリアが佐倉に胸を貫かれたその時、同じ場所で戦っていた柏木はアメリアの負傷にすぐに気が付いた。急いで赤目の人間たちをスタンガンで倒しながらアメリアの身体に駆け寄ると、彼女の身体に手を触れる。


細胞再構築セル・リストラクション


 すると、佐倉の右腕に貫かれていたアメリアは、血液一滴残らず分解し、僅かに離れた場所に現れる。驚くべきことに、衣服も再生されていた。


「身体も服も、分子の集合には変わりないわ。設計図のイメージさえ出来れば、再構築は難しくないの。というわけでごめんね、佐倉くん」


 柏木は呆気にとられている佐倉の首筋に木津からもらったスタンガンを最大電圧で流し込む。


「あがががががっ!」


 若干皮膚が浅黒く焦げつつ、佐倉はその場に倒れた。その様子を、倒れたまま見ていた氷上が笑う。


「運命のしわ寄せはこれで回避できたはず。あとは頼んだよ、湯村……くん」


 そう言った後、氷上はその場で意識を手放した。





 そこから少しだけ離れた場所では、湯村が無数に群がる赤目の集団と、ヴァンパイアとなった如月兄を同時に相手していた。もっとも赤目の人間たちはヴァンパイアの雨でやられてしまうのを恐れて、湯村と如月の戦っている周囲に群がるだけにとどまっている。


「雨と言っても所詮は垂直落下する物体にすぎん。見えてるもんなら、俺の敵じゃない」


 湯村は周囲のゴミを拾っては高速で飛ばし、赤い雨をはねのけていた。


「何故だ! 貴様、何故この雨の中で生きていられる!」


 激昂しながら大きな剣を振り回す如月が、湯村に問う。湯村は、そんな如月を軽くあしらいながら失望した目で見つめていた。


「ホント、がっかりだぜ。ヴァンパイアってのは、ゲームじゃもっと強い生き物だったのによ」

「おのれ……ならばこれではどうだっ、temporale!」


 如月が空中に手をかざすと赤い雨の軌道が変化し、横や上にも流れ始めた。湯村の表情に、少しだけ焦りが生じる。


「う……おっと。難易度を上げたんだな。弾幕レベル5ってとこか? ボムが欲しいぜ」


 だがそれでも余裕げな表情で攻撃を躱し続ける湯村を見て、如月はある決意をしたような表情を浮かべた。湯村は縦横無尽に駆け巡る雨の量が急激に少なくなっていくのを不審に感じ、如月の方をふと見る。如月の身体は、いつのまにか半分ほど消え始めていた。


「ははっ……気付いたか? だがもう遅い、貴様は私の逆鱗に触れたのだ。私がこの世界から消えて何年経ったのか知らぬが、人間とは、所詮増えるだけしか出来ぬ下等生物よ。最後に勝つのは私だ。さらばだ異国の少年!」

「逃すかよ……って、壁?」


 急いで如月を捕捉しようと、身体の半分消えかけた如月へ近づこうとした湯村であったが、空間に散りばめられた赤い細かい粒子が、空中に固く固定されており、湯村の動きを阻んだ。


 それは先程の雨粒より目を凝らさねば視認できないほどの固体であり、夜のシェルターでは1mも離れれば見えない。如月は勝利を確信した笑みを浮かべながら語った。


「褒めてやる。これを出すのは()()と対峙した時以来だ。誇りに思って善いぞ。貴様は、私の敵と認められたのだからな……nebbia!」


 周囲の視界が急に悪くなる。湯村は如月へと向かうのを止め、アメリア達のところまで一瞬で離れると、倒れた佐倉を抱えながら叫んだ。


「アメリア、美月! なんかヤベェ攻撃が来そうだ! ここからできるだけ遠く離れろ」


 アメリアも湯村が来た方へ耳を傾け、表情を険しくする。


「what……音が近づいてくるよ! 見えないけど何か大きなsomethingがここに迫ってる!」

「雨は……止んだか、なら急いで逃げるぞ。取り敢えず走れるだけ走れ! 誰か、如月の妹を頼む」


 木津は倒れた氷上を抱え、周囲に指示した。その時、木津は如月兄が居た方を見て足を止め、目を細める。


「赤目の人間たちが次々に倒れているぞ。何が起こっている?」


 木津が後方をみると、赤目の人間たちが木津達の追うのを止め、倒れていくのが見えた。そして、その疑問に小さな白い少女が答える。


「下がってください。あれは酸素を奪う霧……ヴァンパイアの身体が小さな欠片となって辺りに霧散し、人間の身体に侵入しているのです」

「なるほどね……って、どこ行くんだい! そっちに行っちゃ駄目だ」


 白い少女は霧の方向へ向かって歩みを止めずに木津に答えた。


「大丈夫です」


 ついに、霧の濃くなるところまで少女は達する。そして彼女は、霧に対して自身の能力を行使する。


「integratore」

「がっ……な、何だと!? 身体が強制的に……」


 突如、霧が集まっていき、空中から裸の男が落ちてくる。男はしばらく自身の手足を見ていたが、何かに気付いたように如月妹の方を睨みつけてきた。


「貴様……やはり貴様が」

「そう、私が吸血鬼支配者(ヴァンパイアルーラー)。もう貴方の好きにはさせませんわ、ウルティモ」

「かっ……ならば貴様さえ殺せば私は自由というもの! 抜け抜けと出て来たことを後悔しながら死ぬといい、pipistrello! そして……dardo」


 如月兄は左手を数十匹のコウモリに変化させ、右手を数十の銛に変化させた。如月睦未の表情が険しい物になる。


「二つの能力の同時行使! 出来たの!?」

「永い眠りというものは新しい知見を見出す時間を与えてくれる。貴様ら支配者どもは我らの一つずつの能力にしか対応できないのであったな。ならば二つ、もしくはもっと複合的に能力を行使すれば、貴様らを滅ぼすのは容易い」

「くうっ……integratore」


 睦未は不規則に動く蝙蝠に対してまずは変化の解除をかけた。しかし高速で飛んでくる銛に対しては対応出来ず、急いで建物の影へと飛び込む。だが全ては躱せず、右腕の制服が千切れ、白いセーラーに血が滲み出していた。


「はぁ、はぁ、やはり、手強いですわ。直接……触ることができれば……」


 睦未は物陰で独り言を言ったつもりでふと顔を上げると、金髪の男がそこに座り込んでいた。


「触ることができれば何?」

「きゃっ。貴方は……さきほどの」

「湯村だ」

「湯村……さん。えと……」


 如月睦未は命の恩人の湯村と対面し、恥ずかしそうに目を伏せた。湯村は傷が痛むのかと思い声をかける。


「大丈夫か?」

「え……ええ、大丈夫です」

「それで、さっき言いかけてたことはなんだったんだ? 吸血鬼支配者のお前が奴に触ることでどうなるんだ」


 湯村の目はいつになく真剣であった。彼を熱くしているのはこのヴァンパイアの『設定』である。昨今彼がハマっているゲームがヴァンパイアものであったことも相乗的に働き、如月兄妹の『設定』が気になってしょうが無いのであった。


 そんなこととはつゆ知らず、睦未は真摯に力になろうとする様子の湯村に好感を持ち、彼女の目的を説明する。


「えっと……簡単にいいますと、兄の身体には私の血が入っています。ですから、直接兄の身体……分解している方ではなく、兄の核というべき場所の肉体に触れることができれば、私達はヴァンパイアの完全な制御をすることができるのです」

「なるほど! それはいい!」

「?」


 想像外の返答に、睦未は首をかしげた。湯村はしまったという顔をすると、慌てて顔の前で手を振った。


「いや、すまん。こっちの話だ。じゃあ、お前をあいつの肉体の傍に連れて行けばいいんだな?」

「そうです。でもそれを知ってかあいつは、私を近づけないような攻撃を……」


 睦未が言いかけるのを遮るように湯村は親指を立てた右手をつきだした。


「それは大丈夫だ。コンマ一秒で連れて行く。お前はヴァンパイアを制御する術の準備を始めろ。行くぞ。3……2……1……。コード A2x001202 00325503 から 570 を0FFFに」

「え? え?」


 如月睦未の視界が一瞬で変わる。建物の影に居たと思っていた彼女は、いつの間にか兄の背中のすぐ後ろに立っていた。


「逃げても無駄だ! また蝙蝠を作り出せばいいだけのことよ!」


 ヴァンパイアとなった如月啓は、物陰にまだ妹が隠れていると考えており、一旦は睦未によって腕の状態に戻された自分の腕に変化の能力を発動した。


「えーっと、sottomissione」

「なぁっ!」


 しかし、そんな如月の後ろからするはずのない声が聞こえ、如月啓は背中から、心臓の位置する場所に少女の手を当てられた。睦未の呪文が唱え終わると、啓は一瞬首の力が弛緩し、かくんとお辞儀をした。そして目が覚めたかのように顔を上げると、後ろをゆっくりと振り向く。


「……睦未?」


 見た目は変わっていなかったが、その表情はもはや憎しみに満ちたものではなかった。


「兄様! 良かった……」

「あれ? 家が火事になって……ああ、思い出してきた。僕は……妹を殺そうと」

「兄様、もう終わったのです。兄様の中のヴァンパイアは、私の支配下に置かれました」

「そうか。お前が、僕を救う鍵だったんだ……やれやれ兄貴だってのに、逆に妹に守られるなんて……カッコ悪いな」


 如月啓は恥ずかしそうに頭を掻いた。そんな様子を、周囲を取り囲む赤目の人間たちを牽制しながら、湯村がジト目で見る。


「お前、取り敢えず服を着ろ」

「あ、ああ、すまない。湯村くん。君にも迷惑をかけちゃって……」


 そう言いながら、啓は落ちた制服を身につけた。そして周囲を見ながら湯村に話しかける。


「湯村くん、この周りの変な赤い人たち何だけど……」

「あ? なんか操り人形ならぬ、操り人間だ。操作者さえわかればそいつを叩くんだが。この通り、倒しても倒しても起き上がってくるんだよ」

「ああ、わかるよ。彼らの中にある異物。原因はそれだ」


 ピタリ、と湯村の動きが止まる。


「なんだって?」

「さっき霧になって彼らの身体を通った時にわかったんだ。彼らの中に、小さな異物があって、それが血管の中を流れているよ」

「血管か……美月!」


 湯村は少し離れたところでスタンガンを片手に戦う柏木に声をかける。


「このっ、このっ。どうして倒れないのよ。何か言った、双?」

「こいつら、体内に何か入っているらしいぞ。お前なら、こいつらの身体から異物を取り除くことって出来るんじゃないか?」


 一段落させた柏木が湯村に振り向く。


「出来ないことはないけど、この人数の再構築は完全にキャパオーバーかな。能力の制限時間が来て、10人くらいで私が倒れるのがオチね。うわ、また来た」

広域放射ワイルド・レンジ!」


 柏木に襲いかかろうとした赤目の集団を、アメリアが銃で薙ぎ払った。


「ミツキ、大丈夫?」

「ありがと。わっ、アメリア、後ろ!」


 アメリアの背後に巨大な影が浮かび上がった。スタンガンで倒れていた佐倉が復活したのだ。


「貴様ら……許さんぞ……」

「あちゃあ、サクラも復活しちゃったね。どうする? ソウ?」


 すると、湯村ではなく如月啓が佐倉に向かって走って行った。湯村が止める暇もなく、如月は佐倉の前に立つ。


「小さき者よ。勇敢と無謀の違いを思い知れ!」


 佐倉の太い腕が振り上げられる。だがそれが振り下ろされる前に、如月の言葉が響いた。


「spada」


 すると右手には、先ほどの赤い剣が生み出される。啓はそれを佐倉に向かって振り下ろした。


「ぐはっ……」


 赤い剣は佐倉の身体を左肩から右の腰まで切り裂いた。しかし、身体は断裂してはいない。振り抜かれた剣からは、一滴の血液も滴ってはいなかった。その代わりに、何か砂粒のようなものが地面に落ちる。同時に佐倉の筋肉はしぼんでいき、白目を向いて地面に倒れた。


「これは……先生! 木津先生!」


 柏木が落ちた砂粒を手に取り、木津を呼ぶ。木津はそれを腕時計のようなPCの分析器にかけ、中身を判じた。


「……ナノマシンだ。それも恐ろしく精密な。なるほど、彼らはこれを体内に注入されていたんだ。何て美しいプログラムだ……」

「感心してねぇで解説しろ。つーことは奴らの肩の傷は……」

「十中八九、ナノマシン注入後の傷だろう」


 如月はそれを聞いて頷いた。


「僕なら身体を小さな欠片にして人の体内にあるナノマシンを抜き取ることが出来ます。協力させてくれませんか」

「私からもお願いします。それが、命を助けていただいた恩返しになるとは思いませんけど……」


 如月兄妹は湯村達に頭を下げる。皆それを見て頷いた。


「やっとこの終わらない集団に決着を付けられるのね」

「ヴァンパイアが仲間か……燃えるな」

「僕はこのナノマシンがどこから命令を受けているか分析しよう。林田先生、車は駄目でも器材は大丈夫ですよね」


 林田はトランクを開けて木津のバックパックを取り出した。


「先生の器材はなんとか無事なようですな」

「よし、じゃあ偽物の処理は頼むぜ、如月」

「ああ、任せてくれ」


 湯村と如月は、固い握手を交わした。

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