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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第四章 文化祭編
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行き過ぎた尋問

 校長室の空気は緊張しきっていた。理由はもちろん、氷上が如月に銃を突きつけているからである。如月の答え如何では、そのトリガーが引かれ、彼の額に風穴が開きかねない状況であった。


「……ません」

「なんだ? はっきり言え」

「僕は、ヴァンパイアじゃありません」


 震えながら、しかしはっきりした言葉で如月は答える。それを受けて氷上は次の質問を発した。


「わかった。ではもう一つ、これで最後の質問だ。このところ我が校で起こっている事件がある。女生徒たちが次々に謎の不登校をしている事件だ。被害者に共通する項目はただ一つ、肩の二つの刺し傷だけ。この事件に、君は関与していないか?」

「いいえ。初耳です」

「そうか、わかった。広岡、見ているな? 結果はどうだ?」


 如月の返事を聞いた直後、氷上は不意に天井に向かって声をかける。すると、校長室に備え付けられたスピーカーから、女性の声が聞こえてきた。


『モニタリング良好です。結果は、脳波、血流モニターともに異常なし。その少年は嘘を付いていません』

「ありがとう」


 それを聞いた氷上は如月の額に当てていた銃をまた元のように胸の谷間にしまった。もちろん、如月もその放送は聞いており、死にそうなほど青ざめた顔で氷上に尋ねる。


「モニタ……リング?」

「ああ、さっきのピストルな。ありゃ実は銃じゃないんだ。最初の発砲は仕込みでね。しょぼい起動スイッチと少量の火薬で出来る。これが本物の銃だと思わせるためのトリックさ。実際は、相手の頭部や心臓に向けて状態を測定するための機械なのだよ」

「は……はは……」


 如月はそのまま力なく笑いながら後ろに倒れこみ、意識を失った。





「……さま。……いさま。……兄様!」


 如月が意識を取り戻すと、そこは保健室だった。保険医が家族に連絡したため、如月の妹が保健室に迎えに来たのであろう。如月啓はその声で目を覚ました。


「う……ううん、睦未か。どうしたんだい?」


 目を開けると、妹は大粒の涙をボロボロと零しながら兄の顔を覗きこんでいた。


「ぐすっ、どうした、じゃありませんわ。兄様が倒れたってお昼すぎに連絡があったの。すぐ行きますって、私言ったの。でも中等部の規則が厳しくって、親の了承がないと早退できなくって、お父様もお母様もいつものように連絡がつ、つかなくって、ふえええん。ごめんなさい、兄様……私がお側にいたらこんなことには……」


 金髪の不良と校長からされた仕打ちのせいで、かなり参っていた如月であったが、自分以上に妹のほうがうろたえていたため、逆に気持ちが落ち着いてしまう。泣きじゃくる妹を宥めていると、起きたことを察知した保健医がカーテンを開けて話しかけてきた。


「ちょっと、いいかな。如月くん。歩けるかい?」

「ええ。大丈夫です。少し……ふらつきますけど」


 如月は保健室の椅子に着席する。隣には妹が座り、対面には保健医が座った。壁の時計は下校時刻を少しだけ過ぎていたが、特に用事もなかったため気にはならない。


「校長が、君に謝りたいそうだ。起きたら呼んでくれと言っていた。呼んでいいかい? それとも、会わずに帰るかい? どっちを選んでも、僕は構わないと思うよ。それに、氷上校長という人は、やり過ぎることも多いにあるが、根は悪い人じゃない。君がどちらを選んでも、この学校で生活していくことに支障は無いと保証していたよ」


 横に座る妹は、兄に対して首を横に振った。詳しい状況まではわからないまでも、これからやって来る人間が、兄を倒れさせた元凶だとということはなんとなくわかったようである。しかし、如月は妹に微笑んでみせると、保健医に向かって言った。


「呼んで下さい。僕は、どうしてあんな目にあったのか知りたいです。理由があるなら聞いてみたい。それで、もし納得の行く理由でなかった場合は、僕は学校をやめます」

「……わかった」


 保険医は卓上の電話をコールし、校長室へ電話した。3分後、氷上は部屋に入ってきた。


「相模先生、申し訳ないんだが」

「ああ、わかりました。僕は席を外します。如月くん、大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫です」


 如月は校長室で見た時とは違い、凛とした声でそう言った。保険医の座っていた椅子に氷上が着席する。


「如月くん、すまなかった。この通りだ。私の配慮が足りなかった」

「頭を上げて下さい、先生。僕は先生に謝って欲しいんじゃない。どうしてあんなことをしたのか、説明してくれませんか?」


 怒りもせず、大声も出さず、静かな落ち着いた声で如月はそう話す。氷上は頷くと説明を開始した。





「流石にやり過ぎたな」

「ま、今回の事件に関して言えば、死人は一人も出ていなかった。なのに、お前は無理やり生徒を引きずってきちまった。そんで校長先生は命を盾に自白を強要した。アウトだろうな」


 湯村と佐倉は能力者であり、放課後になると部活動のように、氷上エレクトロニクスの設備内でその訓練を行っている。佐倉はバスケ部との掛け持ちであるため、たまにしか来れないが、終わりの時間は一緒なので、二人はともに下校することが多かった。二人が下駄箱に差し掛かった時、見覚えのある人間が下校するところへ出くわす。


「やあ、さっきの」

「……悪かったな」


 湯村と如月が交わした挨拶はほぼ同時だった。湯村は如月の挨拶が思ったよりも軽かったことに驚いていた。


「さっき、氷上先生と会ったよ。そして話を聞いた。ここ最近、この高校で事件が起こっていて、その犠牲者が増えているらしいこととか。それが吸血鬼の仕業じゃないかということとか、そしてその捜索方法で網にかかったのが、たまたま金属アレルギーのある僕だったってことも」

「そうか」

「うん。納得はした。でも、それでもやっぱりね、君や先生がしたことは、許されることじゃないと思う。別に訴えようとか、そういう気はないけど。ただ……そうだな。ただ、残念だっていう気持ちでいっぱいだ。僕は来週、学校を辞めることにしたよ」


 そこに居たのは如月、その妹、そして湯村と佐倉であったが、誰も何も言えない瞬間が一瞬訪れた。一呼吸置いて湯村が返答する。


「そうか。お前はそう選択したんだな。だったら仕方ない」

「うん。じゃあ、また明日。と言っても、クラスが違うから会わないかもしれないけど」


 それだけ言い残すと、如月と如月の妹は下駄箱から出て帰宅の途についた。その姿が見えなくなった後、佐倉が湯村に話しかける。


「ま、気にすんな。お前はお前のベストを尽くした結果だったんだ。過ぎちまったことは仕方ねぇ。時々やり過ぎることもあるかもしれねぇがよ、それで俺達が立ち止まっちまったら、誰がこの国を救えるって言うんだ? 顔を上げろ、シケた顔がさらにシケてふやけちまうぜ」


 佐倉の言葉を聞いた湯村が、ようやくうなだれた顔を上げて佐倉の方を見た。


「サンキュー、直人。たまにはいいこと言うじゃねぇか。少し落ち着いたよ。俺のことはもういいから先帰ってろ。今日もアメリアと夜からの尾行に備えて仮眠するんだろ?」

「ああ、そうするつもりだ。やべ、もうこんな時間かよ。わりぃ、湯村。俺走って帰っからよ」


 そう言うと、佐倉は靴を履き替え、全速力で校舎を飛び出していった。





 如月を保健室から見送った氷上は、校長室へと戻る。木津と教頭の林田が彼女の帰りを落ち着かない様子で待っていた。


「どうだった、如月くんは。問題なしかい?」


 木津は氷上に問うたが、彼女はただ首を横に振っただけだった。


「まあ、そうじゃろうな。本来生徒を守る立場にあるべき我々が、あのような行動をとってしまったんじゃ。一度失った信頼は、そう簡単には取り戻せまい。しかし、どうしたもんかな……」

「透、君の遺伝子の能力。高速並列思考ニューロ・アクセラレータだっけか。未来を演算して予測することが出来るんだろう? 責めるわけじゃないんだが、こうなるって予想できなかったのかい?」


 氷上は机の上に置いた甘いコーヒーを一口すすると、机の上に両足を乗せ、腕を後ろ手に組んで目を閉じた。


「無論、考えたさ。考えた上でのこの結果だよ。如月はあの形で容疑者から外れるのがベストの未来だったんだよ。まあ、見ていたまえ。未来はもう、動き始めているぞ」


 余裕の笑みを浮かべる氷上に、木津と林田は首を傾げるばかりであった。

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