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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第四章 文化祭編
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吸血鬼捜索

 翌日。バスケ部マネージャー、織田の元を佐倉とアメリアが訪ねていた。佐倉は2年生の教室を遠慮なく開くと、そのまま目の前にいる学生に向かって挨拶をする。


「ちわーっす。あの、俺バスケ部1年の佐倉っていうんスけど、織田先輩ってこのクラスっスよね?」


 扉の前に居た2年生は一瞬怪訝な顔をしたが、体育祭などで佐倉はちょっとした有名人となっていたため、すぐに態度を軟化させた。


「佐倉……? ああ、バスケ部の。織田なら居るよ。教室が暗くてわかりにくいかも知れないが、一番後ろの列の右から2番めだ」

「あざっす、先輩」

「Thanks!」


 佐倉とアメリアの二人は、織田の元へとたどり着いた。以前の関東シェルターの教室なら、顔を認識するのがやっとという明るさだったのだが、AAAのテロが落ち着いた現在は関東第二高校の教室の明るさも、表情や顔色が判る程度には明るい。織田も、近づいてくる人影が佐倉であることを、少し離れた場所から認識した。


 織田は前髪から二股にきっちりと分かれたワンレングスボブのヘアスタイルで、少しタレ気味の大きな瞳が印象的な美人である。佐倉の姿を認めると、持っていた教科書を置いて微笑み、手を振ってきた。


「あら、佐倉くんじゃない。どうしたの? くすくす。まさか教室間違えた、なんて言わないでよ。いくら君がおっちょこちょいでもやりすぎだわ」

「いやあ、なんつーか、あはは。柄にもねぇと……思われるかも知れねぇっスけど、陽子ちゃん、最近来てないじゃねぇっスか、部活。どうしたのかな、何て」

「サクラ、顔真っ赤だね」

「う、うるせぇっ」


 佐倉が暗がりでもわかるほど、顔を真っ赤にしてアメリアに怒鳴った。それを見た織田は、また上品に笑ってみせる。


「あー、ごめんねー。心配かけちゃったか。部長と日菜ちゃんには、ちゃんと言ったんだけどね。なんだか体調が優れなくて……」

「体調って、どこか悪いんすか?」

「どこっていうわけじゃないんだけどね。部活に出たらかえってみんなに迷惑かかりそうで」

「そう……すか。いや、体調が悪いなら、休んでもらったほうがいいっすよね。俺ら、陽子ちゃんが復帰するの、待ってますから。なんなら、練習見に来るだけとかでも全然いいんで。陽子ちゃんの笑顔に癒やされてる奴がかなりいるんで……いや、俺の同級生が言ってんスよ。前田とか」

「そう。ありがとう。もう少し良くなったら戻ると思うから、それまでごめんね」

「オス、失礼しましたっ」


 佐倉はそれだけ言うと、もうここには居られないとばかり真っ赤な顔のまま、ずんずんと外に出て行ってしまった。アメリアは一瞬だけ織田の顔を見た後、佐倉の後を追う。


「ちょ、サクラ! Wait!」


 アメリアが追いついた頃には、佐倉は既に中庭まで来ていた。佐倉は胸に手を当てて深呼吸をしている。


「YouがヨーコにFall in Loveなのはわかったから、ちょっと落ち着いてくれる? 私聞きたいこと何も聞けなかったよ!」


 アメリアが頬をふくらませる。それを見た佐倉は一言だけ言葉を発した。


「無理」

透明の弾丸インビジブル・バレット超近接射撃(ゼロ・ショット)


 アメリアが突然、自分の制服のスカートをめくった。眩しいくらいに白い太腿があらわになり、その太腿の外側に取り付けてあるホルスターから、彼女は銃を引き抜く。アメリアはメーカー・ジャパンのエージェント、特殊な遺伝子を持つ能力者の一人だ。


 彼女の能力によって込められた圧縮空気の弾丸が、早撃ちで銃口から飛び出す。次の瞬間、佐倉は校舎の壁に打ち付けられていた。


「がはっ!!」

「……頭冷えた?」

「す、少し」


 アメリアは溜め息をつくと、銃を回転させながらホルスターに戻して佐倉に言った。


「サクラ、あのヨーコって人ね、maybe……嘘、ついてるよ」

「なんだって? 何をどう嘘ついてるっていうんだ? 嘘つくところなんてあったか」


 佐倉は先程まで頭のなかで反芻していた織田とのやりとりを思い出しながら、どこが彼女の嘘なのかを見出そうとしたが、全くわからなかった。


「んー、多分、体調がどうとかって辺りかな。ヨーコは体調が悪くて休んでるんじゃない。something other probrem exist……I think」

「ん? なんだって?」

「何か、別の問題がありそうって感じなんだよ」


 アメリアはしばらく考え込んでいたが、ポンと手を叩いて佐倉に言った。


「サクラ、ストーカーってやったことある?」





 一方、柏木は吸血鬼の被疑者にペンを握らせるため、とある授業を行う会場へと向かっていた。高校という場所は、部活のつながりのない上級生と突然接触するのは難しい。ならば、学校でその機会を作ってやればいいじゃないか、ということで氷上が校長権限を発動したのである。授業スケジュールが変更になり、突如、1・2年の合同授業が行われる運びとなったのだ。


 場所は、大会議室であった。平坦な部屋にいくつかの円卓が並べられており、上座に当たる場所には教壇が設置されてある。数学教師の鴨志田が、マイクを持って集まった生徒たちに説明を始めた。


「今回初めて行われる合同授業は積分がテーマだ。君達のテーブルに配られた問題用紙は同じだが、問題のレベルはごちゃまぜにしてある。これを時間内にグループで解くのが今回の課題だ。なお、これは校長からだが、この授業はもう既に文化祭の一環である。従って、成績の良かったグループの1年生と2年生、それぞれ1枚ずつの優先出店券を与える、とのことだ」


 教室がざわつく。優先出店券はつまり、出店する位置の優先権を獲得できるチケットである。文化祭での売上は、内容もそうだが、出店位置により大きく左右されることは言うまでもなかった。生徒たちの目つきがただならぬ空気を帯び始める。


「なお、メンバーの組み合わせだが、完全にランダムでこちらがチョイスしている。運良く1年と2年、それぞれに数学が得意な者が居れば、勝利は決まったも同然だ。では、組み分けを発表する」


 やがて、組み分けが発表され、それぞれが離れた位置へと移動する。カンニングが出来ないよう、それぞれのグループ間には防音性質を備えたパーテーションが用意された。それぞれ同じ組になった違う学年の人間同士が挨拶をする。


「1年の柏木美月です。数学は……普通です。よろしくお願いします」

「同じく1年の門倉周人です。数学は……正直あんまっすね」

「1年の佐藤ちなみです。英語だったらよかったんですけど……私も足引きずっちゃうかもです」


 続いて、2年が挨拶をする。2年生は男が二人、そしてセミロングの赤毛に先の方だけ少しパーマがかかっている女の子の3人構成だった。


「2年の青木楽、数学はまあ、普通かな。わかんなかったら頼むわ」

「2年生。高井総司。ね、ね、君が柏木くん、だよね」

「えっ?」


 高井と名乗る男はぐっと柏木の方に身体を近づけると、柏木の肩を抱き、耳元に囁いた。


「俺、数学が超得意なんだ。教えてあげるから一緒にやろうよ。前に通学路で何度か見たことがあったんだけど君、美人だよね? よく言われない? ほら。俺の隣に座りなって」

「ええっと……はあ」


 グイグイと柏木は高井の隣に座らされる。しかし次の瞬間、高井は制服の襟をネコのように掴まれると、椅子から引き剥がされた。


「ぐえっ、けほっ、けほっ。何すんだよ瀬下!」

「あんたな、あたしの自己紹介が終わらんうちに1年口説くな。罰としてこの子から最も遠い席にしたるわ」


 そう言うと、瀬下と呼ばれた2年の女子は再び高井の首を掴んで柏木と反対方向の椅子に放り投げた。


「ってぇ、何すんだ馬鹿力女!」

「何って正義の鉄拳や。……ホンマすまんかったな、1年の嬢ちゃん、あたしは瀬下楓せしもかえで。最近関西シェルターから来たんや。あんなアホに好き勝手させんから、安心しいや。数学はいまひとつやが……まあ、人間数学できひんくらいで死なんから大丈夫やろ。そういう時のためにこのアホがおるんやから。ほら高井! さっさと解きや」

「なんでお前みたいながさつな……痛ててて。わかった、解きます。解かせていただきます」


 高井は何度も瀬下に蹴られ、問題を解き始める。柏木はそんな瀬下の顔をしげしげと眺めた。


「ん? なに? なんやあたしの顔についてるか?」

「い、いえ。そういう訳じゃないんです」


 柏木は気取られないように問題用紙に目を落とした。もちろん使うのはあの銀のペンである。瀬下は柏木の左隣に座った。その位置だと、利き手と反対側になり、転がすと不自然になる。柏木はペンを手から落とすことができなかった。


「えーっと、なんだっけ? 柏木、これ先週やった気がすんだけど覚えてる?」


 問題を解く同級生からの質問もやってくる。同じ問題を力を合わせて解いても効率が落ちるだけだろう、と言いたくなるのをぐっと抑えて柏木は門倉に答えた。


「私もちょっとうろ覚えなんだけど、確かこれはね……」


 高井が何度も柏木の方を伺ってくるのを全力で無視しながら、そして周囲に気を使いながら、柏木は問題を解いていた。そんな柏木を、何故か瀬下がずっと見ている。それに柏木は気づいていたため、なおさらペンを瀬下の方へ転がすことが出来ずにいた。


 そうして、柏木がタイミングを図り損ねているうちに時間がきてしまった。鴨志田がマイクを持って会場に伝える。


「そこまで! 各自解答用紙を前へ提出するように」


 生徒たちがぞろぞろと教壇の方へ解答用紙を持っていった。鴨志田は教壇の椅子に座ると採点を始める。それからしばらく、鴨志田が添削をする音だけが会場に木霊した。そして10分も経っただろうか、その音が止み、鴨志田がマイクを持って立つ。


「さて……結果を発表する。一番の得点を弾き出したのは……早乙女、お前たちの班だ」


 柏木の右斜め後ろで歓声が上がった。どうやら今呼ばれたグループがいる場所のようである。肩を落としながら高井は独りごちた。


「かっこの3がなぁ……。アレさえなけりゃあな」


 柏木も肩を落としていた。しかしこちらは理由が違った。銀のボールペンを瀬下に握らせることが出来なかったからである。暗い表情のまま荷物を片付け、合同授業の会場を出た。すると、柏木を追いかけてくる人影が廊下を走ってくる。柏木は高井を想定して身構えた。


「ちょ、待ってぇな」

「え……? 瀬下先輩……?」


 しかし、柏木の予想と違い、追いかけてきたのは瀬下であった。瀬下は柏木の両肩を掴むと、笑みを浮かべて柏木に話しかけてきた。


「さっきのボールペン、見せてくれへん?」

「え? ボールペン、ですか」

「そや。きらっきらっした、むっちゃ可愛いボールペン持ってたやろ、自分。あーいうのめっちゃ好きやねん」


 柏木は筆入れの中から氷上にもらった銀のボールペンを出した。瀬下の目が輝く。柏木がそっと差し出すと、瀬下は嬉しそうに銀のボールペンを手に取り、いろんな方向から眺め始めた。


「ふぁー。これどこで売ってるん? めちゃめちゃ可愛いわぁ。な、な、これいくらするん? 売ってくれへん?」

「ご、ごめんなさい。友達に作ってもらったものだから、先輩にお譲りすることはできないのですけど」

「そっかー、ハンドメイドかぁ。どうりでなぁ、このセンス。そこんじょそこらの文具店には売ってないわけやなぁ」


 それから5分ほど、あれこれ一人で感想を述べながら瀬下はひとしきりボールペンを愛でた後、柏木に返した。


「ありがとな、嬢ちゃん。ええもん見せてもろたわ。ほななー」


 そして用は済んだとばかりに踵を返すと、瀬下は2年の教室へと戻っていく。瀬下が去ってしばらく呆然としていた柏木だったが、彼女が見えなくなった後、ようやく一言呟いた。


「……びっくりした」





 一方その頃湯村は、合同授業など素知らぬふうで、屋上で寝っ転がり、携帯ゲームに没入していた。


「まさかこいつもヴァンパイアだったとはな……」


 湯村は相変わらず、『キャッスル・オブ・ブラッド 5』にドはまりしていた。アクションゲームならば超速クリアしてしまう湯村だが、ノベルパート、謎解きパート、ミニゲームと遊ばせる内容が盛り沢山なのでいつもと違い、長時間楽しむことが出来ている。


「遺された血族と、かつて追放された血族の争いか。熱いぜ……」


 しかし、屋上で携帯ゲームを持って寝っ転がる不良の幸せは、そう長くは続かなかった。来客が来たのである。生活指導の教員はすでに湯村を諦めており、屋上には足を伸ばさなくなっていた。屋上に来たのは湯村と同じく、授業を受けずにふらふらしている、不良の一団である。


「兄貴、金髪のちっさいのが見えますぜ」


 最初に入ってきた子分役であろう不良が、後ろにいる彼らのボスに向かって先客の存在を告げる。


「ふん……湯村か。邪魔なチビが高いところに何の用だか」


 扉から顔を出したのは、吸血鬼容疑者の一人、向井雅志であった。

 

「ああ? 毎晩自衛隊の親父に泣かされて枕を濡らす向井くんが、お兄ちゃんに生意気な口を聞くじゃないか」


 湯村はゲームの画面を落とし、起き上がると、向井のところまで歩く。周囲を取り巻く不良は、湯村に恐れをなして道を開けた。やがて湯村は向井の正面に到達する。屋上の真ん中で、向井と湯村が睨み合った。向井は背が高く湯村とは頭一個分くらいの違いがある。坊主頭で眉を剃っており、見た目だけで人を威圧してくるような雰囲気があった。


「貴様には、まだ誰にも見せていない本気をみせてやろう」

「俺は本気出してないだけって、最後まで言わねぇようにな」


 と、湯村が台詞を言い終えたくらいのところだった。湯村の身体は中に浮かされていた。向井が湯村を蹴りあげたのである。


「か……かはっ」


 3mほど飛ばされ、湯村が着地する。その蹴りあげるスピード、脚力の重さ、それは並の人間のものではなかった。湯村の脳裏にこれまで戦った化け物達の記憶が蘇る。周囲の不良たちは向井が優勢と見て笑い声を上げた。


「さすが向井さんだぜ」

「あの力、マジで人とは思えねぇ」


 湯村は呼吸を整え、向井をまっすぐに見据えた。そして、向井に問いかけるように言葉を紡ぐ。


「向井……まさか……貴様が……?」


 だがそれを聞いても向井は、気味の悪い薄ら笑いを浮かべるだけだった。

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