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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第四章 文化祭編
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秋の節電文化祭

 紅葉や銀杏の木々が色づき、木枯らしが街中を吹き抜ける秋。日没の時刻も早くなり、肌寒い季節となった。制服は冬物にかわり、人々は少しずつコートを羽織るようになった、そんなある朝のこと。


「ふぇっくしゅ!」


 時刻は午前8時の登校時間帯。学生服の若者たちが談笑しながら高校へ向かう中、一際背の高い男子が、オヤジ臭いくしゃみをした。彼はもう一人、少し小柄な男子高生と登校しており、彼の飛沫は隣の少年に飛散する。


「うわっ、きったねぇ。こっち向くなよ。液晶が濁っちまったじゃねぇか」


 隣を歩いていた金髪の男子は、携帯ゲーム機をティッシュで拭くと、丸めた紙をその男の子に投げつけた。


「仕方ねぇだろ? そもそも、空調でコントロールできるのに寒くなるってどういうわけだよ」

「俺はお前がまだ夏服なのがどういうわけだか知りたいがな」


 背の高い男子がぼやくのに金髪の男子がツッコミをいれる。ここは関東にある巨大な地下シェルターの中にある街だ。現在地上は未曾有の氷期に見まわれており、人類は地上に住むことを断念している。科学技術がなんとか追いついてくれたお陰で、人々は地下を掘り下げシェルターを建造し、そこに移り住んだ。


 シェルターには、学校もあれば病院もあり、職場もあればスーパーもある。果てはカフェやゲームセンター、風俗店なども存在する、もはや地上と遜色ない街並みとなっている。空も液晶ディスプレイで再現されており、もしシェルターで生まれた子供がいたとしても、ここが地下であるとわかるまでには時間がかかるだろう。


 つまり、ここは空調で制御された屋内なのである。この少年たちが寒そうに登校しているということは、シェルターの気温が意図的に下げられていることを意味していた。


「寒くなってるのはね、四季を再現するためなのよ」


 突如よく透き通った声がしたため、背の高い方の少年が後ろを振り返ると、肩まである茶色の艶やかな髪をなびかせた美少女が彼らに声をかけていた。


「おはよ、佐倉くん、双」

「……ウス」


 佐倉と呼ばれた背の高い男子は美少女の方を一瞥すると、興味なさげにまた前を向いて歩き始めた。金髪の少年の方に至ってはゲーム機の画面から目をそらしもしない。


「気温が低下すれば、樹木は季節を感じて紅葉するのよ。かつての日本と同じ状態を再現してるってわけ。ちょっと聞いてる? 双。何してんの?」


 しかし美少女のほうが積極的で、金髪の少年の二の腕を取るとそれを自分の胸元に引き寄せた。あまりの感触に無視できなくなった金髪の少年が仕方なく今やっているゲームの解説をする。


「……『キャッスル オブ ブラッド』の5作目だ。この関西シェルターの情勢が安定してきたためか、サブカル系の企業が業務を再開してくれてな。それで、新しいのが発売された。主人公がヴァンパイアになって普通の生活を送る物語で……」

「うんうん。それでそれで?」


 美少女の身体が密着していることを努めて意識しないようにしながら、少年はゲームの解説を淡々と続ける。それを佐倉は呆れるような目で見ていた。


「柏木もたいがい変わってるよな。そんなゲームばっかやってる男のどこがいいんだか」


 金髪の少年は湯村双ゆむらそう、廃人ゲーマーにして不良の高校1年生だ。そこにくっついているのが柏木美月かしわぎみつき、学園で一番と噂される同じく高校1年生である。


「リア充爆発しろ」


 と、思わず呟いた佐倉の発言を誰かが聞いていたのだろうか。突如、湯村の足元からボタンを押すような音がしたかと思うと佐倉の目の前で二人は派手に飛んで行く。佐倉が湯村のいた辺りの地面を見ると、びっくり箱のバネのような物がマンホールに付いており、その上に乗った湯村が吹き飛ばされたようだった。


「双ーーー!」


 引き剥がされた柏木が別の方向へ飛んで行く湯村へ声をかける。湯村は空から何事かと辺りを見回した。そして着地点であろうところに、よく知る金髪の美女の存在を認めてため息をつく。


「オーライ、オーライだよっ。キャッチ! Good Morning、ソウ。今日もいい天気だね。寒くなってきたから、いつでもワタシ、温めてあげるよ?」

「アメリア……地雷で遊ぶのは止めろ」

「No! 地雷じゃないよ。ちゃんと改造してあるから安全なんだよ」

「いや、安全とか安全じゃないとか、そういうんじゃなくてだな……あー、いいから離れろ」


 アメリアの抱擁を解き、校舎へと歩き始める湯村。そこへ、別の場所に落下した柏木が怒りを露わにして金髪の美女、アメリアに詰め寄った。


「ちょっと、アメリアちゃん、私の双に何するつもりよ」

「Oh! ミツキ。おはよう! ちょっと朝のスキンシップをしただけだよ」

「いーえ。今なんか口説こうとしてた。私聞こえてたんだからね」


 二人の女子が校舎の入り口でワイワイ口喧嘩しているところへ、後からゆっくり歩いてきた佐倉がようやく追いつく。


「どうでもいいけどお前ら、本鈴なってっぞ」


 その言葉を聞いてアメリアと柏木ははっとしたようにお互い顔を見合わせると、それぞれ教室へと走っていった。





 暗い教室が豆電球のような照明に照らされている。室内はお互いがようやく認識できるくらいの明るさで、黒板だけがスポットライトを浴びて光っていた。これは、人口の多い関東ならではの電力消費を抑えるための措置である。そこに学級委員長である朝野琢磨が大きく整った字でHRのお題を書いていった。


『関東第二高校、秋の節電文化祭』


 書き終わった後、教室の生徒たちは書き始める前の騒がしさが嘘のように静まり返った。


「冴えねぇな……」


 ポツリとゲーム機から一瞬だけ目を上げて湯村が言った台詞であったが、クラスメイト全体の気持ちを代弁しているようであった。その、明らかに盛り下がる雰囲気の中、委員長朝野は全く空気を気にせずに一同に向けて発言する。


「みんなが待ちに待った秋の文化祭がやってきたぞ! できるだけ電気を使わずに楽しい企画を考え、クラス対抗で模擬店を出すのだ! さあ、僕といっしょにこの『節電文化祭』を盛り立てようじゃないか!」


 学級委員長がそう宣言した後、ようやくクラス内のあちこちで話し声が聞こえ始める。


「そもそもネーミングセンスがないんだよな……」

「なんか、盛り下がるわよね……節電とか」


 この関東第二高校は、シェルターが出来て比較的早い時代にできた学校である。最初のうちは電力供給量も乏しく、そんな中、当時の(といってもほんの2、3年前の話だが)第二高校の生徒会はどうしても文化祭がやりたいと教師陣に訴えたのだった。一年間も暗い教室の中にいたら皆陰鬱な気持ちになりやすい、そんな気分を吹き飛ばす文化祭がやりたいと。しかし、文化祭で大量に電力を使われたらたまらないと考えた教師陣は、文化祭の名前に節電のタイトルを冠することを指示したのだった。


 そんな暗い空気を切り裂くような一斉放送が、学園内に鳴り響く。


『全校生徒の諸君、おはよう。元気かい? 校長の氷上だ。私がこの関東シェルターの校長となって、約2年となる。今君たちは来る来月の文化祭に関するHRをしているところだと思うが、一つ言いたい。節電をタイトルにした文化祭は、本日をもって廃止とする』

『し、しかし、校長……これ……がっ』


 スピーカーの向こうで堅物そうな古参の教員が校長に詰め寄り、押さえつけられたような音が聞こえた。


『昨今、内外の状況に変化があったため、実は現在、関東シェルターは電力的にそんなに苦しくはない。ただ、一気に全関東住民が電力消費が激しくなってしまうとマズい為、公式発表はしていないが……少なくとも文化祭程度なら、ギンギンの明るさでやっても余りある程の電力はあることが判明した。これはうちの会社と関東政府の会議でもう既に通され、許可が降りている。と、いうわけで諸君。出し物は好きに選び給え。文化祭の名前も、『放電文化祭』とする』


 生徒たちは立ち上がり、喜びの声を上げた。他のクラスや階上の上級生たちのクラスからも同様の声が上がった。湯村だけが、溜め息を付きながらゲームを離さずに席に座して呟く。


「その名前もどうなんだよ」





 一方、放送を終えた氷上は現在の電力事情を教師陣に話し、ひとまずの合意を得ることに成功する。その後、校長室に戻り、教頭の林田と文化祭についての打ち合わせを行っていた。


「よろしかったのですか? 文化祭の時だけとはいえ、三日間、それなりの電力は使用すると思われますぞ。シェルター内ですから飲食店は基本電気プレートを使いますし、気温を下げている影響で温かい飲み物も必要でしょう。それに、暖房も。いくら関西シェルターを取り戻し、いざというときはあちらから電力を送れるようになったといっても、今後の為を思うなら無駄遣いをする余裕はないと思われますが」


 元・傭兵の教頭は、細いが鋭い目を氷上に向けて上司に忠告する。


「いや、関西から電力をもらう気はないよ。あちらで発電したものは、関西のために蓄えてもらうことにしている。シェルターを狙うテロリスト集団、AAAトリプル・エーが外からほとんど侵攻してこなくなった影響のほうが大きいかな。そのおかげで、関東は電力に余裕がある。まあ、電力の問題はいいとして、私が気にしているのはこの学園が”暗い”ことそれ自体だ」

「はて? このシェルター内にある学園は節電のために、元来暗く管理するのが基本ですが、何か問題が?」


 氷上は校長室の側面にスクリーンを出し、手元のPCからある画面を出した。


「私が関西から戻っておおよそ3ヶ月になろうとしているが、最近奇妙な欠席者が増えているんだ。これは、欠席者のリストだ」


 林田はスクリーンに映し出されている欠席者のリストを見た。


「共通点は……女生徒、くらいでしょうか。成績、部活動、内申、家庭環境など他に共通している点はありませんな。風邪でも流行っているのですか? クラス担任からは、そんな報告は上がっておりませんが」

「ああ、風邪やその他の感染症は流行っていない。これ以外にも怪我などで欠席している生徒もいたが、その者達はこのリストから除いた。このリストに載っている少女たちは、ある共通点があるんだ」

「共通点?」

「学園の暗い廊下、あるいは暗い教室内で肩を虫に刺されている」


 そう言うと、氷上はスライドに、少女たちの首の部分に二箇所、虫さされのように赤く刺し傷がある写真を映し出した。


「これは……」

「この刺し傷が、被害者の生徒たちに共通する所見だ。保険医が撮影していたものを拝借してきたんだが、これを受けた生徒は、必ず体調を崩して2、3日ほど欠席している。その後は普通に登校しているがな。この刺し傷を受けたどの生徒にも咳や鼻水などの症状はなく、熱もない。何故休んだのかはいまのところ不明だ」

「ふうむ。なんだか不可思議ですな。妙に毒性の強い虫にでも刺されたのでしょうか」

「不可思議なんて言葉で済まされるものか。私はこの関東シェルターを管理している。それはつまり、害虫も管理しているということだ。私のデータベースにあるかぎり、肩にこんな大きな2箇所の刺し傷を作るような虫は存在しない」


 その言葉を聞いた林田は、スライドから氷上に顔を向け、神妙な面持ちで彼女に問いかけた。


「では、校長はこの少女たちに起こった出来事が、人為的なものではないかと?」

「ああ、私の脳はそう考えている。この現象が暗がりで起こっているという点から、人の入り乱れる文化祭の時に、よりリスクが高まると考えた。従って、文化祭はむしろ明るいくらいのほうがいいだろう。そしてこの傷は、私が知る限り、()()()()()()()()()()()()()の作る傷に酷似しているんだ。私より年配の教頭ならご存知じゃないかな?」

「いや、ははは……確かに似ているなとは思いましたが、それは荒唐無稽というものでしょう。あれはあくまでも作り話ですよ」


 氷上は、デスクの上にあった甘ったるいコーヒーを口に含み、意味ありげな笑みを浮かべる。


「ふふ……重ねて言おうか。それぞれの傷のサイズは被害者に共通してほぼ同等、そのサイズは約5cm。穿った見方かもしれんが、これは人の犬歯から犬歯までの長さと一致するといって差し支えない」

「まさか……」

「その”まさか”じゃないかと私は睨んでいる。この学園に、あの化物か、それに近い生き物がいるぞ。林田、エージェント達に声をかけてくれ」

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