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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第三章 関西遠征編(下)
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古い因縁

「起きなさい、ドブスのお嬢さん」


 冷水をかけられた柏木が顔を上げると、そこには筋骨隆々とした肉体を持ち、色黒金髪の男が内股で立っていた。男は上半身がピンク色のタンクトップ、下半身が金色のハーフパンツという格好で、部屋にある鏡を前にポージングを繰り返していた。


「ネェ、このポーズ、シビれると思わない? 私が考案した『鬼祭り』っていうポーズなんだけど……ふむんっ……あぁ、何度見てもス・テ・キ」

「……あなたは誰? 私……どうして」


 柏木は暗く窓のない部屋で、両腕両脚を縄で縛られ、壁に磔にされていた。平静を装ってはいたが、彼女は自分が気を失っていたことに驚いていた。能力が発動してさえいれば、彼女はどんな傷も病気も毒もすぐに治癒するはずである。しかし確かに彼女は気を失い、知らない間にここに連れて来られていた。


「んふふふ。あなたをここへ連れてくることが出来たのはある男のおかげよ。その男があなたの能力の『穴』を私に教えてくれたの」

「『穴』ですって?」


 柏木はやっとの思いでそう答えたが、その声は震えていた。自分の能力では対応できない能力者が現れ、今は自分も知らなかった能力の弱点を突かれてしまった。戦力にはならなくても絶対に死なない身体を持っているというのが、彼女の精神力の支柱であり、それが崩れた今の彼女には、蓮波の一言一言が柏木に突き刺さる。


「そうよ。『穴』も『穴』、アナタの股に付いているみたいな大穴よ。あぁ、はしたないったらないわ。可哀想だから教えてあげようかしら。アナタの能力は、持続的な攻撃に弱いのよ。首を飛ばしても首は戻る。でも首を締め続ければ、あなたは失神した状態から回復しない」

「……つまり、私の首を締め続けてここまで連れてきたというわけね」

「ご名答。まあ、締め上げて連れて来たのはアタシの部下なんだけど。殺され続けなかっただけありがたく思いなさいね」


 言われて柏木はゾッとした。確かにその通りであったからだ。もし自分が殺され続けるような致命傷を与え続けられてしまったら、死ねないまま死の苦しみを味わい続けることになる。能力が切れれば死ねるかもしれないが何時間、何日で死ぬかなんて予想できない。それは拷問よりも恐ろしい苦痛だろう。


「……一体何が目的なの?」


 柏木は蓮波に恐る恐る聞いてみる。殺さずに連れて来られたということは、それ以外の目的だと思ったためだ。一方、質問をされた蓮波は柏木の方を見ると、大きな笑い声を上げ始めた。


「うふ、うふふっ」

「な、なによ」

「今アナタ、『私は殺される以外の目的で連れて来られた』と思った、そうでしょ? それが可笑しくて」


 蓮波は柏木の方へゆっくりと歩み寄ると、縛られている柏木の両手の縄を解き、その両腕を一瞬のうちに壁に直接杭で打ち付けた。


「いやああああ!」


 さらに叫ぶ柏木に対し、腕に次々と太い鉄の杭を差し込んでいく。そして蓮波は、顔を柏木に思い切り近づけると、彼女の耳に囁いた。


「途中で死んだらアタシが楽しめないだろうがこのドブス! アタシが殺すためにお前はここに連れて来られたんだよ!」


 絶望に沈む柏木は、痛みを必死にこらえながら、蓮波の顔をじっと見た。


「ふん、解せないって顔をしているわね。それとも『どうして私だけが?』なんて思っているのかしら。小さかったから覚えていなくても無理はないけれど、ね」

「ま……さか……聞いたことのある声だとは思ったけど……」


 そこまで言われて、柏木はようやく気がついた。


「蓮波……アラタ!」

「あら何? 思い出したの」

「あ……あああああああっ!」


 柏木は怒りのあまり杭を腕に食い込ませている痛みも忘れ、蓮波に飛びかかろうとする。だが壁に打ち込まれた手は、柏木の力ではピクリとも動かなかった。


「Fuuuuu! 危なーい。何急にいきり立ってんの? これだからブスは怖いわー」

「んっ、この戒めを解きなさいよっ! あんたなんてっ! 死体も残らないくらい分解してあげるわ!」


 杭で打ち抜かれた腕から血が噴き出すのも構わず柏木は暴れた。


「十年も前のことなんて時効でしょ? シワが増えるわよ」

「忘れてたまるものですか! 私の街を、父を、母を、兄を、街のみんなを殺したあなたを殺すために私は今まで生きてきたのよ!」


 蓮波は新たな杭を取り出すと両脚と両肩を杭で打ち抜いた。


「があっ……かはっ……ひゅー……ひゅー」


 肩を打ち抜かれた柏木は、一緒に肺も杭で打ち抜かれていた。呼吸が出来ず、柏木が紡ぐ言葉は空気の音にしかならない。


「痛いかしら。精々苦しむといいわ。あの日、私が受けた苦痛に比べたら軽いものだわ。おほほほほっ」


 そう言うと、蓮波はその部屋から姿を消した。柏木は、しばらく怒りにまかせてもがいていたが、肺に穴があき、呼吸ができない状態が続いたため、やがて意識を失った。





 一方、メーカージャパンの一同は湯村が倒れてしまったこともあり、ひとまず氷上のマンションの一室に集合していた。そして、湯村と柏木を除く一同は、その場で作戦会議をおこなっていた。


「湯村、おい湯村」


 佐倉が呼びかけるが湯村はピクリとも動かず、深い睡眠状態に入っていた。


「ソウ、起きないね」


 しばらくその様子をみていた氷上だったが、卓上においているコーヒーのボトルを一気に飲み干すと、ノートPCを取り出し何やら打ち込み始めた。


「先生、何やってんすか?」

「演算している。湯村が寝ている理由に対し、ある仮説が浮かび上がっているのだがそれが正しいかどうか一応確認してみようと思うのだよ」

「トール、そんなことしているバアイじゃないよ! ミツキが」

「わかってる。だが、湯村くんという戦力を欠いた状態でAAAの本隊の中に我々だけで乗り込むのは危険過ぎる。私の高速並列思考ニューロ・アクセラレータも、3人で乗り込んだ場合、生存率が極端に下がると警告を発している。だから迂闊に動くことは出来ない。美月の能力なら、何をされてもとりあえずは無事でいられるからな。情けないことだが、とりあえず湯村くんを何とかするのが、今の我々にとっての最優先事項というわけだ」

「そんな……」


 氷上の返事を聞いて、アメリアは肩を落とした。


「先生、じゃあ俺達は休んでますよ。さっきの戦闘で俺もアメリアも疲れてますから」

「ああ、そうだな。今日のところはそうするしかなさそうだ。各自部屋に帰って休んでくれ」

「トールは? どうするの?」


 ノートPCから目を離さない氷上に向かってアメリアが心配そうな顔で声をかける。


「ああ、私なら大丈夫だ。湯村くんの状態を把握したら一眠りするさ。じゃあ、明日朝8時にこの部屋に集合ということにしておこうか」

「……I agree、わかったよ」

「お疲れ様です」


 部屋から佐倉とアメリアが出て行くと、氷上の部屋はキーボードを叩く音だけが響き続けた。





 氷上の部屋を出た佐倉とアメリアは、自分たちの部屋に向かって歩いていた。だがふと、佐倉がマンションの階段を降り始める。


「サクラ? どこ行くの?」


 佐倉はアメリアに呼び止められ、振り返ったが、その表情はいたずらを見つかった子供のようであった。


「いや、なんだその。ちょっと散歩でもと思ってな。夜風にでも吹かれようかってな」


 それを聞いたアメリアは鼻をピクッと動かすと挙手をした。


「はいはいはーい! 私も行く! 夜風に吹かれたい!」


 ここはシェルター内なので当然夜風などは吹いていないのだが、アメリアには佐倉の意図することがわかった。


「でもサクラ、いいの?」

「何が?」

「さっきのトールの説明。ソウ抜きで戦うと、survival rateが下がっちゃうんだってよ」

「鯖……? なんだそりゃ、まあ湯村がいなけりゃ不利になることはわかってるよ」


 それを聞いたアメリアはニマっと笑うと、佐倉の顔を下から覗きこむ。


「やっぱ行くんだ?」

「っと、汚ねぇぞ。誘導尋問って言うんだぞ。それ……」


 と、佐倉が膨れっ面でアメリアに答えたとき、二人の携帯が震えてメールの着信を知らせた。


「……なんだって?」

「気をつけて行けってさ。裏口からの進入路も添付してあるよ。ったく何だよ。湯村がへばってる時くれーカッコつけさせてくれよ」

「多分eternally、無理だと思うよ」


 佐倉とアメリアはマンションのある住宅街を抜け、AAAの本部のある市街地へと向かった。





「遺伝子能力の更なる可能性、ですか」


 ノートPCに目の細い男性が映っていた。メーカージャパンの幹部、かつ関東第2高校の教頭の林田永一である。


「そうだ。いつも相談に乗ってもらって済まないな。別に君は、サイエンスが専門であるわけではないということはわかっているのだが、私の知る人間の中で最もその知識があって、なおかつ口の固い人間を、君以外に知らなくてな」


 氷上は机に足を放り出し、ソファーにもたれ掛かった状態で林田と話していた。


「構いませんよ、欲を言えばキツ先生がいれば、校長先生のお相手にもなったでしょうが」


「ナオキか。その名前久々に聞いたな。あいつは神出鬼没でいつ逢えるかわからないし、その上我々がやっていることに彼を巻き込むわけにはいかないからな。ま、相談相手としてはあいつ以上の人間はいないんだが、君もよく話を聞いてくれるし、何より君は私と共に戦ってくれると言ってくれている人間だ。今は君が最適な相手だよ」

「恐縮です。して、今回の本題はどういうことでしょう? 湯村くんが倒れたことと、なにか関係が?」


 林田は、氷上がキツ=ナオキのことを話したがらない様子を感じ取って、話題をもとに戻した。Dr.naokiというのは、海外で氷上が研究をしていた時代に同じラボに居た男性だ。日村とは違って、本当の意味の天才である。当時10代前半の冴え渡る氷上と互角以上に張り合える日本人の研究者であった。ただし、氷上が研究室を離れてからというもの、Dr.キツの行方を知るものは居ない。


「これは私の仮説なんだが……」


 氷上は林田に、湯村の遺伝子構造に関する疑問を投げかけ始めた。




 そのころ関西シェルター、オーバーカラムの入り口付近で、一人の男が地上から入ってきていた。


「やれやれ。久々に日本に帰ってきたと思ったら、どこもかしこもテロリストだらけになっているとはね。日本はどうなっちまったんだ?」


 男は白い長袖のカッターシャツに茶色の綿パンを履き、大きなリュックを背負っていた。男は周りを見渡すと、歩いていた迷彩服の男に声をかける。


「エクスキューズミー。あ、すみませーん。ちょっとお尋ねしたいんだが……」


 男が話しかけた人間はAAAの兵士であった。AAAの兵士はオーバーカラムの入り口から突然中に入ってきた怪しげな人間を訝しむように見る。


「おい。お前、どうやってそこの入り口から入った?」

「え? いや、入り口に人なんていなかったけど?」

「嘘を付くな! オーバーカラムを外から入るには3重の警備とセキュリティーを越えねば入れないようになっているんだ。貴様、何者だ?」


 男はやれやれといったジェスチャーをすると、その兵士に向かって人差し指をつきだし、何かを言った。すると兵士は急に目の前の男に対して急に興味を失ったように追求を止め、元の方向へと歩き出す。


 男は兵士が離れていくのを見てやれやれと肩を落とすと、周りをキョロキョロと見回した。


「日本に軍隊はいないはずだからコスプレのおっさんだと思ったんだが……違ったようだな。同じような服を着た人間がちらほらいるな。こりゃ、知り合いでも探さないと状況把握は難しそうだ」


 そして男は空を見る。


「あー誰だっけ。あいつだよあいつ。あいつがいれば一番いいんだがなぁ……川上……だっけか。いやなんか違うような」


 独り言を呟きながら、男はシェルターを中心街に向かって歩き始めた。

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