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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第三章 関西遠征編(下)
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消えた少年、消えた少女

 黒い電子の球体――――それは、中に入った全てを焼きつくす超高エネルギーの電磁波であった。湯村の生き別れの弟、湯村光はその前に立ち、自身の能力を発動した。それは、湯村とよく似た能力であった。


 光は赤いウインドウの一つを読み取ると、何かを唱える。


「コード CCx34209 6767F963-82EE0FE に関して干渉、領域 042x733 Nullへ」


 シェルターが壊れるかと思うほどの轟音が響いた。土煙が起こり、辺りに生暖かい風が吹き抜ける。


「うわっ」


 近くに居た湯村はその風に吹き飛ばされ、氷上の辺りに転げていった。


「大丈夫か、湯村くん。何が起こった?」


 土埃を白衣でガードした氷上が転がってきた湯村を気遣う。松明が消えたのか辺りは本当に真っ暗になっていた。氷上は白衣の内側からペンライトを取り出し、周囲を照らした。


 黒い球体のあった場所には『黒』が立っていたが、その表情は青ざめているようであった。『黒』は目の前にいる少年に対し、やっとの思いで質問を紡ぐ。


「な、何をしたんだ……?」


 使い方を間違えれば地球すら壊しかねない威力であったはずの『黒』の攻撃は、突如やって来た同じ顔の少年によって一瞬でかき消されてしまった。


「君の電磁波は危険だから消させてもらったよ。君の体の中の電子もね。もう君はすぐには次の攻撃ができない。それでもまだ戦うかい?」


 光は、『黒』にそう問いかける。『黒』は悔しさを顔ににじませながら懐から何かを取り出した。


「『黒』だ。撤退する。応援を頼む」

「無線機! 逃すかよ……」


 湯村が追いかけようとするが、足が動かない。


「あ……れ……?」

「次はこうは行かない。まあ、会うこともないかもしれないがな」


 無線機を使用して10秒も経たない内に場に変化が起きた。ジェット機の飛行音が聞こえてきたのである。


「シェルター内に飛行物体だと? どこから侵入したと言うんだ!」


 シェルターの構造を熟知した氷上が驚いて叫ぶ。だがあっという間に小型ジェット機は『黒』をワイヤーで回収すると、暗い空へ向かって一瞬で飛び去ってしまった。


「馬鹿な……シェルターに私の知らない構造が存在する。そうとしか考えられない」


 真剣な顔で思索に耽る氷上の横では、湯村が生き別れの弟と再開を喜び合っていた。


「光、わかるか? 兄ちゃんだぞ」


 だが光は、少し寂しそうに笑って頷いただけだった。そして光の周りを光が包み込んでいく。


「時間かな。まだそんなに長くは……いられ……」


 最後まで言葉を紡ぐことも出来ずに光は湯村の前から蒸発するように消えた。


「光! 待ってくれ、光! お前は……」


 慌てて湯村が光の手を取ろうとするが間に合わない。


「光、どこへいったんだ、光!」


 その声は、真っ暗な関西シェルターの中へ虚しく消えていくだけだった。





 一方その頃、『黒』の放った攻撃が霧散した情報は、街にいた蓮波のところへいち早く伝わっていた。なぜなら、橘との連絡が途絶えてしまったからである。


 橘はAAAのリーダー的立ち位置にいるが、次席は蓮波にある。命令系統を順にたどった末、『黒』と交戦した部隊は報告を蓮波へと上げたのであった。


「そう。わかったわ。『黒』は消えたのね。これはチャンスだわ」


 蓮波は不気味な顔をさらににやけさせて現場の部隊へある作戦を伝えた。


「どうしたんですか?」


 部下の南が不思議そうに蓮波に尋ねる。


「なんでもないわ。昔やり残していた仕事を片付けるだけよ」


 蓮波はそう言いながら、AAAのオフィスへと戻っていった。





 30分後、蓮波の連絡により変電所での送電が再開し、オーバーカラムに灯りと電力がもたらされた。凍っていた交通網が復旧し、街は事故の後片付けを始めていた。


 AAAの部隊はとっくに引き上げてしまったが、湯村達はまだ開発途上の商業地区に残っていた。


「柏木ー。どこだー」

「美月ー。おーい」


 そう。シェルターの灯りが復旧する前から柏木が姿を消していたのである。先ほどの戦闘で柏木の携帯は故障してしまったのか、通話不能でGPSもたどることが出来ないでいた。


「まあ、電子を操る敵だったからなぁ。うちのはかなりの精密機器だから相性も悪かったんだろう。まあ、携帯が壊れたのはいいとしても、本当にどこいったんだ? 美月は」


 皆で辺りを捜索すると、アメリアが何かを見つけ、皆へ呼びかけた。


「Hey! これ、ミツキのアクセサリーじゃない?」


 湯村が取り上げて見ると、確かに柏木がいつもしている髪留めであるようだった。それを見た氷上は急にしゃがみこんで地面を見始めた。


「どうしたんスか? 先生」


 歩み寄ってこようとする佐倉を氷上が制止する。


「動くな、佐倉。湯村とアメリアもだ。それ以上ここを歩き回るな。体重は74kg、身長は180ってとこか。歩幅が規則正しく、訓練された様子の……まあ先ほどのAAAの兵士だろうが……ふむ、ふむ」


 しばらく地面を見ていた氷上は急に立ち上がると、商業地区の出口に向かって走り始めた。


「どうしたんだ、氷上?」

「99.9%の確率で、美月はAAAの連中に誘拐された」

「なんだって!?」


 湯村が周りを見回しながら驚きの声を上げる。


「完全に油断していたな。橘とかいう男もいつの間にか居なかったしな。あいつの仕業かもしれん」

「いや、あいつはひょっとすると電子の攻撃に巻き込まれたのかもしれない。一番前にいたからな」


 湯村は先ほどのシーンを思い出して氷上に答えた。


「いずれにせよ、『黒』がいなくなった途端、やつらは我らの寝首をかきにきたというわけだ。やってくれるよ! まったく!」


 氷上は忌々しそうにそう言った。


「マジかよ。卑怯すぎるだろ」


 佐倉も怒りをあらわにした。だが怒っても状況は改善しない。4人はひとまず、柏木の救出に向かおうとした。だがその時、湯村が大きく体勢を崩して倒れた。


「なんだ……この感じは……まさか制限時間?」


 まだ余力を残していたはずの湯村は突然の睡魔に襲われ、抵抗する余裕もなく意識を刈り取られて倒れてしまった。


「なぜ、今湯村くんの限界がきたんだ? 確かにハードな戦いだったが演算上はまだ能力が切れるはずはないのに……」


 氷上は湯村の状態を推察し始めるとともに、これからの状況に対する指示を考え始める。


「先ほど死にかけたってのに忙しいったらないな、全く。佐倉、とりあえず湯村を運べ。皆で中心街の方へ向かうぞ。兵士達の足跡を辿るんだ」


 そうして4人は商業地区を後にし、柏木の救出へと向かうのだった。

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