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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第三章 関西遠征編(下)
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共闘

 可聴域ーーーー人の聞き取ることが出来る音波の範囲を言うが、これは人によって異なる。『夜』が出現したとき、真っ先に異変に気付いたのはアメリアであった。


「Something strange……。なんだか変な音が聞こえない? トール」


 アメリアはそう言うと、両手を耳に当てキョロキョロと辺りを見回し始めた。


「空耳じゃね? 俺は何も聞こえないぜ」


 佐倉もアメリアに倣って耳を澄ませるが、彼には何も聞こえていない様子であった。


「ううん、絶対聞こえる! テレビとか電機製品が、時々こういう音するんだよ。キーンて」


活性化アクティベート


 アメリアのその言葉を聞いて、能力活性化のキーワードを唱えたのは湯村だった。


「双?」


 柏木が不思議そうな顔で湯村の事を見た。すると、遺伝子の活性化を終えた湯村が目を覚まして答える。


「美月、佐倉、アメリア。能力を活性化させておけ。恐らく『夜』がやってきた。そうだろ? 氷上」


 湯村の言葉を受けた氷上が、視線を大通りから離さないまま頷くと、残る三人も急いで遺伝子を活性化させた。





 橘も異変に気付いていた。兵士達に渡していた無線機の位置反応が一カ所、突然ロストしたのだ。橘は急ぎ無線機のマイクを取り、全隊に通信を飛ばす。


「こちらSH、こちらSH、ポイント025交差点にて『夜』の発生を関知! 全隊、ポイント025を包囲せよ!」

「え? 見てないわよ、あたし。どうして出たってわかるの?」

「勘ですよ、蓮波さん。さ、僕らも行きましょう」


 そう言うと橘は機材を持って立ち上がり、テナントビルの階段を降り始めた。


「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」


 大柄で色黒の金髪オカマは、立ち上がると橘の後を内股歩きで追いかけた。


 橘が通りに出ると、辺りは午前だというのに夕方のような暗さになっていた。シェルターの照明が何らかの理由で部分的にダウンしているのだ。橘は視線を空へ向け、より暗い方の空を追う。そして、先程の仮説に更なる確信を持った。


「こちらはポイント025の方向ですね。電機バイクは……なるほど、やはりエンジンの立ち上がりが不安定ですね。ではあそこにいるのは……」


 橘は独り言で何やら呟くと、自転車にのって走り始めた。





 025交差点、そこは氷上達のいるテナントビルからそう遠くない場所であった。


 ビルから出てきた彼等が見たのは、不自然に暗くなったシェルターの一区画と、その内部で膨らんでいくさらに暗い色をした球体の闇であった。球体は、今や四階建てのビルをすっかり包んでしまうほどの大きさである。


「この間はとてもじゃないが、振り返っている余裕がなかったが、これが『夜』ってやつか。で、どうするよ、湯村。この中に突っ込んだとこで、黒いシミにされておしまいなんだろ?」

「ああ、何とかして中にいる奴を引っ張り出さなきゃならないんだが……氷上、何かいい考えねぇか?」


 湯村は氷上の方を期待する目で見る。


「ったく。の●太くんは人使い荒いなぁ。アメリア、ちょっといいか」


 氷上がアメリアに耳打ちすると、アメリアは二つ返事で了承した。


「わかったよ、トール。あの球体を狙えばいいんだねっ」

「そうだ、奴の能力は何らかの原理で物質を分解するが、空気まで分解してしまえば中心となる奴は酸欠になるだろ? つまり、奴は空気までは分解していない。アメリアの攻撃なら、届くはずだ」


 アメリアは『アメリア用圧縮空気』と書かれたボンベにチューブを付けて先端を口に含む。そして、ボンベの中身を思いっきり吸い込んだ。


 それは、氷上がアメリア用に調製した、二酸化炭素濃度を高めにした空気ボンベであった。その空気を吸い込んだアメリアは、両腰のホルダーにしまってある空気銃を取り出すと、中へ息を吹き込んだ。二丁の弾倉に表示してあるカウンターが一気に満タンを示し、アメリアの特殊空気銃が使用可能となる。


「行け! アメリア! お前の耳で、一番音が強い場所を狙うんだ」

「OK! クロフネに乗ったつもりでいてね」


 アメリアは右手に持った銃で、黒い球体のある場所へ狙いを定めた。


「音が一番強い場所は……ここね! 透明の弾丸インビジブル・バレッド精密射撃スナイピング・ショット!」


 目には見えないアメリアの弾丸が、黒い大きな闇へと吸い込まれていった。その直後、鈍い音がしたと思うと黒い球体は形を大きく変形させ、不安定になっていく。そして最後に黒い塊は、霧のように散っていった。


 黒い霧が晴れていくにつれ、周囲の街灯や天井の照明が明かりを取り戻し始める。黒い球体があった場所はテナントビルが地面に黒いシミとなって残っていた。


 そして、その中心にはーーーー


「……こう!」


 ジーパンにTシャツ、その上からグレーのパーカーを羽織り、黒い髪の少年が胸を押さえながらうずくまっていた。


 少年は顔を上げる。その顔は映像にあった通り、湯村と全く同じ顔をしていた。その少年は、自分の方に向けられている銃の存在に気付くと、アメリアに向かってゆっくり右手を突き出した。


 それを見て、氷上が湯村に向かって叫ぶ。


「湯村くん、アメリアを避難させろ! やつは……!」


闇い雷光(ブラック・ライン)


 少年の手から黒い光がジグザグに走り、アメリアに襲いかかった。


「アメリアちゃん!」


 柏木が悲鳴のような声を上げるが、もうそこにはアメリアの姿はなく、黒いシミだけが残っていた。


「っと、危ねぇ。予告もなしに攻撃してきやがった」


 少し離れた場所に、アメリアを高速で避難させた湯村と、抱きかかえられたアメリアがいた。


「なんだ、さっき街灯があったところがシミになっただけか。驚かすなよ」


 アメリアが居た辺りに残されたシミを見て驚いていた佐倉がほっと胸をなで下ろした。


「……避けた?」


 目を細め、怪訝な顔をする少年。その顔が湯村の方を見る。


「お前か?」


 少年は湯村に尋ねるように言った。湯村は抱きかかえたアメリアを床に下ろし、少年に歩み寄る。


「どうかな。教えてやってもいいが、その前に一つ教えてくれ。お前は、誰なんだ? 光という名前に聞き覚えはないか?」


 少年は、少し考えるような素振りを見せた後、短くこう答えた。


「『くろ』」


 そう言うと、『黒』はその場から姿を消した。そして、一寸後にまたアメリアの前に姿を現す。


「いつの間に!?」


 湯村が振り向くが、その時にはもう、『黒』はアメリアの腕を掴んでいた。


「捕まえた。今度こそ、殺す」


 そういうと、アメリアを掴んだ『黒』の右手に暗い光が輝き始める。


「嫌っ……!」


 アメリアが必死に抵抗するが、逃げられない。だが近くにいた、白衣の女が『黒』の攻撃を阻んだ。


高速並列思考ニューロ・アクセラレータ()()()()()()。少年はアメリアを持つ手を放し、私の蹴りを食らってふっ飛ぶ」


 言うと同時に、氷上は『黒』の方向へ思いっきり脚蹴りを放った。すると、『黒』は自分に対する攻撃を警戒して氷上の方を一瞬見る。その隙にアメリアが『黒』の腕を捻って投げ飛ばした。投げ飛ばした先が偶然氷上の足先へと誘導される。


「油断したか? いや」


 『黒』は少し笑いながら氷上の蹴りをまともに受ける。そして、空中に飛ばされたところでその姿を霧のように消すと、黒い雷光と同時に少し離れたところへ現れた。


「手強いな。『写真屋』」


 そう呼ばれて出てきたのは小さな情報屋、『写真屋』サムエルであった。


「サムエル! 君はそいつの味方なのか!? ……いや、そもそも君達は何者なんだ?」


 氷上は驚いて小さな少年に話しかけたが、その声は、周りの喧騒によってかき消された。


「メーカー・ジャパンの一派だな! ここに現れることはわかっていたぞ! 全体、突撃用意!」


 氷上達の周囲をAAAの軍隊がいつの間にか包囲していた。近接部隊、銃撃部隊、確認できる範囲でも狙撃部隊も配備されているようすであった。先頭にいた部隊長と思われる男が、親の仇でも見つけたかのように氷上達を睨みつけてきた。


 そして、その部隊長の後ろから、見覚えのある銀髪が姿を現す。完全に挟み撃ちになったと思った湯村達であったが、銀髪の少年から発せられた言葉は、彼らが予測していなかった言葉であった。


「部隊長、違いますよ。確かに彼らは我々にとっての脅威てす。ですが、今我々が撃つべきなのは」


 そう言って橘は、灰色パーカーを着た少年を指差した。


「彼です。何故なら彼こそが我々がこの数ヶ月、多大な被害を被ってきた『夜』の原因なのですから」


 氷上は驚いて、橘に問いかける。何故かこの男のやることは、彼女の未来演算の穴を容易くすり抜けてくる。


「貴様、何故……」

「敵にわざわざこちらの思惑を明かすほど、僕は優しくありません。精々うちの兵士に背中を撃たれないよう、ご忠告申し上げたまでですよ」


 それを聞いて、氷上は少し面食らったような顔をしたが、すぐに気を取り直すと鼻で笑い返した。


「ふっ、貴様等こそ、我々の邪魔にならんようにするんだな」


 そして、氷上達とAAAの一団は共に『黒』に向かって戦闘を開始する。


「アメリア、『黒』に向かって射撃を続けろ、あいつが弱ったら佐倉と湯村がトドメを刺せ」

「全軍、照準を改めろ! 目標は、グレーのパーカーだ! 相手はあの『夜』だ! 躊躇わず仕留めろ!」


 AAAとメーカー・ジャパンが初めて手を組んだ一戦であった。だが、四面楚歌な状況にもかかわらず、『黒』と『写真屋』はたじろぎもせず、不気味にそこに佇んでいた。

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