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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第三章 関西遠征編(下)
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VS 成宮一団

 翌朝。関西中央第3高校では、いつもより明らかに多くの学生が登校していた。普段さぼりがちな不良達が勢揃いで学校へと向かっていたからである。


「な、なんだこの騒ぎは……」


 職員室から窓の外を見下ろした教師はその光景に背筋を凍らせた。


 校庭を運動会でもあるかのように埋め尽くしていたのは、いずれも人相の悪い学生ばかりであった。手には物騒な武器を所持している者も見受けられる。


 前代未聞の事態に、職員室は朝から緊急会議となった。


「――――先生方のだれか、この異常な事態の原因を知るものはいないかね?」


 教頭が周りを見渡すも、教師陣にその答えを持ち合わせている者は居ないようだった。やがて、バーコード頭をした数学の教師が、諦めたように一つの意見を出す。


「ま、言いたくはないが、成宮絡みなんじゃありませんか? 見れば、校庭に集まっているのは物騒な連中ばかりだ。関わらない方が身のためというものでしょう。先だって深川先生が彼に命を奪われた事件、この場にいる者なら記憶に新しいはずです」

「いや、しかし他校の不良まで集まっているようですぞ。こ、こんなことがPTAに知られたら、一体なにを言われるか」


 関わりたくはないが、このまま見ているわけにもいかない。それが、職員室一致の見解であった。だが、「誰がどのように対処すべきか」という問題に移ったとき、会議は膠着状態に陥った。


 幾ばくかの時間が経過した後、職員室の静寂を破るように、校庭から不良学生たちの声が聞こえてきた。


 校庭の不良達は総勢300名程だろうか、各々メリケンサックやら釘バットやらで武装していた。その中を、一人の生徒が校門をくぐってやってくる。不良の群はその姿を認めると、校門のところで真っ二つに割れた。


 やがて、その生徒――成宮善次郎は不良達の中央へやってくると、ようやく口を開く。


「ご苦労。こないに朝早うから来てくれて、おおきに」


 わっと、校庭に歓声が湧いた。成宮が彼らの中で、いかにカリスマ的な存在であるかを示すかのようであった。


 それを屋上から見ていた湯村達は、敵の団結力と成宮の人気に感心していた。


「おお。ヒーロー様の登場だな」

「早々に引きずり下ろしてやるがな」


 湯村と佐倉が口々にコメントする。


「二人共気をつけるようにな。君達の携帯に入っている遺伝子活性化プログラムは、もうアップデートが終了している。高度な能力を使用すれば恐らく、使用時間の短縮もありえる」


 屋上で一番高い場所に登った氷上が、甘くしたコーヒーをすすりながら二人に忠告をする。成宮を始めとするこの関西オーバーカラムに居住する不良たちが集まった理由は、昨晩行った氷上達の工作によるものであった。





 時間は昨夜に遡る。


 慶宝恩寺の横にある一際大きな豪邸――――成宮邸では、成宮が父親の棚からくすねてきたウイスキーを仲間と飲みながら、ロックを大音量で聞いているところだった。


 そこへ、ノックをして執事が入室のお伺いを立てる。


「坊ちゃま、バイク便が届きました。何やら封書が届いております。坊ちゃま……? いいですか、入りますぞ」


 ドアの向こう側からでも大音量のロックが聞こえてくるぐらいだ、当の成宮が扉の外の声など聞こえているはずもない。執事は渋々扉を開けた。ドアを開くと音の洪水が執事に降り注ぐ。執事は鼓膜が破れるかと思うほどの音の波をかき分け成宮のところまで歩いた。


「なんや、封書か」

「はい。いつものように爆発物や薬物等は検査しておりますが、入っておりませんでした」


 この成宮家は、息子である善次郎の素行があまりにも悪いため、爆発物や薬物の類が封書に込められてくることがしばしばあるのだ。


「ああ」


 成宮は執事の方を見もせずに封筒を開ける。成宮が封筒を開けているのを見たからか、踊っていた仲間の一人が寄ってきた。


「成宮さん、手紙っスか?」


 だが、成宮はそれには答えず、手紙の内容を静かに目で追った。そして封筒に一緒に入っていた写真を何枚か見た時、普段無表情である成宮の表情が少しだけ変化した。それは、彼に親しい人間にしかわからないほどの変化であり、そこにいる彼の仲間も、執事もそのことには気づかなかった。


 成宮は感情を表に出さぬように気をつけながら、側近の名を呼ぶ。


中也ちゅうや

「ウス」


 荻原中也おぎわら・ちゅうやは名前を呼ばれると、逆立った髪を整えながら彼の元へと駆けつける。


「中也。人を集めろ。明日は戦争になる」

「え? ええ? せ、戦争っスか? 相手は?」

「わからん。そやけど、明日俺らを潰そうとする連中が第3高校まで来るっちゅう手紙がきよった。時間は9時」 


 荻原は急な展開に目を白黒させる。


「い……いや、つっても今の時間からじゃ、あんま人集まら……」


 言いかけて、荻原は成宮の目を一瞬見た後、台詞を変更した。


「……集まりそうっすねー、戦争かー。いやぁ、楽しみだなー」


 と、いいながら、荻原は人を手配するべく足早に部屋を出て行った。成宮は持っていた手紙を握りつぶし、ゴミ箱に投げ捨てて部屋を出ると、静かなソファーのある部屋に行って横になった。


「なんぼ力でねじ伏せても、過去って奴はいつまでも追いかけて来やがる」


 成宮が捨てた写真は、今から三年前、成宮が最初に犯した殺人の決定的な証拠写真であった。


 犯人と名乗る男の自首もあり、成宮もまた証拠不十分であったため、最終的に警察は自首してきた真天階宗の教徒を犯人として逮捕したが、この写真があれば結末は違っていただろう。


 氷上は成宮を誘き出すために、『写真屋』サムエルからこのデータを買い取り、手紙に仕込んだのだった。


『この写真、公開されたくなくば明日の朝9時、校庭に来るがいい。なお、ついでに潰してやるから、兵隊の御準備、よろしくね』


 差出人の名前は「メーカー・ジャパン」となっていた。成宮には思い当たる節のない名前だ。


 だが、あの写真が存在するという事実は、成宮の心の底にある古傷をかきむしるのに十分なものだった。


 それは、彼が初めて人を殺したときの写真。


 成宮が、彼の愛する人間を殺してしまった瞬間を撮ったものだった。四方八方に手を回し、親父に頭を下げてまで証拠を潰した。そして成宮自身も、記憶の片隅へ追いやった苦い罪であった。


 その写真を持つ人間が居る。それは彼にとって許しがたい事実であった。





 時間は現在へと戻る。成宮が到着し、校庭から見える校舎の時計が9時になろうとしていた。


「まもなく時間だ。湯村くん、佐倉くん、準備はいいか?」


 腕時計を見ながら氷上が二人に話しかける。湯村は校庭を見下ろしながら頷き、残るアメリアと柏木に言った。


「アメリア、美月、手を出さなくていいからな。これは、俺たちの戦いだ」

「うぅー。でもでもっ、危なくなったら行くからねっ」


 湯村はそれを聞いて軽く頷くと、佐倉に向かって目で合図する。二人は携帯のイヤホンを耳に当てると、携帯電話に向かって能力を発動するキーワードを唱えた。


「「活性化アクティベート!」」


 二人の遺伝子を氷上のプログラムが駆け巡る。数秒後、湯村と佐倉は静かに目を開けた。


細胞編集者コードライター、コード A2x001202 00325503 から 570 に対して書き込み、パラメータを十六進数で0001から00FFへ」


 湯村は目を開けた直後にすぐさま青い情報ウインドウを展開すると、手早く速度コードを発動した。佐倉は、確かめるように両手を開いたり閉じたりした後、屋上の地面を蹴った。


 校庭で敵を待つ荻原は、時間通りに人が集められたことに安堵していたが、9時に近づき始めるにつれ、今度は敵が来ないかもしれないという心配をし始めた。


「メーカー何とかって奴ら、本当にくるんスかねぇ。もし、これで誰も来なかったら、流石の成宮さんでもここに集まった血の気の余った連中を押さえられねぇと思うんスよねぇ」


 それを聞いた成宮は、荻原の後ろの方を見ながら答える。


「……その心配はなさそうやな。お客さんやで」


 成宮が見た方向へ荻原が顔を向けると、学生服を着た金髪の少年がいつの間にかそこにいた。


「よっと」


 そして、屋上から湯村に遅れて、佐倉が4階ほどの高さから降りて着地する。二人の登場に周りの不良たちは少々面食らった様子であったが、成宮は落ち着き払っていた。


「手紙の差出人はお前やったんか。あの傷で、よぉ生きとったな。まあ、ええわ。お前等がなんであの写真持ってたんか知らんが、とりあえず五体不満足にしたあと、聞かせてもらおうか」


 成宮は二人を見てそう言うと、全体に向けて命令を飛ばす。


「殺れ」


 その一言を皮切りに、不良の集団は暴徒と化した。金属バットや日本刀を持った高校生が血走った目で湯村と佐倉に突進してくる。


 それを見た湯村と佐倉も、敵に向かって走り始める。


 次の瞬間、金髪の少年が成宮の視界から消えた。と思うと、校庭の端っこにいる20人くらいの不良が同時に宙に弾き飛ばされた。


「な……」


 成宮、荻原だけではなく、その場でその光景を目にすることが出来た不良たちは開いた口がふさがらない。


「なんや、お前は!」


 荻原の質問に湯村が答えた。


「昨日転校してきた、湯村だ。趣味はゲーム全般。よろしく先輩」


 金髪の不良はニヤリと笑うと、ゆっくりと荻原の方へと歩いていった。

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