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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第三章 関西遠征編(下)
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『夜』

 白髪のおかっぱの子供は『写真屋』であった。彼は冷蔵庫の中からふわりと出てくると、勢い良く


 ……


 ……転んだ。


「ふ、ふえ……」


 おかっぱの子供は泣きそうになるのを必死に堪え、立ち上がる。膝についたホコリを払い、鼻水を啜るとそこでようやく氷上に話しかけてきた。


「僕がしゃしんやで……へっくしゅ!」


 氷上は一瞬、何を言っているのかわからなかった。しばし逡巡したのち、おおと手を打つと返答する。


「……おお。写真屋と言ったんだな? 今」


 腰をかがめ、握手を求める氷上。すると写真屋は気分を良くしたのか、氷上の右手を両手でぎゅっと握ると、笑顔で挨拶を返す。


「そうでしゅ。オーバーカラムへようこそおこしくださいました、氷上博士」

「その名で呼ばれるのは随分久しぶりだ。写真屋……失礼、名前をお伺いしてもいいのかな?」


 氷上は子供であることは一旦忘れ、努めて一人の大人に接するように接した。見かけは子供であるが、この子供こそがあの『写真屋』であるならば、恐るべき”目”を持つ情報屋である。失礼を働いて敵に回すようなことはしたくなかった。


「氷上博士はきれいな人だから特別に名前を教えてもいいです。僕はサムエル・ロームフェルト。オーバーカラムの情報屋をやっているのです」

「よろしく、ミスター・ロームフェルト」

「エル、でいいです。親しい人はみなそう呼ぶです」


 氷上は頷いた。『写真屋』ことサムエル・ロームフェルトの話によると、氷上の写真屋を呼び出すアプローチは間違っていなかったらしい。ただ、AAAが関西シェルターを占拠するようになってから、むやみに姿を見せられなくなったため、相手と一対一で話せる環境になってから姿を表わすようにしているとのことであった。


 サムエルは氷上の役所での話をひと通り聞いた後、彼女の遭遇した暗闇についての情報を話し始めた。


「氷上博士は『夜』に出会ったですね」

「夜?」

「今シェルターであの現象はそう呼ばれているです。でもこれ以上は……」


 そういうと、サムエルは自らの手をさっと差し出す。


「そうだ、君はキャッシュで動くのだったな」


 氷上はサムエルの意図を理解すると、白い住民カードを取り出し、サムエルの小さな掌に置いた。


「どうぞ」


 サムエルは手のひらに置いただけでカードを氷上に返した。


「……まさか、電子マネーを手のひらで読み取って回収したのか?」


 聞くと、サムエルはこくんと頷いた。


「電子情報を肌で読み取ることができるです。僕の身体は、生まれた時からそういう風にできてるですから」


 氷上はサムエルの境遇に思いを馳せる。推測でしかないが、この子は日本で生まれ、日本で育ったのではないだろうか。氷上や湯村よりも見た目の年齢がぐっと下だ。となれば、遺伝子に影響を受けた両親の子供ということになる。生まれながらにして、かなりの異能を有してしまったのだと見受けられた。


第二世代セカンド・ジェネレーションか……」


 遺伝子異常の掛け合わせが、将来的にとんでもない能力者を生む可能性あることは、なんとなく予期していたことではあった。


 ふと、氷上はサムエルの方へと目を向ける。彼の目は氷上をまっすぐ見ていたが、どこか焦点の合わない目つきをしていた。


「エル、君は……失礼だが、見えないのか?」


 聞かれて、サムエルは寂しそうに頷いた。


「そうです。目で見えない波を、生まれた時に身体でみることを覚えたぼくは、目に入る光を認識できなくなったです。でも、大丈夫。氷上博士の顔は、監視カメラから送られてくる電波で視ることはできてるですよ」


 そう言うとサムエルは、空中にあるキーボードに手を伸ばすような仕草をしながら、氷上に該当する情報を提示する準備を始めた。


「データベースせつぞく」

「驚いたな、サーバーもツールなしでアクセスか」


 氷上の驚きには表情も変えず、サムエルは話し始めた。


「……『夜』が初めて現れたのは三ヶ月前になるです。神出鬼没でどこに現れるかは不明。だけど、現れた後には建物も、人も、地面のシミに変えられてしまうです。今ディスプレイに出すです」


 氷上は先ほどの役所における『夜』との遭遇を思い出していた。彼等が避難した後、役所は消え去り、黒い消し炭になっていたことを。


 サムエルは氷上の部屋にあるPCを指さした。そこには、サムエルから送られてきた画像が表示されていた。


「なるほど、確かに私が今日見た現象と同じようだ」

「AAAはこの現象を自分達に対する交戦行動とみなし、昼に現れるこの現象に『夜』というコードネームをつけたです。ここ三ヶ月で合計26回、『夜』はオーバーカラムに姿を現し、14回、調査と事態の収拾を目的として、AAAの軍隊が出動したですが、ボロボロに負けて帰ったです。住んでいる人たちはAAAに対する抵抗勢力かもしれないと期待したですが、あまりに無差別に殺戮と破壊を行うので民衆の支持を得られませんでした」

「ま、そりゃそうだ。でなきゃあんなに市民が恐怖におののいて逃げ惑うはずがないからな」


 それから、氷上はいくつかの情報をサムエルから購入した後、夜になって全員に招集をかけた。





 湯村の部屋に集まった、氷上・佐倉・柏木・アメリアは、湯村の部屋に取り付けられたPCを用いて、サムエルから聞いた情報を共有した。


「つまりあの現象は敵の攻撃じゃなかったというわけだ。てっきりAAAがオーバーカラムに来た我々に攻撃してきたのかと思っていたがな。AAA自体も現在はあの現象に振り回されているというのが現状だ」


 湯村はそれを面白くなさそうな表情で聞いていた。


「けどよ、じゃあ何なんだよ、アレは。敵の攻撃でもないのに、タチが悪すぎんぞ」

「よかったじゃねぇか。敵の攻撃でもなんでもねぇなら、俺達はAAAだけを狙えばいいんだから」

「いや、直人、俺達がAAAと交戦中にアレが起きてみろ。今度こそ全員五体満足じゃすまないぞ」


 氷上も湯村の発言に頷いた。


「湯村の言うとおりだ。あれは、先に片付けておくべき案件だと私も思う。それに、我々がここへ来たもう一つの理由も絡んでいるから、尚更な」


 氷上はそう言うとPCを操作し始める。


「もう一つの理由?」


 そこで怪訝な顔をしたのは湯村だった。関西シェルターに来た理由、AAAからの関西解放と、後一つ。


「『夜』は根こそぎ辺りを破壊する現象だ。だが関西にある全てのカメラの電波を捉えることができる『写真屋』は、リアルタイムでその様子を見ていた。そして、そこに映っていたのがこの画像だ」


 氷上が取り出したムービーは、とある商業ビルが、突然黒い球体に包まれていき、消えていく映像だった。近くからの映像はカメラごと『夜』に巻き込まれ映像が途切れていた。


 だが写真屋はカメラを切り替え、遠方から観察を続ける。暗闇が晴れた後には、ビルの跡地が黒く焼け焦げ、煙が立ち上っていた。道路には人型をした焼け跡がいくつも見られる。


「That's pity……かわいそう」

「人が巻き込まれるとこうなるのか」


 柏木もそれをみて今朝の恐怖を思い出し、震えていた。


「私も、あの黒いシミの一つになっていたかもしれないのね……あれ? あれ人じゃない?」


 確かに、ビルの黒いシミがある真ん中に白い点がポツンとあった。あたりの様子を映し出している遠景のカメラから見ると、人のように見える。


「チッ……()()()()()()だよな」


 湯村の額に汗が走る。氷上がそれを受けて肯定する。


「湯村くん、残念ながらその直感は当たりだ。今画像を大きくする」


 黒いシミの真ん中に立っていたのは、拡大するとやはり人だった。グレーのパーカーにジーンズを履いた小柄な男性がビル跡地の真ん中に立っている。それを見た瞬間、佐倉が急に立ち上がって叫ぶ。


「すげぇ! こいつあの攻撃の中生き残ったのか!」


 それを聞いた全員が、佐倉をあきれ顔で見返す。


「お前馬鹿だろ。どうみてもこいつが、この現象の犯人だ。氷上。顔をアップ出来るか」

「ああ」


 氷上は湯村の言う通り、画面をアップにする。そのタイミングで画面の男はグレーのパーカーの帽子を脱ぎ、その黒髪と表情が顕になった。


「嘘……こんな、ことって」

「あれ? ソウ……だけど、ソウ……じゃないよね? これ」


 アメリアが画面と湯村を交互に見比べる。画面に映っていたのは、湯村と同じ顔をした黒髪の男だった。湯村の顔が苦痛に歪む。


こう……お前、なのか」


 画面の男は、焦土となった関西シェルター内を無言で立ち尽くしていた。

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