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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第一章 関東シェルター編
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AAA地方会

 氷上が「嫌な予感がする」と言って高校を出発する少し前、関東シェルターのある場所では、AAAの重役による会合が行われていた。年に数回行われる会合が今回急遽開かれることになった理由は、先日関東第2高校のテロが失敗したためである。


 薄暗い部屋に円卓があり、中央に置かれた丸い照明が周りに座る者達の顔を微かに照らしていた。


 円卓を囲む七名は各々不気味な仮面をしている。ある者は仮面舞踏会のような顔上部を覆うだけのマスク、またある者は獅子の剥製でできた被り物をつけていた。


 その中でも一際異様な雰囲気を放っているのは、茶色の四角い紙袋を被った男であろう。紙袋に描いてある不気味な落書きも、彼の不気味さに拍車をかけていた。


 紙袋の男は円卓の上座に座っており、一同へ向けて静かに低い声を発する。


「ようこそ、AAAトリプル・エー関東部会へ。諸君等の参加にまずは感謝したい」

「もぉ、挨拶はいいでしょ、中央リーダー。あの件を早くお話になって? 皆も聞きたいでしょうし」


 野太いオカマ声でそう発言したのは、顔のないマネキンの面を被った者だった。中央リーダーと呼ばれた紙袋の男は片手を上げてそれに応じる。


「西部リーダーがそういうのであれば。既に聞き及んでいるかもしれないが、またあの『謎の組織』が我らが尊い活動の妨げになったようだ」

「またか! このところちょこまかと我らの邪魔ばかり。核推進派の仕業に違いありませんな!」


 甲高い声で憤るのは仮面舞踏会マスクの男だった。悔しそうに拳を作り、ぎりぎりと歯ぎしりをして怒りをあらわにしている。


「彼らのことを核推進派などと、技術部リーダーはおっしゃるが、そもそも我々の活動は人々を核から切り離すことに役立っているのだろうか」


 その隣に座る、獅子の面を被った男は重々しい声で言った。


「北部リーダー様は穏健派ですからな。証拠もなく核推進派と決め付け、敵対視する我々のやり方が野蛮に見えるのかもしれませんな」

「互いの批判はよしたまえ。お互いの方針に不服があれば、それはまた別の会合で行う。本日は、その障害となった組織の戦闘員が、どういうわけかセントラル病院に入院しているという情報を、皆と共有するために集まっていただいたのだ」


 中央リーダーがそう口にすると、六人の幹部にそれぞれ異なる反応が見られた。思索に耽る者、イヤらしい笑いを浮かべる者、無関心を決め込む者。その中で、最初に発言したのは舞踏会風のマスクを被った男だった。


「その者の処遇、是非とも我らが技術開発部に委ねていただきたい。あの若田達の一団を退けた人間、どんな細胞をもっているか、科学者として純粋に興味があります。捕虜なら何をしても構わないでしょうし」


 くっくっく、と屈折した笑い声をあげる。それを見ていた全身包帯まみれの男が片手を上げ、発言した。


「いや、待っていただきたい。技術部リーダー殿。若田は我々の部下だった男。性格に問題こそあったものの、彼の任務遂行能力はかなりのものであった」

「そうか、そうか。それは悔しかっただろう、軍部リーダー。安心されよ、そちらの無念、かならずやこの日村が晴らしてみせよう」

「ですから待たれよ、と申しておろう! それぞれの部署が起こした不始末の責任は、それぞれの部署が初期対応を行う旨、規約にも記載があると思うが?」


 軍部リーダーは語気を強めた。技術部リーダーの発言から、軍部を無視して技術部が動くように感じたからである。そして軍部リーダーの懸念通り、技術部リーダーは驚くべき事実を発言した。


「いやいやいや。もう人は送ってある。軍部リーダー殿がわざわざお手を煩わせる必要はございますまい」


 それを聞いた中央リーダは、立ち上がって紙袋を外した。紙袋を外すと出て来たのは、肩まである銀髪をもつ、美少年であった。


「えー? マジですか」


 紙袋をとった途端、中央リーダーの口調は突然軽い調子に変わる。


「困りますよー、日村さん。これからそれを会議で決めるってあれほど言ったじゃないですか」

「中央リーダー、会合ですぞ。口調に気をつけられよ」


 中央リーダーと呼ばれる少年は、はたと気づくと、また元のように紙袋を被った。すると先ほどの少年のような雰囲気がたちどころに消え、重々しい口調でまた語り始めた。


「技術部リーダーよ、それはあまりにも礼儀知らずというものであろう。この度は軍部に任せるのが暗黙のルールであろう」

「しかし、会議でチャンスを逃すのもどうかと思いましてな。軍部リーダー殿、此度は私の一存で勝手に人を派遣してしまい、申し訳なかった」


 日村と呼ばれるその男は、包帯で仮装した男に対し深々と頭を下げ謝罪した。


「いえ、我々が甘かったのです。若田の手腕に期待し、バックアップの部隊を置いていなかったこともある。今回はお願いすることにしよう。しかし、万が一その技術部の方が失敗したあかつきには」

「もちろん、お任せしますとも」


 日村は釣り上がった口角のまま、丁寧に軍部リーダーに返答する。


「さて。では次の連絡事項だが……」


 会議は次の話題に移る。緊急招集会議であることもあり、他の内容はさほど多くもなかったようで、会議は早々に終了した。終了の挨拶を中央リーダーが厳かに宣言する。


「では、今回もこの言葉をもって締めくくりたいと思う。御唱和願いたい。『世界に平和を! 核のない地球を!』」

「「 世界に平和を! 核のない地球を!」」


 七人が拍手をしたところで、壁にある電話が鳴り響いた。紙袋の男が立ち上がり、受話器をとった。


「何用か」

「あのー、お時間あと5分になりますが、延長されますか」

「結構だ」

「それではお時間になりましたら2F受付の方、お願いします」

「了解した」


 受話器を置いた部屋に静寂が戻る。紙袋を取ると、また銀髪の美少年が顔を出した。突然また、雰囲気が一変する。


「やっぱり、会議室とか借りた方がいいですかね。皆様気をつけてお帰りください」

「中央リーダーが部屋を取ると、どうしていつもカラオケBOXになるワケ?」

「いやあ、だって安いじゃないですか。誰も警戒しませんし。仮装しても大丈夫ですし」


 紙袋をきれいに折り畳んで上着のポケットにしまいながら、美少年は柔和な笑みを浮かべていた。その笑顔からは、到底関東圏のテロリスト集団を取りまとめる首長のようには見えない。


「そもそもあたし、仮装する趣味はないのよ。好きなのは……は・だ・か。いやん、何言わせるのよ中央リーダーったら」


 顔のないマネキンがくねくねと身体を捻じ曲げながら中央リーダーににじり寄る。だれもが気味悪がったが、美少年は笑顔を崩さないまま大人の対応を続けた。


「だったら、次回は西部リーダー、次の会合の部屋とってもらえますか?」

「えー、無理よぉ。超メンドクサイ」


 マネキンマスクのオカマは即刻断ると、お面を外しながらいそいそと化粧を直し始める。そこへ、身支度を整えた技術部リーダーが足早に通り過ぎた。


「じゃあ、解散ということで私はこれで。先ほど病院に向かわせたうちのスタッフが気になりますし」

「あ、日村さん、待ってくださいよー」


 先ほどまで舞踏会の面を被っていた日村と呼ばれる男は、その仮面の代わりに銀縁メガネをかけていた。足早に帰ろうとする彼を中央リーダーが追いかける。他の者も仮装を解き、各々帰途についた。


 そんな中、中央リーダーの後ろ姿を見ながら西部リーダーがひとりごちる。


「中央リーダー、頭も切れるし、顔もいいし、この『悪の結社趣味』さえなければ完璧なんだけどなぁ」


 残念そうにオカマはため息をつく。マネキンの面を取って現れたのは、金髪のごついオカマだった。それに続き、部屋から出て来た男が剥製の頭を取りながら答える。北部リーダーは、浅黒い肌に黒の短髪をした、体格のいい男性であった。


「奴の本質はそこじゃない。お前は気付かないのか? こういうふざけた格好をしておいて、我々が行っていることの重大さや残酷さを麻痺させようとしている。我々がいつか、取り返しのつかない間違いを犯しても気付かないか、気付くのが遅くなるようにな。俺は果たして、その時にあの男を止められるのだろうか」


 重いが規則正しい歩調で、北部リーダーが去っていく。西部リーダーは、それをしばらく見つめていた。


「北部リーダー、あんなにシリアスに考え事をしちゃって、結構ありだわー」


 最後に残ったオカマは、皆が部屋に忘れ物がないか確認して、カラオケボックスの扉を閉めた。

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