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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第三章 関西遠征編(下)
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オーバーカラムの洗礼

 壁の中はトンネルのように黄色いランプが点灯しており、その中を5台の電話ボックスがモノレールのようにレールにそって滑走していった。やがてレールは螺旋の軌道を描き、上へ登っていく。恐らく模造通天閣の内部を上昇しているのだろう。


 しばらく上昇していた電話ボックスが再び水平移動の軌道に乗ると、5分も経たない内に同じような公衆電話ボックスルームへと出た。


『オーバーカラム・区域役所、終点です。この先の受付でチケットをお出しください。それが通行手形になります』


 電話ボックスに機械音声によるアナウンスが流れ、オルゴール音とともに扉が開いた。5人は荷物を持って電話ボックスを出る。


「なんだか……先ほどと同じようなお部屋ですね」


 柏木は辺りを見回した。見る限り、昇天閣の公衆電話ルームとさほど違いはない。ただ少しだけ壁紙や、床の素材が違うので先ほどとは確かに違う部屋のようであった。


「ま、電話のアナウンスの通りにするしかないだろ。とりあえず、その受付とやらを探すか」


 氷上が先導を切り、部屋を出ると大きな明るいフロアに出た。石造りの床に2階分の高さがある部屋で、公衆電話ルームを出て右手がカウンターになっていた。


「氷上様御一行様はこちらになります」


 カウンターに座る女性がよく通る声で氷上達に話しかけた。公衆電話部屋から出てくる人間はめったにいないので、アンダーカラムからやってきた人間はすぐにわかるのだろう。氷上たちは誘導に従いカウンターに足を伸ばす。


「はーいはいはい! 氷上様御一行様だよ!」

「アメリア。落ち着け」


 アメリアがダッシュで受付に行こうとするのを佐倉が引き止める。受付の奥の役所職員は、公衆電話部屋から出てきた彼らのことをジロジロと眺めていた。湯村が不快そうに目をそらす。


「チケットを拝見します」


 受付嬢に言われるがままに、チケットを提出する5人。受付嬢はしばらくカードを機械に通したりキーボードを叩いていたりしていたが、やがて処理が終わったのか5枚の白い、新しいカードを5人に提示した。


「こちらが住民票になります。IDカード兼お財布なのでなくさないようにしてくださいね。入口の方の端末でアンダーカラムのお金をIDカードに入金することもできますのでご利用ください」

「わかった。ありがとう」


 5人は言われた端末の方に歩いていきながら、違和感を感じていた。やがて柏木がその疑問を口にした。


「……あんまり、騒がないんですね。アンダーカラムはAAAトリプル・エーの支配体制が崩れて、電力の通常運用が再開しました。少なからずそれに関わった私達はオーバーカラムの指名手配、まではいかなくてもそれに似たような状況になるんじゃないかと思っていました」

「あんまり仲が良くないんじゃないの。上と下の奴ら」


 佐倉の答えを聞いて氷上は首を振った。


「いや。電力を盾に操られていた民衆はともかく、AAAの連中は『平和と反核』の目標で繋がっていて仲間意識が強い。下の状況は上に筒抜けだと考える方が自然だな」

「じゃあ、なんでですか? この施設の外に兵士達が大挙してるとかそういうことですかね」


 アメリアは役所の入り口に向かって鼻をひくひくと動かすと氷上に向かって報告した。


「Nobody outside……外に人の気配はないよ」

「アメリアちゃん……犬じゃないんだから」


 柏木が困ったように突っ込む横で、氷上は神妙な顔をして考え事を始めていた。


「うーん。だとするとますますわからないな。わざと泳がせておいて油断したところを、というのも奴ららしくないし、第一それなら先程の移動中を狙えばよかったはずだ。彼らは今どういう考えを……」


 氷上は考え事をしながら、端末で次々に4人のIDカードに電子マネーを振り分けていた。すると、明るかった役所の照明が一瞬、点滅した後に落ちた。


「きゃああ!」

「落ち着け! 避難訓練通りに移動するんだ」


 役所職員は半分が錯乱状態に陥り悲鳴を上げ、理性の残った職員たちだけが非常口の灯りの方へと進んでいく。役所に用があって来たであろう人々も悲鳴を上げて走りまどう。また、外からも次々と人が入ってきては非常口の方へと走っていった。


 その内の一人を湯村が捕まえる。


「おい、なんだよ離せっ! 殺す気かっ」


 だが、捕まえた男は死に物狂いになって湯村の手を振りほどくと、湯村を突き飛ばした。


「てめぇ……」

「待つんだ、湯村くん。我々も避難しよう。これはマズい。私の脳がそう言っている。しかも、かなりデッドゾーンだ。なぜ今の今まで予測できなかったのかわからないが……活性化(アクティベート)!」


 氷上は既に携帯電話のイヤホンジャックを耳に当てており、能力を発動した。しばらく氷上は目を閉じていたが、20秒ほどして目を開けると、ポケットからタブレットを取り出して口の中に放り込む。そしてすぐさま4人に向かって叫んだ。


「やばい……やばい……やばいぞ! 非常口まで走れ!」


 そして叫んだ直後に氷上は非常口へと駆け出していた。氷上のただならぬ様子を見て、駆け出す4人。


「どうしたんだ先生」


 佐倉が走りながら問いかけるが、氷上は佐倉に答えるエネルギーも惜しみながら、一目散に非常口へと走っていく。だが言ったほうがいいだろうと判断したのか、全速力で走りながらも佐倉に返答する。


「あと10秒で、この役所は消し飛ぶ」


 氷上はその時一瞬佐倉の方を振り返って、振り返らなきゃよかったと思った。


 奥の非常口へ向かって彼らは走っていたが、その逆にある外の入口の方から闇が迫ってきていたのだ。役所のブレーカは落ちたがそれでもオーバーカラムは電力に余裕があるのか、非常灯がうっすら点灯していた。そのため入り口の輪郭がまだかろうじて見えていたのだが、氷上が振り返った時、照らされているにも関わらず入り口が見えなくなっていた。


 恐ろしいのは見なくなったのは入り口だけではなく、そこに繋がる壁、窓、床が次々と見えなくなっていったのである。


「美月!」


 一番遅れていた柏木に湯村が叫ぶ。柏木は必死に走っていたが、表情にはまだ余裕が見られていた。それは彼女が自分の能力をよく理解しているからであった。


「だい、じょうぶだよ、死なないから、わたしっ」


 だがすぐにその台詞は振り返らず先頭を走る氷上に否定される。


「駄目だっ! これは駄目だ! この闇に飲まれたらお前も死ぬっ!」


 それを聞いた湯村も柏木の方へ振り返った。見て、湯村は目を見開いた。


「なんだよ、これ!」


 どんなに目を凝らしても何も見えない巨大な闇が柏木のすぐ後ろから、彼女を飲み込もうとしていた。

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