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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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さらば、アンダーカラム

 湯村達は油断していた。AAAトリプル・エーの幹部連中を追い払い、アンダーカラムを暗闇から救い、オーバーカラムへのチケットも手に入った。色々苦労も絶えなかったが、ここでの活動は終わったのだと。


 アンダーカラムに夜明けが訪れた次の日、湯村、佐倉、柏木、アメリア、そして氷上はそれぞれ荷物を持って昇天閣のロビーに集まっていた。


「それでと。チケットは手に入ったとはいえ、これはどこで使えばいいんだ?」


 氷上が昇天閣<深淵>の新しいリーダーとなった西田に尋ねる。西田は恭しくお辞儀をすると、5人を昇天閣のあるスペースに案内した。そこは、昇天閣にある公衆電話ボックスコーナーであった。


 公衆電話と書かれた入り口の扉を開くと、高級な紫檀で作られた電話ボックスが部屋の左右に5台ずつ、合計10台並んでいた。


「皆様、オーバーカラムのチケットをご用意ください」


 西田がサンプルのカードを取り出して皆に示すと、それぞれが氷上に渡されたオーバーカラムのチケットをカバンから取り出した。この場所にきてそのチケットを見てみると、それは金色に輝くテレホンカードのようにも見える。


 柏木がチケットを取り出して周りを見回した時、あることに気がついた。


「あれ? 双は?」

「そういやあいつ居ないな。どこいったんだ」


 佐倉も柏木の指摘で見回したが友人の姿はどこにも見当たらなかった。


「ああ、湯村ならトイレにいってから来るとかいってたな。西田さん、我々がもし先に行ったとしても……?」

「ええ、もちろんお探ししてご案内申し上げます。チケットの代金を考えれば、そのくらいのサービスは当然です」


 西田は氷上の疑問に礼儀正しく答えた。氷上が満足そうに頷くと、西田が説明を開始する。


「皆さん、チケットはお持ちのようですね。そろそろお察しの方もおられるのではないかと思われますが、これはテレホンカードの形状を象っています。デバイスは目の前にある公衆電話機です。携帯電話の普及で今はすっかり使われなくなりましたこの部屋が、実はオーバーカラムへの入り口なのです」

「なるほど。客も皆、通常なら携帯を持っている。人払いをする必要もなく、この部屋が使えるというわけだ」


 西田は頷く。


「ま、中には本当に携帯をお忘れの方もいらっしゃるようで、稀にこの公衆電話をお使いの方もいらっしゃいますが、年に2、3回というところでしょうか」

「えーと、で、具体的には……ボックスに入ってこのカードを入れて、なにかの番号を押せばいいのですか?」


 柏木が尋ねると西田が首を振る。


「いいえ、カードが入れば番号が自動的に入力されます。あとはお客様のお楽しみということで。これも昇天閣のエンターテイメントの一つとなっておりますので、ネタバレなしでされたほうがきっと楽しいかと」


 西田の解説にアメリアが色めき立つ。


「Wow! ワクワクしてきたよ! どうなるのかな? 公衆電話がロケットになってドッッッカーンって!」

「いや、アメリア。この部屋天井あるからな」

「ふふふ」


 4人が楽しそうにしているのを西田が微笑ましそうな表情で眺めていた。


 その、誰も来るはずのない公衆電話ルームに、銃器を構えた10人前後の男たちが騒がしく入ってきた。


「全員手を上げろ!」

「抵抗するな! 抵抗すれば即座に命を落とすこととなるぞ」


 男たちは昇天閣の服装であるスーツ姿に扮していた。ただし、手に物騒なものを抱えている点が、他の昇天閣のスタッフとは異なっていたが。


 男たちが前田と4人に銃を向け、全員が手を挙げた状態で壁際に並べられた。すると、男たちの中から主犯格と思われる男が姿をあらわす。氷上がその顔をみて、鼻で笑った。


「……ふん。貴様か」

「今井さん!」


 今井はスタッフであった頃の余裕のある、礼節ある雰囲気が無くなっており、すっかりチンピラ然とした様子であった。


「前田。<深淵>のリーダーは楽しいか。楽しいだろう。俺もそうだった。なんでも出来る気がした。いや、俺にできることなら昇天閣の発展のため何でもやろうと心に決めていた。それが裏目に出るとはな」


 氷上がそれを聞いて笑い声を上げる。


「あっはっはっは。何を言い出すかと思えば負け惜しみか? 貴様がやったことは職業理念から逸脱した、ただの詐欺行為にすぎん。そこの隣の男。御堂とか言ったか。元気そうじゃないか」


 御堂と呼ばれた男はサングラスをしていたが、確かにあのバカラの会場に居た、御曹司風の男であった。バカラの会場で行われた客4人によるマイナスゲームも今井によって作られた茶番であったのだ。


 まずはディーラーに癖があると思わせて、”タイ(引き分け)”に賭けさせるポイントを作る。やがて、客が大きく勝負に出たタイミングで読みを外させ、客をマイナスに陥れる。これが第一段階。


 今井の第二の策は、マイナスになった後に、同じくマイナスになった客を他にも用意することであった。マイナスになった客は当然焦る。そこへ、同じ境遇の客が共同戦線を持ち込めば、悪い気はしないはずだ。御堂達に上手く乗せられた客は負債額をさらに増額し、破綻していくシナリオだ。


「そこまでわかっていたのなら、なぜわざわざ我々の罠に乗った?」


 苛立ち混じりに今井が氷上に尋ねる。


「当然、つまらない茶番をやるような人間を地獄に落としてやろうと思ったからだ。これまで貴様達が陥れてきた犠牲者の分までな」


 それを聞いた今井の顔は、真っ赤に染まっていた。もはや怒りを隠すことも難しいようであった。


「い、いいいいだろう! 私はお前の言う通り、昇天閣を追われ、地獄に堕ちたさ。だが、貴様らの命と引き替えだ。お前ら、こいつらを壁のシミにしてしまえ!」


 今井の命令でスーツの男たちが銃を構える。


「撃てぇーーーー!」


細胞編集者コード・ライター、A2x001202 00325503 から 570 に対して書き込み、パラメータを十六進数で01からFFへ」


 しかし、銃声の代わりに聞こえたのは、金髪の不良の声と十数名の男たちがほぼ同時に地面に叩き落とされる音であった。


「なんだと! 何が起こった!」


 今井だけは立ったまま周囲を見渡し、気を失っている部下達を見る。そして視線の先が、入り口にやってきた来訪者にたどり着いた。


「なんだ……貴様がやったのか……これは。何をやったんだ!」


 湯村は肩を鳴らして気怠げに答える。


「ま、あんたらがやっているイカサマと似たようなもんだ」


 湯村が答えたと同時に数名の新たな来訪者の足音がした。警察が入ってきたのである。


「動くな! 通報があったのはここだな? 銃を持った連中がここにいると……貴様らか! 身柄を拘束させてもらう」


 警察は、通報があった場所がやけに正確であったこと、事後で駆けつけたにしては武装した集団が行動を起こした直後のようであったことなどに疑問を持ったが、谷口組のシマであったこともあり、銃刀法違反の犯人を捕まえることのみに終始した。


「湯村くん、ファインプレーだ」


 今井たちが連れて行かれた後で、氷上が湯村を称賛する。


「あいつらイカサマは得意だったかも知れねぇが、尾行については全くのド素人だったからな。あれだけ駄々漏れの殺気があったら誰だって警戒するだろう」

「さすが、現役不良」

「うっせぇ」


 警察が今井達を連行し、騒ぎがひとまず落ち着いた所で前田は説明を再開した。5人は説明を聞き終え、それぞれ荷物を電話ボックスに持ち込むと、受話器を上げ、オーバーカラムへのチケットを電話に挿入する。


「では、よい旅を」


 前田が公衆電話ルームの中央で5人に挨拶をすると、電話ボックスの扉が音を立ててロックされた。


「わ! 開かなくなったんだよ!」

「おお。本当だ!」


 アメリアと佐倉は開かなくなった扉に触れてはしゃいでいた。柏木はこれが罠ではないかと警戒し、氷上は興味深そうに観察し、湯村は早々に立ったまま居眠りを始めていた。そのうち電話ボックスはボックスごと壁に飲み込まれて見えなくなった。


 壁の中の空間は電気のついていない暗闇だった。電話ボックス内の照明がかろうじて周囲の歯車や鉄骨、ボックスの下に走るレールを照らしていた。そのレールの上をゆっくりと移動し始めた電話ボックスに、機械の音声でアナウンスが流れた。


『この度はカラム間移動車両をご利用いただきありがとうございます。アンダーカラムの生活は何かとご不便もあったことでしょう。しかし皆様は勝ち組となられたのです。これからはアンダーカラムの辛い思い出は忘れ、オーバーカラムで豊かな新しい人生をお過ごしください。次は、オーバーカラム・区域役所、終点です』


 4人の高校生と1人の引率教師を乗せた公衆電話ボックスが、誰にも見えない通路を伝って静かにアンダーカラムを後にした。

関西の前編が終了です。

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