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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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ファンデルワールス力

 氷上が佐倉に指摘されて振り返った時には、ロケット弾は彼女の目と鼻の先まで来ていた。


「しまっ」

「コード・発動(オン)


 片手片足をもがれた湯村は、最後の力で立ち上がると足が崩れるより速い速度でジャンプする。そして氷上に直撃しかけたミサイルを、横から殴り飛ばすと、その軌道をなんとか逸らす事に成功する。


 そうして軌道をずらされたロケット弾は、目標であった氷上の斜め後方にそびえるビルへと着弾し爆発した。


 だがロケット弾からの回避は、湯村の残った片手片足と引き換えであった。右手と右足を崩壊させながら、地面へと堕ちる湯村。


「湯村くん、君は……どうして自ら命を縮めるような真似を! 弟に会うんじゃなかったのか!」

「へへ……目の前でボスがやられるのを黙ってみてられっか。コードの短縮……土壇場で初めて……上手くいった」


 湯村は胴体と頭だけになった身体を氷上の方へ向けて笑いかける。


「頼んだぜ……氷上……やってくれるんだろ? いつもの……どんでん返しを、さ。……ごふっ」

「湯村くん、話すんじゃない。これは動く細胞を崩壊させる病原菌なんだ。それ以上動いたら君は死んでしまう」


 氷上は湯村に駆け寄ることもできないまま、紙袋の男を睨みつける。氷上が白衣に手をつっこんで武器を取り出そうとしたが橘が声をかけそれを声で制止する。


「止めておけ。こちらはもう、次弾が装填された。次の一発で確実に君達は終わる」


 その言葉を聞いて氷上は、額に冷や汗を流しながらも憎まれ口を紡ぐ。


「ふん、先程はこれで終わりだとか言っていたが、私たちはまだ終わっていない。何度そのロケット弾を打ち込まれようと貴様が勝つ未来などこないんじゃないか」


 紙袋の男は穴の空いた目の部分から氷上を凝視しながら答える。


「強がるな。足が震えているぞ。お前たちの未来が絶望に染まっていることはお前の脳が一番良くわかっているはずだ。より確実にするために今度こそ未来を選択した上で勝利といこう……多重思索機構クロスアクセス・シナプス()()……」


 だがその台詞が終わる前に氷上は懐からサイレンサー付きのハンドガンを取り出していた。その銃口は橘の手元のロケット弾の発射口を狙っていた。


「ふっ、ロケット弾へ銃弾を撃ちこみ、砲身内での爆発を狙うか。その行動、私はすでに読んでいたぞっ!」


 橘が手元を操作し氷上がトリガーを引くより先にロケット弾が発射する。


「奇遇だな、私も貴様がそう言ってロケット弾を発射するのを読んでいたぞ」


 ロケット弾の砲身が火を吹いた瞬間、氷上がハンドガンの引き金を引いた。すると、氷上の目の前でロケット弾はハンドガンの弾に当たり軌道を変え、氷上達を通り過ぎると遙か後ろの方で爆発する。


 ロケット弾は先端に衝撃が加わってもそこで爆発するし、弾の側面から内部を貫通しても爆発する。氷上はロケット弾後方の推進部のみを狙い、一部を撃ちぬくことで軌道をずらしたのである。ほんの僅かなズレも許されない精密射撃であった。


「なかなかやるじゃないか」

「未来演算は私の十八番だ。二番煎じの貴様に言われたくはないな」


 氷上は別に射撃が上手いわけではない。だだ未来を演算したのだ。どの時点で、どの角度で引き金を引けば、偶然ロケット弾の軌道をそらすことが出来るのかを。


 だが、そうした高度な未来演算は氷上の能力が限界を迎える時間を著しく早めた。果物にかぶりつく氷上にカロリーでは癒せない疲労感と睡魔が襲ってくる。


「く……そ……」


 氷上の身体から急速に力が失われ、崩れていく。だがその直前、柏木の方をちらと見た氷上は安心したように目を閉じた。氷上の視線を追った橘は柏木の方を見た。


 いつの間にか柏木は携帯のイヤホンを耳にしていた。橘の思索がその行動が危険であると警鐘を鳴らす。


「なんだ? こんな未来は私の予測にはない……やめろ。貴様! 何をしようとしている! 知っているぞ。貴様の能力は自分の傷を癒すだけ、しかも今は能力を発動中なのだろう。今更何をやったところで何も変わりはしない」


 すると、柏木は笑って携帯電話の画面を見た。柏木の携帯には「DNA activating program update complete」という文字が表示されていた。


「双、初めて話した時言ってたっけ。『ゲームのスコアを伸ばす能力が増した所でテロリストを倒せるとは思えない』って。私も今同じような気持ちだな。自分の傷を治すだけの能力が強くなったところでどうなるものかって思うのよ」


 柏木は湯村の方を見ながら、先ほど電話で伝えられていた氷上の説明を心のなかで反芻していた。





「新しい遺伝子活性化プログラム……ですか?」

『そうだ、前回の戦いはこれまでにない苦戦を強いられた。私たちは今までより強い能力を模索しなくてはいけない』


 柏木は一瞬考えた後、新しいプログラムを使ったら自分はどうなるのか氷上に聞いた。


『どうなるか……か。それはわからない。今の能力が強くなるか、弱くなるか、別の能力が発現するか、何も起こらないか。ただ、私の未来予測が告げている。今回の戦いで最後に立っているのは美月、お前だ。だからもし万が一のときのために、お前の携帯電話にこのプログラムを転送しておく』


 柏木の携帯には「now downloading... あと78分」と表示されていた。


「氷上さん、でもこの戦いの最中、ダウンロードが終わらなかったらどうするんですか? みんなも、まだ具合が悪いまま一向に良くなりませんし」

『大丈夫だ。その時間稼ぎくらいは私がやってやる。ただ、遺伝子活性化プログラムは以前より2つもバージョンアップしている。危険性も増していると考えたほうがいい。だから、これを使う時は、これを使う以外に手がなくなった時のみ許可する』





 柏木は携帯を持つ右手が震えるのを左手で支えると、決心したように頷いた。


「今度は私が、双を助ける番だよね」


 柏木はプログラムを起動するキーワードを口にしようとする。


「させぬわ」


 橘がロケット弾を発射させる。だが、ロケット弾は柏木へは直撃せず、柔らかいクッションに阻まれ橘の方へ弾かれた。ロケット弾は橘の横を通り過ぎ後方で爆発する。


「な、なんだ今のは」


 橘が驚き見回すと、金髪の女の子が遠くで銃を構えているのが見えた。


「イ……透明の弾丸インビジブル・バレット……”イージスの盾”……対流する空気はすべてを弾く……but……一度が限界……」


 アメリアがトリガーを引くために動かした手が陶器のように砕ける。橘はすぐに次のロケット弾を装填しながら柏木を狙う。


「つ、次こそ」


 また間断なく次のロケット弾が発射されたが、今度は柏木と橘の間に巨大なコンクリートの壁が急に出来上がり、その壁に阻まれロケット弾が橘の目の前で爆発する。佐倉が自らの怪力で、地面を持ち上げたのだった。だがそのために使った佐倉の右腕は力に耐え切れずに砕け散る。


「うわあっ」


 至近距離でロケット弾の爆風に巻き込まれ、橘は20mほど吹き飛ばされ転がった。土埃の舞い上がる中、橘は柏木の良く透き通る声である言葉を唱えるのを聞いた。


活性化アクティベート


 土煙が晴れ、橘が起き上がった時には淡く光る柏木が湯村を抱きかかえていた。


細胞再構築セル・リストラクション


 柏木が湯村に対して自らの能力を行使すると、陶器のように粉々になった湯村の身体が集まり元の体に戻っていった。


「なん……だと……私の細菌で分解した細胞を……一瞬でかき集めた、だと!」


 自らの両手を見ながら柏木は能力を実感する。


「私の能力は自己修復だけじゃなくなった。他人を癒す能力と……壊す能力」


 そう言って柏木は橘の方を見た。橘は柏木と視線が合い、あとずさりし始める。


「なるほどな。ファンデルワールス(りょく)か。お前の能力は細胞の構築じゃない。分子同士の結合に関する能力だったとはな。合点がいった。どうりで完全に分解した身体を元に戻せるわけだ。細胞を集めるだけなら壊れた細胞が治るわけがない。そして恐らく……」


 橘がロケット弾を放つと柏木は物怖じせず向かってきた。


「今ならわかる。この力の使い方」


 柏木が迫り来るロケット弾に向かって手をかざす。


分子結合解除(リリース)!」


 柏木が触れた部分からロケット弾は霧のように細かい分子になって霧散した。橘は次弾を詰めるのを諦め、バックステップで引き上げようとする。


「ふははっ。今日のところは引き分けにしてお……」


 捨て台詞を残して逃げようとする橘に対し、自らの脚力で到達した柏木が紙袋を右手で掴む。すると紙袋が霧散し、銀髪の美少年が顔を見せる。


「子供……? あなたは! 久谷邸にいた!」

「やだなぁ、もう16歳ですよっと」


 急に子供口調になった橘は手をかざす柏木の腹部を蹴り飛ばす。


「きゃっ」

「能力は凄いですが身体能力がまだまだですね。その手に当たらなきゃとりあえず大丈夫かな」


 転んだ柏木が態勢を立て直す頃には、橘は既にバイクに跨ってエンジンをかけていた。


「逃げるの?」


 柏木が非難するように橘に言う。


「不利になったらとっとと逃げ出す。これが長生きの秘訣です。みなさんもオススメしますよ。そんじゃまた会いましょうね」


 バイクは角を曲がってすぐに彼らの視界から消えた。


「終わっ……たのね」


 バイクのエンジン音が遠く聞こえなくなった後、膝をつく柏木の元へ湯村がやってくる。


「大丈夫か。美月」

「双!」


 柏木が湯村に抱きついた。バカラ仕様の薄いドレスを着た柏木の柔らかい身体が湯村に押し付けられる。


「良かった! 私、双がバラバラになって、本当は凄く怖かったの」

「すまねぇ。俺がまだ弱いばかりに」


 二人の高校生カップルがお互いの無事を喜んでいると、遠くの方から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。


「俺たちまだ治ってないんだけど……」

「ヘルプ、プリーズ」

「あ。忘れてた」


 柏木と湯村は謝りながらアメリアと佐倉の元へと走っていった。

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