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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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後出しジャンケン

 日村が橘のPC画面で痙攣する湯村達を見ていると、橘が怪訝な顔をし始める。


「おかしい……ですね」

「おかしい? 何がだね? 細菌の改変は上手くいっているようだぞ。くくく……見てみろ! この高校生たちの震え様といったらどうだ! 氷上の部下達がやられているのは、なんとも愉快なものよ」


 橘は首を横に振った。


「いえ、これは僕が仕掛けた細菌にやられたふりをしているだけです。見てください」


 日村は画面の右上の方、佐倉の身体の一部を指した。


「この細菌は痙攣も起こしますが、それだけじゃないんです。痙攣の後、身体を腐り落ちるようにしていました。つまり、これは彼らの芝居です。でも……どうしてだろう? さきほど彼らの体内に残っている細菌を変化させる信号は送ったはずなのに……まさか!」


 橘は何かに気付いたように、関西シェルターのマップ画面を開いた。日村が覗きこむ。地図中には、欠落し表示されない部分があった。


「なんだ? 地図の一部が欠けているようにみえるが、これは……」


 日村が指摘すると橘は嬉しそうに笑い始めた。


「くっそー、やられました。これ、僕の作ったマルチジャミングですね。ほら、わかります? MAPデータを送信できないこの一角。地図の欠損している部分に例の装置が置いてあるとみて間違いなさそうです」

「……つまり、先ほど遠隔操作でこちらから送った細菌改変の信号は」

「届いてませんね。こちらからあの高校生たちへの信号はすべてシャットアウトされています」


 橘ははっきりと、自身の策が氷上によって防がれたことを日村に告げた。


「だが、やつらの映像だけは映っているじゃないか。これはどういうことだ?」


 日村はノートPCに映っている、痙攣している高校生たちを指して言った。


「そこが彼女の恐ろしいところですよ。マルチジャミングをカスタマイズまでされたようでしてね。見てくださいよ。この映像通信以外の通信チャンネルを。あらゆるチャンネルがシャットアウトされています。うーん。早くこのことに気づいていればなぁ」

「悠長に悔しがっている場合ではなかろう! 研究施設はやつによって破壊されてしまった。手持ちの装備も大したものは置いていない」


 橘はしばらく目を泳がせて考え事をしているようであった。やがて懐から茶色い紙袋を取り出す。顔の落書きが描いてある、いつもの紙袋だ。


「すみません……ちょっと変わりますね」


 紙袋をかぶると橘の雰囲気は一変し、重苦しい雰囲気が漂いはじめる。声も先ほどの子供っぽい声ではなく、初老の男性のような声になっていた。


「んふふ……静希め。私をわざわざ呼びだすとはな。なるほど。状況は面白くなっているようだ」


 紙袋の男はPCを一瞥するとバイクのエンジンを入れ始めた。


「お、おい。何故急にエンジンかけたのかね。まさか戻るというのか! 危険だぞ!」

「落ち着き給え、技術部リーダーよ。君はこのまま南のシェルター出口へ向かい給え。AAAの構成員がいるだろうから、彼らにオーバーカラムへ連れて行ってもらうんだな」


 そう言うと、あっけにとられる日村を置いてバイクを発進させる。


「待ちたまえ。私はそれでいいとして、君はどうする気だね?」

「ふふ。言うまでもなかろう。ジャミングされているなら、直接信号を届けるまでよ」


 バイクは日村を置いて、あっという間に見えなくなった。


「あいつ、紙袋をかぶると急に雰囲気が怖くなるな。まあいいか。今回は私には打つ手はないし、おとなしくオーバーカラムへ行くとしよう。ええと……」


 日村は道路にある案内板を見上げた。


 南口 ここからまっすぐ20km


「遠いな……南口」


 日村は深い溜息をつくと、地面に置いていた自分のリュックを背負い、重い足取りで南口へと出発した。





 痙攣の芝居をしている高校生たちのところへようやく氷上がたどり着いた時には、湯村たちはかなりのところまで回復しているようだった。


「元気そうで何よりだ。諸君。もう芝居はしなくていいぞ」


 すると、咳き込みながら湯村が身体を起こす。


「あー、死ぬかと思った。なんなんだよ、さっきのは」

「多分、病気のウイルスみたいなものじゃないかしら」


 柏木が勘で答えると、氷上がそれに頷く。


「その通り。ま、ウイルスじゃなくて細菌なんだが、その違いはこの際言わなくてもいいだろう。そこの人型兵器はダミーで、奴らが倒されることで分解し、病原菌が撒き散らされたんだ。たんぽぽの綿毛みたいなものだな」


 目を覚ました佐倉が身体を起こしながらそれに答える。


「ぶえっくしょい。待ってくれよ先生、つーことはこの一帯」

「そうだ。民間人もろとも病原菌をくらったはずだ。ここへ来る道中、かなりしんどそうな人たちを見かけたぞ。紫外線を浴びせたおかげで随分と回復しているようだったがな」


 湯村が天井を見ながら言った。


「そうだ。この光が俺たちを照らし始めてから急に楽になったんだ。どうやったんだ」


 だが氷上はそれには答えずに彼らに背を向け、道路を睨みながら言った。


「説明はそのうちしてやる。今大事なのはお前だ、美月。例の事、スタンバイしておいてくれ」

「でもせんせ……」

「わかってる。お前の質問も疑問も当然だが、答えは後回しだ。今は黙って言われたとおりにしてくれ、頼む」


 柏木は氷上の言ったことに頷くと、携帯電話を取り出して画面を見つめ始めた。


「……来たな」


 遠くからバイクの音が聞こえてきた。氷上が車に積んできていたロケット砲を白衣から取り出し、地面に設置する。


「この程度で牽制出来るとは思えないがね」


 やがて角を曲がり、300m先にバイクが現れる。乗っているのは紙袋をかぶった男のようだった。氷上はその顔に見覚えがあった。


「バカラにいたお前か。そしてお前が私の敵なのだな」


 その声が聞こえていないはずであるのに、バイクに乗った紙袋の男は氷上に答えた。


Exactly(そのとおり)!」


 バイクがあと数十mで彼らの元へ到達するその時、氷上が能力を発動する。


高速並列思考ニューロ・アクセラレータ()()()()()()! ロケット弾はバイクに直撃する」


 氷上が携帯に発射命令を送ると、ロケット弾がコンピューターの制御を受け発射する。人の目にはもはや光の線にしか見えないそれが、地を這いバイクへと迫る。


 だがバイクの男は不気味に笑い、独り言を呟く。


「後出しジャンケンは狡いと……ふふ……私も思うがね」


 そしてバイクにロケット弾が直撃する瞬間、紙袋の男が氷上と同じような台詞を口にした。


多重思索機構クロスアクセス・シナプス()()()()()()。ロケット弾はバイクに触れるが弾かれる」

「なんっ」


 氷上が驚く眼の前で、確かにバイクに直撃したロケット弾は、バイクの表面を氷の表面にでもぶつかったかのように滑り、あらぬ方角へ飛んで行き空中で爆発した。


「どうして……どうして同じ事ができるんだ……お前は一体……」


 バイクが氷上達の前10mのところに停車する。我に返った氷上が慌てて振り返って叫んだが、紙袋の男がPCを取り出すほうが一瞬早かった。


「みんな、逃げろ!!」



「お そ い」 


 氷上が振り返った目の前で湯村の左腕が痙攣すると、腐って地面に落ちた。


「あ? ……なんだよ、これ。何の冗談だ」


 湯村が落ちた自分の腕を見つめて言った。そしてそのまま力なく倒れる。倒れた拍子に湯村の左足も、まるで陶器のように砕けて折れた。


「佐倉、アメリア、動くな! この病原菌は」

「先生! 危ねぇ!」


 氷上が紙袋の男を振り返ると、ロケット砲の向きをこちらに向けた紙袋の男がイギリス紳士のように礼儀正しく、右腕をお腹の辺りにやりながらお辞儀をして言った。


「君達に永遠の眠りを」


 紙袋の男の台詞が終わると同時に、ロケット砲が無防備な氷上達に火を吹いた。

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