表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
53/167

助っ人、ここに

 雑居ビルの中でモニターの明かりだけが照らす中、二人の男が静かに消えゆく若い命をみつめていた。しかしその二人の表情は対照的である。一人が高笑いをしながら画面を眺めているのに対し、もう一人は冷や汗を流しながら辺りを見回し警戒していた。


「氷上はどう対策を打ってくるか。いずれにせよ、後数分で奴らはおしまいだよ」


 もちろん高笑いをしている男はAAAトリプル・エーが抱えるマッド・サイエンティスト、日村である。


「いえ、そんなことは無さそうです。日村さん、マスクをしてここを出ましょう……今すぐに」


 冷や汗を流しているのはAAAの頭脳、橘静希。橘は日村を無理やり立たせると、その辺りにあるガスマスクを二人分掴んで部屋を急いで後にした。


 その1秒後。


 突如、先程まで二人が居た部屋のガラスが割れ、ロケット弾が打ち込まれた。弾丸は室内で炸裂すると雑居ビルの3階を吹き飛ばした。雑居ビルは支柱を崩され、4階のフロアが3階を押しつぶし1階分小さなビルとなった。


「……来ましたね」

「何が来たというのだね!? 今の爆風は? 橘、説明し給え!」


 外から爆破されたビルを見上げながら橘は口元だけを覆うガスマスクをすると、日村にも同じ物を渡しバイクのエンジンをかける。


「ごめんなさい、説明する時間がありません。とにかくこれを付けて僕の後ろに乗ってください」


 日村と橘の二人はバイクに跨り、雑居ビルを後にしようとエンジンをかけて発進した。しかし、バイクの進行方向を遮るようにロケット弾がどこからか飛んできて目前の道路へ着弾する。橘はあたかもそれを予想していたようにバイクのハンドルを切ると、元の進行方向と逆方向へと走りはじめた。バイクの後方で着弾し、爆発するロケット弾。


「なななななんだ! どうして急に我々が逃げなければならない! 先ほどの秘密基地はAAAでも一部の幹部しか知り得ない場所だぞ! なぜ攻撃をうけた」


 後方からくる爆風にあまり多くはない髪をなびかせながら日村は叫んだ。先程まで優勢だと思っていただけに、突然攻撃を受けたことがショックでならなかったのである。一方橘は、額にうっすら汗を流しながらもガスマスクの下で口元はかすかに笑みを浮かべていた。


「少し追いついて来ましたね。僕の未来予測に……でも、まだ甘い」


 橘は次々と降り注ぐバズーカ砲の弾丸を見もせずにバイクで躱しながら、雑居ビルから離れていく。氷上はバイクの音が遠ざかっていくのを確認し柏木に連絡を入れた。


『氷上さん、助っ人っていつ来るんですか? 双が、だんだん呼吸しなくなってきているんです!』


 電話の向こうの柏木が悲痛な声を上げる。


「もうすぐだ。いいか柏木、私が今から言う通りに動いてくれ」


 氷上が指示を送る。柏木はもう表情が涙でぐしゃぐしゃになっていたが、氷上の指示を地獄から這い上がる蜘蛛の糸にしがみつくような思いで聞いた。





 そのころ、関西シェルターの風力発電所近辺では夜の闇に紛れて一人の女性が探しものをしていた。関西シェルターは、とくにこのアンダーカラムでは電力供給量の絶対量が少なく、天井の液晶パネルは夜も遅い時間になると一切電力を流さない。さらに店の看板の照明などもほとんど消されるため、移動するには懐中電灯がなければ暗くて動けない。


 暗闇の中で動く長身の女性は豚まん屋とたこ焼き屋の間の細い通りに入ると、小さなペンライトの明かりを頼りにごみ置き場にたどり着いた。


「……あ、あった」


 ゴミに埋もれていたが、九木ここのぎは氷上に指定されたマンホールをゴミ置き場で見つけ出した。直径1mほどのマンホールには小さな5cmの正方形をした液晶パネルがついている。その液晶パネルを7秒以上押し続けると明かりが付き、数字を入力するテンキーが現れた。


「7……5……2……」


 九木は氷上のメールのとおりにパスワードを入力していく。すると、マンホールは音もなく下へ沈み始める。九木はそれに乗って地下に降りていった。


「こんな、ことって……」


 マンホールに乗って九木が下に降りると、そこには氷上の建造した通路があった。しかも、眩しくはないがしっかりと足元が見えるように照明がついていた。九木はその人工的な構造物の完成度に驚きながら通路をまっすぐ進む。


「そもそもどこから電力供給されてるのかしら」


 やがて、少し小さめのホールのような場所に出た。ホールは学校の教室を4倍くらいの大きさにした広さで、壁が大きなスクリーンとなっており、室内にはいくつかのコンピューター、そして液晶タッチパネルを備えた大きなテーブルと椅子が置いてあった。


 あまりに暗かったので九木は部屋に入ってようやく気づいたのだが、部屋には先客が十数名、暗がりに座って九木を待っていたようだった。中には子供も混じっているようだった。九木はまっさきに目についた知り合いの名前を呼んだ。


「別府さん! 白谷さん……!」


 アンダーカラムの色々な施設に監視つきで囚われていた以前の同僚たちであった。


「部長おっそいですよ。部長が最後ですからね」

「そうそう、生きている中では九木部長が一番上なんだから来てくれないと困りますよ」


 口々に九木に話しかけてくる元・氷上エレクトロニクスの社員たち。どうやら氷上から連絡が来ていたようだ。


「盗聴器が氷上社長のせいで不自然に壊れたんで、どうせやつらから追われるくらいだったらここに来ようって。みんなで決めたんです」


 別府は2歳になる自分の子供を抱きかかえたまま言った。そして電源の付いているコンピューターを九木に示す。


 そこにはホールで唯一電源の付いているコンピューターがあった。あとのPCは電源がつかないようすだった。ホールがかろうじて真っ暗でないのはそのPCが明かりの代わりになっているからだった。


 九木が画面を覗き込む。見るとそれは見覚えのある画面だった。氷上が作ったOSのトップページだ。ログイン画面にはIDとパスワードを入力しないといけないようだが、九木は入力するべきIDとパスワードが何であるかわかっていた。


ID kokonogi

PASSWORD KAORU0229


 それは、一年とちょっと前まで勤めていた氷上エレクトロニクスで九木が使っていたIDとパスワードであった。


 入力を終えてエンターを押した瞬間、突然部屋にまばゆいくらいの照明が付いた。正面の大きなスクリーンには関西シェルターの各所が映しだされ、残りのコンピューターも全て電源がONになり、室内には音楽が流れ始めた。スタッフたちが突然部屋が明るくなったことに驚いていた。眠そうにしていた子供も目を覚まし、不思議そうに辺りを見回す。そんな中、九木の頬を温かい雫が伝い落ちた。


「……透、私のIDとパスワード、使えるようにしてたんだ……きっと、ずっと前からここで一緒にAAAと戦おうって、決めてたんだね」


 九木以外のスタッフが次々に自らの持ち場についていった。九木は涙を拭うとスクリーンを見て、意を決したようにホールの皆に呼びかけた。


「氷上エレクトロニクス、関西支社をこれより再始動します」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ