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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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死への介入

 バス営業所では、巨大なアリクイ様の化け物が地面で仰向けになり倒れていた。だが倒れたままでも、巨大アリクイの手や足が彼等を襲う。それらを、ビルの破片を飛ばすことで無効化していく湯村。アメリアも空気銃でビルの上から援護する。


「ソウ! 次、右からくるよ! 私は左手をやっつけるね!」

「わかった」


 湯村は一瞬だけ速度コードをオンにすると、目にも留まらぬスピードでコンクリートの塊を飛ばす。傍から見る者にとっては、湯村の足元にあるコンクリートがあたかも勝手に浮かび上がって飛んでいるように見えたはずだ。


「コード・オフ。佐倉、このままじゃ拉致があかない。トドメを頼む」

「わかった」


 佐倉は頷くと、渾身の力を足に込め地面を蹴った。手には10mもありそうなビルの太い鉄骨が握られていた。やがて、アメリアのいるビルの屋上くらい高く跳ぶと鉄骨を構え、沢渡を見下ろしながら言った。


「……テロ集団なんかが無けりゃ、俺達いい友達になれたと思うぜ。あばよ、沢渡」


 佐倉の振り下ろした鉄骨が、アリクイの頭を真っ二つに潰した。巨大な怪物は断末魔とともに手足を一瞬だけピクつかせたあと、動かなくなった。佐倉の振り下ろした鉄骨は地面にまで刺さっており、沢渡の墓標のようにも見えた。辺りに一旦静寂が訪れる。


「死んじゃったの……かな」


 完全に動かなくなった化け物をビルの上から確認しながら、柏木が隣にいるアメリアに問いかける。


「Maybe……多分ね。もう動いていないから」


 柏木とアメリアはビルを降り、湯村、佐倉と合流した。敵を倒したものの、4人の表情は決して明るいものではなかった。これまで彼らが戦って来たものは、彼らよりもずっと上の年齢の軍人、もしくは軍人が化け物になったような集団が主であり、クラスメートが敵になったのは初めてのことだった。同じ年の人間を、化け物になっていたとはいえその手にかけたという重みは少なからず彼らの心に影を落としたようだった。


「帰ろう。昇天閣に」


 ぽつりと、気を取り直すように湯村が言った。


「そうだ、俺達はまだこの関西シェルターでやることがある。ここで立ち止まるわけにはいかないんだよな」


 遠くでバイクが走っている音がした。少しずつ、化け物のせいで麻痺していた交通網が回復してきたようだった。





 場所は湯村達の居るところから少し離れた場所にある雑居ビルに移る。外には「陽光進学塾」「真鍋眼科」「立壁法律相談所」などの看板が立っているが、肝心の1階のシャッターは閉じており、他には入口もありそうになかった。一見するともう使われていないビルのようである。そこへ一台のバイクが停車する。バイクから降りた男はシャッターも何もない壁の方へ歩いて行くと、カードをかざした。すると、壁にしか見えなかったビルの一角の映像が乱れ、扉が現れた。男は扉を開くと階段を登り、3階の部屋へと入っていった。


「日村さん」


 そのビルの中で、PCの画面を見ながらブツブツと何か呟いている青白い顔をした細い男に、銀髪の男が話しかけた。


「氷上の手先が! また私の芸術品を!」


 日村と呼ばれたメガネの痩せた男は、銀髪の男に話しかけられたことなど気づかない様子で頭をくしゃくしゃと掻きながら一心不乱にモニター画面を見つめていた。画面には倒された化け物と湯村達が映っている。もう一個のモニターには、化け物の設計図ともいうべき遺伝子配列が示されていた。遺伝子配列は4種類の物質が何億も集まって形作られたもので、傍目には画面いっぱいに広がる謎の暗号のようにしか見えなかった。


「日村さん、ここですよ。ここをグアニンじゃなくてシトシンにして、こっからここまではこの間のやつを利用して」


 急に後ろから白い手が伸びてきてキーボードを操作したため、日村は我に返った。


「橘か! 驚かすな。いつ来たんだ」

「昨日ですよ。東北と北海道をとりあえず視察してました。あんまり変化なさそうだったんでこっちに来ちゃいました。日村さんもこっちにいらしてたんですね。僕は昇天閣を潰そうかと思ってさっきまで居たんですが、こっちに来たほうが面白そうだなと思ったんです」


 話しながらも橘は、日村が数週間かけて研究してきた遺伝子配列をなんのツールも使わずに組み替えていく。


「これでどうでしょう? ちょっと面白いことになりそうじゃないでしょうか」

「これは……ほう! いやしかし……凄いな」


 感心している日村に橘は一言付け加える。


「いえ、これはもともと日村さんの3年前のアイデアのアレンジでして」

「3年前……ああ、あれか」


 思い当たる研究でもあったのか、日村は橘の指摘が自分の研究が元となっていることを知り、安堵する。そうだ、結局考えているのは自分なのだと。素晴らしきは我が頭脳だと。日村はしたり顔で遺伝子配列を見た。もちろん、3年前に日村が行った研究より何倍も洗練された理論であったのだが、それを悟らせない様に橘はコードを組み込んでいた。


 AAAトリプル・エーの頭脳、橘静希。いつの間にかテロ組織に現れ、いつしか組織全体を統括するリーダーとなっていった。彼がどこから来てどのようにしてAAAに加わったのか知るものは居ない。ただ今のAAAを作り上げたのは明らかに橘の功績と言えた。


「では、ロードっと」


 橘がエンターキーを押す。すると、沢渡に組み込まれた日村の遺伝子改変ナノマシンが、受信し滅びかけた沢渡の遺伝子を改変していく。遺伝子の変化は細胞そのものの変化となり、死に体となっていたはずの巨大な肉体が復活をする。


「ふふふ。どう出るでしょうね、彼らは」


 銀色の美少年は口元にかすかな笑みをたたえていた。



 

 沢渡を倒した4人は氷上に連絡を取ろうと試みていたが、氷上がずっと通信中のようで連絡がつかなかった。少し考えた後、柏木が提案する。


「んー。とりあえず、急いだほうがいいかも。AAAの追手も、また私達を狙い始めるかもしれない」

「まあ、正論だな。ここは、敵地の真ん中なんだからな」


 湯村が回れ右をして昇天閣の方へ戻ろうとしたその時だった。


「ソウ! 危ない!」


 そう言うとアメリアが空気銃で湯村を吹き飛ばした。3mほどふわりと飛ばされる湯村。振り返ると、今自分が居た場所を人影が凄いスピードで通り抜けているのが見えた。


「がっ」


 一方佐倉は、湯村の隣に居たためその人影に攻撃をくらった。だが能力が発動していたため、軽く押された程度の衝撃で済んでいた。


「あは、意外に頑丈やな。首を取るつもりでやったんやがな。つぎはもっと力込めたろ」


 聞き覚えのある関西弁がその人影からは聞かれた。


「まさか」


 佐倉が振り返る。他のメンバーも声のした方を見た。すると、学生服を身にまとい血の涙を流しながら、全身に血管を浮き立たせた色白い沢渡が湯村たちを見ていた。


「なんやお前ら。死人でも見たような顔をしくさってからに」


 だが、落ち込んだ目。異常に白い顔。どうみても屍のようだった。

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