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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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人命救助

 昇天閣のスロットコーナーでは、静かに3人のギャンブラーが暗躍していた。


「佐倉、そろそろ行ってこい」

「ウス」


 佐倉は席を立つと新しくできたメダル箱を換金に向かった。佐倉が席をたった後には目ざとい客がすぐに入ってきた。それだけ、氷上の指示する台が当たるということである。


「先生、佐倉くんを時々換金に行かせるのはどうしてですか? せっかくいい台に座らせてるのに」


 柏木はスロットを続ける手を止めずに氷上に尋ねた。


「ん? そりゃあ、我々の活動を目立たないためさ。ひとつは積み上がったメダル箱を早めに片付けて、運営側に我々が稼いでいることを悟らせないため。もうひとつはあいつが居た後の台でわざと他の客を稼がせるためだ。他の客が目立てば、相対的に我々は目立たなくなるだろう?」

「確かにそうですね……あれ? そういえば私達って今いくらくらい稼いでいるんですか?」


 そこへ、佐倉が換金を終えて帰ってきた。


「先生、プレートっす」

「ん、ご苦労」


 氷上は上着のポケットに佐倉からもらったプレートをしまった。メダルは換金所でお金の代わりとなるプレートに換えられる。氷上は柏木を呼ぶと、自分のポケットを探らせた。


「金のプレートが500万、銀のプレートが50万円だ。数えてみろ。声には出すなよ」


 柏木はプレートを数え始めた。最初、柏木の表情に変わりは見られなかったが、数えていくうちにだんだんと青ざめ、最後はプレートをそっと氷上の上着のポケットに戻すと、黙って自分の持ち場に戻った。


「柏木、俺達結構稼げたよな? いくらだった?」


 柏木は静かにスロットを打ち続ける。佐倉はしつこく聞いてきた。


「なあなあ、600万は堅いよな。俺結構行ったんだぜ? 換金」

「換金に行ったのは佐倉くんだけじゃないわ。氷上先生も自分で時々換金してたわ」

「そうなのか? じゃあ、一千万くらいかな。今日は美味いステーキでも食いたいよな!」


 佐倉はそう言うと、詳細な結果を聞かずに自分の台へと戻った。柏木は氷上の方を見た。サングラスをかけ、上下を光沢ある黒のスーツで決めている。シャツのボタンをギリギリまで開けるのは癖らしい。目立つのが嫌いだとか言うくせに、格好はモデル並みに似合っていた。通りを歩く客やバニーガールでさえも彼女を振り返った。


 二億二千七百万円。柏木が数えた限り、それだけのプレートが氷上のポケットには入っていた。そしてそれはそのまま、氷上の頭脳の凄まじさを物語っていた。3人は場所を変えながらスロットをしており、今や一番レートの高いスロットコーナーで稼いでいたのだが、それにしても稼ぎすぎだった。


「怖い人」


 そんな金額など知らぬという風に、涼しげにスロットを打ち続ける氷上の横顔を一瞬だけ見た後、柏木はまた自分の台の方へと向き直った。




 一方、湯村とアメリアは、昇天閣から2kmのところまできていた。二人が歩いた工業地帯からここまでの道のりには、二人に倒された住民達とひっくり返された故障車が大量に散らばっており、AAAトリプル・エーの追手のしつこさを表していたが、同時にそれは二人の戦闘能力の高さをも表していた。


「ソウ! 右から来てるよ!」

「オッケー。大型車か。10発分で行くか!」


 湯村はアメリアから圧縮空気銃をひとつ渡されていた。一人一丁の銃を使って、敵を倒していく。


「凄いよ、ソウ! どうしてそんなにshootingが上手いの?」


 的確に空気銃の弾数を変えながら最小限のパワーで敵を倒していく湯村をアメリアが称賛の目で見つめていた。


「こういうゲームがあるんだよ」


 湯村は、とあるゾンビゲームを思い出していた。およそゲームでありそうな状況であれば、湯村にとっては障害になり得ない。


「銃で人を殺すゲーム……Oh、ニッポン、恐ろしい国ね……」

「いや、言っとくけどお前らの国のほうが多いからな。FPS」


 湯村がアメリアに苦笑いして見せた、その時だった。


「あれ……」


 アメリアの足がもつれ、転んだ。そしてそのままアメリアは自らの身体を抱きかかえると、そのまま動けなくなってしまった。


「アメリア!」


 駆け寄る湯村。AAAの追手たちは、一人が怯んだことを見逃さない。アメリアが倒れた途端、周りを取り巻いていた追手達が一斉に襲いかかってきた。サラリーマンや主婦、学生、浮浪者。AAAに属する様々な人間が、二人に飛びかかってくる。


「えへへ……どうしたんだろ。手足が痺れて、頭がぼうっとして。うご……けないみたい」


 倒れたアメリアが青い顔をして、申し訳なさそうに湯村に言った。アメリアは自分だけが能力者であると思っていた。そのため、自分が倒れれば、AAAの追手からこの少年を守れるものは誰もいなくなると思ったのだ。身体が重くなり、息も切れそうになっていたが、自分が生命線であるという意識がアメリアを支えていた。しかし、精神力で持ちこたえてきた肉体が、ついに限界を迎えた。


「ごめんなさい、助ける、ツモリだった」

「いいんだ。アメリア。お前はよくやったよ。そして、言ってなかったけどな、俺も単なる氷上の知り合いじゃないんだ」

「え?」


 倒れたまま、アメリアが尋ねる。大通りはまた、AAAの人間で埋まり、ついに、2000人ほどの人間がまるで祭りのように湯村とアメリアの前後に押し寄せていた。昇天閣に向かう道は、完全に閉ざされていた。喧騒の中、湯村がアメリアに告げる。


「俺も、能力者なんだ」


 湯村はこめかみにある感覚に力を込める。彼だけが知覚できる青色のウインドウが眼前に展開する。アメリアが落とした銃を拾い、二丁の圧縮空気銃を持ったままゆっくりと立ち上がると、湯村は細胞編集者コードライターを発動する。


「コード。A2x001202 00325503 から 570 に対して書き込み、パラメータを十六進数で01からFFへ」


 途端、湯村の周囲の空気がスローモーションで流れ始める。


「関西デビュー戦、だな」


 アメリアが見ている前で、湯村の姿が消える。昇天閣へと向かう西の大通りを、金色の閃光が駆け抜けた。




 湯村が暴れ始めて1分後、スロット台に座る氷上の携帯電話がなった。着信は湯村だった。


「私だが」

『俺だ』


 軽く息を乱した声で、湯村は氷上に話した。


「生憎と、詐欺は間に合ってるんだがね……おっと、怒るな冗談だ、アメリアのことだろう」

『……わかってるなら最初からボケるな。どうすればいい』


 湯村は大通りにいる敵をすべてなぎ倒した後、辺りで少し高いビルの上に登ってアメリアを横に寝かせ、電話をしていた。


『まずは今の状況の説明からだな。アメリアに今起きている現象は、手足が痺れて冷や汗が出る、そんなところだろう? それは能力の制限時間じゃないんだ』

「やはり違うのか」


 湯村は佐倉の制限時間を見たことがあり、自身も制限時間を経験したことがあったため、アメリアの今の状態がそれと異なるということは薄々感づいていた。


『そうだ、彼女の今の状態は医学的に言うと”過換気状態”という』

「かかんき状態? なんだそれは」

『まあ、早く言えば息のし過ぎだ。能力のお陰でアメリアの肺活量は通常の人間の何倍にも膨れ上がった。だが、呼吸というのは、酸素や二酸化炭素を身体の中で交換することでもある。呼吸のし過ぎは、体内の二酸化炭素を出し過ぎ、そのせいで血液がアルカリ性になる。これが人間の身体には良くない働きを起こすんだ。ひどい場合は脳や心臓がやられる』


 氷上の言っていることは湯村には半分くらいしか理解できなかったが、つまり、今のアメリアの状態は放置しておけない危険な状態であることを意味していた。


「どうすればいい」


 湯村は早くなんとかしなければという思いに駆られていた。AAAの追手から救ってくれたアメリア。自分を普通の人間だと思い、最後まで守ってくれた優しい少女である。彼女に助けてもらったという借りは、返さなくてはならない。


『じゃあ、キスしろ』


 湯村の時間が3秒ほど停止した。


「……は?」

『キスだよ。知らないのか。キ・ス。眠りの森の美女には王子様のチッスが必要なのだよ』

「キス?」

『Yeah!』


 湯村は頭を抱えた。氷上の言っていることが本当か嘘かわからない。嘘だとすれば、放置していてもアメリアが復活することを意味する。そうすれば、湯村は弱っている女の子に無理やりキスしたゲス野郎ということになる。一方、氷上の言っていることが本当だった場合、湯村が躊躇ったためにアメリアを死なせてしまう可能性が出てくる。しかし、これは避けたかった。


「やるしか、ないのか」


 苦しそうに胸を上下させ、浅い呼吸を繰り返すアメリアを見て、何とかしてあげたいと思う湯村は、心を決めると、震える手をアメリアの肩に添えた。


「ソウ? どうしたの?」


 息も絶え絶えになりながら、問いかけてきたアメリアに対し、湯村は震えながら答えた。


「だ、だ、だ、だ、大丈夫だから」


 湯村の様子は少しも大丈夫ではなさそうであった。

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