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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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一呼吸の自然災害

 湯村の携帯電話に入っているアプリが起動し、アメリアに対して遺伝子を活性化させるプログラムが作動する。一年前は氷上の研究がまだ途上であり、自分以外にはプログラムを使用していなかった。つまり、アメリアは今回初めてプログラムを使用することになる。アメリアが活性化させる異能を有しているかどうかは、可能性の範囲でしかなかったが、氷上は高確率で能力を発現させるであろうと踏んでいた。


 アメリアがプログラムを使用したことに湯村が驚いている前で、アメリアの身体が、風をまとい始め、やがて静かに収まった。閉じた目を開いたアメリアが湯村に言った。


「双……逃げて。ワタシ……」

「!!」


 湯村はその一言でアメリアが今から息を”吸う”のだと直感的に理解し、速度コードを唱えると、目にも留まらぬスピードでサラリーマンが入ってきた窓からバスの外に脱出した。アメリアは、湯村が何故目の前から一瞬でいなくなったのか理解ができなかったが、息を吐いた後だったため、我慢できずに大きく息を吸い込んだ。


 バス車内に急激な気圧の低下が起こった。全てのガラスが壊れ、外から空気が舞い込んだ。それでもバスの中の気圧は低下の一途を辿り、天井の鉄板も大きく内側に凹んだ。バスの内部にいたAAAの人間は急激な低気圧のために鼓膜が破壊され、その痛みで耳を押さえながらバスの中で倒れた。


「み、耳がー!」


 息を吸い込んだだけでバス内の数名の敵を無効化したアメリアであったが、さらに、彼女が引き起こした現象は単なるバス内の気圧低下にとどまらなかった。歪んだバスがさらに音を立てて揺れ始める。


「な、なんだ、この風は! うわっ!」


 4トンもの重さのバスがゆっくりと持ち上がり、周囲にいる人間を巻き込みながら土埃を伴う柱となる。


「こいつは……台風、いや、竜巻か!」


 湯村達を追いかけていた人々は圧倒的な自然現象を目の当たりにして逃げ出した。やがて舞い上がったバスの中から金髪の美女が出てくる。両腰に身につけた圧縮空気銃の弾倉には「999」の文字が浮かび上がっていた。


「とうっ」


 両手に銃を持ったアメリアは空中に舞い上がったバスから飛び降りた。地上付近で、先程同様に圧縮空気を撃ち出し、ふわりと着地する。


 竜巻を背に降りてきたアメリアを前に、本来普通の市民であるAAAの集団はたじろいだ。そこへ運良く竜巻に巻き込まれるのを免れた沢渡が集団に活を入れる。


「何やってるんだ! メールの指令を見ただろう、あいつらを殺せ!」


 沢渡の声を聞いて、恐る恐る近づいていく住民達。だが、これを好機と睨んだアメリアは、模造通天閣方面にいる敵に向かって、銃を向けた。


透明インビジブル弾丸バレット……広域ワイルド・レンジ!」


 モーゼの十戒を見るようだった。空気の弾丸が、人の群の一部を吹き飛ばし、そこに真っ直ぐな道が生まれた。湯村とアメリアは、その隙間を走り抜ける。


「なにをっ!」


 運悪く弾丸の通り道に身体半分だけ入っていた沢渡は、左半分を吹き飛ばされると回転しながら10mほど外へ飛んだ。


「Wow! こんなに沢山の弾丸、使ったことなかったよ! ねぇ、ワタシ凄い? 双?」


 アメリアは、自分のやったことに高揚しつつも、昇天閣へ向けて走った。人が居なくなった道を、トラックや自家用車が容赦なく湯村達に迫ってきたが、アメリアが地面に反射させた圧縮空気を放つと、車は容易に横転していった。


「これは、行けるかも」


 湯村達の能力の弱点は、能力を発動し続けている間しか戦えないことだった。だか、アメリアは自分の肺活量を一瞬強くすれば、あとは氷上の作った圧縮空気銃がアメリアの空気を保存してくれる。


銃が圧縮空気を貯めている間、アメリアは能力を温存することができる。つまり、理論上、彼らの中で一番の長期戦闘が可能かもしれなかった。





 アメリアが能力活性化に成功し、集団包囲からの脱出を試みようとしていたとき、氷上、佐倉、柏木の3人は本日の宿代を稼ぐため、スロットマシンの前に並んで座っていた。


「佐倉。その台は捨てろ。もう設定が変わった。後ろの15って書いてある台に移動しろ。柏木はあと140回ほど回したらビッグが立て続けにくるからそのまま続行」

「140回って数えるんですか……」


 ほかの客に混じって、スロットを続ける三人。明らかに残りの客よりメダルを溜めるスピードが早かった。


「湯村達、大丈夫ですかね」


 大量のメダルを別の席に運びながら佐倉が氷上に尋ねる。


「うーん。多分大丈夫じゃないか。あ、おねーさん、コーヒー頂戴! うんと甘くしてね」


 氷上は通り過ぎるバニーガールに声をかけてコーヒーのお代わりを要求する。


「お姉さん! 俺にもビール!」

「あ、ごめんなさい、大丈夫です」

「痛っ」


 鼻の下を伸ばしながら酒を頼もうとした未成年は、メダルの入った箱を思い切り頭にぶつけられていた。頭を押さえる佐倉を無視しながら柏木は氷上に問う。


「アメリアって子、私達みたいに制限時間とかにならないのかな」


 柏木はスロットなどよくわからないので、とりあえずメダルを入れてボタンを押し続ける作業を繰り返していた。時々氷上が目押しにくると、面白いようにメダルがでるのが不思議で仕方なかったが、勝っているので気にしないことにした。


「まあ、制限時間にはならないと思う。あいつは一度息を吸い込んだだけで武器が出来るからな。問題はもっと生理的な部分だな。あ。佐倉、トイレ行くならついでにこれ捨てておいてくれ」


 氷上の足下には買い物かごが置いてあり、15分ほど前に昇天閣内の本屋で買った本が山積みになっていた。


『ギャンブルの勝ち方』

『パチンコ入門』

『初心者でもわかるスロット』

『猿でも勝てるブラックジャック』

『ルーレット、これだけわかれば勝利は確定』

 etc……


 これらの本をすべてパラパラめくっただけで読み終えた氷上は、もっとも勝率が高いギャンブルは、ディーラーなどの人間がかかわらないスロットであると結論づけたのであった。機械ならば、氷上の高速並列思考ニューロ・アクセラレータと相性がいい。情報が限定されているからだ。


「これ、もう、いいんスか」

「ああ、もう読んだ」


 俺もこの記憶力の100分の一でもありゃ良かったのにと独り言をいいながら、佐倉はトイレと雑誌の廃棄のためスロット場を離れた。氷上は自分の台に視線を戻すと小さくため息をついた。


「結局、またお前頼みになるか。すまんな。湯村」


 氷上はこれからアメリアに起こる未来を予測して独り言を呟くと、静かにアイスコーヒーを口に運んだ。

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