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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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変態という名の恩師

 工場地帯から出て商業地区へ入った。だが、まだ昇天閣までは5kmほどの距離があった。走る湯村とアメリア。工場地帯を離れて5分と経たないうちに、二人はAAAトリプル・エーに所属する市民に見つかり、追いかけられ始めた。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「双! 急いで! 男の子でショ?」

「はぁ、無理、言うな、あそこまでだって、走ってきたんだぞ、俺は」


 後ろには何十人という一般市民が、二人を追いかけていた。なんとか追いつかれずに走り続けていた二人だったが、そこへ急にバスが突っ込んできた。


「うわっ、危ねぇ」


 湯村とアメリアは持ち前の反射力で避けたが、歩道に乗り上げたバスは他に歩道を歩いていた人間を轢き、弾き飛ばしながら歩道に乗り上げて横転した。バスが横転したというのに、さらに中から人が出てきて、血だらけになりながら湯村達をめがけて追いすがろうとしていた。


「Oh……ニッポン人の根性、恐るべしね」

「感心してる場合か。来るぞ」


 関西内のAAAネットワークは、氷上が昇天閣に逃げ込んだことを皮きりに、運転者も二人を目の敵にし始めた。関西シェルター内の交通網はぐちゃぐちゃになりながらもバス、トラック、自家用車が二人に突進してくる。二人は細い道に入りながら少しずつ昇天閣に近づいてはいたが、横道に逃げながらの5kmは、なかなか遠い道のりだった。


「アメリア、こっちだ」


 湯村は人気のない暗がりを通りながら、バスの営業所にやってきた。運行に関係のないバスが何台も扉を開けたまま停止しており、二人が隠れるにはもってこいの場所であった。


「That's great! ここ、少し安全みたいね」

「ま、どれだけ持つかわからねぇけどな」


 二人はバスの一番後方の座席に座り、窓から頭が出ないように、入り口の運転席の方から見えない足元に隠れながら座った。なにも同じ側の座席に座ることはなかったのだが、アメリアがぐいぐい湯村を押して座ってきたため、二人は小さく縮こまり、同じ側に固まって座っていた。汗ばんだアメリアはパタパタと赤いタンクトップの胸元を仰いだ。


「双……見たい?」

「なっ」


 えへへと笑って見せるアメリア。


「それもその先生とやらから教わったのか」

「そうだよー。気に入った男には惜しむべからず、だったっけ? 一年前くらいだったから詳しくは忘れちゃったけど」


 一年前。関西シェルターがAAAに占領された時だ。恐らくその色仕掛け術を教え込んだ先生とやらはもういないのであろう。話題を変えるために湯村は先ほどから気になっていたアメリアの”銃”について尋ねた。


「そういえば、それ、何なんだ? さっき工場から飛び降りるとき、使ってたよな」

「ああ、これ? これはね、compressed air gunなんだよ。日本語だと、うーん。圧殺? 圧迫? なんかそんな感じだったと思うんだけど」

「圧縮空気か。なるほど、カラクリがわかった」


 アメリアは弾倉を確認してため息をついていた。


「どうした?」

「これはね、自分で息を吹き込めば、弾丸を補充できる銃なの。でももうあと少しになっちゃった」


 アメリアが自分の銃を指さした。確かに銃身の上には、ピアニカの吹き込み口のような構造物が取り付いており、人が息を吹き込むことができるようになっていた。そして、弾倉の横には数字が「12」と表示されていた。


「あと、12発しか弾が残ってないのか」

「うん。工場からダイブするときに50ショット分使っちゃった。今から呼吸を送り込んでもあんまり増えない」

「そうか。でもできることはやっておこうぜ。俺、もう一つの銃を借りていいか」


 湯村は残弾数が「0」と表示されている銃をアメリアから借りると、口元をハンカチで拭き、思いっきり息を吹き込んでみた。しかし、銃に付いている吹き込み口からは全く空気が入って行かなかった。


「あは。無理だよ。それ、私が思いっきり1回吹き込んで1回分だもの」


 アメリアはそう言うと、思いっきり息を吸い込んだ。バスの扉が少し揺れ、一瞬車内に風が起こる。そしてそのまま手元の吹き込み口に小さな口をつけると、思いっきり息を吹き込んだ。「12」と書いてあるメーターは「13」に上がった。


「お前、すごい肺活量してるんだな」

「えへへ。Diving contestで一等だったんだよ。私が浮かび上がってこないから、審査員の人が慌てて助けに来たんだって」


 その時、湯村の電話が震えた。着信は氷上だった。湯村はやれやれ、やっと繋がったかと思いながら電話に出た。


『湯村、無事か? 先程はすまなかった。どうしても電波を妨害する必要があったんだ』

「すまなかったじゃすまねぇよ。えーと、まあなんだ。とりあえず街の人達から、絶賛殺されそうになっているところだ。今、ようやく隠れられるところを見つけたんだが、ここだって、いつまで持つかわからない。能力は一応温存してある。指示をくれないか」


 アメリアはスマートフォン形式の電話が珍しかったらしく、「Wow!」とか「Amazing!」とか小さな声でしゃべっていた。


『くんくん。おい湯村くん。可愛い女の子の匂いがするぞ。極限状態なのに隅に置けないやつだな。君は今一人か?』


 どうやらアメリアの小さな声をスマートフォンが拾っていたらしい。


「犬か、お前は。なんか同じクラスのミリタリーマニア風の女がさっき助けてくれたんだよ。んで、流れで彼女と一緒に逃げているところだ。閃光弾とか、圧縮空気銃とか持ってるんだが、それでもその武器ももう限界で」

『アメリアかっ!!』


 耳が痛くなるような大声で氷上が叫んだ。アメリアはその声が聞こえたらしく、目を丸くして電話に話しかけていた。


「トール? アメリアだよ! 会いたかったー! 寂しかったよー!」


 湯村から電話を奪い、泣き始めるアメリア。ここで湯村は今までの話が繋がった。色仕掛けを教える教師。普通の技術レベルでは作れない圧縮空気銃。ダイビングコンテストでぶっちぎりのトップを飾る異常な能力。


「先生て、こいつのことだな、アメリア」


 確信を持って湯村はそういった。


「Yes! トールは私の最もリスペクトする先生だよ」

『やめろよ、アメリア。照れるだろう』

「リスペクトしないほうがいいと思うぞ」


 アメリアが氷上の電話に泣きながら話していると、バスが、揺れた。


「まずい、まさか」


 湯村がゆっくりとカーテンの隙間から覗くと、バスの外には、無数の住民がバスの営業所の敷地内に大挙して集まり、バスを押し倒そうとしているところだった。


「ゆーむらくん、みぃつけた」


 沢渡がフロントガラスから手を降っていた。バスは多数の人間の手によって倒れ湯村は横倒しになったバスの中、座席から投げ出された。


「アメリア、大丈夫か!」


 だが、アメリアは、自分の足の力で座席に身体を固定させたまま横向きになって氷上と話していた。


「身体能力強いな、おい」


 横倒しになったバスの上から、ガラスを破ろうと、住民たちが窓を叩き割ろうとしていた。だが、アメリアは、氷上との通話を相変わらず続けていた。しかし、先ほどの泣いていた顔とはうってかわり、何かの指示を受けているようだった。


「わかった、やってみるよ、トール!」


 アメリアがそう口にした所で、最初のガラスが割られた。そこから金属バットを持ったサラリーマンが、湯村たちをみつけて歩み寄ってきた。


「逃げるぞ! アメリア!」

「大丈夫。双。私がなんとかしてあげる。私は、トールの教え子だもの」


 アメリアは携帯からイヤホンを引き出し、耳に当てると、湯村にも馴染みのある言葉を唱えた。


activateアクディベート!」

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