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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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アメリア

 高校内で不振なメール着信音が鳴り響く度に、一人一人生徒が立ち上がり、教室を出て行く。だが授業をする教師も、それを咎める様子もない。そのうち、柏木の携帯にもメールが着信した。謎のメールは柏木の携帯にまで来たのだろうか。でもどうやってアドレスを割り当てたのだろう。恐る恐る携帯を見る柏木。


 題名『ピンチだよ! 全員集合!』


 柏木は深い溜め息をついた。この緊張感ゼロのメールを出してくる人間は一人しかいない。自分にもほかの生徒同様、何かしらのメールが来ると思っていた柏木は、そのメールに若干の苛立ちを覚えたが、とりあえず本文を読んだ。


 本文: 古い友人と会ったら敵に目を付けられちまった。お前達も私と逃げておかないとあとあとマズいことになる。とりあえず二分後に下に集合。


 二分。荷物をまとめて、教室を出て、ギリギリの時間だった。しかし、関東のシェルターでも何度もテロのための避難訓練をした経験があったため、淀みなく準備を整えると、柏木は廊下に出た。教室を出ることに関しては、ほかの生徒に紛れてのことであったため、何も指摘されることはなかった。


「おう、柏木。お前にもメールが来たんだな」

「佐倉くんも? あれ? 双は?」

「ゲーセンを探すとか言って、一限目からいないぜ」

「もう、馬鹿なんだから!」


 出口付近で佐倉と合流した柏木が外に出ると、校門からグラウンドに走り込んでくるワンボックスカーを認めた。


「二人とも! 急げ!」


 その後ろにはパトカーやらトラックやら様々な車が大挙して後に続いていた。急いで車に乗りこむ二人。


「氷上さん、街で双を見なかった?」

「連絡を受けた。あいつは別で追われている。だが、私たちもヤバい。とても合流して助太刀というわけにはいかなそうだ」

「そんな」


 氷上は車を発進させると、また通りに出て走り始めた。


「逃げるって、氷上さん、どこへ? 関西シェルターはまだ何も変わってないんでしょ?」

「ああ、だから変えられるところへ行くんだ」


 ワンボックスカーは、模造通天閣を目指して走っていた。だんだん近づいてくる繁華街の明かりを見ながら佐倉が言った。


「先生、あっちは街の中心地だぜ。逃げるなら入口の方だろ?」


 佐倉が逆の方向を指摘したが氷上は否定した。


「出口に行ったところで、地上で待ち伏せされるのが関の山だ。だからシェルターからは出ない」

「だったらどうするんだよ。つーか、追っ手の車の数、ヤバくないか?」


 氷上の車は、パトカー十台に加え、トラックやらタクシーやら自家用車やら、多数の車から追いかけられていた。正面から衝突を目論む車もいて、ワンボックスカーに迫る。


「うわっと危ない! 何考えてんだ、バッカじゃないの!」


 ぶつかりそうになる車に対して急ハンドルで回避した氷上が抗議する。とにかくぶつけて止めればいいくらいの勢いで車が次々と迫り来る中、前方に昇天閣の入り口が見えてきた。


「よし、あそこまで逃げ切れれば」


 だが、昇天閣の入り口を塞ぐように、横から大型トラックが入り込んできた。このままではワンボックスカーは、トラックの横に衝突してしまう。一台前に走っていた車は、トラックに突き飛ばされ、横転していた。氷上の車も、減速するにはもう間に合う距離ではなかった。


「ジョージ!」

『わかってますよ、創造主マスター


 人工知能を持つワンボックスカーは、伊勢湾を飛び越えたのと同じジェット噴射で、空へと浮かび上がり、昇天閣の入り口を乗り越え、敷地内に着地した。


「あー、危なかったー」


 車が停車した後、氷上は安堵の声を漏らした。


「氷上さん、追っ手が! ……あれ?」


 だが柏木が指摘した追っ手は、 もうどこにもいなくなっていた。


「ここは、治外法権なんだ。関西シェルターはAAAの手に落ちたが、ここだけは無事なんだ、何故かというと」


 理由を言おうとしたところで、銃の撃鉄を起こす音が車外のあちこちから響いた。佐倉と柏木が辺りを見回すと、ワンボックスカーは、銃を構える強面の男達に囲まれていた。


「おう、お前ら。わしらのシマに飛んで入ってくるたぁ、ええ根性しとるやないか」

「飛んで火にいるワンボックスカーとは、オドレらのことじゃ。……兄貴! わしの今の言い回し、どうですかい!」


 兄貴と呼ばれた男は発言した若い男を蹴り飛ばすと、怒鳴りつけた。


「うるせぇわ、銀次! 余計なこと言うんやないで! おい、オドレら何者や? 殴り込みなら、ここで蜂の巣にして返したる」


 氷上は、車を降りて言った。


「私達は客だ。外の連中とは無関係だ。賭博場の駐車場はここでいいのか?」


 すると、車を囲み銃を構えた男達は一斉に構えをとくと、声をそろえて叫んだ。


「「いらっしゃいませ! ようこそ昇天閣へ! 三名様、ご案内ーーーー!」」


 氷上は腰が抜けている柏木と、戦闘態勢に入ろうとした佐倉に向かって言った。


「と、いうわけだ。ここはテロリスト占拠前からの谷口組というグループが仕切っている場所なんだ。AAAが関西シェルターを攻めに来たあとも、文字通り命がけでこの場所だけは死守したそうだ。ここは彼らの稼ぎの生命線だからね。だから、シェルター全体が占拠されているにもかかわらず、ここだけはAAAの関与できない場所となっている。ただし入るには客として入らなければならないがね。賭けが終了するか、昇天閣内のホテルで宿泊しない限り追い出される仕組みとなっている」

「え? 谷口組って、ヤ……」


 決定的なセリフを言おうとする佐倉に対して氷上はセリフを重ねた。


「グループだ。谷口組というグループの皆さんだ。間違えるなよ」


 佐倉は氷上が言わんとする事を理解し、喉元まで出かかった言葉を飲み込むと、車に戻った。





「はあ、はあ、はあ」


 湯村は細い路地を駆け抜ける。ただでさえ暗い関西シェルターの路地は、夜のようだった。細い路地においてあるポリバケツのゴミ箱やダンボールにつまずきながら、道なき道を必死に走る。だが、湯村が通りに出ると、すぐにその辺りで人々の着信音が鳴り、湯村を追いかける増援となる。道行く人々が携帯を見た途端、狂気に染まった表情で湯村を探し始める様子は、湯村にとってかなり恐ろしい光景であった。


「こっちももう、駄目か」


 昇天閣のやや西、缶詰工場のある辺りで湯村は追い詰められた。ここは大きな工場が林立してあるが、その工場と工場の間には一本の道しかなく、湯村はその両側から挟まれてしまった。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ」


 湯村は周囲の人間に声をかけた。


「俺が何をしたってんだ。お前らはなぜ俺を追いかける?」


 すると、それに答える男が湯村を挟む両陣営の一方から姿を表した。


「それは、お前があのゲームセンターを見てしまったからや」


 湯村はそれが自分の知っている男だと確信して振り返る。


「沢渡……」

「ここはAAAの街や。AAAの意志に反するものは殺される。当然のことやと思うけどな。そやから、意にそぐわんもんは、”転校”してもろたんや」


 そして沢渡は間髪入れず、湯村を殺す命令を出した。


「ほな、さいなら。転校生。転校してきたばっかで急やけど”転校”、してもらうわ。あの世で百人友達つくったらええ」


 両側からいろいろな凶器を持った人間が襲いかかってきた。が、その刹那、閃光弾が地面に炸裂する。関西シェルターは通常からシェルター内が暗く、その効果はてきめんだった。


「くっ、あいつ、こんなもんもってやがったんか」


 明かりが晴れると、湯村は二つの陣営の間から消えていた。


「むが。むがむが」


 暗い工場の中、二人の男女が抱き合って倒れていた。いや、正確には湯村が金髪の美女に抱きかかえられていた。


「あ、ごめん」


 美女は湯村を離した。照明弾の中、この美女が湯村を連れて窓から工場の中へ連れてきてくれたらしい。湯村は自分を救ってくれた相手をまじまじと見た。暗がりの中でも目立つ、ハーフの顔立ち。湯村のような人工的なものではない天然の金髪は肩くらいまであるのか、後ろで軽く縛ってあった。耳の横に少し垂れる髪が可愛らしさを際立たせている。年の頃は湯村と同じくらい。顔は控えめに言っても美女といえよう。美女、というのは彼女の雰囲気が同世代にしては大人っぽかったからだ。湯村はその顔に見覚えがあった。


「お前、確か高校にいた」

「quiet! 静かに」


 二人は耳を澄ませた。徐々に視界が晴れて来たAAAの者たちが動き始めたようだ。美女は湯村を連れて階段を上に誘導する。工場自体は一つの大きな空間でできており、中央に大きな缶詰のオートメーション機械があった。機器のメンテナンス用に設置された階段と通路が中央の機械と工場の周囲を取り巻くように設置してあった。


「ここなら、しばらく見つからないね」


 二人は階段を登って、大きな缶詰の機械より高い位置の通路に座って、機器のメーターの影に隠れてじっとしていた。湯村はようやく落ち着いて彼女に話しかけた。


「助かったよ。確か……阪井、だっけ」

「Oh! You're clever! 覚えててくれたのね」


 阪井は湯村に抱きついた。阪井は湯村より少し背が高く、ノーブラで赤いタンクトップをしていたため、湯村は阪井の弾力ある胸に押しつけられることになった。


「ちょ、ちょっと待て。日本人にそのスキンシップは危険すぎる」

「Fumm? そうなの? ワタシの先生は日本人の男にはこうやって挨拶するのが礼儀っていってたよ」

「ロクでもない教師だな」


 関西にも変な教師がいるなと思ったのも、つかの間、工場に先ほどの集団が流れ込んできた。彼らは容赦なく火炎瓶を辺りにまき散らす。工場はすぐにあちこちが燃え始めた。明かりの中、二人の姿が浮き彫りになる。


「あそこにおるで!」


 集団の誰かが叫ぶとバットやナイフを持った人間たちが階段を上ってくる。


「仕方ねえ、さがってろ」

「駄目よ。相手にしちゃ」


 阪井は階段を上ると、4階程の高さのところにある窓ガラスの場所まで、湯村を引っ張っていった。


「お、おい。どうするんだ。火の手は上に上がる。逃げるなら上じゃないだろ」

「No probrem。平気だって」


 窓ガラスから顔を出す阪井。4階建てくらいの高さの景色がそこには広がっていた。非常口でも何でもない、ただの工場の換気窓だった。落ちたら大怪我は避けられない。集団はほとんど工場の中に入ったようで、窓から見ると外にはもうあまり人はいない様子だったが、この窓から二人で逃げ出すのは難しいなと湯村は感じていた。そうこうしているうちに、武器を持った民間人たちは阪井と湯村が昇った階段を追ってきていた。阪井は湯村に笑顔を向けて聞いてきた。


「湯村、フリーフォールって、好き?」

「いや、あんまり……って聞く気ねぇだろそれ!」


 阪井は湯村の手を引いて窓から飛びだした。二人の体が重力に従って垂直落下し始める。


「最近多いなぁ! こういうの!」


 湯村が能力を出そうとしたその時、阪井は腰の銃を反対の手で掴むと、地面に向かって撃った。銃からは何も発射されたようには見えなかったが、湯村と阪井が地面に落下する直前、二人のスピードは急に緩やかになったかと思うと、やわらかいクッションのようなものに、包まれて着地した。あっけにとられている湯村を阪井は引っ張り起こすと、昇天閣の方に向かって駆け出した。


「ほら、双、走って?」


 急に下の名前で呼ばれ、はっとして走り出す湯村。


「阪井、今のは何なんだ?」

「アメリア」

「え?」


 呆けている湯村に阪井は言う。


「ワタシ半分カナダの人間だから、ファミリーネームで呼ばれてもよくわからないの。ワタシもあなたのことソウって呼ぶ。あなたはワタシのこと、アメリアって呼ぶ? OK?」

「お、オーケー、アメリア」


 湯村がたどたどしく英語で答えると、阪井はにっこりと笑って見せた。


「Good! ワタシは阪井さかい=アメリア=響子きょうこ。あなたを助けに来た。gambling houseまでdashだよ、双」


 湯村とアメリアは連れ立って、工場街を東へ、模造通天閣を目指して走りはじめた。周囲の工場からは火の手が上がり、暗い、アンダーカラムを赤く照らしていた。沢渡は二人が逃げたしたことに気づき、逃走した二人をAAAネットワークの指名手配リストに挙げた。


 工場周辺から関西シェルター西側の住民の携帯電話が一斉に鳴る中、金髪の不良と金髪の美女の逃走劇が始まった。

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