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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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転校という末路

 担任が山崎の転校を告げた時、クラスメイトの反応は想像以上に冷ややかなものだった。まるで今日の天気でも聞いたかのように静かに事実を受け入れていた。


「転校……!?」


 しかし、佐倉は簡単にはその事実を受け入れることができず、驚きをあらわにしていた。近くにいた沢渡が佐倉に声をかける。


「佐倉、昨日のこと覚えとるか? 山ちゃん、転校していった幼馴染のこと、話しよったやろ。今思えばやけど、あれは今日のことがあったからかもしれへんな。自分も転校することが決まってたんやろうな」

「そう、なのか?」


 佐倉は、昨日自分達をあんなに明るく迎えてくれたこのクラスを、なんと情にあふれる学校だろうと思っていた矢先だったために、ショックを隠せなかった。転校することを当日まで誰にも知らせなかったクラスメートも、知った後の反応が妙に薄いこのクラスも、佐倉が昨日抱いた印象とは正反対の事態であった。


「まあ、俺達にはよくわかんねぇけど、これが関西の潔さってやつじゃねぇのか」


 ホームルームが終わるのを見越して湯村が立ち上がった。


「どこ行くんだ?」

「ゲーセン。つってもまだ探し中。そもそも関西シェルターにあるのかわかんねぇけどな」


 教室を出て行く湯村。その姿を、何人かの生徒がじっと見ていた。そのうちの一人であった沢渡が、佐倉に尋ねる。


「なあ、佐倉。湯村って、どんな奴なん?」

「湯村? ああ、あいつはただのゲーム狂いの不良だよ。前の学校でも、教室にはほとんどいなかった。後はよく知らねぇな」


 佐倉は、湯村は特に自分とは関わりの薄い人間であるかのように説明した。それは、氷上から前もって受けていた方針でもあった。


「ゲーセンね」


 沢渡の目が一瞬鋭くなったが、佐倉はそれには気付かなかった。そのうち一限目の教師が教室に入ってきたため、佐倉と沢渡の会話はそこでひとまず終わった。






 湯村は学校を出て、街を歩いていた。ゲームセンターを探すという目的ももちろんあったが、気になったのは今日突然転校になった生徒のことだ。『ゲーム野郎! 関西東支店』と書かれた看板をくぐる。


活性化アクティベート


 昨日と同様、いつ何時襲われても大丈夫なように能力の準備をしておく。壊れたアーケード台の横を通り、奥の控え室に入る。死体にたかるハエが部屋には無数に飛んでおり、昨日同様死臭も相当な物だったが、構わず辺りを見回した。湯村はその中でも一番新しい死体を見つけるとその前に腰を下ろし、遺体の前で手を合わせた。


「気付いてあげられなくてごめんな。仇は取ってやるからさ」


 死体は撲殺のようで、顔が認識できないほど潰されていたが、制服の胸の刺繍がドッグタグのように彼が彼であることを示していた。


『阪神東高校 山崎修一』


 湯村は立ち上がり、ゲームセンターを後にする。湯村が立ち去った後のゲームセンターでは、アーケード台に隠れていた人影が、周囲に人がいないことを確認し、姿を現した。その人影は、通りに出ると、ゆっくりと湯村の後を追い始めた。






 模造の通天閣はシェルターの中心にあるのだが、そこから見て学校とは逆側に、風力発電所の変電施設があった。地上の吹雪の風力を利用したAAAトリプル・エーの発電施設である。そこからほど近い喫茶店に、サングラスをかけたサマードレスの女性がアイスコーヒーを飲みながら座っていた。アイスコーヒーのために用意された角砂糖のケースは半分以上無くなっていた。


「待った?」


 そこへ、黒髪で長髪の女性がやってきた。女性は小奇麗なグレーのパンツスーツを着ており、パッと見た目男性にも見間違われそうな印象であった。凛々しく、強い意志を持つ目を持っていたこともあったが、待っていた女性に比べて、やや女性らしい体型に欠けていたこともその一因であった。


「いや。待たせたのはむしろこっちの方だ。すまなかった。かおる

「ううん。透も、よく来てくれたわ。本当に……本当に!」


 黒髪の女性は氷上の前に座ると、その手を握りしめて涙を流した。氷上も、その目には少なからず涙を浮かべていた。


「再会を祝うのはまだ早い。状況を聞かせてくれるか、薫」


 九木薫ここのぎ・かおるは頷くと、ノート型PCをテーブルの上に開けて、話し始めた。


「こんなところで会うなんて本当に偶然。高校以来かしら。懐かしいわね」

「あ? ああ」


 九木は氷上エレクトロニクス関西エリア社員で、氷上と個人的にも仲が良かった。しかし、年齢は氷上の方が3つほど上で、つまり、高校時代が一緒になるわけなかった。不審な顔をする氷上の前で、九木はノート型PCを操作し続ける。


「この喫茶店、クリームソーダが美味しいのよ。あー。透、今私のこと、子供だと思ったでしょ?」

「そんなことはない。私も未だに甘いコーヒーから抜けられない。ブラックコーヒーも旨いのだが、仕事上糖分を抜くわけには行かなくてね」


 二人が会話を続けていると、九木はノート型PCを裏返して氷上に見せた。


『私は、盗聴器を付けられています。氷上エレクトロニクス社員は、この変電所とオーバーカラムに全員が収容され、監視下で強制労働を強いられています。逃げてください。氷上さん。私達に不用意に接触する者は、シェルターを追放されるか、消されます。後ろの黒服の二人は私の監視者です』


 氷上は頷くと、九木のノート型PCを覗き込みながら言った。


「そっかそっか。なるほどー。今こういう仕事をしているのか。私は理科系は全然ダメでね。おや電話だ。失礼」


 氷上はわざとらしく電話を取り出すと、何かを話しているふりをして、九木に言った。


「氷上ですが。あー、会えたよ。薫に。ええ? 会いたい? ちょっと待って。薫、昼休みはまだありそうか?」

「ええ。大丈夫だけど」


 九木は不意を突かれてとっさにそう答えた。すると氷上は九木の手を引きながら言った。


「じゃ、20分だけ付き合ってくれ。すぐそこまで来てるっていうからさ。あ、マスター、これお代ね」

「え? 誰が待ってるって? ちょ、ちょっとー」


 監視の黒服が見ている前で、強引に氷上は九木を車に乗せ、喫茶店を後にした。もちろん、監視の黒服も同じく道の前に止めていた車に乗り込んだ。氷上のワンボックスカーが出発すると、黒服の車も後を追いかけてくる。氷上はワンボックスカーの操作モニターに指を触れ、オレンジ色のボタンを押した。


『了解』


 ボタンを押すと、ジョージはそう答え、ある機能を発動した。それは、関東を出るときに新しく搭載されたマルチジャミング装置であった。先日の久谷邸で、氷上が苦しめられた恐るべき敵の装置である。


「九木。もう大丈夫だ。今ありとあらゆる通信機能は無効化した」


 九木は鞄の中を見ると、手元の携帯電話や盗聴器のランプがOFFLINEの明かりになっていることを確認して話し始めた。


「……透。私たちはもう駄目よ。この一年間でAAAに逆らうものは殺され、彼らに従うものだけがこの変電所と上の階層に労働力として送られたの。関西支社の企業秘密はほどんどAAA側に知れ渡ったと思って」


 九木は一年前、関西シェルターがAAAに占拠された日のことを思い出して青ざめた。目の前で殺され、選別されていく同僚。知っている情報をすべて明け渡し、AAAの社員として生きていくことを選択せざるを得なくなった去年の春。それから今まで、生きているのか死んでいるのかわからない状態で彼女はただ言われるがままに与えられた仕事をして日々を生きてきた。


「技術班はシェルターの上の層、オーバーカラムに連れて行かれたわ。私は技術者としては二流だったから、こっちの変電所の方に配属されたの」

「知っているよ」


 氷上は九木の方を見て言った。


「九木薫、アンダーカラム、風力発電変電所所属。田波二郎、オーバーカラム、南重工工場所属。三上真司、アンダーカラム、変電所、事務第2課所属……」


 驚くべきことに、氷上は現在、元氷上の会社に勤めていた者がどこにいるのか、九木でも知らないような内容まで正確に把握していた。驚く九木に氷上は続けて説明する。


「一年間、私が何もしていなかったと思うかい、薫。私がここに来た理由は、君たちをAAAから開放するためだ。それが氷上エレクトロニクス社長としての、私の罪滅ぼしだ」


 ワンボックスカーは変電所の前に停車し、氷上はそこで九木を下ろした。


「君と接触したことで、アンダーカラムで私は追われる身となりそうだ。とりあえず私は身を隠すことにするよ。だが約束する。今月中に、奴らをこのシェルターから追っ払ってやる」


 一度は撒いた黒服の車が角を曲がり、変電所の方に戻ってきたのを見て、九木が最後の質問を氷上にする。


「透。私に会わなければ、水面下で作戦を進めることもできたでしょうに。どうして会いに来てくれたの?」


 氷上は運転席の窓を開け、サングラスを外し、九木の目を見ながら言った。


「どうしても君という友人に会いたかった、じゃいけないかい? データで無事だとわかっていても直接確認しておきたかったんだ」

「透らしいわね」

「惚れでいいぞ」


 氷上はニヤリと笑うと、黒服の車が氷上に追いつく前に車を発車させた。黒服の車は、変電所の前を通り過ぎ、氷上を追った。残された九木が氷上に呟く。


「透……頼んだわよ」


 鞄の中の盗聴器のランプが復旧したのを確認して、九木は変電所へと戻っていった。






 氷上は追手に追われながら、ジャミング装置をOFFにした。すると、何回かの着信と、メールが来ていることがわかった。氷上はしまったと思いつつ、メールを携帯電話に読ませた。この携帯電話はメールの自動読み上げ機能が備わっていた。しかも、声の登録があれば、その本人の声を再現して読みあげてくれるのだ。


『氷上か? 湯村だが。あの高校は何かヤバい。昨日から今日にかけて、すでに生徒が転校という名目で殺されている。俺も今、何者かに追われている状態だ。このままだと交戦に入るかもしれない。もし出来るなら、美月は早めに保護しておいてくれ』

「マジか」


 このジャミング装置、ものすごい威力だが、味方と連絡が取れなくなるのはちと辛いなと氷上は使い所を考えなおす必要性を感じた。メールをすべて聞き終えた後、氷上がバックミラーを見ると、追手の車は一台から五台に増え、大通りはカーチェイスの様相を呈し始めていた。


「こっちもなかなか盛り上がってきたねぇ」


 氷上はギアを上げると、大通りを昇天閣の方へ走りだした。





 湯村の方も、追手が一人から二人、三人と徐々に増えていき、今や何人もの民間人が湯村のことを追い始めていた。


「まさか、高校内だけじゃないのか」


 湯村が追手の市民を観察していると、彼らは最初ただの歩行者だったのに、携帯電話を取り出して数秒後、湯村を追う人間に加わっている様子であった。当初は湯村に隠れて追いかけていたが、人数が増え始めるに連れ、だんだんと容赦なくあからさまに追い始めた。その手にはカッターナイフやバットなど、さまざまな武器が握られていた。彼らの目は、まるで砂漠の人間がようやくオアシスを見つけたような、欲望にとりつかれた目つきであった。


「ほぼゾンビゲームじゃねぇか! たち悪いな!」


 前や後ろで携帯電話の音が鳴り響く。そのたびに湯村の前後で新たな追手が発生していた。湯村は細い路地をたくみに使いながら、追手から逃れようと頑張っていたが、疲労と緊張から、だんだんと息が上がり始めていた。

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