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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第二章 関西遠征編(上)
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西へ

 どこまでも続く雪原に、高層ビルの頭がいくつか突き出ており、零下30度の世界を寒冷使用のワンボックスカーが約時速200kmで爆走していた。道路もないただの雪原であり、スピード違反など取られるはずもないが、乗っている人間の何人かは体験したことのないスピードに怯えていた。


「うぉおおおおおお」

「きゃああああああ」


 叫んでいるのは長身黒髪のスポーティな男子、佐倉直人と100人いたら99人は振り返るほどの美少女、柏木美月である。彼らは普通の高校生であり、ワンボックスカーが200kmものスピードで走ることに、耐性などあろうはずもなかった。まだ日本がこんな風に氷の大地に覆われていないころに乗った、彼らの自家用車はせいぜい時速100km前後なのだから。


「先生ー! 止め……止めて下さい」

「なんだ佐倉くん、君は男だろう。男の子なら、自家用車がちょっと法定速度の2倍を出したくらいで気にするもんじゃない。君のお友達を見てみろ」


 佐倉が振り返ると、彼の友人である金髪の不良、湯村双はすやすやと眠りについていた。佐倉の顔が怒りにひきつったが、それより走行する車による恐怖の方が勝ったのか、また前を向いて壁の手すりにしがみついた。


『それにしても意外ですね。美月もスピードが苦手だったとは。女性はジェットコースターが好きだと聞いていたのですが』

「ジェットコースターは、道があるでしょ、道が!」


 ワンボックスカーの人工知能「ジョージ・トマソン」が柏木に話しかけるが、柏木は目も開けられず眠っている湯村にしがみついている。その時、前を見ていた氷上がぽつりと言った。


「あ。崖だ」


 佐倉と柏木が見ると、目の前に伊勢湾が広がっていた。陸から大きな段差を隔てて湾が見える。湾は凍っており、海側にはわずかな流氷も見られた。明らかにスポーツドリンク剤のCMにでも使われそうな断崖絶壁が湾と陸の間には存在した。かつてないスピードの恐怖に加え、高所恐怖症の佐倉が、そこで意識を手放した。


「いやああああああ!」


 叫ぶ柏木。あまりの絶叫に目を覚ました湯村が外を見たとき、ちょうど車が陸から湾へジャンプをした瞬間だった。


「おい! どうなってんだこれ!」

「ジョージ、飛行モード」

『もちろん、やってますとも』


 車は底面からジェット噴射をして飛行していた。伊勢湾の氷の上をワンボックスカーの影が映る。


「やれやれ。寝てた方が良かったな。あれ? 直人寝てんのか。高所恐怖症だし、ちょうどよかったな」

「双、そっとしてあげて。もう気を失った後なの」


 対面の紀伊半島にたどり着き、また通常の走行にもどったが、シェルターが近くなってくることもあり、かつての道路交通法の通り、時速60kmくらいで奈良県は大和郡山市がかつてあった辺りへと向かった。目的地に近付いた時、氷上が目を覚ました佐倉、湯村、柏木に説明を開始した。


「これから関西シェルターへ正規の方法で侵入する」

「え?」


 柏木が驚きの声を上げた。無理もない。現在地球は未曽有の氷期(氷河期の中でも特に寒くなる期間)にあたり、地上はどこも人の住める気候ではない。日本は5か所に地下シェルターを建設することで人々をなんとか生きていけるようにしたが、関東を除く関西・九州・東北・北海道のシェルターは現在、AAAトリプル・エーと呼ばれる反核テロリスト集団に占拠された状態にあるからだ。正規の手段で入るということは入り口から彼らの目を通ることになる。


「大丈夫だ。これは調べて分かったことだが、国民の不満を抑えるためという名目で、奴らはシェルター間での国民の移動を許可している。もちろん通行料などを彼らの収入源とする目的があるからだが、おかげで我々は東北からの移住者として関西シェルターに侵入することが出来る」

「だが、AAAには俺たちの顔が割れてるんじゃないか?」

「そんなもん、とっくに書き換えたに決まっているだろ」


 胸を張って言う氷上を、心底怖いと思う湯村であった。4人は大和郡山市にある、関西シェルターの入り口にたどり着いた。入り口には、AAAのマークのついた戦車が入り口をガードし、兵士が窓を開けるよう指示してきた。


「東北から3人の転校を申し込んでいる。私は保護者だ。話は通っていると思うが?」


 窓を開けると驚くほど冷たい空気が流れ込んできた。氷上はいつの間にか分厚いコートを身にまとっていた。兵士たちは氷上から書類を受け取り、確認すると車を中に入れるよう、促した。


「ようこそ、関西へ。えらい遠いところを御苦労やったな」

「どーも」


 シェルターの入り口をくぐると、長いトンネルが始まった。大きな弧を描きながらどんどん下へと下っていく。兵士たちはトンネルに入るとすぐ見えなくなった。そこで氷上は解説を始める。


「関西シェルターは円柱状の構造になっていてね。この道路はその外周を下に降りていく通路だ」

「わざわざ下に降りる理由は何だ?」


 湯村がふとした疑問を口にした。地上に入り口があるのなら、そこからシェルター内に入っていけばいいはずだ。だが、トンネルはシェルターには直接入らず、どんどん地中深くへと続いているからだ。氷上は指をパチンと鳴らして湯村を指した。


「よく気付いたね。実はこの関西シェルター、2層の構造になっていて、上に富裕層、下にそれ以外の市民が住むエリアとなっているんだ。残念ながら富裕層の入り口はセキュリティーが高くてとても入れない。AAAトリプル・エーの支配下になってからはなおさらだ」

「俺、富裕層の階に行きたかったな―」


 車の外を見ながら佐倉が拗ねたような表情でつぶやいた。先ほどのことを根に持っているらしい。


「いずれは富裕層に行くぞ。関西を統べるAAAのリーダーはそっちに住んでいるだろうからな。それに、湯村に似たあの少年。彼が居たのも富裕層だ。現地では上の階をオーバーカラム、下の階をアンダーカラムと呼んでいる」

「上に行くにはどうしたらいい」


 湯村が氷上に尋ねる。彼の目的は、弟に会うことである。関西シェルター、オーバーカラムで撮られた写真に彼の生き別れの弟が写っていた。当然興味はオーバーカラムに集中する。


「富裕層になるしかないな。話によると、一人最低10億円支払うと上の階に行けるらしい」

「10億……最低、ですか」


 柏木はあまりの金額に圧倒され、遠い眼をした。氷上は続ける。


「一応私は氷上エレクトロニクスの社長だからな、一人か二人分なら予算から出そうかとも思っていたのだが、残念ながら、外からの金はここでは100万円までしか換金できないらしいのだ。まだシェルター同士が無事だったころはよかったが、AAAが占拠してからルールを変えたのだろう。つまり、移住してきたという扱いの我々の持ち金は4人で400万円ということになる」

「なるほど、簡単には富裕層にはさせないぞということか」


 車の外を見ながら湯村は舌打ちをした。弟がいつまでこのシェルターにいるのかわからないというのに、10億稼ぐのにいったいどれだけの時間と労力が必要だろうかと途方に暮れたためだ。


「真面目に働いたところで、10億稼ぐにはさすがに私でも苦労するだろう。だが、この関西シェルターは他のシェルターにはないある施設がある」

「ある施設?」

「もうすぐわかるさ」


 やがてトンネルの出口がやってきた。赤と黄色で「関西へようこそ!」と書いてある看板がトンネルの出口に飾られてあった。車はそこをくぐって大きな空間に出る。関西シェルターへ入ったのだろう。人々の喧騒が窓を通して聞こえてきた。


「随分賑わってんだなー」

「あ、あそこたこ焼き屋がありますよ」


 シェルター全体は昼なのに夜のように暗かった。小さな照明が看板を判別できる程度に取り付けられており、その照明で店の内容がようやくわかるようにしてあった。


「ここは商店街だ。外から買い物だけに来る客も以前はいたからな。シェルターの入り口はこういうお土産や食事どころが沢山ある。だが、我々の目的地はここじゃない。あれを見てくれ」

「……通天閣!?」


 商店街から少し遠くに、シェルター内に天井までそびえたつ通天閣が、あたかも天井を支えるかのように大きく上の部分をオーバーカラムに突き刺した状態でそこにあった。


「まあ、通天閣の模造だな、天井まで突き刺さっているだろう。あそこがオーバーカラムへの入り口だといわれているんだ」


 3人が通天閣もどきの方角を見ると、そのふもとが周囲の街より明るく輝いて見えることに気が付いた。


「なんか、あの通天閣もどきのふもと、明るくないか?」


 佐倉が指摘すると氷上が頷いて答える。


「ああ、先ほどの答えだよ。関西シェルター内には他にはない施設、”ギャンブル場”が存在する。あれは関西シェルター最大のギャンブル場、”昇天閣しょうてんかく”だ。負けたものは命を奪われ、勝った者は上の土地へ、そういう意味が込められている賭博場だ」


 3人は氷上の顔を見る。氷上はいつものように人の悪い笑顔を浮かべると3人に言った。


「掛け金は一人100万まで。無くなったら、一生ここで働くことになるから、必死で頑張るんだぞ」


 電力不足なのに煌々と輝く昇天閣の明かりが青ざめた3人の顔を照らしていた。

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