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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第一章 関東シェルター編
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黒い髪の少年

 メーカージャパンの能力者達が全員橘によって倒され、彼の作った巨人が柏木のところへたどり着こうとしていた時、湯村は必死に動かない体を動かそうとしていた。


「み……つき……」


 壁にぶつかった衝撃で全身が悲鳴を上げていた。能力の限界で意識も朦朧としていた。それでも湯村は巨人の方向に向かって手を伸ばした。別に愛がどうとかそういう話じゃない。ただ単純に、自分のためなら命だって投げ出す一人の人間を死なせたくないと思ったのだ。


「なにか……なにか出来ることは……」


 必死に伸ばした湯村の手が何かに触れた。それは人の足だった。そのまま目線を上へやる。その人間は学生服を羽織っていた。さらに上を見やる。男性だ。湯村と同じ癖っ毛だが、色が黒い。小柄な男性のようだ。その男は、湯村を見下ろすと、彼に向かって話しかけた。


「僕がいくよ。兄ちゃん」

「こ……」


 湯村は信じられないようなものを見たような目でその顔を見ると、そのまま意識を失った。





 柏木は、巨人が地響きを立てながら近づいてくるのを感じていた。逆向きに折れた足は正しい方向に戻ったが、傷口はまだ痛々しく開いたままだった。まだもう少し回復しないと、柏木は動くことができない。出口は塞がれた。ヘルメットは紫の化け物に壊された。佐倉はずっと眠ったまま動かない。湯村も先ほど吹き飛ばされてしまった。自分が何とかしなければ。傷が治せる以外何のとりえもないかもしれないけれど、動くことができれば何かできるかもしれないと柏木は自分を奮い立たせようとした。


 だが、巨人は無情にも確かな足取りで柏木に近づいてくる。巨人は柏木のすぐそばまで来ると、その大きな足を柏木に向かって高く上げた。これから来る衝撃は、今まででもっとも痛いものとなるだろう。ひょっとすると再生も不可能なのかもしれない。柏木は、巨人の足の影が自分に覆い重なる様に見えたところで諦め、体から力を抜いた。だが、衝撃は彼女の体に訪れなかった。



『コード N3x30A071 B0880070-B0C00FE0 に対して干渉、全個体のパラメーターをデフォルトに回帰』



 突然、柏木の頭の上で声がした。静かに、淡々と決まった言葉を紡ぐようにその声は台詞を唱えた。そして、その声が終わると同時に敷地内を揺るがすような轟音がとどろき、巨人は人間の集団に分解した。


「ここは……?」

「あれ? 俺、確かデモに参加してて……てなんで裸なんだよ」


 そこへ、久谷と彼の取り巻きの女性を連行した査察団のメンバーが屋敷の調査を終えて屋敷から降りて来た。


「隊長も覚えてないんですか? 自分も、農村の風景があったことは記憶しているんですが途中から記憶があいまいで」

「私もこんな透明な通路、通った覚えがないぞ。うわ、なんだこの紫色のゴミは。ん? おい、あれを見ろ。裸の人間が大勢いるぞ」


 査察団の面々は駆け出すと、裸で放り出された人々と話を始めた。


「いつからここにいるか分かりません。私はデモをしていて……」

「注射をされたのを覚えています。あれは私が話していたところに突然人がやってきて……」


 人々は査察団から毛布やタオルを受け取りながら、記憶をたどるように一つ一つ話し始めた。





 橘は地下の薄暗いコントロール室でその様子を見ていたが、黒髪の少年が巨人を分解するのをモニターで見たか見ないかのうちに急いで立ち上がると、周りにあるディスクを鞄につめ、PCに「all format」のプログラムをかけて部屋から出た。


 暗く、申し訳程度に明かりのついている廊下を走り、非常口と書いてある出口の方へ走る。走りながら顔の紙袋を取ると、銀髪の美少年の顔が現れたが、その顔からは滝のように汗が噴き出していた。


「はぁ、はぁ、あれは……やばい。絶対やばい。あれが敵に回ったら勝てるわけがないじゃないですか。日村さんに助力なんてしなけりゃよかった」


 壁に掛けてあるコートを掴んで転びそうになりながらさらに暗い廊下を走る。ようやく非常口へとたどり着いたが、焦って非常口の鍵が回らず2、3回試してようやく外への扉が開く。


 そこは、一台の車が入るくらいの大きさで出来た車庫兼エレベーターとなっており、地上へと繋がる彼だけが使える非常口であった。


「さようならです。氷上透とその組織のみなさん。また遊びましょう」


 エレベーターが地上へとたどり着き、外へのハッチが開く。橘は長距離用のホバークラフトを起動させると、勢いよく雪原の彼方へと消えて行った。





「査察団の一行が入って、もう、3時間が経過しようとしています。中では、一体どんな調査が行われているのでしょうか」


 ちょうどその時、テレビクルーは、久谷邸の外壁の前でレポートをしていた。外壁の扉が開き、そこから次々と査察団と、タオルや毛布に身を包んだ人々が出て来た。カメラが出口の方に移動する。他のテレビ会社も一斉に入口の方に近づいて査察団と裸の一団をカメラに収めようと移動した。


「道を開けてください! 押さないでください!」


 査察団のメンバーが、カメラの一団を押しのけ、毛布に身を包んだ民間人を次々に車に収容していく。隊長と思われる人が、カメラの前に出て、代表でインタビューに応じた。


「査察団のリーダーですね? 首尾はいかがだったでしょうか?」

「久谷議員は、テロ集団との関わりを認めたのでしょうか」


 フラッシュがまたたき、査察団のリーダーを照らしていた。リーダーはマイクの一つを手に取ると、手短に要点を答えた。


「まだ、はっきりとしたことは言えませんが、久谷は一個人がおよそ持つことを許されていない不当な武器を多数所持していました。そして、彼ら……身元の方はまだはっきりしておりませんが、おそらくAAAと思われる平和・反核団体に所属していた善良な人々を、何らかの実験に使っていた可能性があります。今、保護した彼らから少しずつ証言が得られています。いずれにせよ、まだ調査は始まったばかりです。追って記者会見を開きますので、本日はこれで」


 話はこれまで、と手を挙げたリーダーは車に戻るものの、アナウンサー達は車に戻るリーダーにマイクを向け続ける。リーダーが、車に乗り、保護された人々も救急車や査察団の車に乗って、移動すると、それぞれ得た情報を記事にするために、本社へ戻っていった。久谷邸の周囲には氷上の車と、小さな放送局の車がいくつか残っているだけになり、辺りは急に静かになった。


 現場に着いた林田の一団は、氷上が倒れたとの連絡を受け、久谷邸に乗り込む前に、氷上の車へ乗り込んだ。


「氷上校長は無事か」


 林田が車を見回すと、氷嚢をあてがわれている氷上が横になったまま手を振っていた。


「お疲れ―。終わったよ。強行突破は必要なし。今から多分3人も出てくるだろうから、彼らを回収したら帰って」

「氷上校長」

「ちょっと能力を使いすぎたみたいでさ、オーバーヒートしちゃった。私も少し休憩が必要みたいだわ。一年くらい学校辞めていい?」


 見た目はあまり無事ではない氷上であったが、林田はいつもの軽口を聞いて少し安心した。


「できれば一週間くらいにとどめておいていただけると助かりますな。氷上校長の一週間分の仕事は、私では一ヶ月あっても処理しきれませんから」

「駄目か」


 氷上は軽く笑うと、熱にうかされながらも真剣な目つきで、モニターに映った黒髪の少年を見つめていた。少年の顔は画面上で大きくアップにされていた。その顔は、湯村双と全く同じ顔であった。

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