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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第一章 関東シェルター編
30/167

500 vs 3

 自身の速度を40倍速にした湯村が目を開けると、農村の風景は時折、久谷が笑いかける立体映像や、茶碗にいっぱいのご飯が盛ってある写真が農村の風景の代わりに表示される様子を確認した。


「なるほど、これが40倍速くらいだと目で追えるから大丈夫だといったのかな」


 サブリミナル効果――――何十分の一秒という、人間が通常では認識できない程度の一瞬、特定の画像を見せることで潜在意識を操作する手法の一つである。人が認識できないレベルで画像を見せることが重要であり、特定画像を認識できるようになった湯村には効果がないと氷上は計算したのである。


「趣味悪っ」


 気持ち悪い久谷の笑顔が浮かび上がる農村を横目で見ながら、湯村は周囲にいる武装兵の前に飛び出した。ぎりぎり目で追えるが体が付いていかない程度のスピードで湯村が武装兵に警棒を叩きつける。


「こ……いつッ」


 だが反応しきれず、彼らのヘルメットごと体を持っていかれる衝撃が40倍速で湯村から放たれる。メットが割れる大きな音と、そのあとに来る衝撃で訓練された兵士は大きく宙を舞う。隣でそれに気が付き防御を取ろうとする武装兵もまた間に合わず、胸を殴打される。


 湯村のひと振りから放たれる警棒の一撃は、速度があるため重く、彼らの意識を容易に刈り取った。しかも湯村は武装兵の内部に紛れこんだため、同士討ちを恐れた彼らは銃を撃てず、湯村は自由に兵士たちの中をかき乱した。だがそれでも、兵士は後から後から湧いて出て来た。


「おっと」


 遠方より銃弾が来るのを湯村がかわす。銃弾のスピードは380m/sほど。40倍の湯村にとっては、10m/sくらいのスピードになる。それは、世界最速の陸上選手のスピードくらいなので、見て避けることも出来たし、当たっても湯村のスピードに、査察官用の装備があれば、なんとかはじくことは出来た。




「佐倉君、今よ! 前に飛んで!」


 一方、能力で強靭な肉体となった佐倉が足で地面を蹴ると、その体は大砲の弾丸のように武装兵達へと襲いかかった。佐倉は両手を広げて飛び出しており、その手に触れた者は体の一部をもぎ取られ、弾き飛ばされるか、身体ごと壁に向かって叩きつけられていた。


「今度は90度右を向いて! 飛んで!」


 まるで多数の兵士を掃除機のように巻き込んで片付けていく佐倉。だが、兵士たちは佐倉の目が見えないことをわかって、次第に避けるようになってきていた。




「っこの」


 湯村は次々に、兵士を倒していくが、だんだんと息を切らしてきていた。40倍というのは、銃弾が当たれば思いっきり叩かれたくらいは痛いし、あんまり休んでいると狙い撃ちされる。敵も訓練を受けただけのことはあり、集団で固まらず、距離を取りながら湯村達を取り囲んでいた。


「佐倉君、右……じゃなくて、後ろ!」


 柏木の指示も佐倉が攻撃する範囲を敵に示すヒントとなっており、敵はなかなか減らなくなってきた。さらに、柏木自身も、兵士たちに狙われるようになった。


「きゃあっ」


 銃弾が、柏木を襲う。防弾ジャケットは着ているものの、手や足は、何度か貫かれて、その都度傷の修復を行っていた。傷の修復は柏木の能力が自動で行うが、彼女に痛みがないわけではない。


 銃に貫かれる痛みに耐えながら、湯村が攻撃する範囲に逃げ込み、兵士から逃れる柏木。攻撃を読まれ、あまり当たらなくなってくる佐倉。あとどれだけ動けるのかわからない湯村。3人は、いつやられてもおかしくない状況で戦い続けていた。


「ヌヴォオオオオオオオオ!!」

「……来やがった!」


 3人を徐々に追い詰めていた兵士達であったが、なぜか急に立ち止まった。様子がおかしいと柏木が兵士を見ると、兵士達は身体を震わせて苦しみ始めた。その腕、その脚の筋肉がいびつに膨張し始める。髪はだらしなく伸び、皮膚の色は腐った紫の色へと変色していく。そして、湯村には見覚えのあるその姿が、彼らの前に姿を現した。


「マジかよ! ここで来るか?」


 湯村が先ほど倒した兵士も、絶命していない為、その遺伝子を不条理に活性化され、肉体の腐らせながら肥大し、起き上がってくる。


「くっそぉ!」


 警棒の代わりにナイフを引き抜いた湯村が手近に居た紫の化け物を解体するも、40倍であることもあり、なかなかはかどらない。倒れていたと思っていた兵士もよみがえったため、500体のモンスター軍が3人に襲いかかってくる。


「何だ? 何が起きてんだ? この声、まさか」

「佐倉君、兵士たちが化け物になって……いやあああああ!」


 紫の化け物を初めて見た柏木が、その匂いと姿を見て嫌悪感に体を震わせる。佐倉は、柏木からのサポートがなくなり、勘で化け物たちに攻撃をするが、紫色の化け物は敏捷性が高く、攻撃を当てるのはなかなか難しいようであった。


「きゃあっ」

「美月!」


 化け物は、フットワークの悪い柏木に目をつけると、身体を掴み、遠くへ投げ飛ばした。壁と思われる場所にぶつかり、全身の骨をバラバラに骨折する柏木。だが、皮肉なことに、彼女の体は地面に落ちると数十秒で元に戻ってしまう。


 柏木が投げ飛ばされた着点で、さらに別の化け物に拾われ、地面に叩きつけられた。ヘルメットはバラバラに砕け散り、彼女の端正な顔がひしゃげ、脳漿が飛び散り、目玉が転がっていった。


「逃……げて……ふたり……とも」


 頭が半分吹っ飛んだ口で柏木が二人にそう呟く。


「柏木ーーーー!」

「美月ーーーー!」


 目が見えない佐倉も、柏木の位置が大幅に変わって何が起こっているのかおおよそには理解したらしく、彼女の名を叫ぶ。だが、二人が叫ぶのは化け物に標的にしてくれと言っているようなもので、佐倉は化け物に体を掴まれ、湯村は解体しても解体しても襲いかかる紫の化け物たちに完全に囲まれていた。


「ふんぬ!」


 掴まれた手からは能力のおかげで苦もなく逃れられ、逆にその手を掴んでは化け物を投げ飛ばす佐倉であったが、どの程度自分が敵を倒せているのか、果たして効果があるのか、わからない状態で戦い続けることは、佐倉の心を消耗していった。


「目を開けちゃ駄目なのか!」

「駄目……佐倉君……」


 身体を修復させながら、痛みで気を失いそうになっている柏木が目を開けそうになる佐倉を制止する。佐倉は、その声で済んでのところで目を開けそうになるのを抑え、またあまり当たらない盲目的な攻撃を繰り返す。


「ヌヴォォォォォ!」

「うぜぇ!」

 

 湯村が化け物をまた解体するが、そのペースは柏木を守るため、むしろ落ちてきていた。農村ののどかな風景の中、紫色の化け物が3人をそれぞれ囲んでいた。


「あ……れ?」


 不意に、佐倉が膝をついた。目は閉じたまま。


「佐倉君?」

「直人、どうした?」


 だが、湯村は佐倉の様子をみて、何が起こっているかを薄々と感じ取った。


「……制限時間か!」


 吐き捨てるように言った湯村の前で、彼の友人は前のめりに倒れた。氷上は言った。遺伝子は生体の一部であり、元に戻ろうとする本質があると。それが、病気になった身体を治癒する仕組みでもある。


 しかし、彼ら能力者にとって、元に戻ってしまうことは、普通の高校生に戻ってしまうことを意味していた。


「直人!」


 湯村は柏木を抱きかかえ、佐倉のところに移動し、二人を抱えて、森の中に移動した。


「!? 双? ここは…? 最初の森の中?」


 加速する時間の中、必死に出口へと逃げる湯村であったが、森もまた、彼らのCGである。出口はすでに消失していた。森は高めのスクリーンになっているのか、化け物の声は主に上から聞こえてくる。


 湯村は化け物から逃れるために、一時的に加速度を256倍まで上げ、彼らの視界から消えた。だが、敷地内には監視カメラがあり、彼らをとらえた日村が、化け物たちに指令を与える。徐々に化け物たちの声が近付いてくる。


「コード・オフ……はぁ、はぁ、はぁ」 

「大丈夫?」


 肩で息をしながら、湯村は目を閉じた。


「能力を一時的に解除した。恐らくいま目を開ければ洗脳映像にやられてアウトだ」

「……双も、もうあまり能力が使える時間は残されていないのね」

「ああ」


 柏木は、湯村の能力の限界が近付いていることに気が付き、湯村自身も限界が近付いているのを感じていた。柏木は、湯村に引っ張られる直前に化け物にやられてできた、自分の膝の傷が治っていく様子を見て、青ざめた。


「双……私の傷も、治りにくくなってきている」

「そう、か。くそ。まさかお前も制限時間があるとはな」


 湯村の細胞を研究して氷上が理解したこと。それは能力をどの程度使うかが、制限時間に関わってくるということだった。湯村のように自分の細胞を大きく変化させ、その演算を脳で行うような能力は、消耗が激しい。


 また、連続で強靭な肉体を維持することや、何度も細胞の再生を繰り返すことも、制限時間を早める。40倍で戦えと氷上が湯村に指定した理由も、それが死のCGから逃れ、敵とある程度の時間戦える最低速度だと氷上が計算したためだ。だが、節約で得た時間も、今まさに無くなろうとしていた。


 森の奥から、上から、紫色の化け物がやってくる。湯村と、身体を動かすことの出来なくなった佐倉には、声しか聞こえないが、着実に自分たちの生命が危機に瀕していることを感じた。


 そして、最初にたどり着いた紫色の化け物がついにその不気味な顔を森の木の陰から出した。


「ヌヴォオオオオオオオオ!」



 見つけたぞ


 見つけたぞ


 我らの獲物を


 我らの玩具を



 化け物の咆哮は、そんな風に言っているように3人には感じられた。そして、その遠吠えが終わころには、化け物達は、彼らの逃げた行き止まりに集結しようとしていた。

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