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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第一章 関東シェルター編
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続・あわただしい放課後

 湯村が家の玄関を出た時、氷上が連れ込まれた車がエンジンをかけたため、佐倉は自転車で追うことに決めた。佐倉はナンバーを忘れないように目に焼き付け、すき焼きの具を詰め込んだママチャリで尾行を開始した。


 メーカージャパンの本部では、氷上の携帯のGPSを追って、追跡を始めていた。林田は巨大スクリーンに映し出されているマップを見ながら、スタッフに指示を出していた。


「GPSが示すところの監視カメラの映像は出せるか?」

「はい」


 GPSはシェルター内でも使えたが、衛星情報を捕まえるタイムラグが生じるのが難点であった。そのため、監視カメラの映像が出た時には、目的の車がちょうど移動した直後であったり、他の車の陰になっていたりすることが多く、すぐにはどの車が氷上を連れ去った車か把握できなかった。


「便利なんだか不便なんだか、じゃな」

「林田先生!」


 湯村の電話を聞いて本部に来たのは柏木だった。柏木はスクリーンを見ると林田に話しかけた。


「教頭先生。これは、氷上先生の携帯電話の位置情報ですか?」

「ああ、そうなんじゃが、GPSはいまいち追跡速度に欠けるようでな。なかなか意中の車が見つからん」


 林田が柏木に説明をしているところで、スクリーンに写っていた光の点が点滅して消えた。


「そうなのですか。あれ? 氷上先生の携帯電話が消えた?」

「くそっ、奴ら気付いたか」


 黒いバンの中で氷上は携帯電話を捨てられたところだった。捨てられた携帯電話はバラバラに壊れた。


「今の携帯電話は位置情報とかわかっちゃうらしいからな。ま、モニターされていたかどうかは知らないが。用心するに越したことはない」


 バンは中心地から外れの、工場地へと向かっていた。そこは久谷柳元が表向きの顔で、原子力に代わるエネルギー技術を開発したとテレビで吹聴していた工場であった。氷上が『あそこには何もない』といったのもこの工場のことである。バンは入り口の見張りの男に面通しすると、工場の敷地へと入っていった。30mほど離れたところで、ママチャリに乗った佐倉がそれを見ていた。


「うわっちゃー。マジでテロリストの誘拐じゃねぇか。迷彩服とか来てるし。ここから先は警察か自衛隊に任せないと無理だな。俺の役割はこれで終了、と」


 湯村に位置情報をメールすると、来た方向へ戻ろうとした。


「貴様! そこで何をやっている!」


 佐倉が振り返ると、そこには巡回中の兵士が銃口をこちらにむけていた。


「いや、あー、すき焼き、しようかなーって」



 



「メールか。なんだ?」


 ローラーブレードでシェルターマート6号店の近くまで来た湯村は、メールを受け取り、携帯に読み上げさせた。


「位置情報を送る。さすがにこれ以上はやばそうだ。いったん帰る。佐倉」


 湯村は携帯を確認すると、美月、林田に転送して地図の方向に向かって駆け出した。


「湯村くんからじゃ。位置情報のようだな。これは……久谷ひさがやの工場か! 三ツ矢くん、一個中隊を用意してくれ。久谷の研究所を制圧する」

「私も行きます」


 だがその言葉に、林田はいい顔をしなかった。


「……柏木君。君に、人を撃つ覚悟はあるかね。これから行くところはそういう場所だ。自分や他人を守るためじゃなく、人を自分の意思で殺すということは、君が考えているよりもずっと重いことだよ」

「それは、わかっているつもりです。でも大丈夫、だと思います」

「うむ。わかっているなら、わしはこれ以上言うまい。では、これを」


 林田は柏木の目を見て頷くと、ハンドガンを彼女に手渡した。林田の中で、彼女を戦線に加えるかどうかに少しの迷いはあったが、先の戦いで見た彼女の”不死の身体”を思い出し、戦えなくても足手まといにもならないだろうという判断を下した。また、生徒の自立心を育てることにもなるはずだとも考えたためだ。


「では、ゆくぞ。犯人からの連絡が無いということは営利目的ではなく、氷上校長の命自身が目的である可能性が非常に高い。早くせねば、校長の命が危ない」

「はい!」





 工場内の鍵のかかる部屋に、縛られて放置されていた氷上は、薬の効果が切れ、目を覚ました。


「う……ここは?」


 氷上は辺りを見回した。そこは、倉庫のような部屋だった。 辺り一面が緑色の金属でできた部屋で、材料の入った段ボールや、大きなタンクが幾つも置いてあった。


「ここはどこだ? 確か学校を出たところで追っ手にあって、検問……そうか、ちくしょう、やられた! 追っ手を撒いて油断してしまったんだな。携帯は……やはりないか」


 両手両足を縛られ、氷上は壁に身体を擦りながら体を起こした。それから、靴の踵を捻りながらナイフを取り出すと、器用に拘束を解いていった。


「大人しくしていれば助かるなんてのはただの妄想だ」


 氷上は辺りを見回すと、使えそうな道具を漁りはじめた。それから数分後。


「おらっ、お前はここに入ってろ」


 佐倉を連れた二人の兵士が倉庫に入ってきた。佐倉は床に寝ている白衣の人間を認めると彼女に向かって声をかけた。


「先生! 大丈夫ですか!」

「うるせぇ、静かにしろ」

「ぐあっ」


 サブマシンガンの持ち手で腹を思いっきり殴られた佐倉は、もがきながら床に倒れた。


「く……そ。ついてねぇ、な。今日は……すき焼き……だってのによ」

「いいねぇ。私もご相伴に預かりたいものだ」


 二人の兵士が振り返ると、そこには白衣を脱ぎ、胸元の大きく開いたブラウスとタイトスカートの氷上が入り口に立っていた。白衣を囮にし、入り口付近の段ボールに隠れていたのだ。


「ね、この身体、好きにしていいっていったら、見逃してくれる?」


 氷上はしなを作ると、二人の兵士にそう言った。


「え? あーいや、そういうわけにも、ねえ?」

「おい馬鹿、なに見とれてん……がっ」


 兵士達の死角、左右から、何かの液体が入った大きなタンクが彼等に襲いかかった。


「クリーンヒットォ!」


 二人の兵士はそれぞれ氷上が作ったロープで吊されたタンクのトラップによって壁際まで吹き飛ばされ、意識を失った。倒れたまま、氷上を見上げる佐倉。


「おやおや。少年は……佐倉直人くんじゃないか。こんな所で会うとは奇遇だね」

「ご……無事、ですね、校長先生」

「ああ、縛られて殴られた君より遙かに」


 氷上はテキパキと二人の兵士から服と装備を奪い、佐倉の拘束を解いた。氷上はサブマシンガンを佐倉に投げて寄越すと、いつもの人の悪い笑みを浮かべながら佐倉に話しかけた。


「佐倉くん、確認なんだが、君は関東第2高校の学生で、私はそこの校長だ」

「ええ、そうですね」


 佐倉はまだ殴られた場所が痛いようで、お腹を抑えながら頷いた。


「そこでだ。私は教師として、君に授業をしなくてはならないと思うのだよ」

「今ですか?」

「校長の課外授業だぞ? ありがたいと思いたまえ。タイトルは『テロリストにテロを仕掛ける方法』だ」


 氷上はサブマシンガンを拾うとなれた手つきで撃鉄を起こした。銃弾が装填される音が倉庫に木霊する。氷上は佐倉の方をみると、背筋を伸ばし、教壇に立つ教師のように高らかに宣言した。


「授業開始だ」

 

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