あわただしい放課後
関東シェルター、関東第2高校周辺の道路。氷上が業務を終え、帰宅しようとオール電化したフォルクスワーゲンで学校から公道に出てしばらくして、妙な車が後をつけてくるのに気が付いた。
「へったくそな追手だな」
他の車とは違う車種、見た目もオレンジ色とかなり奇抜な色で車の陰からでもわかる。氷上が右に曲がれば右へ、左に曲がれば左に、車線変更をすれば同じくオレンジ色の車も付いてきていた。
「……撒くか」
氷上はギアをトップに入れると、公道をハイスピードで走り始めた。氷上の車は警察から特殊車両と認識されており、スピード違反くらいでは捕まらない。オレンジの車は氷上の車を見失わないよう、頑張っていたが、公道を120kmで走ることを許されている車と、そうでない車では条件が違いすぎた。やがて、オレンジの車は氷上を見失った。
一方その頃、佐倉直人はバスケの練習を終え自宅に帰ったあと、自転車で夕飯のお使いに行かされていた。
「牛肉としらたきと豆腐と、ねぎと……よし。行くか」
シェルター内のスーパーは冷蔵商品に電力を用いるため、他の小売店に比べ店内が暗いのが特徴だ。佐倉は店の外に出てからメモを確認し、買い忘れがないことを確認して通りに出ると、目の前で警察が検問をはっているのが見えた。
「ただいまテロ事件の予告があり、不審車両をチェックしております。ご協力お願いします」
警官が車に免許証の提示を要求していた。これはシェルター内ではよく見られる光景だ。テロの中には犯行予告をするグループもあり、そうした予告が出された時には警察により検問が設置されるのが常であった。
「あんなもんでテロリストってやつは炙り出されるのか?」
佐倉はいつも思っていた疑問を口にすると自宅に向けて自転車をこぎ出した。するとそこに、荒い運転をするフォルクスワーゲンが突っ込んできたため、慌てて自転車を止めて道路から引き返した。
「いけね。検問か」
氷上は検問を見つけ後続に並んだ。検問は形式的なものであったので、すぐに氷上の番になった。
「はいよ」
免許証を出す氷上。警察官はしばらくそれを見た後、他の仲間と目配せをして氷上に言った。
「確認しました。どうぞ」
氷上は免許証を財布にしまって、アクセルを踏もうとした。佐倉はというと、猛スピードで突っ込んできたのが校長だとわかり、他人のふりを試みようとして物陰からフォルクスワーゲンが検問を通過するのを見ていた。
すると、フォルクスワーゲンから突然緑色の煙が立ち上り、警察官が車の中に押し入ってぐったりとした氷上を車内から連れ出し始めた。さらにその一味と思われる男が銃を乱射し、周囲の人々を威嚇する。買い物帰りの市民が悲鳴を上げながら散り散りになって逃げ出した。
「きゃあああ!」
「テロリストだ!」
人々は突然検問の警官達がテロリストに変わったことで慌てふためいていた。佐倉は、校長が別の車に連れさらわれる様子を物陰に隠れながら見るので精一杯だった。
「(今、動いたら撃たれかねないな。ちくしょう、なんで最近テロづいているんだ、俺は)」
テロリストから目を離さないようにしながら、助けを呼ぶべく湯村にメールを打った。
湯村は部活もやっていないため、とうに家に帰っており、家庭用ゲーム機でしばらくぶりのシングルプレイを心の底から楽しんでいた。
「生き返るー。やっぱゲームをやっているときが一番楽しいなぁ」
ここのところ、外での戦争やら、美月にべったり付き添われたりでゲームをする時間がなかった湯村は外の音が聞こえないくらい没頭してゲームをしていた。相変わらずのハイスコアを叩きだしながら、自分ルールでゲームに制限をかけたりしながら、また時には勝手にタイムアタックをしながら、次から次にゲームを楽しんでいた。携帯電話は、近くに置いてあったが、美月から頻繁に連絡が入るので、半ば放置状態であった。
「メールを受信しました」
「はいはい」
ただし、湯村の携帯は氷上からもらった次の次の世代の携帯電話であり、湯村の返事で自動的に読み上げる機能を有していた。
「ちょっと、双! またゲームばっかりしてるんでしょ! つまんないよー! 私の話聞いてくれたっていいじゃない! こらあー、あんまり放置するとすねるぞー!」
一度電話した相手の声紋パターンをエミュレートし、ちゃんと相手の声でメールを読み上げるすぐれものである。ともかく、先ほどから湯村の部屋では、ゲームの音と時々聞こえる柏木の苦情メールの声が交互に部屋に響いているような状態だった。だから、突然男の声がしたとき、湯村は思わずゲームの世界から我に返った。
「お前今家か? 俺はいまシェルターマート6号店にいるんだが、今の目の前で校長がテロに拉致られようとしているんだ。もしこのメールを読んだら、こっちに来てくれ。連絡待つ。佐倉」
湯村は携帯電話をつかんで立ち上がると、電話に向かって話しかけた。
「コール。美月。林田。本部。同時通話」
「双!」「はい、林田だが」「こちら本部、湯村さんですか」
同時に3人が通話状態になったため、ごちゃごちゃして聞き取りにくかったが、湯村はそれぞれに用件だけ伝えた。
「お前ら黙って聞け。校長がAAAにさらわれた。それぞれなにか出来ないか対策を練ってくれ。俺は佐倉を追う。あいつが第一発見者だ」
それだけ言うと、湯村は手動で電話を切った。玄関に置いてあるローラーブレードを履くと、玄関を開けて外に飛び出した。後ろで母親が夕飯までに帰るのよ、と言っている声が聞こえていた。シェルターマート6号店まではローラーブレードで15分ほどかかる。能力を発動すれば、30秒とかからないだろう。
だが、自分の能力は制限時間つきだ。発動可能時間は何分か、それとも何十秒なのかわからないが、能力は温存しておかなくてはならない。
「不便な能力だな、まったく」
湯村は苛立ちながら、一般道をシェルターマートに向かって滑るように駆け出していた。




