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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第一章 関東シェルター編
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降伏勧告

 輸送ヘリから出て来た柏木のハンググライダーを、武装ヘリのリーダー原田譲治はらだ・じょうじは冷静に見つめていた。


「先ほどの戦車が全滅した理由は、あの輸送機から降りて来た小さな少年によるものだと推測される。どうやったのかはわからんが。と、すると、あのハンググライダーで近づく影が、我らに損害を与えるものである可能性が非常に高い」


 原田はマイクを取ると、武装ヘリの一団に合図した。


「目標、前方のハンググライダー、撃て―!」


 武装ヘリが柏木のハンググライダーを蜂の巣にしていく。戦車の残骸の上あたりで、ハンググライダーとそれに乗る少女は、粉々に破壊され、落ちた。少女の肉片が雪の上に赤く散らばる。湯村の上にも、柏木の血しぶきが落ちて来た。


「み……つき……?」


 失いゆく意識の中で、彼を守ろうとしたけなげな少女が空中で分解したことを感じた湯村は、なんとか手足を動かそうと試みたが、指一本すら動かすことができなかった。それからしばらくして、柏木の頭部が湯村の横に落ちて来た。


 手を伸ばすことも顔を背けることも出来ずに、湯村は視界に入ってきた柏木の頭部を見ていた。すると、柏木は唇だけで湯村に話しかけた。


「だ・い・じょ・う・ぶ・?」

「馬鹿か、お前。なに囮になってんだよ」


 湯村は柏木に対して怒ったが、柏木は笑っていた。全身をバラバラにされた痛みでおかしくなっているのだなと、湯村は思った。死ぬ間際、人は脳内からエンドルフィンやセロトニンなどが大量に放出され、死の苦しみが軽減されるのだという。


 正気を失えているのなら、苦しまずに死ねるのかもしれない。そう思い、せめて最後を見届けようと湯村は柏木のことを見続けていた。だが、柏木の口から最後に出てきた言葉は、湯村に対する最後の言葉でもなく、断末魔でもなく、彼女が持つ奇跡を発動するキーワードだった。


細・胞・復・元セル・リストラクション


 柏木の唇がそう動いたとき、湯村の上に載った柏木の血液、雪に溶け込んだ体液、ハンググライダーと一緒に散らばった指が、皮膚が、骨が自らの意思を持った磁石のように集まってきた。30秒もかかっただろうか。柏木は防護服こそボロボロになってはいたが、完全に元の体へと戻った。


「っはあ、はあ、はあ」


 全身を貫かれた痛みがさすがにひどかったのか、柏木はしばらく復元した体で冷や汗をかきながら息をしていたが、やがて這うように湯村の方に寄りそうと、ところどころはだけた防寒具ごと湯村に覆いかぶさった。


「お、おい、何を」

「はぁ、はぁ、盾、だよ」

「盾って、いや、なんつーか」


 防護服を失った部分から眩しいくらいに綺麗な白い肌が表に出ていた。特に上半身の防護服は大部分が吹き飛んでおり、湯村の制服の上から柏木の肌が直接触れるような形になっていた。戦闘中であるとはいえ、湯村は平生を装うのに苦労した。


「さっき、氷上さんのに埋もれてたから、これくらいなんてことないでしょ、双」

「お前、すねてんのか」

「すねて、ませんっ」


 ヘリに囲まれて、緊張感のない会話をする二人を、氷上は冷や汗を流しながら遠くから見ていた。


「まさか、柏木の細胞修復能力があれほどとはな。バラバラになった細胞をほぼ一瞬でかき集めやがった」

「データになかったのですか?」


 多少無理な訓練もやってしまう氷上を知っているため、林田は疑問に思い尋ねた。


「戦闘訓練とかならともかくな。いくら傷が治るからって、バラバラにして戻りませんでしたじゃあ、シャレにならんだろう。そんな実験、いくら私でも試せるはずがない」

「確かに。しかし彼女自身は自分の体が復元できると確信していたのでしょうか?」


 林田は細い目で湯村たちの方を見ながら氷上に問いかけた。


「いや。あるいは元に戻らなくてもいいと思っていたのかもしれない。湯村が死ぬなら、自分は生きていなくてもいいと。そこまで湯村に入れ込んでいるのかもしれないな」


 氷上はコーヒーをまた一口含むと双眼鏡を外し、ハンググライダーを落とした武装ヘリの一団をみた。そして、輸送機のマイクをつかむと、武装ヘリに向かって輸送機のマイクを通して叫んだ。


「AAAの諸君! 私は、君らに対抗するためにできたある組織の者だ!」


 突然の放送に、AAAの原田は輸送機に対する攻撃動作をいったん止める命令を出した。氷上は続けて彼らに言った。


「君たちには、降伏する権利がある!」


 ざわ……と武装ヘリの兵士たちに戦慄が走った。降伏をするのではなくて、降伏を勧告してきたということにいらだちより驚きが先に立った。


「なんだ、あの輸送機の女……」

「ふざけてる。状況をわかって言っているのか」


 部隊内の通信が浮き足立ちそうになっているのを感じ、原田は怒号をかける。


「落ち着け!」


 隊員が静かになったことを確認し、全軍に話しかけた。


「あれはブラフだ。春日部から出て来た20機の戦車はまだまだ我らのはるか後方に位置する。モニター上でも、直接視認する範囲でも、敵影はない。もし別働隊があって、そいつがステルスだったとしても、やってくるのには相当の時間がかかるはずだ。つまり、やつらの今の行動は時間稼ぎか、はったりで我らの退却を誘っているかのいずれかにすぎん」


 さらに、原田は輸送機に対して最後通告を行った。


「諸君らの温情は尊敬に値する。だが、そんな虚言による時間稼ぎ、猪口ならともかく。我らには通用しない。神様に最後の祈りでも捧げておけ!」


 原田は右手を挙げて、輸送機に対する攻撃を高らかに宣言しようとした。


「交渉は決裂だな」


 氷上がひときわ意地悪な笑みを浮かべた。その瞬間、20機の武装ヘリが同時に爆発し、雪原に堕ちた。


「な、なにぃ!」


 原田は周囲を見渡すも、辺りにはなにも見えない。自軍から報告が入る。


「リーダー、ミサイルです! 恐らくステルス対空ミサ……」


 通信が切れ、原田のヘリ以外が皆墜落していく。


「馬鹿な、春日部からの20機の戦車と言うのは」

「長距離用対空移動砲台ですが、何か。勝手に戦車と思った君たちが悪い。私は先ほど確かに降伏勧告をしただろう?」


 憎々しげに通信マイクを掴み、歯ぎしりをしながら原田が答える。


「まさか、我々バックアップ部隊の構成と装備まで全部読んでいたというのか」

「全部じゃないさ。私にわかるのは、世界のほんの一部だけさ」


 氷上はそういうと、ヘリに向かって片手でピストルの形を作り、撃つジェスチャーをした。同時に、対空ミサイルが最後のヘリを穿つ。リーダーヘリは、黒い煙をあげながら地面に墜落した。それを確認して輸送ヘリが、雪原で折り重なったカップルへと近づいていく。


「おーい。二人ともー。だーいじょーぶかー」


 徐々に近づいてくる輸送機から、わざとらしい心配した表情を作った氷上を認めた湯村と柏木は、雪原の上で深いため息をついた。

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