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メーカー・ジャパン  作者: ラストラ
第一章 関東シェルター編
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制限時間

 輸送ヘリから落ちながら、湯村はさきほど氷上に抱き込まれた際に耳にイヤホンをつけられていたことに気が付いた。


「これは……? あいつ!」


 一方氷上は、湯村を突き飛ばすと同時に、彼の携帯電話の遺伝子活性化アプリケーションを起動させる。湯村が死にそうな思いで活性化アクティベートと叫んでいたときには、遺伝子プログラムはもう起動していた。


「あの女、性格悪いんだよ! コード A2x001202 00325503 から 570 へ書き込み、パラメータ01 からFF !!」


 遥か上空から落下していた湯村の周辺を包む空気の流れが突然ゆっくりになる。彼は防寒のために来ていたコートをグライダーのように広げると、体を前方に傾けた。

 防寒具が鳥の羽のように空気を制動し、彼は落下しつつも前方へ向かって滑空することに成功する。

 湯村は高速で味方の戦車隊と空中ですれ違うと、AAAの戦車群へと向かっていった。


「リーダー、何か落ちてきます!」

「輸送機から何か落とされたようだな。拡大してみよう」


 猪口は戦車のモニターから落下物を拡大して検分する。


「爆弾では無いようだな。子供……? まるで鳥のように滑空しているな」

「人であることは間違いなさそうですね。どうしますか」

「どうしますか? どうしたらいいか……ええっと、そうだな! 敵側が人間に爆弾でも持たせて落とした可能性がある。いわゆるカミカゼというやつだ。怖いから……いや、味方を危険に晒すわけにはいかん。撃ち落とせ!」


 臆病者の猪口にとって近付くものは敵、逃げていくものは敵、動かないものも敵である。視界に入る全ての物を消し去るまで安心できない性質だった。

 リーダーが臆病だったため、前衛は目標を落ちてくる少年に定めねばならず、仕方ないとばかりに照準を合わせ、トリガーを引く。前衛の戦車の台数と同じ、15発の砲弾が湯村に迫った。


「これだけ十分な逃げ道があれば弾丸なんて怖かないね。弾幕ゲーマーにとっちゃ、穴だらけの砲撃だ」


 湯村はコートを器用に操作し、迫る銃弾を空中で次々にかわしていく。


「なんだあの子供は? 砲弾を避けているとでもいうのかっ!?」

「まさか。ランダムに落下して当たらないだけだ。的も小さいから仕方ない。地上に落ちたところを狙えばそれでいい」


 AAAの前衛達は焦り始める。かなり近くまで迫って来ているただ一つの標的に、コンピューターアシストの照準をもった砲弾が一つも当たらないのだ。

 しかし彼等は目の前の少年が、砲弾を直視下でみながら避けているという考えには至らない。それは現実的に考えてもありえないからだ。


 そうこうしている間に小さな少年はコートを広げ、前衛の一番前の戦車へと近づいてくる。


「まさか……カミカゼ? うわああああ!」


 前衛の兵士は一瞬目を閉じて衝撃を待った。

 けれど、彼が予想したカミカゼ特攻による爆発は起こらず、代わりに雨の様に沢山の打撃音がしただけである。

 それは湯村が高速で戦車の天板を叩いて落下スピードを相殺した音であったが、戦車の中にいた兵士はわかるはずもなかった。


「炸裂弾か何かだったのか? 威力はそうでもなかったな。は……ははっ。驚かせやがって!」


 兵士が戦車の装甲に自信を持った瞬間、後部座席と運転席の間に光が走り、戦車が分解する。


「なっ!」


 兵士の目の前で、ゆっくりとずれていく戦車の車内。

 亀裂は燃料タンクにも入っており、次の瞬間、戦車は爆発した。


「な、なにぃ!」


 猪口は驚きを隠せない。少年が落下してきた場所の戦車が、あっという間に爆発したのだ。


「ううむ。やはりあれはカミカゼ爆弾だったようだな。思った通りだ! 重戦車を壊すほどの威力だったとは……恐ろしい。後ろに居てよかった……いや! 油断しなくてよかった」


 臆病者の独り言を全て聞かなかったことにして、参謀は猪口に助言する。


「……はぁ。やれやれ、次弾がないことを祈るしかありませんね。そして今のうちに原因を絶たねばなりませんね。あの輸送機が今の攻撃の発進元ですか」

「そ、そうだ! あの輸送機を狙え。そうすれば次弾を防げるぞ! 前衛! 輸送機だ。輸送ヘリを狙え!」


 しかし、前衛の戦車達は通信に答えないばかりか、無秩序に陣形を乱し始めていた。理由はすぐに明らかになる。

 彼等はそれどころではなかったのだ。いつの間にか戦車の車輪がバラバラにされたり、砲台と車部分が上下で分断されたりと、湯村によってさまざまな攻撃を受けていたからである。


「こちら4号機、キャタピラをやられた」

「12号機、砲台とエンジンを……あああっ!」


 後続の戦車達はその通信を雑音でしか聞くことができなかったが、何か異常な事態が発生していることを感じて停止した。

 すると次の瞬間、前衛の戦車が次々に爆発し始める。


「……ばっ、馬鹿な! 前衛っ、応答せよ! 応答せよ!」


 猪口は戦車の天窓を開け、直接双眼鏡を見ながらその様子を確認していた。すると彼の後頭部から聞き慣れない声がする。


「わざわざ外に出てくるなんて、殺してくれって言ってるようなもんだぜ」


 猪口が振り返ったとき、彼の頭はもう首についていなかった。頭だけになった彼が最後に見たのは、黒いコートを翻す、金髪の少年である。

 少年は猪口の血しぶきが飛び散るよりも速いスピードで戦車を分解して降りると、残った後続戦車の解体にかけだした。


 ある者はコクピットごと切断され、またある戦車は砲台ごと縦に切られ、金色の閃光が振るうブレードが、巨大で重厚な戦車をプリンのように解体していく。

 さらに後衛に控えていた戦車は、前方の味方が次々にやられていくのを確認し、逃げようとしたが、すぐに湯村に追いつかれ、戦車ごと切断された。


「っはあ、はあ、はあ」


 湯村は肩で息をしながら、60機の戦車が燃え盛る雪原の真ん中で膝をつく。

 氷上がヘリの上から、拡声器を用いて彼の検討を讃えた。


「御苦労、湯村くん。侵攻してきた戦車は今ので全部だ。さすがだ」


 息の上がった湯村が落ち着くにはまだ少し時間がかかりそうであった。

 いくら早く動けるといっても、彼の基礎体力まで格段に向上するわけではなく、戦車から戦車へと走りまわれば普通に体力を使うのだ。

 さらに、持続的に遺伝子の能力を発動していた影響が、湯村に訪れる。


「な……んだ、この眠気は……?」


 彼は膝をつき、襲い来る眠気を感じていた。携帯電話から氷上の声が聞こえる。


「おい、湯村くん? 君は無事なのか? こちらからは、戦車の火で、君の様子がわからない。応答してくれ」

「いや、なんか……すげー、眠い」

「なんだと? 眠気?」


 いつもより甘くしたコーヒーをすすりながら、氷上はフル回転で思考した。高校襲撃時は催眠ガスのせいでわからなかったが、このところの訓練時に、湯村が異常な眠気を訴えることを氷上は思い出す。

 スパイダーを倒した時は怪我と疲労のために気を失ったと考えていたが、それだけではなかったようだ。


「……ふむ。薄々はわかっていたが、湯村くん。君は能力の調節を、自分の頭で行っているな?」

「自分の頭……? 頭なんてつかってねぇ、よ。画面上で読みとりながらやっている……だけだ」


 湯村は睡魔に襲われながらも氷上になんとか答えを返す。


「その画面は恐らく脳内の仮想演算領域を視覚化したに過ぎない。実際に負担がかかっているのは君の脳だ。今後、君の訓練次第で時間はある程度は伸ばせるとは思うが、君の能力には時間制限があるようだ」

「そうなのか、ち、くしょう」

「まあいい。今は休め。GPSを頼りに君を回収に向かう」


 輸送ヘリが、ゆっくりと湯村の方へ近づこうとしたその時、林田がそれを制止した。


「校長、お待ち下さい。何か聞こえませんか?」

「ん? 私にはなにも聞こえないが。美月? なにか聞こえるか?」


 柏木は両耳に手を当て、耳を澄ませた。


「言われてみれば、ブーンとか、ゴーとか、遠くから聞こえますね」

「モニターには何も映ってないが……まさか」


 氷上は急いで高性能双眼鏡の電源を入れると、戦車の火の手が上がっている前方を見る。そして、驚きのあまり、その目を見開いた。


「武装ヘリだとっ! 1……2、3……ざっと30機!」

「ステルスかっ! バックアップ部隊が潜んでいたとはっ!」


 林田が吐き捨てるように叫ぶ。その瞬間、柏木はヘリから身を投げ出していた。


「美月っ、行くな!」


 氷上が慌てて柏木をつかもうとしたが、彼女が身を投げる方が一寸早く、氷上は紙一重で柏木をつかみ損ねる。

 柏木は折り畳み式のハンググライダーを展開すると、燃え盛る戦車の中心に向かって飛び始めた。


 湯村の倒れている位置は、輸送ヘリよりは敵側に近い。

 増援の武装ヘリは、柏木より先に、湯村の近くに迫ってきていた。

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